第2話 ホームの月人形
〈ホーム〉の朝は、帝都エデンの朝とは少し違う。
帝都エデンの朝は、遠くから見れば美しい。
高層ビルの硝子壁に朝日が反射し、魔導炉から供給される光脈が都市の地下を走り、空中回廊を通勤用の小型車両が滑っていく。中央区の大型街頭端末では女帝政府の広報番組が流れ、今日の天候、魔導炉出力、交通網の遅延状況、結界安定率が淡々と告げられる。
朝の帝都は、整っている。
整いすぎている。
だが、〈ホーム〉の朝は違う。
夜がまだ完全に終わっていない。
空は白み始めているのに、路地には夜の匂いが残っている。湿った煙草。安い酒。古い血。魔導炉の排熱に混じった焦げ臭さ。違法屋台で煮込まれる合成肉のスープ。壊れた機械人形の油。路地裏の診療所から漏れる消毒液。誰かが吐いた胃液。古いビルの壁に染み込んだ雨。
巨大な排熱パイプが建物の壁を這っていた。正規の都市配管ではない。どこかの工場から勝手に引き込まれ、どこかの違法工房へ熱を横流ししている。パイプには注意書きのシールが何重にも貼られ、その上から女帝ヌルの小さな肖像ポスターが貼られていた。
――帝都の民よ、恐れる必要はない。
古いポスターの女帝は、少女の顔で微笑んでいる。だがその下には、誰かが黒いスプレーでこう書き足していた。
――恐れないやつから死ぬ。
その隣では、義体修理屋の看板が点滅している。半分壊れた機械人形が店先に座り、自分の外れた腕を抱えて順番を待っていた。屋台の親父が湯気の向こうで麺を茹で、まだ眠そうな娼婦が使い捨てのカップで苦い珈琲を飲み、子どもたちが魔導炉の廃材で作ったボールを蹴っている。
帝都の光が届かない場所。
そう言われることがある。
だが正確には違う。光は届いている。高層ビルの反射光も、女帝政府の広報も、魔導炉の熱も、帝都警察の巡回ドローンも、ここまで届いている。
ただ、届いた光が汚れて見えるだけだ。
〈ホーム〉は、そういう場所だった。
ルルトのアパートは、その〈ホーム〉の奥にある。
五階建ての古い建物。外壁はひび割れ、非常階段は錆び、入口の自動ドアは常に半開きで止まっている。エレベーターは動かない。壊れてから何年経ったのか、住人の誰も知らない。
階段には、昨日の夜の血痕が残っていた。
三階の廊下にも血がある。
昨夜、ルルトの隣室で男が撃たれた。女は夜明け前に姿を消し、男は明け方、路地裏の診療所へ運ばれたらしい。生きているかどうかはわからない。だが、住人たちは血痕を見ても騒がなかった。
慣れているからではない。
騒いでも、得をしないからだ。
老婆が買い物袋を提げて廊下を歩いてくる。血痕を見ても立ち止まらない。スリッパの先で血の少ない場所を選び、足を置く。少しだけ眉をひそめ、壁際へ寄る。
それだけ。
〈ホーム〉では、人の死も、人の悲鳴も、朝には生活の障害物になる。
ルルトの部屋の中には、まだ昨夜の雨の気配が残っていた。
椅子に掛けられた黒いコートは濡れ、矢と水撃で裂け、胸元には乾きかけた血がこびりついている。床には新聞紙が敷かれ、そこに濡れた靴が揃えられていた。台所には鍋が一つ、皿が二枚。窓の外には、〈ホーム〉のくすんだ朝と、その向こうにそびえる帝都の高層群が見える。
その窓際の椅子に、ルナは座っていた。
薄い月色の髪を肩に落とし、古びた制服風ワンピースの裾を両手で押さえている。陶器のような白い肌。淡い青紫の瞳。人間の少女に見えないこともない。だが、見つめればすぐわかる。
整いすぎている。
綺麗すぎる。
人間の顔には、小さな歪みがある。目の高さ、唇の端、頬の筋肉、瞬きのずれ。そうした不均衡が、逆に生きている証になる。
ルナには、それが少ない。
かわりに、ほんのわずかな遅れがある。言葉を受け取って、意味を探し、感情を選ぶまでの遅れ。人工人格が、人間のように振る舞おうとしているわけではない。むしろ逆だ。彼女の中に生まれた感情が、どう表に出ればいいのかわからず、処理に迷っている。
ルナは椅子の背に身体を預けず、背筋を伸ばして座っていた。
その背後で、ルルトが彼女のワンピースの背中の留め具を外している。
「……ルルト様」
「何かな」
「やはり、これは必要な作業でしょうか」
「必要な作業だよ」
「ですが、その……背中を開けられるのは、少々、落ち着きません」
「背中を開けないと、エネルギー炉を交換できない」
「それは理解しております」
「なら問題ない」
「問題は、理解と気持ちが一致しない点でございます」
ルルトは手を止めた。
白銀の髪をゆるく後ろへ流し、黒いシャツの袖を肘まで捲っている。昨夜あれほど身体に穴を開けられたというのに、肌には傷一つ残っていない。だが、眠気と気怠さは少しだけ顔に出ていた。
彼はルナの背中の開口部を見下ろす。
細い背筋の中央。人間であれば肩甲骨のあいだにあたる場所に、楕円形の外装パネルがある。ルルトが指先で魔導ロックを外すと、かすかな駆動音と共にパネルが開いた。中には青い魔導回路が密集している。極細の光線が脈動し、小さな人工炉が薄く発光していた。
生き物の内臓ではない。
けれど、ただの機械部品でもない。
ルナは肩をすくめた。
「くすぐったいです」
「神経系が過敏すぎる」
「わたくしの神経系は、正常ではないのでしょうか」
「正常の基準がない」
「基準がないのに、過敏と判断できるのですか?」
「ボクの主観だよ」
「主観で機械人形を整備なさるのは、危険ではありませんか?」
「危険なら、とっくに爆発している」
「爆発する可能性があったのですか?」
「少しね」
「ルルト様」
ルナの声が、わずかに低くなった。
「冗談だよ」
「今の間は、冗談ではなかったように解析されました」
「解析精度が上がっている。いい傾向だ」
「誤魔化さないでくださいませ」
ルルトは小さく笑った。
笑った、といっても、口元がほんのわずかに動いただけだ。だがルナは、それに気づいたらしい。頬を膨らませるようにして、椅子の上で少しだけ身じろぎした。
「動かない」
「はい……」
ルルトは昨夜買ってきた高級エネルギー炉を取り出した。銀色の円筒に青い魔導回路が刻まれ、中心部には人工魔力を安定化させる小さな結晶核がある。正規品だ。〈ホーム〉の闇市で売られている模造バッテリーとは違う。値段も違う。安全性も違う。
ルルトは古い炉を外した。
外した瞬間、ルナの身体がわずかに傾く。
「おっと」
ルルトは片手でルナの肩を支えた。
ルナは目を瞬かせた。
「一瞬、視界が暗くなりました」
「予備電力に切り替わっただけだよ」
「少し、怖かったです」
「停止が?」
「はい」
ルナは膝の上で指を組んだ。
「わたくしは、停止したことがあるのでしょうか」
「記録にないなら、知らない」
「記録にないことは、なかったことなのでしょうか」
ルルトは新しい炉を差し込む手を止めた。
窓の外から、子どもたちの声が聞こえる。誰かが笑い、誰かが怒鳴り、遠くで違法改造バイクの排気音が響く。
部屋の中だけが、少し静かになった。
「記録にないことも、起きていることはある」
ルルトは言った。
「ただ、誰かが覚えていなければ、証明しにくい」
「では、わたくしが覚えていない過去は、誰にも証明できないのですね」
「誰かが覚えていれば別だ」
「誰か、とは?」
「君を作った者。君を捨てた者。君を拾う前に、君を見た者。あるいは、君自身の奥にまだ残っているもの」
「わたくしの奥」
ルナはその言葉を噛みしめるように呟いた。
ルルトは新しい炉を装着した。
魔導回路が一瞬だけ明るくなる。淡い青い光が背中の内側を走り、ルナの瞳にも同じ色が映った。細い駆動音。人工心拍のような音。やがて出力が安定し、彼女の身体に温度が戻る。
ルナは小さく息を吐いた。
機械人形に呼吸は必要ない。
だが、彼女は息を吐いた。
安心したからだ。
ルルトは外装パネルを閉じ、ワンピースの留め具を戻した。
「終わり」
ルナは両手で胸元を押さえ、そっと振り返った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「それと、先ほどの続きですが」
「まだ続くのかい?」
「大事なことです」
「どうぞ」
「わたくしは、人形なのでしょうか」
ルルトは椅子に座り直した。
ルナの向かいに腰を下ろし、外した古いエネルギー炉を手に取る。表面には細かい傷があり、出力安定用の刻印もかなり摩耗している。あと数日使っていれば、出力低下か異常過熱を起こしていたかもしれない。
「君は人形だよ」
ルルトは淡々と言った。
ルナの顔が、わずかに曇る。
彼女はその答えを予想していたのだろう。けれど、予想していたことと傷つかないことは別だ。
「そう、ですか」
「ただし」
ルルトは古い炉をテーブルに置いた。
「人形であることと、心がないことは別問題だ」
ルナは顔を上げた。
青紫の瞳が、まっすぐルルトを見る。
「別問題、なのですか」
「人間だから心がある、とは限らない。人形だから心がない、とも限らない」
「人間には、皆様、心があるのではないのですか?」
「さあ」
「さあ、なのですか」
「心の定義による」
「ルルト様は、時々とても難しいことを簡単そうにおっしゃいます」
「簡単なことを難しそうに言うよりはいい」
「では、わたくしには心があると思われますか?」
ルルトは少しだけ考えた。
長い沈黙ではなかった。
だがルナには、その数秒がひどく長く感じられた。
「あると仮定した方が、扱いを間違えにくい」
「仮定」
「そう」
「確信ではなく?」
「確信は危険だよ。人は確信した途端、相手を見なくなる」
ルナは膝の上で指を握った。
嬉しいのか、悲しいのか、自分でもわからなかった。
心がある、と言われたかったのかもしれない。
心がない、と断言されなかったことに安堵したのかもしれない。
仮定、と言われたことに傷ついたのかもしれない。
その全部が同時に来て、どの表情を選べばよいのかわからなかった。
「……難しいです」
「難しい方が、長持ちする」
「昨日もそうおっしゃいました」
「覚えていたのか」
「はい。大切な言葉のように感じましたので」
「それは困ったな」
「困るのですか?」
「適当に言った言葉を大切にされると、責任が発生する」
「では、今後は適当に言わないでくださいませ」
「努力する」
「それは努力しない方の返事です」
「やはり学習が早いね」
ルナは少しだけ笑った。
その笑顔は、小さかったが自然だった。
ルルトは古い炉を小さな布で包み、金属箱に入れた。
「それで、頼みがある」
「はい。何なりとお申し付けください」
「昨日外した古いバッテリーを、廃棄処分場へ捨ててきてくれるかな」
ルナの目が大きくなった。
「わたくしが、ですか?」
「他に誰がいる?」
「ルルト様が」
「ボクは出かける。昨夜の依頼人の情報を整理しなければならない」
「わたくし、一人で外へ出るのですか」
「そうだよ」
ルナはテーブルの上の金属箱を見た。
それから玄関を見た。
そして、もう一度ルルトを見た。
彼女は部屋の外へ出たことがほとんどない。正確に言えば、ルルトに連れられて短時間出たことはある。だが一人で外を歩き、目的地へ行き、用事を済ませ、帰ってきたことはない。
地図機能は壊れている。
GPSも不安定だ。
内蔵ナビゲーションは、〈ホーム〉の違法増築と非登録通路と魔導ノイズでほとんど役に立たない。
そしてルナは、そのことをルルトに隠していた。
隠しているつもりだった。
「廃棄処分場までの経路は、端末に送っておく」
「はい」
「大通りへ出て、排熱パイプ沿いに三ブロック。赤い義体修理屋の角を右。違法屋台の列を抜けたら、青い煙突のある廃棄場が見える」
「はい」
「迷ったら、屋台の親父に聞きなさい。義体修理屋の店主には聞かない。あの男は、道を教える代わりに何か買わせる」
「はい」
「知らない人についていかない」
「子ども扱いですか?」
「違う。ここでは人形の方が狙われやすい」
ルナは黙った。
その沈黙を見て、ルルトは言葉を少しだけ変えた。
「不安なら、やめておくかい?」
ルナはすぐには答えなかった。
怖い。
外は怖い。
窓の外に見える〈ホーム〉は、部屋の中から見ても騒がしく、汚く、危険に見える。銃声も聞こえる。怒鳴り声も聞こえる。昨日の夜、隣室の男は廊下で助けを求め、ルルトは助けなかった。
外には、そういうことがある。
だが。
頼まれた。
ルルトに。
自分だけでできる用事を頼まれた。
それは、命令とは少し違う気がした。
命令ならば、従うだけだ。けれど、頼み事には、失敗する可能性がある。成功すれば、役に立てる。失敗すれば、迷惑をかける。
怖い。
けれど、嬉しい。
ルナは金属箱を両手で抱えた。
「行きます」
「そう」
「わたくし、行ってまいります」
「気をつけて」
「はい」
ルナは立ち上がった。
玄関まで歩き、靴を履き、ドアノブに手をかける。
その時、ルルトが後ろから言った。
「ルナ」
「はい」
「帰り道がわからなくなったら、すぐ通信しなさい。黙って迷子になるのは、効率が悪い」
ルナは少しだけ肩を跳ねさせた。
ばれていた。
「……承知いたしました」
「あと」
「まだございますか?」
「古いバッテリーは売らない」
「売れるのですか?」
「売れる。だが、中身を解析されると面倒だ」
「承知いたしました。売りません」
「よろしい」
ルナは深く一礼した。
「では、行ってまいります」
ドアが開いた。
廊下の匂いが流れ込む。湿気、血、古い油、隣室の火薬臭。
ルナは一歩、外へ出た。
廊下の蛍光灯が点滅している。
床にはまだ血痕が残っていた。乾きかけた赤黒い跡。住人たちは当然のようにそれを避けて歩く。ルナも避けようとして、少しだけ立ち止まった。
この血は、誰のものなのだろう。
昨夜の男か。
それとも、もっと前からここにあった血か。
血痕の横に、小さな足跡があった。子どものものだ。血を踏んだ後に歩いたらしく、薄い赤が廊下の奥へ続いている。
ルナはそれを見つめた。
すると背後からドアが少しだけ開き、ルルトの声がした。
「観察しすぎると、外出が終わらないよ」
「はいっ」
ルナは慌てて歩き出した。
階段を降りる。
一段、一段。
手すりは錆びていた。触れれば手が汚れると判断し、ルナは手すりを使わないようにする。だが三階と二階の間で、階段の一部が欠けていた。踏み抜きそうになって、反射的に壁へ手をつく。
壁は湿っていた。
ルナは手のひらを見た。
少し汚れている。
それだけのことなのに、胸の奥がざわついた。
部屋の中は、ルルトが整えている。危険なものは多いが、配置され、分類され、意味を持っている。けれど、外は違う。何もかもが無造作で、触れるだけで自分の輪郭を汚されそうだった。
アパートの外へ出る。
〈ホーム〉の朝の空気が、ルナの人工肺に流れ込んだ。
呼吸は必要ない。
だが、彼女は息を吸った。
そして、少しむせた。
「……空気の成分が、推奨値を大きく外れております」
誰も聞いていない。
路地では、子どもたちがボールを蹴っていた。
魔導炉の廃材を丸め、布で巻いただけのボールだ。蹴るたびに金属音が混じる。子どもたちは裸足に近い靴で走り回り、ルナを見ると一斉に足を止めた。
「おい、人形だ」
「ほんとだ」
「高そう」
「盗品かな」
ルナは背筋を伸ばした。
「わたくしは、盗品ではございません」
子どもたちは顔を見合わせた。
そして笑った。
「喋った!」
「すげー、丁寧!」
「お姫様人形だ!」
「どこ行くの?」
「廃棄処分場へ向かっております」
「何捨てんの?」
「古いバッテリーでございます」
「それ売れるよ」
「売ってはならないと申し付けられております」
「持ち主、ケチだな」
「ルルト様は、ケチではございません」
「じゃあ怖い人?」
ルナは少し考えた。
ルルトは怖い人なのだろうか。
銃声が鳴っても平然としている。死にかけの男を助けない。人を殺す仕事をしている。昨夜は身体に穴を開けられても何事もなかったように帰ってきた。
怖い人、という分類は正しい気がする。
だが、それだけではない。
「……怖い時もございます」
「なんだそりゃ」
「でも、バッテリーを買ってくださいます」
「やっぱ持ち主人形じゃん」
「ルルト様は人形ではございません」
「そういう意味じゃねーよ」
子どもたちはまた笑った。
悪意というほどではない。だが、優しさでもない。珍しいものを見つけた時の、遠慮のない視線。商品を見る目。玩具を見る目。
ルナは金属箱を胸に抱き直した。
「失礼いたします」
子どもたちの間を抜ける。
視線が背中に刺さる。
人形。
盗品。
高そう。
お姫様。
持ち主。
その言葉たちが、内部記録に保存されていく。保存したくないのに、消し方がわからない。
大通りへ向かう途中、違法屋台の列があった。
煙、湯気、油、香辛料。正規の衛生検査を受けているとは思えない屋台が、朝から人を集めている。夜勤明けの労働者、裏稼業の男たち、安宿の住人、機械の身体を半分だけ露出した義体者。誰もが疲れている。
ルナは道を確認しようと、近くの屋台の親父に声をかけた。
「あの、恐れ入ります」
親父は鍋をかき混ぜながら顔を上げた。
「あん?」
「廃棄処分場へ向かうには、こちらの道でよろしいでしょうか」
親父はルナを上から下まで見た。
目が一瞬、金属箱に向く。
それから、ルナの首筋、手首、髪、瞳。
人間を見る目ではない。
「嬢ちゃん、一人か」
「はい」
「持ち主は?」
「……持ち主」
「いるんだろ。そういう高そうな人形はさ」
「わたくしは、ルルト様のもとにおります」
「ルルト?」
親父の顔が少し変わった。
警戒。
あるいは、諦め。
「ああ、宵の……いや、何でもねぇ。廃棄場なら、そのまま真っ直ぐだ。赤い義体屋の角は曲がるな。最近、あそこらへんに変な連中が溜まってる」
「ルルト様は、赤い義体修理屋の角を右とおっしゃっていました」
「じゃあ、ルルトの言うこと聞け。俺の話は忘れろ」
「どちらが正しいのでしょうか」
「この街で正しい道なんて聞くな。目的地に着けた道が正しいんだよ」
ルナは困った。
親父はため息をつき、顎で道を示した。
「右だ。けど、目ぇ合わせんな。声かけられても止まるな。金属箱は抱えとけ」
「ありがとうございます」
「あと」
「はい」
「今度、ルルトに言っとけ。ツケ、まだ払ってもらってねぇってな」
「ツケとは、何でしょうか」
「知らねぇならいい。行け」
ルナは頭を下げ、屋台を離れた。
赤い義体修理屋の角。
看板はすぐ見つかった。赤いネオンで、腕・脚・眼球・内臓、即日対応、と書かれている。店先には腕だけ、脚だけ、顔の半分だけの部品が並び、義体修理というより解体市場のように見えた。
その角に、男たちがいた。
三人。
目つきが悪い。ひとりは口に電子煙草を咥え、ひとりは片腕が古い義体、ひとりは首に安物の魔導端末をぶら下げている。彼らはルナを見ると、会話を止めた。
ルナは目を合わせないようにした。
角を右へ曲がる。
足音が増えた。
後ろから。
ルナは歩幅を少しだけ早めた。
足音も早くなる。
内部センサーが警告を出す。
追跡可能性。三名。距離十二メートル。敵意判定、不明。商品価値評価視線、検出。
商品価値評価視線。
そんな項目が自分の中にあることを、ルナは初めて知った。
背筋が冷たくなる。
機械人形なのに、冷たくなる。
「お嬢ちゃん」
背後から声がした。
ルナは止まらなかった。
「おい、待てって。道、迷ってんだろ?」
「迷っておりません」
「その箱、重そうだな。持ってやるよ」
「不要でございます」
「いいからさ。こっち、近道あるんだよ」
「不要でございます」
「可愛くねぇ人形だな」
足音が近づく。
ルナは走った。
自分でも驚くほど、速く走れた。
古い靴が路地の水たまりを跳ね、金属箱が胸の中で揺れる。狭い路地。干された洗濯物。排熱パイプ。積まれた廃材。野良機械人形が驚いて壁際へ逃げる。
後ろから怒鳴り声。
「おい、待て!」
「逃がすな!」
ルナの内部ナビゲーションが、現在地を表示しようとして失敗する。
エラー。
登録外通路。
魔導ノイズ過多。
地図データ不整合。
ルナは角を曲がった。
また角を曲がった。
どこを走っているのかわからない。
怖い。
だが、捕まる方がもっと怖い。
路地の先に光が見えた。
大通り。
ルナは飛び出した。
クラクションが鳴る。
魔導バスが急停止し、無人タクシーが警告音を出し、歩行者が振り返る。ルナは金属箱を抱えたまま、横断歩道でもない場所を駆け抜けた。
追ってきた男たちは、大通りの手前で立ち止まった。
人目が多すぎる。
ルナは振り返らずに走った。
走って、走って、やがて息を切らした。
必要のない呼吸が乱れている。人工肺が過剰に空気を吸い込み、出力制御が揺れる。新しいエネルギー炉のおかげで身体は動く。だが、心の方が追いつかない。
気づいた時、ルナは〈ホーム〉の外へ出ていた。
空気が違う。
舗装が違う。
建物の色が違う。
街灯が壊れていない。歩道にゴミが少ない。警備ドローンが規則正しく巡回し、企業広告は上品で、通行人の服も靴も綺麗だった。
ルナは立ち尽くした。
ここがどこなのか、わからない。
端末を見ようとして、手が震えた。
内部地図はまだ乱れている。GPS信号は掴めるが、〈ホーム〉周辺の違法ジャミングのせいで現在地補正がずれている。
通信すればいい。
ルルトへ。
帰り道がわからなくなったら、すぐ通信しなさい。
そう言われた。
だが。
ルナは金属箱を見た。
まだ、古いバッテリーを捨てていない。
頼まれたことを終えていない。
ここで通信したら、失敗したことになるのではないか。
迷子になったと知られたら、ルルトはどう思うだろう。
呆れるだろうか。
やはり人形は外に出すべきではない、と判断するだろうか。
部屋に戻れなくなるのが怖いのではない。
部屋から出してもらえなくなるのが、怖かった。
ルナは歩き出した。
正しい方向はわからない。
だが、人の流れがあった。
制服姿の少年少女たちが、同じ方向へ歩いている。明るい灰色のブレザー、月を意匠化した校章、整った鞄。彼らは笑いながら歩き、端末で何かを見せ合い、朝の授業の話をしていた。
ルナはその流れについて行った。
やがて、大きな門が見えた。
帝都月影高等学院。
その名前は、白い石造りの門柱に刻まれていた。
昼の学院は、眩しかった。
〈ホーム〉の朝とはまったく違う。
校舎は白と淡い青を基調にした近代建築で、硝子張りの廊下が朝日を反射している。中庭には手入れされた樹木があり、噴水があり、魔導式の小さな気象制御装置が霧のような水を撒いている。校門には警備員が立ち、制服姿の教師が登校してくる生徒へ挨拶していた。
「おはようございます」
「おはよう、昨日の課題忘れないように」
「実習棟は午後からですよ」
「廊下を走らない」
声が明るい。
足音も軽い。
誰も血痕を避けて歩いていない。
誰もルナを商品として見ていない。
いや、見てはいた。
だがそれは、珍しいものを見る視線だった。〈ホーム〉の路地で受けた視線とは違う。盗めるか、売れるか、解体できるか、そういう目ではない。あの子は誰だろう、どこの制服だろう、機械人形かな、という程度の視線。
それでも、ルナには十分すぎるほど眩しかった。
校門の前で立ち尽くしていると、警備員が近づいてきた。
「君、どこの生徒かな?」
穏やかな声だった。
だが、ルナは答えられない。
自分は生徒ではない。
廃棄処分場へ行く途中だった。
今は迷子である。
それをどう説明すればよいのかわからない。
「ええと……」
ルナが言葉を探していると、校門の脇で誰かが笑った。
「その子、昼の子じゃないよ」
ルナは振り向いた。
門の端。
朝日が当たっているはずなのに、そこだけ影が濃い場所があった。大きな正門とは別に、小さな通用口がある。鉄の扉に、同じ月の校章が刻まれている。ただし、正門の校章が銀色なのに対し、通用口の校章は黒い。
その前に、一人の少女が立っていた。
黒に近い紺色の制服。昼の学院の生徒たちと似ているが、リボンの色が違う。髪は肩のあたりで切り揃えられ、顔立ちは整っているが、どこか影が薄い。
いや、影が薄いのではない。
影だけが濃い。
少女の足元に落ちた影は、朝の光にしては不自然なほど黒かった。
「ミオさん」
警備員が少し困ったように言った。
「また勝手に通用口から出てきて」
「出てきてないよ。まだ入ってもいないし」
「朝の時間帯は、夜間部の生徒は――」
「わかってる。だから門の内側には入ってない」
少女はそう言って、ルナを見た。
正確には、ルナの顔ではなく、彼女が抱えている金属箱、靴、服、手の汚れ、髪の乱れ、それから目を見た。
「あなた、迷子?」
ルナは反射的に答えた。
「迷子ではございません」
ミオは笑った。
「迷子の人って、だいたいそう言う」
「わたくしは、廃棄処分場へ向かっておりました」
「その箱?」
「はい。古いバッテリーでございます」
「学校に捨てに来たの?」
「違います。追跡者から逃走した結果、現在地を喪失いたしました」
「やっぱり迷子じゃん」
ルナは黙った。
ミオは楽しそうに笑った。悪意はない。だが、遠慮もあまりない。〈ホーム〉の子どもたちとは違うが、昼の学院の生徒たちとも違う。彼女の声には、夜に慣れた者の軽さがあった。
警備員は溜息をついた。
「ミオさん、その子の知り合いですか?」
「今、知り合った」
「それは知り合いとは言いません」
「じゃあ、これから知り合いになる」
警備員はさらに困った顔をした。
その間に、昼の生徒たちは校門を通り過ぎていく。何人かはミオの方を見た。だが、目が合いそうになるとすぐ逸らす。あるいは、最初から彼女がそこにいないかのように、通り過ぎていく。
教師も同じだった。
挨拶はする。
けれど、距離がある。
ミオは学院の生徒であるはずなのに、昼の校門前では少しだけ場違いに見えた。
ルナはそれに気づいた。
「あなたは、この学院の生徒様ですか?」
「うん。たぶん」
「たぶん、なのですか」
「夜の方だから」
「夜」
「帝都月影高等学院・夜間特別課程。聞いたことない?」
「ございません」
「そっか。じゃあ、あなたはやっぱり昼の子でも夜の子でもないんだね」
ミオは通用口にもたれた。
「あなた、昼の子じゃないね」
プロット通りの言葉だった。
けれど、ルナにはそれが予想以上に深く刺さった。
昼の子。
夜の子。
では、自分は何の子なのか。
機械人形。
ルルトのもとにいるもの。
拾われたもの。
盗品ではないもの。
人形だが、心がないとは限らないもの。
どれも答えのようで、答えではなかった。
「わたくしは……」
ルナは言葉を探した。
だが、見つからない。
ミオはその沈黙を急かさなかった。
むしろ、少しだけ目を細めた。
「答えられないなら、夜向きかも」
「夜向き、ですか」
「昼の学校って、みんな自分が何者か知ってる顔してるでしょ。何年何組。何部。進路希望。親の仕事。成績。友達。そういうのがちゃんとある顔」
ミオは、正門をくぐっていく生徒たちを見た。
「夜の方は、そうじゃない子が多いよ。本名を言えない子。家に帰れない子。昼間は働いてる子。義体の調整で普通の学校に通えない子。魔導災害で前の生活が壊れた子。あと、たまに、人間じゃない子」
ルナの指が、金属箱を握る。
「人間じゃない子も、通ってよいのですか」
「書類が通ればね」
「書類」
「この街って、結局そこなんだよね。心があるかより、登録できるか。名前があるかより、欄に入力できるか」
ミオはスカートのポケットから薄いパンフレットを取り出した。
黒地に銀の月。
帝都月影高等学院・夜間特別課程。
その下に小さく、こう書かれていた。
――ルナティックハイ。
「はい」
ミオはそれをルナに差し出した。
「道に迷った記念」
「受け取ってよろしいのですか」
「捨ててもいいよ」
「捨てるための廃棄処分場を探していたのですが」
「真面目だね」
「真面目、なのでしょうか」
「たぶん。夜の学校だと、真面目な子ほど最初に困るけど」
ルナはパンフレットを受け取った。
紙の感触。
薄い。
けれど、不思議と重かった。
「ミオ様」
「様はいらない」
「では、ミオさん」
「うん」
「わたくしは、ここに来てもよいのでしょうか」
ミオは少しだけ驚いた顔をした。
それから、笑った。
先ほどまでの軽い笑みとは違う。少し困ったようで、少し嬉しそうで、少し寂しそうな笑み。
「それ、わたしに聞くことじゃないと思う」
「では、どなたに」
「たぶん、あなた自身」
ルナは答えられなかった。
警備員が咳払いした。
「ミオさん、そろそろ戻ってください。夜間部の出入口は朝の時間帯、開放対象外です」
「はいはい」
ミオは通用口へ戻りかけ、ふと振り返った。
「あ、そうだ」
「はい」
「そのバッテリー、学校では捨てられないよ。廃棄処分場なら、ここから二つ先の通りを左。青い煙突が見えるから」
ルナは目を瞬かせた。
「ありがとうございます」
「でも、今から行くと、たぶんまた迷うよ」
「……努力いたします」
「うん。迷ったら、誰かに聞けばいいよ。聞く相手を間違えなければ」
ミオは通用口の奥へ消えた。
扉が閉まる。
その瞬間、門の端に落ちていた濃い影も少し薄くなった。
昼の学院の光が、元に戻ったように見えた。
ルナはパンフレットを胸に抱えた。
古いバッテリーの金属箱と一緒に。
そこから廃棄処分場へ向かうことは、できたかもしれない。
青い煙突は、ミオの言った通り、二つ先の通りから見えた。だが、ルナはそこまで歩きながら、何度もパンフレットを見てしまった。
夜間特別課程。
不登校生徒の再教育。魔導災害被害者の支援。義体使用者の社会適応。夜間労働者のための学習支援。機械人形・人工人格個体の特別相談窓口。
機械人形。
人工人格。
相談。
その単語を見ているうちに、青い煙突の前を通り過ぎた。
気づいた時には、もう道がわからなくなっていた。
結局、ルナは古いバッテリーを捨てられなかった。
帰り道も一度間違えた。
だが、今度は通信した。
ルルトへ。
『現在地を喪失いたしました』
短い沈黙の後、返事が来た。
『やはりね』
『やはり、とは何でしょうか』
『現在地を送って』
『はい』
『そこから右。次の路地は入らない。屋台が見えたら左。緑の看板の診療所を通り過ぎたら、見覚えのある汚い階段がある』
『汚い階段という情報で識別できる階段が複数ございます』
『では、いちばん汚い階段』
『判断に困ります』
『写真を送って』
やり取りを繰り返しながら、ルナは何とか〈ホーム〉へ戻った。
アパートの階段は、朝よりもさらに汚れていた。
廊下の血痕は少しだけ薄くなっている。誰かが雑に水を撒いたのだろう。血は完全には落ちず、赤黒い筋になって残っていた。
ルナはそれを避けて歩いた。
部屋の前に立つ。
少しだけ躊躇した。
古いバッテリーは、まだ手元にある。
頼まれたことを達成していない。
パンフレットを持ち帰っている。
追われた。
迷った。
通信した。
失敗だ。
完全な失敗。
ルナはドアを開ける前に、小さく息を整えた。
そして、ノックした。
内側からルルトの声。
「鍵は開いている」
ルナは部屋へ入った。
「ただいま、帰りました」
「おかえり」
ルルトはテーブルで書類を広げていた。
昨夜の公園の件だろう。影山源三郎、影山グループ、帝都月影高等学院、夜間特別課程。端末画面には複数の情報が並び、紙のメモにはルルトの細い字で何かが書き込まれている。
彼はルナを見た。
金属箱。
パンフレット。
汚れた靴。
少し乱れた髪。
そして、無理に平静を保とうとしている顔。
「古いバッテリーは?」
「……廃棄できませんでした」
「そう」
「申し訳ございません」
「怪我は?」
「ございません」
「追われた?」
ルナは目を見開いた。
「なぜ、おわかりに」
「靴の汚れ方。走った跡がある。髪も乱れている。だが、服に引っ張られた跡はない。逃げ切ったんだろう」
「はい」
「通信が遅かった」
「申し訳ございません」
「怒ってはいないよ」
ルナは顔を上げた。
「怒っていないのですか」
「怒る理由がない」
「頼まれたことを失敗いたしました」
「初めて外へ出て、追われて、迷って、それでも帰ってきた。成果としては十分だ」
「ですが、古いバッテリーは」
「明日、ボクが捨てる」
「わたくしは、お役に立てませんでした」
ルルトはペンを置いた。
「ルナ」
「はい」
「役に立つかどうかだけで自分を判断すると、壊れるよ」
ルナは息を止めた。
機械人形に必要のない行動。
けれど、止めた。
「壊れる、とは」
「役に立たない自分を許せなくなる。役に立つためなら、何でもするようになる。そういう人間を、ボクはたくさん見てきた。人形にも、たぶんよくない」
ルナは言葉を失った。
ルルトはパンフレットへ視線を移した。
「学校に興味があるのかい?」
ルナは慌てた。
「ち、違います。これは、その、道に迷った記念としていただいたものであり、わたくしが積極的に取得した資料ではございません」
「道に迷った記念」
「はい」
「珍しい記念品だね」
「ミオさんが、そうおっしゃいました」
「ミオ」
ルルトの目がわずかに細くなる。
「影山ミオ?」
「名字までは、伺っておりません」
「どんな子だった?」
「夜間部の生徒様だそうです。昼の子ではないとおっしゃっていました。制服を着ていましたが、昼の生徒の方々からは、少し距離を置かれているように見えました」
「影は?」
「……影、ですか」
「濃かった?」
ルナは思い出した。
通用口の前。
朝日が当たっているはずなのに、濃かった影。
「はい。不自然なほど濃く見えました」
「なるほど」
ルルトはメモに何かを書き加えた。
ルナはパンフレットを胸に抱いたまま、立っている。
ルルトはそれに気づいている。
気づいていながら、すぐには何も言わなかった。
しばらくして、彼は椅子の背にもたれた。
「読んでみるといい」
「よろしいのですか」
「ボクの許可が必要なのかい?」
「必要では、ないのでしょうか」
「君がもらったものだ」
「ですが、わたくしは――」
人形です。
そう言おうとして、止まった。
ルルトが今朝言った言葉を思い出したからだ。
君は人形だよ。
だが、人形であることと、心がないことは別問題だ。
ルナはパンフレットを見下ろした。
帝都月影高等学院・夜間特別課程。
ルナティックハイ。
「……少しだけ、興味があります」
「そう」
「ですが、わたくしが学校へ行く理由は、ございません」
「理由は後からできることもある」
「理由がないなら、とっくに捨てている、ではないのですか」
「それは捨てる場合の話だよ」
「では、行く場合は?」
「行ってから考えればいい」
ルナは困った顔をした。
「ルルト様のお言葉は、時々、相互に矛盾しているように感じられます」
「人間の言葉はだいたいそうだよ」
「ルルト様は人間なのですか?」
ルルトは少しだけ笑った。
「それは、ボクにも判断が難しい」
その夜。
帝都月影高等学院では、昼の喧騒が消えていた。
白い校舎は夜の中で静まり、窓のいくつかだけに灯りが残っている。昼の生徒たちは帰り、部活動も終わり、正門は閉じられている。
だが、門の端の小さな通用口だけは、まだ完全には眠っていない。
黒い月の校章。
夜間特別課程。
校舎の奥、管理棟の地下にある出席管理端末が、低い駆動音を立てていた。
端末画面には、夜間部の在籍者一覧が流れている。
名前。
年齢。
登録区分。
保護者。
保証機関。
所有者。
人間の生徒には、保護者欄がある。
義体使用者には、医療管理機関欄がある。
機械人形には、所有者欄がある。
画面が一瞬だけ揺れた。
ノイズ。
そのノイズの中に、新しい名前が表示される。
ルナ。
登録区分――未確定。
種別――少女型機械人形。
所属候補――夜間特別課程。
保護者欄――空白。
所有者欄――検索中。
端末は数秒間、沈黙した。
それから、赤い文字が浮かぶ。
所有者未登録。
画面の端で、黒い月の校章が一度だけ明滅した。
誰もいない管理室に、出席確認の予鈴のような電子音が小さく鳴る。
ルナはまだ、何も知らない。
自分の名前が、夜の学校に拾われかけていることを。
そして、所有者の欄に何もないことが、この街では自由ではなく、危険を意味するのだということを。




