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クリアランス・ゼロ 〜無能ポーターとして見捨てられた俺、誤射の心配が消えたので相棒(戦術AI)とダンジョンを更地にする〜  作者: ぱすた屋さん


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第16話:中ボス遭遇と絶体絶命

誤字報告ありがとうございます。

多くてすみません(汗



 迷宮都市ダンジョン、第20階層『深層への関所』。

 この巨大な黒曜石の扉の奥に待ち構える中ボスを倒した者だけが、真の未踏領域である「深層」への挑戦権クリアランスを与えられる。


「みんな、ついにここまで来たね……! ここをクリアすれば、私たちも一級探索者の仲間入りだよ!」

「はいっす! ネームレス様の加護がある俺たちなら、どんな中ボスが来ても一撃っすよ!」

「わ、私も、精一杯足を引っ張らないように頑張ります!」


 夏美、コウタ、リコの三人は、巨大な扉の前に立ち、互いに頷き合っていた。

 彼らの表情には、かつてのスライムにすら怯えていた頃の弱々しさはない。連日の快進撃によって「ネームレス様に守られている」という絶対的な安心感が、彼らの精神に強いバフをかけていた。


 俺のARウィンドウに表示されている、彼らの配信の同時接続数は、ついに「十万人」を突破していた。


『いよいよ第20階層だあああ!』

『歴史的瞬間に立ち会えるぞ!』

『今日もネームレス様の神トラップ(魔法)が見られるのか!?』

『中ボスって事前情報だと「岩石巨人ストーンゴーレム」だよな? どうやって爆散させるんだろうww』

『ネームレス様、今日もひだまりの盾をよろしくお願いします!』


 画面の向こう側の十万人が、今や完全に「ネームレスのエンターテインメント」を期待して熱狂している。


(……やれやれ。これでようやく、胃薬のいらない日々に戻れるな)


 三人の後ろの暗がりに立ち、重いリュックを下ろすフリをしながら、俺は深く息を吐いた。

 この一週間、俺はカメラの死角と環境音を計算し尽くし、VSSの消音狙撃、クレイモア散弾、C4爆薬といった「目立たない隠密兵器」を駆使して、彼らの前に立ち塞がる魔物をすべて「事故」に見せかけて処理してきた。

 そのストレスと疲労は限界に達していたが、それもこのボス戦で最後だ。


(アイリス。事前情報通り、敵はストーンゴーレムか?)

『はい。ギルドのデータベースによれば、第20階層の主は体高四メートルの岩石巨人です。……装甲は硬いですが、関節部分にC4爆薬を複数設置して同時起爆させれば、自重で崩落させることが可能です』

(よし。俺はカメラの死角から死角へ移動して爆薬を仕掛ける。夏美たちが「いつものように」少し粘っている間に終わらせるぞ)


 俺は分厚い眼鏡の奥で、狩人の冷たい目を細めた。

 ギギギギギ……ッ! と、重苦しい音を立てて黒曜石の扉が開かれる。


「いくよ、ひだまりの盾、突入ーっ!」


 夏美の元気な掛け声と共に、ドローンカメラが先行してボス部屋の内部へと飛び込んだ。

 広大なドーム状の空間。

 その中央に、ズンッ、と地響きを立てて「それ」は鎮座していた。


「……え?」


 先頭を走っていた夏美の足が、ピタリと止まる。

 続くコウタとリコも、息を呑んで硬直した。


 それは、事前情報にあった「岩石」で構成された巨人などではなかった。

 全身を、ぬらぬらと鈍く光る「黒銀の特殊合金」で覆われた、体高八メートルに迫る異形の鋼鉄巨人アイアン・ジャガーノートだったのだ。

 その巨大な単眼からは、血のように赤い魔力光が漏れ出し、周囲の空間そのものが高密度の魔素によって歪んで見える。


『マスター。索敵システムに致命的なエラー。……対象の構成物質は、未知の高硬度合金です。さらに、全身に多重の物理反射障壁リフレクト・シールドを展開しています』


 アイリスの声が、かつてなく硬い。


「な、なっちゃん……これ、ストーンゴーレムじゃないっすよ……!」

「う、嘘……! こんなの、ギルドの資料には……!」


 夏美たちが後ずさりしたその時。

 鋼鉄の巨人が、天を仰いで鼓膜を破らんばかりの咆哮を上げた。

 ブォォォォォンッ!!

 ただ吼えただけで発生した衝撃波が、広間全体を吹き荒れ、夏美たちを物理的に後方へと数メートル押し流す。


『おいおい、なんだこいつ!?』

『ストーンゴーレムの変異種!? いや、デカすぎるだろ!』

『ヤバい、逃げろ夏美ちゃん!!』

『でも大丈夫だろ! ネームレス様がなんとかしてくれる!』

『そうだ、ネームレス様、早くあいつをミンチにしてくれ!!』


 コメント欄がパニックに陥りながらも、どこかで「ネームレスの加護」を過信している書き込みが流れる。

 夏美たちも、絶望的な威圧感を感じながらも、「大丈夫、きっとネームレス様が……!」と祈るように手を合わせていた。


(……チッ、イレギュラーか! だが、やるしかない!)


 俺は部屋の隅の死角へ素早く駆け込み、右手を突き出した。


(アイリス、足元の死角にC4をありったけセットしろ! 起爆と同時にVSSの徹甲弾で単眼を撃ち抜く!)

『了解。設置完了。……起爆します!』


 鋼鉄の巨人が、夏美たちへ向かってその巨大な腕を振り下ろそうとした瞬間。

 巨人の足元に仕掛けられた致死量のC4爆薬が、夏美の「いやあっ!」という悲鳴に隠れる形で炸裂した。


 ドゴォォォォォンッ!!!


 猛烈な爆発の炎と衝撃波が巨人の足元を包み込み、同時に俺が放ったVSSの徹甲弾が、暗闇を裂いて巨人の赤い単眼へと吸い込まれる。

 いつもの「ステルス・コンボ」だ。これまでの魔物なら、これで跡形もなく消し飛んでいた。


 土煙が舞い上がり、夏美たちが「やった……!?」と希望の声を上げる。


 ――しかし。


『……マスター。対象の損害率、〇・〇二パーセント。装甲の表面が僅かに焦げたのみです』


 煙の中から、全く無傷の鋼鉄巨人が悠然と姿を現した。

 C4爆薬の直撃は、分厚い合金装甲と魔力障壁によって完全に相殺され、VSSの重い徹甲弾でさえ、単眼を守る見えない結界に弾き返され、甲高い音を立ててひしゃげて床に落ちた。


(……馬鹿な。C4の束と徹甲弾のゼロ距離射撃だぞ!?)


 俺は岩陰で、ギリッと奥歯を噛み締めた。


『対象の装甲強度は、通常ボスの五〇〇パーセントを超越しています。現在、カメラに映らずに展開可能な「小火器」および「小型トラップ」では、一生撃ち続けても貫通不可能です』

隠密行動ステルスの火力の限界、というわけか……!)


 俺の攻撃が「全く効いていない」という絶望的な現実は、すぐに夏美たちにも突きつけられた。


「ブモォォォォッ!!」


 巨人が、自身を小突いた目障りな虫(夏美たち)へ向かって、丸太のような鋼の腕を無慈悲に振り下ろした。


「みんな、私の後ろにっ! シールドォォォッ!!」


 夏美が前に飛び出し、自身の背丈の倍はある鉄の盾を斜めに構え、渾身の力で巨人の一撃を受け止めようとする。

 ガガァァァァァァンッ!!!!


 核爆弾でも落ちたかのような轟音。

 夏美の構えた盾は奇跡的に砕け散りこそしなかったが、圧倒的な「質量」の暴力は防ぎきれない。

 彼女の足元の石畳がクレーター状に陥没し、夏美は「あぐっ……!」と血を吐いて、両膝を地面に深々と叩きつけられた。


「なっちゃん!!」

「いやああああっ!」


 盾で防ぎきれなかった衝撃波の余波だけで、コウタとリコは木の葉のように空を舞い、部屋の壁際まで激しく吹き飛ばされて壁に激突した。


『うそだろ……』

『夏美ちゃあああん!!』

『防げない! あれは絶対無理だ!!』

『ネームレス様!? ネームレス様何やってんだよ!!』

『早く助けてええええ!!』

『効いてないんだよ……さっきの爆発みたいなの、完全に無傷だったぞ!』

『終わった……ネームレス様でも、あんなバケモノ倒せないんだ……!』


 同接十万人のコメント欄が、一瞬にして絶望の阿鼻叫喚へと染まる。

 画面に映し出されているのは、ひび割れた盾の裏で血を流して震える夏美と、ピクリとも動かなくなったコウタとリコ。そして、次の一撃で彼らを完全にすり潰そうと、再び巨大な腕を振り上げる鋼鉄巨人の姿だった。


「……マスター。美雲夏美の生存限界まで、残り十五秒です」


 アイリスの無機質な宣告が、俺の脳髄を氷のように冷たく叩く。


(小細工では無理だ。……対象を排除するには、どうする)

『あの物理反射障壁と超装甲をぶち抜くには、最低でも「航空支援クラス」の圧倒的な質量爆撃が必要です。……しかし、この密閉された地下空間で使用すれば、爆風と崩落でマスターもろともパーティは全滅します』


 アイリスの言う通りだ。

 俺がここでA-10のような大型兵器を呼び出せば、その余波で夏美たちは間違いなく死ぬ。かといって隠密兵器では火力が足りない。

 文字通りの、完全な「詰み(チェックメイト)」だった。


「シン……さん……」


 盾の裏で、意識が朦朧としている夏美が、カメラの死角にいる俺の方へと弱々しく視線を向けた。


「逃げ……て……。ここは、私たちが……抑える、から……」


 自分の命が数秒後に終わるという時に。

 この底辺でお人好しな少女は、ただのしがないポーターでしかない俺の命を、本気で逃がそうとしていた。


「…………」


 俺は、無意識のうちに、分厚い偽装用の丸眼鏡を外していた。

 それを胸ポケットに仕舞い込み、大きく息を吐く。

 猫背だった姿勢が、スッと伸びる。そこにあるのは、怯えた中年男ではない。あらゆる戦場を更地にしてきた、絶対的な破壊の体現者だった。


(……アイリス)

『はい、マスター』

(俺はこれから、ドローンカメラの死角を突いて、この広間の「最も外側」……壁際の安全地帯まで全力で走る。……お前は、上空そらに『アレ』を待機させろ)


 俺の狂気に満ちた命令に、脳内の戦術AIが、ふふっ、と人間のように笑った気がした。


『航空爆撃は屋内では自爆行為だと申し上げましたが……まさか、マスター』

(ああ。なら、ダンジョンの「天井ごと」ブチ抜いて、あの鉄屑の脳天に叩き込めばいい。……俺が、完璧な『レーザー誘導』をキメてやる)


 鋼鉄巨人の腕が、夏美へ向かって振り下ろされる直前。

 俺は隠密行動ステルスを完全放棄し、カメラから見えない壁際へと、弾丸のような速度で駆け出した。


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