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【書籍化】腕利きシェフは『王家の至宝』⁉︎〜悪役は恋しちゃダメですか?2〜   作者: 葉月クロル


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肉肉肉ーっ♪

 仕事のできるメイリィ・フォードは、短い下見の時間に転移を補助するための魔法陣を作成していたので、わたしたち3人は何事もなく、ドラゴンの棲む火山近くの荒地に到着した。


「あの岩山の向こうに、ドラゴンが眠っているわ。この位置ならドラゴンが火を噴いても届かないし、防御結界も張ってあるから、待機場所にしましょう」


「あら、もう結界まで張ってあるの!」


 メイリィ・フォード、本当に仕事の早い子ね!

 ミレーヌ・イェルバンのエルスタン国の訪問に、侍女がわりについて来たんだと思ったら、大間違いみたい。とんでもない有能キャラね。やっぱりゲームのヒロインだから、秘めた才能が桁違いなんだわ。うちのシェリー・ラスタンも、鍛えたらいい右腕になるかしら? この騒ぎに片がついたら、ちょっと教育してみようっと。


 わたしは、ドラゴンの解体の仕方を頭の中で復習しながら言った。


「それじゃあ、時間がないことだしサクッと狩ってきましょうか」


 ああ、ドラゴンの肉を料理するのは初めてよ!

 楽しみで楽しみで、涎が出そう。


 そんなわたしを見たミレーヌさんが、ぶるっと身体を震わせた。


「『サクッと』って……や、やめて、アナベルさん! あなたの美しい笑顔が、今はなぜかものすごーく怖いの」


 あらあら、せっかく満面の笑みを浮かべて言ったのに、ミレーヌさんったら顔をひきつらせてそんなことを言っているわ。

 おかしいわね、わたしは見た目『だけ』は輝かんばかりに、ううん、本当に輝いているって言われるほど美しいお姫さまなはずなのに。


 わたしから視線をそらしたミレーヌさんが、わたしたちの間を繋ぐ紐状の金の光を指さして言った。


「ええと、あのね、アナベルさんには『守護アミュレット』をかけてあるから、物理的な攻撃力も魔法の効果も増大しているわ。あと、わたしの魔力がこうしてあなたに注がれているから、魔法はほぼ無限に使えると思ってもらって大丈夫よ。イメージとしては……そうね、わたしが発電所で、あなたが豆電球かしら?」


 そりゃあ、ほぼ無限大だわね!


「ミレーヌさんは、すごい魔法を使えるのね!」


「ほほほ、それほどでもあってよ!」


 ミレーヌさんが高笑いすると、メイリィが「でも、ミレーヌが自分で使えるのは生活魔法くらいなのよねー。なんでも人にやらせるもんだから、参っちゃうわ……」と肩を揉んで腕をぐるぐる回した。


 ちょ、ヒロインさん、おばちゃんっぽいわよ。


「じゃあ、アナベルさんに防御とか能力アップとかの諸々の補助魔法をまとめてかけるわね」


 メイリィさんが、ミレーヌさんの魔力を使ってわたしに諸々の魔法をかけてくれた。わたしも自分でかけられる、結界その他諸々の魔法をかける。


「さあ、これだけかければ、ドラゴンの巣にでも火口にでも、好きなところに落ちても一切無傷で済むわ」


 メイリィさんの力強いお墨付きに、わたしは頷いた。


「そうは言っても、実際にドラゴンに対峙すると……」


 その時、ゴゴゴと鈍く不吉な音を立てて、眠っていたドラゴンが起き上がった。岩山の上に頭がにょっきりと出る。かなり大きなドラゴンだ。


「きゃあ、起きちゃったわ! なんて巨大なドラゴンなの!」


 ミレーヌさんが両手で口を押さえてメイリィさんの後ろに身を隠した。メイリィさんは「ミレーヌ、ここには厳重に防御魔法がかかっているから、踏み潰されることもないわ、大丈夫よ」と言い、わたしを心配そうに見た。


「アナベルさん、アレに向かって行ける……かしら?」


 わたしは唇を戦慄わななかせて言った。


「なんて大きい身体なのかしら……あれなら……」


「アナベルさん、気をしっかり持って!」


 メイリィさんが、わたしを叱咤する。


「がんばってちょうだい、アナベルさんにエルスタンの命運がかかっているのよ!」


 わたしは言った。


「あれなら、たっぷりお肉が取れるわ!」


「そっちかよ!」


 ミレーヌさんとメイリィさんが、声を揃えて叫んだ。


 あらあら、淑女らしからぬお口の悪さですわよ?


「ってことで、ひとっ走り行って狩ってくるわね!」


 背中の大剣を鞘から抜いて構えたわたしは、美味しそうなお肉の塊に向かって頬を緩ませながら「うふふふふ、美味しそう、肉肉肉肉ーっ!」と怪しい雄叫びをあげてドラゴンに向かって走った。

 補助魔法がかかっているせいで、身体が軽い。

 愛用の『肉切り包丁・改』も、手にしっかりと馴染んで身体の一部同然だ。


「アナベルさーん、弱点はーっ、喉の紫色の鱗よーっ!」


 メイリィさんが叫んでいる。しかし、美味しそうな食材を前にしたわたしは、その言葉を冷静に聞けなかった。


「さあ、わたしのお肉ちゃん、観念なさい! 頭のてっぺんから尻尾の先まで美味しく頂いてあげますからねー♡」


 巨大なドラゴンは、なんだかちっこいものがやって来たなーというような顔をして、ふんと鼻息を吐いた。灼熱の炎がわたしを襲う……けれど、もちろん無傷だ。


「さあて、とりあえずは」


 ドラゴンの足元にまわったわたしは、巨大な包丁を振り回した。そして、ドラゴンの右足を斬りつける。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」


 ドラゴンが吼えた。


「アナベルさん、落ち着いて! 喉の鱗を狙うのよーって、斬れてる! 斬れてるわ! ちょっとミレーヌ、なんでドラゴンの足が斬れてるのよーっ!」


「あら……」


「おかしいでしょ! ドラゴンの鱗に剣が通るとか、ありえないでしょ、非常識よ、なんで斬れちゃうの、なんでドラゴンの右足がすっ飛んでるのよーっ⁉︎」


 叫びながらメイリィさんにゆっさゆっさと揺さぶられて、ミレーヌさんは「メイリィ、やめて、気持ち悪くなっちゃうわよ」とメイリィさんに強烈なデコピンをくらわせた。


「いったあい……ああっ、嘘でしょ⁉︎ 左まで⁉︎」


 メイリィさんが涙目になっておでこを押さえている隙に、わたしは「肉肉肉、お肉ちゃーん♡」と今度はドラゴンの左足を斬り落としていた。


 うん、この包丁は本当によく斬れる包丁なの。しかも今日は、魔法で腕力も底上げされているからね、楽ちん楽ちん、絶好調よ!


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」


 両足を斬られたドラゴンは、またしても絶叫しながらどうと横倒しに倒れた。


「さてと、次は……」


「お、お願いよ、アナベルさん!」


 涙声が聞こえたので振り返ると、遠くの方でミレーヌさんとメイリィさんが、青い顔をしてわたしを見ていた。


「ひと思いにヤってあげてーっ」


「はら、喉んとこ! 紫の鱗を! ざっくりとね!」


 メイリィさんが、必死になってドラゴンの鱗を指さした。


「とどめをさしてよ! いくらなんでも惨虐すぎるわよ!」


「あら……ごめんあそばせ」


 わたしがキュートに肩をすくめて笑顔で言ったのに、なんでふたりで抱き合いながら「ひいっ」って変な声を出すのよ、失礼ね!


「『王家の至宝』、怖いー」


「エルスタン国とは、永遠に友好関係を保たなければ!」


 なんだか外野がうるさいけれど、わたしは暴れるドラゴンの身体に手をかけてがしがしと登った。そして、メイリィさんが示す問題の鱗に向けて、『肉切り包丁・改』をぐさりと刺した。


「!!!!!」


 ドラゴンの目がくるりと回り、白目になった。どうやら急所への一撃で、絶命したらしい。


「やったわ!」


 わたしはまだ抱き合っているふたりに向けて、親指を立ててドヤ顔をした。


「さて、血抜き血抜きーっと♡」


 わたしが巨大なドラゴンの首の上をたたっと駆け抜けて、今度は頭のすぐ下に向けて『肉切り包丁・改』を振り下ろすと、そのまま首が落ちた。


「ひいいいいいーっ!」


 外野は無視無視。

 わたしは左手をあげた。


「体内の血よ、すべてここへ!」


 首の切り口からゴオオオーッと音を立てて大量の血液が噴き上がり、頭上に掲げたわたしの左手の上に巨大な血の塊を作った。早く血抜きをするほど臭みのない美味しい肉になるから、わたしは容赦なく血を抜いていく。その姿は恐ろしいものかもしれないけれど、生き物をほふるということはこういうことなのだ。わたしたちは、命を犠牲にして生きていることを忘れてはならない。


「いやあっ、アナベルさんの、あのいい笑顔が怖いーっ!」


 そっちですか、そうですか!

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