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クリアランス・ゼロ 〜無能ポーターとして見捨てられた俺、誤射の心配が消えたので相棒(戦術AI)とダンジョンを更地にする〜  作者: ぱすた屋さん


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第7話:手柄を横取りするS級パーティ



 迷宮都市の中央ギルド・プレスルームから生配信されている緊急会見。

 画面の中央で、包帯姿のガレルはマイクを握りしめ、まるで悲劇の舞台に立つ主役のような、陶酔しきった表情で言葉を紡いでいた。


『信じられないかもしれませんが、あのポーターが使用したのは、ギルドの条約で固く禁じられている旧時代の遺物……「自己犠牲型・戦略破棄魔導具」です。あれは魔法でもなければ、未知の重火器でもありません。使用者の命と引き換えに、強引に莫大なエネルギーを解放するだけの、忌まわしい自爆兵器だったのです』


「……ほう」


 安アパートの薄暗い部屋で、一条誠は腕を組み、ホログラムウィンドウに映るその茶番劇を冷ややかな目で見つめていた。

 ガレルの口から飛び出した「自己犠牲型・戦略破棄魔導具」という、いかにもそれらしい専門用語。もちろん、そんなものはこの世に存在しない。彼が今、この会見の直前に裏で必死に考え出した、三流の作り話だ。


『我々「紅蓮の剣」は、あの男が違法な魔導具を隠し持っていることに直前まで気づけませんでした。あろうことか彼は、ボスの圧倒的な力に恐れをなし、発狂して自爆のスイッチを押したのです! あの瞬間の凄まじい爆発音と、謎の鉄の塊……あれはすべて、自爆魔導具が作り出した暴走状態の幻影に過ぎません!』


 ガレルの隣で、顔の右半分に大きなガーゼを当てたミレナも、わざとらしく嗚咽を漏らしながらマイクに向かって泣き崩れた。


『あたしたち……必死で彼を止めたんです! 「逃げろ!」って、何度も叫んで……! でも彼は、あたしたちごとボスを巻き込んで自爆しようとして……! あたしたちが重傷を負ったのも、ボスの攻撃じゃなく、彼の自爆の余波から必死に身を守ったからで……ううっ!』


 ミレナの嘘泣きに合わせて、フラッシュが一斉に焚かれる。

 俺は、あまりの滑稽さに乾いた笑いすら出なかった。彼らは自分たちの「敵前逃亡」という致命的な汚点を、一条誠という底辺ポーターの「狂気の自爆テロ」というストーリーにすり替えることで、見事に正当化しようとしているのだ。


『マスター。彼らの発言内容には、映像データと照合するだけで七十八箇所の致命的な論理的矛盾が存在します。生体反応のデータから分析するに、ミレナの涙腺から分泌されている水分の主成分は、事前に仕込んだ目薬である確率が九九パーセントです』


 視界の端で浮遊するアイリスが、無機質な声で冷酷なツッコミを入れる。


(分かっている。あんなものは、現場を知らない素人を騙すためだけの安芝居だ。……だが、大衆は声の大きい者の「物語」を信じたがる)


 俺の網膜に投影されている会見のコメント欄は、ガレルの熱演によって、真っ二つに割れる大混乱に陥っていた。


『え!? 自爆テロだったの!?』

『確かに、あんな魔法聞いたことないし、違法な魔導具って言われた方がしっくりくる……』

『じゃあ、紅蓮の剣は被害者じゃん! 逃げたのは自爆から身を守るためだったのか!』

『ミレナちゃん泣いてる……可哀想に。おっさん最低だな!』


 ガレルたちの熱心な信者や、事態の急転直下に流されやすい層が、一斉に手のひらを返して「紅蓮の剣擁護」へと回り始める。


『いやいや待てよ! 動画見直せ! ガレルが「囮になれ」ってハッキリ言ってたじゃん!』

『そうだよ! 違法魔導具とか苦し紛れの言い訳だろ!』

『でも、あの謎の鉄の塊の正体が「自爆魔導具」だって言われたら、一番辻褄が合うのも事実だよな……。無能なおっさんが無詠唱で大魔法を使えるわけないし』

『てか、おっさん自爆したなら死んでるじゃん……死人に口なしで罪をなすりつけてるだけだろ!』


 冷静なアンチや疑問を呈する者たちも反論するが、S級パーティという「権威」と、彼らが流す「公式の声明」の波に、徐々に押し流されつつあった。

 さらにガレルは、大衆の同情を買うため、ダメ押しの言葉を放つ。


『あのポーターの愚行によって、我々は深い傷を負いました。しかし……! ボスの装甲を剥がし、最終的に致命傷を与えたのは、俺の大剣とミレナの魔法による事前のダメージ蓄積があったからです! あの男の自爆など、ボスの足止めにすらなっていなかった!』


 ガレルは血走った目でカメラを睨みつけ、力強く拳を突き上げた。


『我々「紅蓮の剣」は屈しません! あの男の自爆のせいで、現場に落ちているはずの『深層ゲートキー』は未回収のままですが……傷が癒え次第、我々が責任を持って第30階層へ赴き、必ずやそれを持ち帰ることをここに誓います!』


 会場から、ワッと割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 コメント欄も『ガレルさんかっこいい!』『真のS級だ!』という信者たちの歓声で埋め尽くされていく。彼らはまんまと、「テロリストの自爆を乗り越え、ボスの討伐を果たした不屈の英雄」というポジションを奪い取ったのだ。


「……よくもまあ、あそこまで堂々と嘘がつけるものだ」


 俺は、コーヒーの残りを飲み干し、呆れ果てた声で呟いた。

 彼らの言葉には、真実など一ミリも含まれていない。俺が「A-10」を喚び出したこと。ボスの装甲には彼らの攻撃が一切通用していなかったこと。そして何より、深層ゲートキーはすでに俺のポケットの中にあるということ。


『マスター。彼らの発言は、マスターの社会的名誉を著しく毀損するものです。さらに、事実を完全に歪曲し、マスターの手柄を横領しています。……反証データをネット上に投下し、彼らを社会的に抹殺しますか?』


 アイリスが、物騒な提案を極めて事務的なトーンで行う。

 彼女の演算能力があれば、昨晩のガレルの醜態――鼻水を垂らして逃げ惑う別アングルの映像や、彼らの通信記録の音声などを、一瞬にして世界中のネットワークへばら撒くことができる。


「……いや。やめておけ」


 俺は小さく首を振り、その提案を却下した。

 腹が立たないと言えば嘘になる。あのふざけたツラを今すぐ物理的に更地に変えてやりたいという衝動はある。

 だが、俺はプロだ。感情で動くことは、死に直結する。


「アイリス、よく考えろ。もし俺がここで『俺は生きている』と名乗り出て、あいつらの嘘を暴く証拠映像を出せばどうなる? 大衆は『じゃあ、あの兵器はなんだ?』『お前は一体何者だ?』と、さらに俺の正体を探ろうと血眼になる」


 俺は深くため息をつき、ホログラムウィンドウの電源を切った。


「俺の目的は『深層コア』の回収だ。目立つことはミッションの成功率を著しく下げる。ガレルたちが俺を『死んだテロリスト』にしてくれるなら、むしろ好都合だ。これで、俺を探す連中もいなくなる。手柄など、くれてやればいい。……俺は静観する」


 それは、隠密行動を是とするプロフェッショナルとして、最も合理的で、最も正しい判断だった。

 名誉などというくだらないもののために、これ以上のリスクを背負う必要はない。俺はただのゴーストとして、このまま闇に消えればいいのだ。


『……マスターの論理的判断ロジックを尊重します。ですが』


 アイリスの声が、珍しく「納得がいかない」というような、人間じみた揺らぎを含んでいた。


『現在の彼らの行動は、マスターの今後のミッションに『物理的な障害』をもたらす確率が極めて高いと予測されます』

「物理的な障害? どういうことだ」

『ガレルは先ほど、「後日、責任を持って深層ゲートキーを回収に向かう」と宣言しました。当然、ゲートキーは存在しません。彼らが第30階層でそれを発見できなかった場合、どうなるでしょうか』


 アイリスの指摘に、俺はハッとして動きを止めた。


『彼らは自身の嘘を隠し通すため、「テロリストの仲間が持ち去った」等の新たな嘘を捏造し、深層エリア近辺に大規模な調査団を派遣するようギルドに要請するでしょう。それは、これから深層へ潜入しようとするマスターにとって、最悪の警備網(包囲網)が敷かれることを意味します』


「…………チッ」


 俺は無意識に、舌打ちを漏らしていた。

 放っておけば自滅すると思っていたバカどもが、保身のための嘘を重ねることで、結果的に俺の活動エリアを荒らし、最悪の障害物になろうとしている。


『さらに申し上げます。彼らは現在、被害者面をしてマスターを侮辱することで、莫大な投げ銭(利益)を得ています。私のシステムは、マスターへの不当な攻撃と、ミッション阻害要因の放置を容認できません』


 アイリスの赤いセンサー光が、暗い部屋の中で鋭く明滅した。

 それは、主人の静観という命令に対する、戦術AIとしての「ギリギリの反抗」だった。


『マスター。あなたは物理的な痕跡を残してはいけない。その判断は正しいです。……ですが、私が『電脳空間』において彼らを殲滅する場合、マスターの正体が露見する確率は「0.0001パーセント」未満です』


 アイリスのホログラムが、ふわりと俺の目の前まで浮遊してくる。

 その声は冷徹でありながら、まるで悪魔の囁きのように甘く、俺の鬱憤を正確に突いていた。


『私に権限をください。物理兵器システムではなく、情報戦ハッキングのクリアランスを。……彼らの嘘を、彼ら自身の醜悪な現実で上書きして差し上げます』


 俺は窓の外を見た。迷宮都市の巨大なビジョンには、まだ涙ぐむミレナと、誇らしげに胸を張るガレルの姿が大写しになっている。

 ……プロとして、静観が一番安全だ。それは分かっている。

 だが、俺の相棒の言う通り、これ以上のミッションの阻害を許すわけにもいかない。


「…………アイリス」


 俺は、右手にはめた漆黒のグローブの指先を、わずかに動かした。


「俺は、一切の指示を出さない。お前が『独自の判断』で、セキュリティテストを行った。……そうだな?」


 俺のその遠回しな許可サイレンス・オーダーの言葉に。

 アイリスの無機質な声が、はっきりと、凶悪な笑みを含んだように響いた。


了解コピーしました、マスター。――これより、対象の社会的生命の「完全殲滅サニタイズ」を開始します』


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