幸灯の残香
取り敢えず、家に急いで帰った。
何か手掛かりが欲しい。
突発的で行き当たりばったりな行動だが、幸灯が気になるんだ。
仕方が無い。
こんな衝動に駆られたのは初めてだ…幸灯の使った部屋を確認する。
朝にも軽く見回していたが、当然の如くその時と同じ風景が広がっていた。
見慣れた…主の居ない部屋…初めから幸灯が存在していなかったような…ベッドと生活に必要な家具一式はあるのだが、不思議と温かみの無い部屋…無性に寂しさが込み上げてきた。
居たたまれない。
俺は部屋を後にしようとした…が、何だか違和感を感じて、もう一度部屋を見回してみる。
よく見ると、ベッドの下の隙間から…
「布…?」
布の端が僅かに覗いていた。
そっと引っ張りだしてみる。
ズルズル…意外と重量を感じた。
とは言え、あまり重くはなかったのだが…全て引き出してみると、それは棒状の物に巻かれているようだ。
長さは1メートル強…この時点で中身の予想は出来た。
確かめようと、巻かれた厚めの布を解いていく。
やっぱり…全て解き、中身が露わになった。
予想した通り…中身は抜き身の剣だった…。
吸い込まれそうな輝きを帯びた…人殺しの凶器…幸灯が提げていた…血塗れの剣…
「……」
どれくらいだろう…数分か…数十分か…或いは数秒か…剣身に魅せられ、見つめていた。
一つ息をした後、そっと布を巻き直す。
そして、布に巻かれた剣を右手に提げ、家を飛び出した。
幸灯の行き場所の心当たりなんて、皆目見当も付かない。
だけど飛び出した。
この剣が…俺を幸灯に引き合わせてくれる。
そんな気がした……
*
「佐山 真希…もうすぐ死ぬわよ」
「はぁ?」
昼休みも半分が過ぎた頃だ。
真希を見送った直後、見覚えの無い女が話し掛けてきた。
その上、訳の解らない事を吐き出したんだから、たまったもんじゃない。
「アンタ…突然何を言い出すんだ?」
「……」
俺の問いには答えず、勝手に向かいの席に座る。
そして、何事も無いかのように、カレーうどんを啜り始めた…
「おい…」
呆れた…マイペース過ぎるだろ…学年を表すリボンは赤。
俺とは一学年上の上級生だ。
目が大きく、顔はわりかし可愛い。
だが、幾分無愛想な雰囲気を漂わせている。
真希の事を知ってるって事は、真希の知り合いか?
「一体、どう言う事だ?真希の奴がどうしたって?」
ズズッ…箸を止める気配が無い…
「聞こえてないのか?」
ズルズルッ…
「おーい…」
ズゥゥッ…いい加減腹が立ってきた…
「人の話を聞きやが
「聞こえてるわ」
こ…この女…怒りが込み上げてきた。絶対バカにされてる…
「ふう…」
女は、ようやく箸を止めて一息ついた。
そして…
「カレーうどん…汁が跳ねなきゃね?」
「確かに…って、オイッ!」
何なんだ…思わずツッコミを入れてしまった…
ズルズル…
またカレーうどん啜り出したし…
怒りが萎えた。
俺は俺でAランチを食べる事にする。
女は、丼を傾けて、汁の一滴も残さずに食べ終えた。
そして一言
「放課後…話したい事が在るわ。空けといてね」
その後、やっぱり何事も無かったかのように席を立ち…
去って行った…




