昨夜の幻影
俺は、自然と目を覚ました。
ベッドの中の温もり…心地よい脱力感…。
『寝切った』という事を示すかのような清々しさ。
窓から差し込む陽射しが浅い。
太陽が高いようだ。
既に昼頃らしい。
俺は天井に腕を伸ばして『伸び』をし、起き上がろうとした。
が、その時、違和感を覚えた…。
血の臭いがする…。
部屋に充満する、濃い鉄臭いような生臭いような…血の臭い…吐き気を覚え、急いで洗面所へ向かう。
足を降ろした床の所々に血の乾いた跡があった。
ダメだ…気持ち悪い…部屋のドアを開け、壁伝いに洗面所へ…やっとの事で洗面所へ着き、途端に思い切り嘔吐する。
胃液ばかりが吐き出された。
俺の部屋が、洗面所に近くて助かった…と不意に思った。
少しばかり落ち着き、口を漱ぐ。
そして考えた…何だこの状況は…。
この吐き気を催すほどの血の臭いは一体…そう言えば、今日は学校を休んでしまったな…等と、関係の無い事を思い出す。
今はそれどころでは無い。
体は何処も痛くない。
自分が怪我をした訳ではないようだ。
だとしたら、一体誰の血だ?何か重要な事を忘れている気がする…。
そうだ…。
昨夜…。不意に昨夜の光景を思い出す。幻想的すぎて、夢だと思いたかったが……鼻につく血の臭いが、現実なのだと俺に知らせる。あの後、倒れた少女を家に運び込んだんだ。このままじゃ凍死すると思って……
「落ち着け…落ち着け…落ち着け……」
鏡の自分と目を合わせ、自分自身に言い聞かせる。
暫く続けると、何とか冷静になってきた。
あの子は…何処だ?最も重要だと思われる事に思考を巡らせる。
取り敢えず、少女を探す事にした。
少女に会わなければ、話は進まないだろう。
チラリと壁に掛けられた時計の針を確認する。
十二時を過ぎた処だった。
やはり昼か…と思ったと同時に、既に居ないのでは?とも思う。
兎に角探してみなければ…。
*
少女は簡単に見つかった。
俺は小さい頃から、隠したいモノや大事なモノを仕舞う場所は、いつも同じだった。
俺が小学四年生の時に、両親が他界するまでは物置。
それ以降、俺が高校に上がるまでは使用人の部屋だった一室…。
『高校にあがるまで』と言う約束だった使用人が居なくなって、二年が経った今も、部屋はそのままにしていた。
片付けるのが面倒だった事もあるが、少なからず心を開いていた使用人が、俺の前から居なくなったと言う事実を受け入れられなかったんだろう…。
その部屋のドアを開けると、少女はこちらに顔を向けた。
その部屋に備え付けてあるベッドに、ぼんやりと座っている。
全身…髪の先から足の爪先まで、血が付いたままだ…。
血は乾き、こびり付いている。
「起きるの、遅いね…」
呆然と立ち尽くす俺に、少女が笑い掛けた。
昨夜と違い、目には生気が宿っている。
「出て行かなかったのか?」
困惑して、こんな言葉しか出てこない。
「出て行ってほしかったの?」
いや、居なくなると思ったから…君が綺麗すぎるから…
「夢かと思ってた」
「残念ながら現実…私は人殺しで、凶器は…」
少女は目を俺から外す。
少女の視線を追う…そこには床に剣が無造作に転がっている。
「警察に突き出す?逃げないけど?」
少女が視線を俺に戻す。
今気付いたが、少女が話す時瞳は、俺の眼を真っ直ぐに見る。
癖なのだろうか…。
少女の大きな瞳で見つめられると、頭がボーッとしてしまう。
「いや、警察には言わない。相性が悪くてね」
俺はそう言って苦笑した。
「シャワーを浴びた方が良い」
俺は提案した。
さすがに、血が全身にこびり付いたままでは居られないだろう。
「ありがと。床に着いた血は、後で拭いておくね…」
そう言って立ち上がると、俺に近付いてくる。
近くで見ると、一層綺麗だ…。
色白で彫りが深くて眼が大きくて……
「早くバスに案内してよ」
少女の言葉で、不意に我に返る。
「あ、ああゴメン!そうだった」
「何慌ててるの」
少女が呆れ気味に言った。
見取れてたなんて言えないよな…。
「こっちだよ」
俺は風呂場へ案内した…。
ずっと無愛想だったかな…と、ちょっと後悔していた。
早くも行き当たりばったり感が漂ってきましたが…大丈夫!何とかなる!頑張れ俺!負けるな自分!って事で、感想など頂ければ、一層元気になります!よろしくお願いします。切実に…




