表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】腕利きシェフは『王家の至宝』⁉︎〜悪役は恋しちゃダメですか?2〜   作者: 葉月クロル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/42

この学園にはイケメンが多すぎる

「それではアナベルひ……さま、そろそろ午後の授業が始まる時間になります。魔法演習場にご案内しましょう」


 昼の休憩が終わり、学園の食堂から戻ってくると、わたしの隣の席を死守している番犬……ではなく、学園生にして現役のエリート騎士であるフレデリック・ユーゼリスが立ち上がり、わんこ化していなければ文句なしのイケメン顔に笑みを浮かべながら、わたしにエスコートの手を伸ばした。


「フレデリックさま、この学園では、移動の時には女生徒をエスコートをするならわしがございますの?」


 わたしが背筋を伸ばしてフレデリックを見上げると、彼は「いえ、アナベルさまだからこそです」とエメラルドの瞳をきらめかせながら言った。


 だーかーらー、特別扱いはやめてって言ってるでしょ。

 いくらゲームエフェクトをかけてイケメンビームを出しても、悪役令嬢のわたくしには通用しなくてよ。

 どうぞヒロインをお相手にして、存分に『俺さまと見せかけて実はわんこの筋肉イケメン騎士キャラクター』をおやりくださいませ。


 とはいえ、あまりフレデリックの気持ちを傷つけるのもかわいそう(犬の躾は愛情をもって行うのが大事!)だし、彼に正しい態度を覚えさせるために、丁寧なお断りの言葉を口にしようとした時、教室の扉が開いた。

 そちらに視線をやった女生徒から、「まあ……」という声とため息が溢れた。


「失礼するよ」


 はい、さすがは乙女ゲーム、さらにイケメン登場です!

 もうどうにでもして!


 わたしは、この半年で叩き込まれた技術を駆使して、内心の叫びなどいっさい現れない淑女らしい笑みを浮かべて「ケインさま、ごきげんよう」と挨拶をした。


「アナベル、午前中は大丈夫だったかな? 僕の用事はすべて終わったから、午後の授業は一緒にいてあげようね」


 プラチナブロンドをさらりと輝かせながら、我がエルスタン国の第一王子、麗しの妖精王、エルスタンの宝玉、あとなんだっけ、なんかいろいろと華やかなふたつ名をお持ちのケイン王子が、淡く氷のように済んだブルーの瞳でわたしに笑いかけた。


「次は魔力の判定があるらしいね。魔法の教師には、エルスタンでも名高いシェーゼ・マレイドが就いたそうだから、きっとアナベルの力を引き出してくれるよ」


「……シェーゼ・マレイド……先生、ですか」


 その名を聞いた途端、胸の中に軽いショックが走ったわたしは、ほんの少し淑女の仮面がずれてしまい、頬をヒクヒクさせて言った。なぜなら、シェーゼ・マレイドというのは美形魔法使いで、ゲームの攻略対象者だったから。


 黒の魔法使いと呼ばれるシェーゼ・マレイドは、漆黒の髪に濃い紫の瞳を持つとびきりのイケメンキャラで、その切れ長の瞳で流し目をしているゲームの紹介パンフレットのイラストを見た時には、『オトナっぽクールキャラ、きたーッ!』と思わず萌えてしまったほどだ。


 ちなみに、このゲームの攻略対象者は、このシェーゼ・マレイドが歳上大人キャラ、ケイン王子がひとつ先輩、フレデリック・ユーゼリスが同い年の筋肉騎士、それから、2年次にひとつ歳下の弟系男子がいる。

 もちろん、誰も皆登場する時はキラキラエフェクトがかかる、超美形キャラなのである。


 そして、わたしは登場する時は毒々しい紅い薔薇の花びらが散りまくる、綺麗系意地悪キャラなのだ、とほほ。


 と、ほんの少し意識を飛ばしていたわたしの手をケイン王子が握り、そっと胸に抱き寄せた。


「さあおいで」


「あ」


 周りから、「きゃあああああ♡」という黄色い悲鳴と「ううううううう!」という犬の唸り声に似た声が聞こえた。


 さすがはケイン王子である。フレデリックの隙をついてわたしをクラスメイトの間から引っ張り出して、そのままちゃっかりと腕なんか組ませてくれちゃって、気がついたら、ごく自然にわたしを魔法演習場へ向かってエスコートをしているではないか。


 いやいやケインさま、この学園にはそのような習わしがないってこと、もう知ってますからね。


「あの……」


「なあに、アナベル?」


 艶やかに咲き誇る花のような笑顔を向けられて、わたしはくらっとしながら「いえ……」と口ごもることしかできなかった。美形すぎるというのも困りものである。


「アナベルさま!」


 わんこが吠えた。後ろから慌てたフレデリックがついてくる。


「恐れながら殿下、この学園では、自分がアナベルさまの……」


 このわんこ、先輩であり、この国の王子であるケインさまに不服の申し立てをするとは、なかなか勇気のあるわんこだ。


「ああ、イリアスから聞いている。アドバイザーの僕がいる時は自由にしていていいよ」


 しかし、歩む速度を上げるケイン王子にさくっと断られた。

 その姿は、あっち行け、しっしっ、とされた犬である。


「そういうわけにはいきませんから!」


「……固いね。じゃあ、遠くからアナベルを見ていることは許してあげる」


「近くでお守りします」


 フレデリックは、真面目な顔で言った。さすがは現役の騎士だ。誓いを守る決意に満ちたその表情は凛々しく、うっかり女子が惚れてもおかしくないレベルで、わたしも彼を見直してしまった。


 ……いやいやいやいや、惚れないからね!

 イケメン攻略対象者には、ぜっっっったいに惚れないから!

 だって、そんな恋は100パーセントの確率でヒロインにひっくり返されるんだもん。


 それにしても、困った状況だ。あまりフレデリックが食い下がると、ケイン王子との関係が困ったことになるし、かといって騎士であるフレデリックとしてはここで引き下がることは彼の名誉に関わる事態だ。

 

 ううむ、これは、世話係だのアドバイザーだの、過保護に手配したイリアスおじさまのせいだと思うよ。


 ちなみに、侍女のカティには午後の授業の間は休憩を与えた。カティまでお守り祭りに加わったら、えらいことになりそうだからね。だいたいね、わたしは小さな子どもじゃないんだから、お世話だのお守りだのなんていらないんだってば。


 そんな緊迫のにらめっこに、勇気ある人たちが参入してくれた。


「アナベルさまーっ、お待ちください」


「わたくしたちもご一緒させてくださいませーっ」


「魔法演習場に参りましょうーっ」


「まあ、フェルミーさま、皆さま方! もちろんですわよ!」


 思わず笑みを浮かべて後ろを振り向くと、フェルミー辺境伯令嬢をはじめとしたクラスの女子(そうよ、お昼ごはんも一緒にいただいて、皆さまとわたくしは今や仲の良いお友達よ、おほほほほ!)たちが集団で追いかけてくるのが見えた。


 うん、イケメン攻略対象者だけあって、ケイン王子は人気者だね! わたしも正面から彼を見ると、あまりの麗しさに目の前がチカチカしてくるもん。


「殿下、アナベルさまをお返しください!」


「わたくしたちがご一緒するとお約束していますので!」


「その手をお離しくださいませ!」


 あ、あれ?

 そっち?

 ケイン王子のファンなんじゃないの?


「……追われると、逃げたくなるのが人の情」


 ケイン王子がぼそりと呟いた。


「きゃあっ!」


 麗しいけれど背が高く鍛え上げられた身体つきをしているケイン王子が、突然わたしを抱き上げてしまった。危険を感じて慌てて首にしがみつくと、王子は「いい子」と笑った。


 ああっ、コレは、フェイお姉さまがセディール兄さまを撒く時にいつもやるアレだわ!

 エルスタン国のデフォルトなのかしら?


「ということで、お先に」


 キラキラ王子がにやりと黒い笑顔を浮かべたので、わたしは『見てはならないものを見てしまった⁉︎』と震え上がる。


 そして、わたしは魔力でスピードアップしたケイン王子にお姫さま抱っこされたまま、ものすごい勢いで魔法演習場へ連れて行かれた。


 もちろんその後ろからは、こちらも魔法を使っていろんな能力の底上げをしているらしい学園生の集団が、ものすごい勢いで追いかけてきたわよ! 学園長、お騒がせしてすみません!






「まあ、あの方はケイン殿下ではなくて?」


「そうだわ、あの素敵な銀の髪にブルーの瞳……妖精王ケイン殿下だわ」


「ゼールデン国から帰っていらしたのね。で、あの殿下の腕の中にいる方は?」


 魔法演習場には、Bクラスの生徒たちが集まっていた。そして当然、猛ダッシュのケイン王子にお姫さま抱っこをされて現れたわたしは注目されてしまった。ううう……。

 思わずケイン王子の胸に顔を埋めて隠れようとしたら、花のようないい香りがして頭がくらくらしてきた。

 ヤバいわ、イケメンは匂いもいいんだわ……。


「……アナベル……可愛い……」


 耳元で囁かれて、わたしはビクッとした。


 ダメだ、いろんな意味で、このままでいたら非常にまずいことになる。早く降りなくては。


「ケイン殿下、降ろしてください」


「ん? 違うよね?」


 うわあああ、ぎゅうっとされてる!

 嫁入り前の淑女に、なにをなさるのっ!

 わたくしをぎゅうっとしていいのは、フェイお姉さまだけですわ!


 しかし、ケイン王子はもがくわたしを離してくれない。


「アナベル、なんて言うんだっけ?」


「え、え、ええと、そうだわ、ケインさまでしたわね、あの、ケインさま、降ろしてください」


「……やだ」


「ええっ⁉︎」


『やだ』じゃないでしょそこはっ!


 動揺したわたしが上げた顔を見て、Bクラスの人たちの間からざわめきが起きた。


「ええっ、あの美しい方は⁉︎」


「驚いたな、あんな綺麗な姫君は見たことがない……あっ、もしやあの方は?」


「確か、Aクラスに編入されるという話を聞いたぞ」


「あれは、『王家の至宝』アナベル姫ではないか⁉︎」


 うわあ、『王家の至宝』が初対面で抱っこ登場って、最悪の形ですわねこれ!


 ケイン王子の腕の中でしばし引き攣った顔をしていたわたしは、Bクラスの皆さんの注目から逃れることはできない、と、観念した。顔を上げ、人々を見回す。


「皆さま方、初めまして、ごきげんよう。アナベルと申します。どうぞよろしくね」


 そしてわたしは、こてんと首を傾げて品よく見える程度に微笑んだ。


 あざといけれど、大抵のことは笑顔でごまかすのがアナベルクオリティだよ!







 うん、うまくごまかせたよ。

 なにをしても、そんなものかと思われてしまう『王家の至宝』のネームバリュー、はんぱないよ。


 そして、文武両道と名高いケイン王子に遅れをとるまいと力を出し切ったようで、妙に荒い息をついているAクラスのみんなが揃ったところで、魔法学の担当教師がやってきた。


 く、黒の魔法使い、登場ーッ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ