第四幕
作業は順調に進んでいた。
元農業地域ということもあり、非常に広い面積が平地で残っており、作業のしやすさは市街地の比ではない。
最初、調査地域を四つに区切り、それぞれの中心の線量を調べ、そこから放射状に計測地点を追加していく。
この方法なら、仮にどこかが高い濃度だった時に、早めに地域を除外できるからだ。
小屋のある最北西から、わたしがやってきた市街地へ続く地点は比較的安定していたが、南側に当たる、畜産などをやっていたであろう牧場の付近は線量が異常に高かった。
おそらく人がいなくなった後にその牧場の牛たちが近くの放牧地で灰のかかった草をはみ、濃縮が起きたと考えられた。
わたしの推論を裏付けるように、牛舎のあたりは特に危険であり、厳重な処置が必要だということが確認できた。
いつか戻れる事を思って、少しでも牛たちが生き残ってほしいと思ってつないでいた牛舎から話したのだろう。そういった想いは感じ取れるが、その牧場主はどうなったのか見当はつかない。おそらくはもう戻ることを諦めたか、あの街道沿いの街にあった灰被りの人の影の様に、その命を終えているか。
やるせない気持ちになるが、次なる人々を迎えるための準備でわたしはここにいるのだと奮起するしかない。
少しでも人が戻り、もしかしたら、その中にこの辺りの農場の主がいて、喜んでくれることを期待していた。
小屋の東側は非常に不安定で、湿地帯につながっているのか、不快な暑さと一部泥化した灰が積もったであろうポイントがあり、ところどころ危険な状態となっていた。
また、特に鳥の群れだったのだろうか、死骸の山が出来上がっており、ひどい臭いと共に沼に泡を発生させていた。
おそらくガスの類が溜まってしまっているものが噴き出しているだろうと思われ、処理には相当の人手が必要だと感じた。
わたしはそういった物を地図に書き込んでいく。必要があればそれをスケッチをとり、必要があれば、サンプルを保存し、それらを荷台につめて歩き回った。
わたしはこの作業をしていて、人の営みが消える様があまりにも脆く、矮小で、そしてとても悲しみに満ちている事を実感した。
作業を終えて戻る頃には、周囲は暗くなりはじめ、多くの虫たちの鳴き声が聞こえたであろう草地は、風によって乾いた音が響くのみであった。
小屋から見上げる星空は、今まで見た世界よりもより広く、遠くまで澄んで見える。夏の夜空に、かつてアークトゥルスと呼ばれた星が強く輝いているのを見た。
朝から昼間にかけて温度差によって発生する霧は、濃霧になる事もしばしばあったものの、わたしはその湿気をも楽しむことはできた。
生物が死に絶えていたとしても、星の生命力は尊大で、何者にも支配されないその自由さは、人の営みという物をさらに矮小に写しだしたからなのだろう。
作業は終盤を迎えた。
後は、あの小屋の書庫の物を整理して引き上げよう。




