第五幕
●地方冊子『農協ニュース』 四月十四日 より抜粋
シウナーズ農場は人工の池を作ったジム・シウナーズ氏の農場で、春はクレソンの白い花が、夏には蓮の色とりどりの事、秋には、金平糖草でにぎわいを見せる素敵な御宅です。
記者が取材に来た時、シウナーズ農場の傍に突如光が走りました。
私も驚きましたが、雷でも落ちたのかと思いましたが杞憂に終わりました。
なんでも空から飛来した石があったそうです。
この石ですが、昨今話に出ている地球の裏側で起きている大戦の影響かもしれないと地元でも興味深々。
地上六十キロ近い高さまで上がるキノコ雲に巻き上げられた物(中には冷蔵庫などがあったみたいですが)が各地で降り注ぐ現象が起きている中で、これもその一つだと懸念されています。もっとも地球の裏側までやってくるというは凄いですが、それだけ多くの命が消えたことには変わりないのでしょう。
今私達の国では戦争に参加することはないと大統領が明言はしておりますが、世界の大国のうちの一つとして、私達の不安は募るばかりです。
●ジム・シウナーズ日記 四月二八日 より抜粋
農場に落ちた石について、子供たちがはしゃいでいた。しかし、あの場所は何かおかしな感じがする。とても嫌な予感だ。
はじめに見に行った時、隕石のような地面がえぐられた様子もなく、雷が落ちたような火災の後もなく、ただその石がぽつんとそこに置かれていたのだ。だれかが回りを焼いたように『綺麗な真円』で真っ黒く色を塗ったような草地の中にだ。
草はただ錫色をした灰をかぶっているだけだったが、だれかが綺麗に塗りつぶしたように『葉の両面』すべてが灰をかぶっていた。
石にも灰がかぶっているのか粉っぽい感触があったので、よく拭ってみると、金属的な鏡を思い出すほどに輝きを持っていた。元は球形であったようだが、衝撃によってか破損しており、大小さまざまにに割れていた。
しかし火の燻りもなければ、その石自体に熱を感じられるものではなかった。
手に持っていたスコップでつついてみたが、金属的な固い音が返ってくるものの、特にこれといったものではなかったが、その焼けたような草地一体がまるでコントラストを失った様な、鈴色の光で満たされていたのを覚えている。
私の後ろにいた子供たちが喜々として拾ってきたそれを見せてもらったが、何等かの石であることは分かった。
一応安全のため、私が一時的に保管するというと娘たちは膨れた様子だった。
しかし、それが人体に害を及ぼすことがないのかといわれると、確証が得られないため、一度よく確認してからにしたい。
特に今起こっている大戦の残り火であるのであれば、決して体に良くないものであると言い切れたからだ。
しかし、ただの石というよりは何等かの金属が高温で溶けてできた塊の様にも見える。
このため、私の知り合いがいる大学でも見てもらったが、ただの石で放射性なども検知されないとの事だった。一応隕石の可能性もあるから、サンプルを少し欲しいということで、割れていた一部を提供した。
特に危険性が無いと回答がきたのはその七日後だった。サマリウムコバルト磁石に似て非常に強力な磁性を有していたいが、発熱有毒性などはみられず、コバルトが主成分である事以外分からなかった。また、直接的な害があるとは考えられないというのが友人からの回答だった。
子供たちはまるで宝石でも扱う様にその鈍色の石を丁寧に扱っているから、とりあえずは様子を見ようと思う。
●地方冊子『農協ニュース』 五月十七日 より抜粋
シウナーズ農場の傍で石が発見されて早くも一月が立ちますが、良くない噂が出ているようです。
写真にもありますが、少し黒ずんだような土壌になっているのが見て取れるでしょう。もしかしたら核のゴミなどが降ってきたのではないかと不安がっていますが、シウナーズ氏によると大学などで調査してもらっていますが、問題ないただの石だとのことで、この謎の染みが一体なんなのか、地域住民は怯えているようです。
●ジム・シウナーズ日記 五月二八日 より抜粋
長女ベルナの様子が最近おかしい。
夜中になるとそっと空を見上げているかと思えば昼間に石に話かけるなどの姿も見られた。
妻のアリューシアによると目を離すとあの石が落ちていた辺りにいって地面を見つめながら、よくぶつぶつと独り言をしゃべっているというのだ。
ベルナに聞いてみると、なんでもあの石の破片を探しに行っているのだという。
子供心にはそれは美しいものに映るのだろうが、いまだに何で降ってきたか分からない石を大事そうにするのはどうかとベルナに言ったところ、ひどい剣幕で捲し立てられた。
そこまで執着する意味が分からなかったので、この石を集めることが何のためかと聞くと、「天使様の言葉だから」と自信ありげに言った。
私達の信仰では火を拝むことはあっても石に神が宿るとは思っていない。たしか、石の天の使いもいないはずだが。
先日三女の火の催事を済ませてからというものベルナの様子がおかしくなったと感じるのは杞憂だろうか。
とにもかくにも、今はまだ見守るほかないのだろうか。石を集める事自体は別に止められるものではないのだから。
●地方冊子『農協ニュース』 六月十五日 より抜粋
今年もシウナーズ農場では蓮が綺麗に色づき来客を喜ばしていました。
近くのエヴェン農場からの牛乳で作られたジェラートにシウナーズ農場の甘い酸っぱい蜜柑が混ざるのが格別です。
ぜひ農協の直売所まで足を運んでください。
シウナーズ農場といえば、二ヶ月前に起きた石の落下事件で大きな反響をもらっているとかで、これも運が良いという者なのでしょうか。
●ジム・シウナーズ日記 七月七日 より抜粋
妻と長女の様子がおかしい。
次女レティアから不安がられ、話を聞いた。
なんでも妻と長女から、この家の習わしだということで、女性だけが習う『まじない』があるのだという。それらをまとめた本を持ってきて、ベルナが喜々として読み聞かせをするのだという。
なんでも性にかかわるものだというが、次女はそういったことを知っていたが、三女は小学校に入ったばかりだというのに早すぎる事だと思うと怒っていた。
しかも特にレティアが恐れていたのが、見ず知らずの男にその身を晒す催事があり、それを強要するような内容だったらしい。
この土地の信仰で、昔は確かにあっただろうが、火の催事、水の催事が終われば年に一度のお祭りを行う程度であるから、不安に思うことはないとレティアを宥めるに時間を要した。
このことを妻に問い詰めたところ、歯をむき出して笑いながら「そんなこと言うはずないじゃない」と一蹴されてしまった。
しかし、妻の言葉はあまり信用ができなくなってきている。
よくよく考えてみると、このところ頻繁に、夜中になると妻は、娘たちを連れてあの石のあった場所にいって空を見ている。
次女になにか恐ろしい事があったらすぐに言うように伝え、とりあえず様子を見よう。
●ジム・シウナーズ日記 九月三日 より抜粋
妻は気狂いでもしたのだろうか。
突如夜中に奇声を上げてみたり、夜中に星の方角へ手を突き出してずっとにやにやと嫌な笑いをしてぶつぶつと独り言を言うことが見られた。
育児からのストレスかと思っていたが、次女が血相を変えて捲し立ててこう言った。
「あの石を、完全にしてはいけない。でも、あれを完全にするために、母と姉は天使に語り掛けられたというの。とても怖い。私には何を信じていいのかわからない。今日だって『薬だから飲みなさい』といってあの石の一部を砕いた粉を私に飲ませようとしたの。私が拒絶すると叩かれたわ。この腕と背中のあざはその時のものよ。ひどい力でなぐるものだから私怖くて、いいえ。私も妹もよ。仕方なくそれを飲まされたの。とても吐きそう。今でもまるで内側にざらつく何かがまとわりついている感じがするの。どうしたらいいのかわらから無いわ。私と妹はただ泣きながら従うしかなかったの。」
私は妻と再び話そうとしたが、言っていることが理解できなかった。「ベルナに天使からお告げがあり、神は私の娘三人に褒美を与えてくれるというのよ。永遠の美と、知と、健康を。あの石は、『神の欠片』なのよ。私達はアレを取り込む事で完全にすることができる。」
何かに取りつかれたように星空を見上げて彼女は言った。
その視線の先にはアークトゥルスが淡い白い、月白色をして瞬いていた。
●ジム・シウナーズ日記 九月十日 より抜粋
とうとう妻は本当におかしくなってしまった。
言葉を喋る事は稀になり、家事も行わないで、一日うち内大半を石のあったあの場所で過ごし、虚空を見つめ呟いている。
その言葉は煩雑としていて意味をなしていないようだったが、聞き取れないほど小さく、しかしとても単調に言葉だった。
また、星の位置を指さすかのように手でその軌跡をなぞるようにゆっくりと、ゆっくりと拝む様な形で両手を突き出していた。
長女も妻の様子に呼応するように、傍らにいて同じ様に星の向きに手を合わせてつぶやいていた。
次女から話を貰っていたから、すぐに次女と三女を近くのエヴァン家に預けた。
そのことを妻は激しく怒り、私に娘をどこにやったのかと怒鳴り散らした。
包丁を振り回すものだから、危なくて仕方なかったため、警察を呼んだ。
警察が来ると何事もなかったかの様に落ち着きを取り戻し、いつもの妻の様子に戻った。
しかし、警察の聴取において、エヴァンの家に預けていることを告げねばならなかった。
私は、エヴァンの家に預けているのも危ないと感じ、ついさっき叔父と落ち会い、次女と三女を叔父の家に預けた。
あそこならば、ここから一日はかかる距離だし、大丈夫だろうと思っていた。
それでもなお妻の奇行は、目に余るものがあるので、地下に連れていく事にした。
最初はケタケタと笑っていたが、窓がないことにひどく動揺した様子だった。
しかし、昨日のことの様に、暴力的になられては困るので、一晩頭をそこで冷やすように伝えた。
尤も、鍵がかかる代物ではないから、ここに閉じ込めるというものではないが。
●ジム・シウナーズ日記 九月四日 より抜粋
今日、次女と三女が家にいた。
長女から叔父に連絡があり、荷物を取りに来るように言ったらしい。しかし本当かどうか。長女も妻と同じくおかしくはなってやいないか。そう思うと恐ろしく感じる。
次女に聞くと、妻が連れ戻してきたという。
「もう大丈夫って昨日言ったじゃない。なのになんですぐ戻されるの?叔父様にもよく言ってよ。昨日電話があって、二人はいるかって言われて、いるって答えたの。そしたら今日の朝には下に来ていたわ。お父様にお仕事があるのは分かるわ。でも私達とても怖いのよ。先先ほども薬だからといってあの石を飲まされたの。やめてっていても何度もたたくの。腕みてよ。真っ青になって。あの石が良くないの。だからすぐに神殿に持って行ってよ。あのレンの先にある、あの美しい神殿よ。」
そんな神殿は私は知らない。彼女たちにないを吹き込んだというのだ。
次女と三女を、私は急いで車に乗せた。
長女が笑いながら私を見ている。
●ジム・シウナーズ日記 九月五日 より抜粋
妻と長女は正気を失くしている。
共に星を見て何かを唱え、昼間になると狂ったように奇声を上げていた。
妻や長女のいう天使というは一体なんなのか見当が着かない。
二人とも、世間から隠すように地下に追いやるとおとなしくなった。
そこから、一~二時間は、二人とも落ち着くのだが、食事の時間になり、外に出すと気が狂ったように石につぶやき始めた。
私はそれを捨てようと思った。
すぐさま、二人を地下へと追いやるとその足で、石を持って海へと行った。
あれが原因ならば、それが無くなれば済むと思ったからが。
しかし、それは本当にそうなのか確証は得られない。
私がここでこの石を海へと放り投げてそれで済む話なのだろうか。
手に持つととてもただの金属石とは思えないほどにじっとりとした感触を得た。それはまるで軟体生物の体を触れているような、独特の触感だった。
その原因が私の汗である事は、間違いないのだろうが、とても気色悪い気持ちで満たされた。
結局、私はそれを海に捨てられなかった。
しかし、これが原因で妻と長女に何かあったのだということは分かった。
彼女達が隠したその女性だけに伝えられているという『まじない』とはなんだ。
それを調べてからこの石は決めよう。
●ジム・シウナーズ日記 九月七日 より抜粋
私は家を出よう。
妻と長女を置いて。
私も気がおかしくってしまう。次女と三女を連れてどこか別の地に行こう。
妻の様相がおかしい。昨日まであんなことはなかったのに。
妻はあの石を海に捨てようとしたことをなぜか知っていた。そして、よりにもよって海に返そうとするとはとひどく激高した。
まるで誰かに殴られたように妻の瞼は腫れあがっており、どうしたかと尋ねると、「貴方の行為が天使様を傷つけている。その天罰をもらったのよ」と怒りながら言う。
私にはもう分からない。
あの地下にこもったまま出てこない長女もおかしい。
時折、狼の遠吠えのような声が聞こえる。
それが長女の声だというのは分かった。
私が二人に向き合うには時間が必要だ。
ほとぼりが冷めるまで家を出よう。
わたしが泣き出しそうな次女と三女をを車に乗せた。
行先は隣町のモーテルでいい。
そこで私は気づいた。
それは人の顔をした獣の様で、しっかりと見える犬歯は鋭く、荒い息は私達を威嚇するように肩を上下させていた。
私は息をのむ。
車の前に佇む長女を見て。




