第三幕
小屋は時が止められていたような印象を受けるとともに、誰かがまだいるのではないかと思わせる感じを受けさせた。それは例えば匂いや、空気の重みだろうか。
かすかに残っているコーヒーの香りや、芳香剤だったのだろうか、花の香りもする。
入口の左右に置かれた奇妙な仮面(赤や青などでアイラインが引かれ、まるで牙の様に見える口の形と、額から鼻筋にかけて灰のような色で描かれた文様を持っていた)の歓迎を受けながらわたしは慎重に中を探索した。
ざっと見て回ると小屋は二階建てで屋根裏を書庫の様に使い、一階にキッチン、ダイニングと小さめのリビング、二階には三つの部屋に五人分のベッドが備えられていた。
階段に掲げられた家族写真から、五人家族であることは分かっていた。両親に娘が三人の家族でとても美しい一家であったようだ。男性は身長が高くとても勇壮ないでたちで、妻と思われる女性は小柄なが可愛らしい女性で、娘三人は珍しく髪の色がそれぞれ異なっていた。父に似た黒色の長女、母似の金色の次女と栗色の三女であった。
この時はまだ三女は五~六才だろうか。長女もまだ十二才程度だろう。
まず一階を見て回ると、虫が湧いていたのだろうか少し残念なことになっている食料棚と、冷蔵庫。そして、地下の貯蔵庫へと通じるであろう扉(人一人がやっと通れるくらいの大きさの)があった。
きっと下も同じように虫の残骸で残念な事になっていると予想したわたしは、今この場で開ける勇気がなかったこともあり、そこは見ないことにした。
キッチンにはまだ使えそうな調理道具もいくつか残っており、ステンレス製品の調理器具などは回収対象になるだろうし、ガラス製のコップなどは領主が好みそうな凝った細工の施されていたから、引き上げる際にはもっていこうと考えを巡らせた。
リビングには小さな暖炉が設置されていて、その周りには家族の団らんができる様に敷かれた鹿の毛皮は埃をかぶり白くなっていた。
壁に掛けられた写真は、民族的な装束を身にまとった家族の写真がとらえられ、火を前にして祈祷をする様などが収められていた。
そして、隠れた場所にシャワールームにトイレを発見した。狭いながらうまく使われた設置方法で、キッチンの丁度裏手に当たるところに水回りのものをまとめているあたりが先人の知恵という物か。
次に、二階を見て回った。
かつての中流階級では当たり前だったのだろうが、今では珍しい絨毯の敷かれた床に、質の良さそうなベッドは、今でも十二分にその能力があるのだろう。
調度品の中には、飲料メーカーの懸賞だろうかロゴの入った時計や、様々な動物を象ったぬいぐるみなどがあり、きっと持ち帰る事ができたなら、それこそ子供たちの良い土産になるだろう。
わたしは、その中で夫婦の部屋を重点に捜索し、男性物の外套など質のよさそうなものが数点を、少し背徳的な感じを受けながらもそれらを頂戴することとした。
尤も子供部屋には特にめぼしい物はなかったが、何か金属なのか、石のようなものを数点砕いたようなそんな破片が机の上に丁寧におかれているのを見つけた。
屋根裏の書庫のような場所にはさまざまな本があった。これはきっと領主が望むような情報があるかもしれないとおもい、地図作成の合間に選別していくつか持ち帰ろうと決めた。
昔では珍しくない、世界地図や動物の図鑑、子供向けの絵本がある一方で、情報処理の専門書など多岐にわたって収められたその本棚は、まるで簡易的な図書館でわたしの心を躍らせるに十分な魅力をもっていた。
その中で一際興味をそそられたものが、この地域の地域冊子だ。
かつての農村の風景などを写真に収めたそれは、簡易的な地図と共にどこで、何があったのかを映し出していた。
ふと、先ほど道中でみた染みのようなものについて書かれている物がいくつかあった。
その横にはここの家主であろう男の日記がそばにそっと閉じられて置かれていた。
わたしは作業のすべて終わったその日の日課にこれを読み進めようと決めた。




