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【書籍化】腕利きシェフは『王家の至宝』⁉︎〜悪役は恋しちゃダメですか?2〜   作者: 葉月クロル


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魔法も使えます

 さて、そういうわけでセディール兄さまと魔法省にやってきたのだが。

 わたしたちが用件を告げると、すぐに静かな部屋に通された。ここでテストを行うらしい。


「それでは早速ですが、魔力の傾向と量を見ていきたいと思います。アナベル姫、この水晶玉の上に手をかざしてください。姫は魔法を使ったことはありますか?」


 担当者である魔法使いがテーブルの上に設置してある水晶玉を示しながらこう言ったので、わたしは答えた。


「はい、いつも料理する時に使っています」


「……料理?」


「そうです。なので、ほぼ毎日魔法を使ってますね」


「料理に、魔法……なるほどね。面白い話だな……」


 普通の白シャツと黒パンツの上に灰色のローブをさらっと羽織った、ちょっとおしゃれな感じの魔法省の人が、首を傾げて呟いた。


「わかりました。それでは魔力を扱う感覚がわかっていると思いますので、いつものように水晶玉に向かって魔法を使ってみてください」


「はい。それじゃあまず……」


 わたしは、水晶玉を『醸造』してみた。


「特別な調味料を作るときに、こんな感じで魔法を使って、発酵を早めます」


 そう、こうやってミーソやショーユの醸造を加速させて、製造工程を大幅に短縮させているのだ。


「これは、回復魔法……の応用ですね。対象の生命力を底上げしているようです。傷に使えば、治療になる魔法です」


 隣で、セディール兄さまが満足そうに頷いた。


「それは昨日、軽い火傷をしたわたしにかけてくれた魔法だね。回復魔法を使えるとは、なかなか素晴らしいな」


「そうですね。しかも、このレベルだと、回復魔法士として実際に使えるくらいの効果が充分にありますね。専門の訓練を数年行ったくらいの、素晴らしい回復魔法です。これほどの魔法を料理で身につけたとは、驚きました」


 そうなんだ。

 やっぱり、武器の時と同じで、長年使い続けてきたから習熟度が上がってるんだね。


「あとは、これです」


 わたしは、肉への火の通り方を調節する魔法を使った。


「これは……」


「肉が固くならないようにしながら、肉汁を閉じ込めて美味しく火を通すんです。あと、こんな風に急速に冷やしたり」


「おお……」


「保存のために凍らせたり、表面を焦がしてカリッとさせたり」


「ほおおお……」


「特別な飲み物に入れる氷を作ったり」


「ふおおお……」


「あと、はねた油で火傷などしないように、自分を守る透明な膜を張ったり」


「……お……」


「こんな感じです」


 魔法を変えるたびに、水晶から違った光が出たので面白かった。そして、それを見ていた魔法省の人は、顎に手を当てて首をひねった。しばらく考えてから、彼は言った。


「アナベル姫……魔法省に入りませんか?」


「え?」


「ダメです」


 魔法省の人の申し出を聞くや否や、セディール兄さまが素早くわたしを背後に隠したので、わたしは兄さまの背中に手をかけて顔を出し「どうしてですか?」と尋ねた。すると、魔法省の人はセディール兄さまを避けるようにしてわたしに言った。


「これは大変驚くべき事なのですが、アナベル姫は回復魔法、火魔法、氷魔法、水魔法、そして結界魔法の才能があります。しかも、すでにそれらをまんべんなく習熟させているため、かなり強い魔法を使うことができます。なので、魔法省に入って訓練すれば、すぐに上級魔法部隊に入れるくらいの魔法使いになれますよ」


 ええっ、そうなの?

 上級魔法部隊って、エリート魔法使いのいるところだよね?

 わたしは毎日料理をしていただけなのに!


「いかがでしょうか? アナベル姫にその気があるなら、すぐにでも魔法省に入って教育を受けられように、我が国の上級魔法使い育成過程の手配をしますが」


「いえ、それには及びません」


 セディール兄さまは、またわたしを背中に隠してしまった。


「しかし、これほどの才能があるのに、埋もれさせてしまうのは惜しいと思いませんか?」


「アナベル姫にどれほどの才能があるのか、まだすべてわかっていません。そう、魔法の才能だけとは限らないのです。この方には、これから王立学園で様々な体験と勉強をしてもらい、その上で進路を決めさせたいのです」


「そうですか……」


 わたしはセディール兄さまの背中から再び顔を出して、魔法省の人にこくこくと頷いた。


「いやはや、実に惜しいな! この才能を目の前にして指をくわえて引き退らねばならないとはね。アナベル姫、気が変わったらいつでも声をかけてください」


 わたしと兄さまは、惜しがってくれる男性に別れを告げ、魔法省を後にした。







 そして、わたしがリシュレー伯爵家に引き取られて半年の時が過ぎた。


「ただいま」


「兄さま、お帰りなさーい!」


 わたしは素早く階段を駆け下りて、セディール兄さまに抱きついた。


「ははは、ただいま。いつも元気だが、今日は特別活きがいいな、アナベル」


 兄さまは笑いながら、わたしの頭を撫でた。

 満足げに目を細めて撫でられていると、侍女のカティにしかめ面で「ベルさま、もう少し淑女らしく振舞ってくださいませ! そして、セディールさまはベルさまを甘やかし過ぎでございます!」と叱られた。ふたりで顔を見合わせ、身体をすくめる。もはや、カティの『お叱りの言葉』はリシュレー家のお決まりなのである。


「伯爵家に引き取られて、日に日に貴婦人らしくなるならともかく、日に日にやんちゃになるなんて、ベルさまくらいですわ」


「まあまあ、カティ、落ち着いて」


「セディールさまもイリアスさまも、可愛いからと言ってなんでも許してしまうのは、ベルさまのためになりません。ベルさまの世話役でいらっしゃるのですから、そこは心を鬼にしてベルさまを鍛えていただかないと」


 カティにぐいぐいっと迫られて、兄さまは「すまんすまん」と退散してしまった。


「アナベル、後でわたしの部屋においで。いいものをあげるからね」


「わあ、兄さま、ありがとう!」


 そして、カティのお叱りなんてまるで気にしないで、雛に餌を与えるが如く、せっせとわたしに『いいもの』を貢いでくれるのも、またお決まりなのである。


 リシュレー家での生活にも慣れて、わたしはイリアスおじさまともフェイお姉さまとも(わたしが『お姉さま』呼びをしているのを知ったイリアスおじさまは、「アナベル、わたしのことも『イリアスお兄さま』と呼んでも……いいん……だよ……」と段々と小さくなる声で言い、それを聞いていたフェイお姉さまに大笑いされた。ごめんね。でもおじさまはやっぱりおじさまなのよ)もちろんセディール兄さまとも仲良くなった。

 特に、世話役としていつもわたしの面倒を見てくれるセディール兄さまとは本当の兄妹のように仲が良くて、カティに「セディールさまは、ベルさまを溺愛し過ぎで、将来が思いやられますわ」とため息をつかれるほどである。


 そんなわたしだけれど、最初にフェイお姉さまに忠告されたことは忘れずに、この半年間、与えられた機会は逃さずに、教養や武術を身につけた。セディール兄さまは、王家より預かったわたしに惜しげもなく最上の教師を探してくれて、時には自分の時間を割いてわたしに様々なことを教えてくれた。おかげでこの半年で、わたしは貴族の家に生まれ育ったお姫さまに劣らないほどの知識や常識、そして技術も身につけ、剣や魔法の腕も磨いた。

 そう、わたしは王立学園に編入しても誰にも見下されたりしないほどの、貴族の子女『アナベル姫』になったのだ。


「さあカティ」


「はい、ベルさま」


 もちろん、毎日一緒にいるカティとも仲良しだ。なんだかんだ言いながらも、わたしはカティのことをとても頼りにしている。実のところ、1番わたしに甘いのはカティなんじゃないかな?


 部屋に戻ると、わたしはカティに手伝ってもらって着替えをした。金の髪をよくといてもらい、高い位置でポニーテールにしてもらう。


「これなら、勉強する時も武術を学ぶ時も邪魔にならないわ」


 わたしは鏡の前でくるっと回り、「これでばっちりよ。兄さまの部屋に行きましょう」と言った。






「兄さま、わたしです」


「お入り」


 兄さまの声がしたので、カティが扉を開け、わたしは「失礼します」とセディール兄さまの私室に入った。


「兄さま、どう?」


 わたしが部屋でしたようにくるっと回ると、わたしの姿を見た兄さまは「アナベル! 学園の制服ができたんだね!」と驚いた顔をして、それから「とても似合っているよ、可愛いね」と頭をぽんぽんとしてくれた。


「うん、とても賢そうだ」


「賢そう、ではなく、賢いの」


 わたしがつんと頭を振り上げると、兄さまは「そうだね、アナベルは賢い賢い」と頭を撫でてくれたので、わたしはにやにやしてしまった。


 え? 賢い犬を誉めているみたい?

 カティみたいなことを言わないでちょうだい。


「いよいよ学園に入るんだね。少し寂しい気がするな……」


「あら、この家から通うんですもの、毎日会えるわ」


「そうだけどね。アナベルがわたしの知らない世界を持ってしまうのがなんとなくね……兄離れしてしまうようで……」


「セディールさま、発言が危ないです」


 兄さまのヤンデレ気味な発言に、カティがすかさずレッドカードを出した。


「セディール兄さまは、カイン王子の帰国でお仕事が増えるんでしょう? わたしも王子に兄さまを取られるような気分で寂しいわ」


「ああアナベル! そんな可愛らしいことを……」


「ベルさまも、セディールさまを煽らない!」


「はーい」


 わたしはペロッと舌を出した。

 こういうところが、まだ淑女になりきってないのよね。


「そんな可愛いアナベルに、これをあげよう」


「まあ、なんて素敵なの!」


 ご機嫌になった兄さまがいそいそと取り出したのは、美しい光沢のある生地でできた、銀のリボンだった。


「綺麗……銀の糸で薔薇の花の刺繍がされているのね……」


「髪におつけいたしましょう」


 カティがすばやくわたしのポニーテールにリボンを結んだ。部屋にある鏡に写してみると、わたしの金の髪に銀のリボンがキラキラと光ってとても映えた。


「ありがとう、兄さま! わたし、これをつけて学園に通うことにするわ。だって、この銀色で、兄さまも一緒にいるみたいなんですもの」


「……アナベル……なんて可愛いんだ!」


「兄さ……」


「アナベルちゃん! 制服ができたそうだね、さあ、おじさまに見せてごらん! ああ、可愛いね、やっぱり可愛いね、アナベルちゃんは最高に可愛いわたしの『王家の至宝』だね!」


 感極まってわたしを抱きしめようとしたセディール兄さまごとイリアスおじさまに抱きしめられたわたしは、ぎゅうぎゅうに潰されて「くーるーしーいー」とうめき、「イリアスさま! セディールさま! 今すぐベルさまを離さないと、フェイさま直伝の技で頭をどついた挙げ句、正座説教を受けていただきますよ!」と叫ぶカティに助け出されたのであった。

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