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クリアランス・ゼロ 〜無能ポーターとして見捨てられた俺、誤射の心配が消えたので相棒(戦術AI)とダンジョンを更地にする〜  作者: ぱすた屋さん


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第15話:底辺パーティ、謎の快進撃



 装甲オーク五体を一瞬で圧死させた、巨大な落石の土煙が収まりつつある頃。

 夏美は、興奮冷めやらぬ様子で「私たち、本当に強くなっちゃったのかも!」とはしゃぐコウタとリコに頷きながら、ふと自身の腕に巻かれた安物のAR端末へと視線を落とした。


「えっと、みんな、コメントで応援してくれてるかな……って、えっ!?」


 戦闘中は命懸けで盾を構えるのに必死で、コメント欄を見る余裕など一切なかった夏美。

 だが、今の彼女の端末の画面は、エラーを吐きそうなほどの猛烈な勢いでテキストがスクロールし、さらには見たこともないような高額の「投げ銭スーパーチャット」の派手なエフェクトで画面全体が埋め尽くされていたのだ。


「ど、同接数が……ご、五千人!? ひゃ、百万ガルのスーパーチャット!?」

「ええっ!? 夏美ちゃん、それマジっすか!?」


 普段は同接十人未満、投げ銭など月に数百ガルあれば良い方の底辺パーティにとって、それは心臓が止まりかねないほどの異常事態だった。

 夏美は震える指で画面をスクロールさせ、滝のように流れる視聴者たちのコメントを、声に出して読み上げ始めた。


「『やっぱりネームレス様だ!』『ネームレス様がカメラの死角から落石を起こしたんだ!』『このパーティ、ネームレス様に守られてるぞ!』……えっ? ネ、ネームレス様って……あの、ニュースでやってた!?」

「あの最強の重火器使いの!? なんでそんな人が、俺たちみたいな底辺を!?」


 その瞬間。

 夏美、コウタ、リコの三人の顔から、「自分たちの潜在能力が覚醒した」という誇らしげな表情が、スーッと潮が引くように消え失せた。


「……コウタくん。もしかして、あなたの剣のカマイタチじゃなくて」

「……はい。リコちゃんの魔法の小石でもなく」

「……私の竜の咆哮(?)でもなく。全部、どこかに隠れている『ネームレス様』が、裏から助けてくれてたって……こと?」


 三人は顔を見合わせ、そして同時に、顔から火が出るほど真っ赤になった。


「うわああああっ! 恥ずかしいぃぃっ! 私、自分の声で岩が落ちたとか本気で思ってたよぉぉっ!」

「俺も! 俺も『神速のカマイタチ』とか痛すぎるだろ! 穴があったら入りたいっす!!」


 頭を抱えてしゃがみ込む三人の様子が、さらに視聴者の爆笑と熱狂を誘い、投げ銭の勢いはますます加速していく。


 ――そして、その様子を後方の岩陰から静かに見つめていた(一条誠)は、文字通り「胃に穴が開きそうな」ほどのストレスを感じていた。


(……終わった。完全に気づかれた。俺の完璧な落石偽装は、視聴者の集合知によって完全に暴かれた)

『マスター、素晴らしいエンゲージメントです。現在、チャンネル登録者数は三万人を突破。さらに、大手切り抜きチャンネルが今の落石シーンを爆速で編集・アップロードしたため、外部からの流入が止まりません』


 アイリスの報告が、死刑宣告のように俺の脳髄に響く。

 俺が求めていた「絶対に誰も注目しない、平和な底辺配信」は、たったの二日で完全に消滅した。

 今やこの『ひだまりの盾』は、「あの神出鬼没のネームレスが、なぜか裏から支援している奇跡のパーティ」として、世界中から最も熱い視線を向けられる特大コンテンツと化してしまったのだ。


「ネ、ネームレス様……! どこにいらっしゃるか分かりませんが、私たちを助けてくださって、本当にありがとうございます……っ!」


 夏美が、何もない虚空――俺とは全く逆の方向の暗がり――に向かって、深々と頭を下げた。コウタとリコも、それに倣って祈るように手を合わせている。


『いいえ、どういたしまして。……と言いたいところですが、マスター、どうしますか? これだけ注目を集めてしまえば、もはや撤退するのも目立ちますよ』

(分かっている。……ここまで来たら、もう後には引けない。彼らを『ネームレスの加護を受けた実力以上の快進撃』に乗せ、一気に深層まで駆け抜けるしかない)


 俺は分厚い眼鏡の奥で、冷たい決意を固めた。

 俺の最大の目的は、ダンジョン深層部へのゲートを通過すること。そのためには、このパーティの「ギルドランク」を強引に引き上げ、深層への挑戦権を獲得させなければならないのだ。


(アイリス、戦術プランを大幅にリスケジュールする。これより、本格的な『ステルス・キャリー(隠密引率)』を開始するぞ。同接が何万人いようが関係ない。カメラの死角と環境を完璧に支配し、彼らの前に立つ魔物をすべて『自然な事故』で消し去る)

『了解しました。軍用AIの全演算能力を解放し、あらゆる現代兵器を「ダンジョンのギミック」へと昇華させてみせましょう』



 ――それからの一週間。

 迷宮都市のネット界隈は、『ひだまりの盾』の異常な快進撃の話題で完全に持ちきりとなっていた。


『【速報】ひだまりの盾、第10階層のトロールを「謎の地盤沈下」で瞬殺!』

『【動画】リコちゃんが転んだ瞬間に「壁が爆発」して中ボスがミンチになる奇跡ww』

『ネームレス様の加護、マジでガチすぎる! 底辺パーティがS級並みの速度でダンジョン攻略してるぞ!』


 同接数は連日五万人を超え、チャンネル登録者数はついに十万人を突破。

 彼らが遭遇する凶悪な魔物たちは、悉く「理不尽な死」を迎えていた。


 ある時は、コウタが足を踏み外した直後に、地面から無数の鋭い鉄球が飛び出し(※アイリスが対人地雷『M16A1・跳躍地雷バウンシング・ベティ』の起爆をトラップ作動に偽装)、魔物の群れを蜂の巣に変えた。

 またある時は、夏美がくしゃみをした瞬間に、怪鳥の群れが不可視の嵐によってミンチになった(※俺がカメラの死角から『M18A1・クレイモア指向性散弾』を起爆)。


「す、すごい……! 今日もまた、ネームレス様が助けてくれた!」

「俺たち、マジで選ばれし勇者パーティなんじゃないっすか!?」


 夏美たちは、画面の向こうの視聴者と共に、ネームレスの理不尽な加護に歓喜し、祈りを捧げ続けている。

 彼らは魔物と遭遇するたびに「ネームレス様、お願いします!」と祈るだけで、あとは勝手に魔物が爆発四散するのだ。もはや探索というより、ただのピクニックである。


 だが、その裏で。

 俺の疲労と胃痛は、限界を突破していた。


(ハァッ……ハァッ……! アイリス、次のトラップの設置完了したか!?)

『ポイント・チャーリーに【C4爆薬】の偽装セット完了。マスター、三秒後に右の岩陰へロール回避! ドローンカメラのパン(旋回)が来ます!』


 俺は重いリュックを背負ったまま、泥だらけになって地面を転がり、間一髪でカメラのレンズから逃れる。

 数万人の監視カメラの死角を毎秒計算し、先回りして現代兵器を設置し、ダンジョンの罠に見せかけて起爆する。それはA-10で強敵を木端微塵にするよりも、遥かに神経をすり減らす、地獄のようなマルチタスクの連続だった。


「シンさーん! 大丈夫ですか!? なんか最近、シンさんすごく顔色悪くて、よく転んで泥だらけになってますけど……!」


 夏美が、後ろで息を切らす俺を本気で心配そうに駆け寄ってくる。


「ひぃっ、い、いや……俺は大丈夫だ! ちょっと足がもつれただけで……!」

「無理しないでくださいね! ネームレス様が守ってくれるとはいえ、シンさんは私たちが絶対に守りますから!」


 彼女の純粋すぎる善意の笑顔が、俺の胃をさらにキリキリと締め付ける。


(お前らを守っているネームレスは、まさに今、お前らの目の前で胃薬を噛み砕いているんだがな……!)


 俺は内心で血涙を流しながら、必死に冴えないポーターの愛想笑いを浮かべた。

 だが、この狂気のステルス・キャリーの甲斐あって、彼らのギルドランクは爆発的に上昇し、ついに俺の目的である「深層」の入り口……『第20階層・中ボスエリア』への挑戦権を獲得するところまで来ていた。


 あと少し。あの厄介な中ボスさえ「事故」で処理できれば、深層へのゲートが開く。

 俺はすり減った精神を奮い立たせ、最後の偽装工作の準備へと取り掛かった。

 ――この直後、俺の現代兵器トラップでは対処しきれない『予定外の絶望』が、彼らに襲いかかるとも知らずに。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【★★★★★】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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