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クリアランス・ゼロ 〜無能ポーターとして見捨てられた俺、誤射の心配が消えたので相棒(戦術AI)とダンジョンを更地にする〜  作者: ぱすた屋さん


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第11話:最弱の盾職と、新米ポーター



 迷宮都市の第一ゲート。

 初心者や低ランク探索者が主に利用する上層エリアへの入り口は、ガレルたちと潜った深層ゲートとは打って変わり、どこか長閑で牧歌的な空気が漂っていた。


「みんなー! 紹介するね。今日からうちの専属ポーターになってくれる、シンさんだよ!」


 安っぽい革鎧を着た小柄なリーダー、美雲夏美が、背丈の倍はありそうな巨大な鉄の盾を背負いながら、元気いっぱいに俺を紹介した。


「おおっ! マジでポーターさん来てくれたんすか! 俺、剣士のコウタっす! よろしくお願いしゃす!」

「わ、私は魔法使いのリコです……。シンさん、わざわざこんな弱小パーティに来てくださって、ありがとうございます……」


 夏美の紹介に、二人の少年少女がぺこりと頭を下げた。

 剣士のコウタは、所々刃こぼれしたお下がりの長剣を腰に下げている。魔法使いのリコは、サイズの合っていないダボダボのローブを着た、ひどく気弱そうな少女だった。

 どう見ても、ギルドの訓練所を卒業したばかりの、右も左も分からない駆け出しのヒヨッコたちだ。


「シンだ。見ての通り、戦闘スキルはゼロのしがない中年だが……荷物持ちの体力だけはある。よろしく頼む」


 俺は分厚い丸眼鏡の位置を直し、猫背を保ちながら、冴えない愛想笑いを浮かべた。


「シンさん、これ、今日の荷物なんですけど……重くないですか? もしキツかったら、僕らも少し持ちますんで!」


 コウタが差し出してきたキャンバス地のリュックを受け取り、俺は内心で目を丸くした。

 ……軽い。総重量にして、せいぜい十五キロといったところか。

 中に入っているのは、最低限の予備ポーションと包帯、安物の解毒薬に、少しの携帯食料だけ。見栄えを気にした高級な椅子や、配信用の無駄な照明機材など、一つも入っていない。


「……いや、全然問題ない。前の職場じゃ、この五倍は背負わされていたからな」

「ご、五倍!? ひええ、ブラックすぎる……。シンさん、無理しないでくださいね。危なくなったら、荷物なんて捨てて逃げてもらって構いませんから!」


 リコが本気で心配そうな顔をして、俺に小さな回復ポーションを一つ手渡してきた。ただの荷物持ちに、貴重な自腹のポーションを渡すなど、この業界ではあり得ないことだ。


(……おい、アイリス。こいつら、本当にお人好しにも程があるぞ)

『マスター。彼らの精神的善性は、この迷宮都市の平均値を大きく逸脱しています。……ただし、それに反比例して、戦闘能力も絶望的です』


 視界の端で光学迷彩を展開しているアイリスが、無慈悲なステータス画面を俺の網膜に投影した。


『剣士のコウタ、筋力不足により剣の軌道が常にブレています。魔法使いのリコ、魔力総量が著しく低く、初級の攻撃魔法ファイア・アローを三発撃った時点で魔力枯渇(ガス欠)に陥ります。リーダーの夏美に至っては、盾が重すぎて歩行速度が通常の半分です。……彼らの総合戦力は、私が搭載している「戦術用閃光弾フラッシュバン」一個分にも満たないと推測されます』


 アイリスの辛辣な評価に、俺は思わず苦笑しそうになるのを堪えた。


「よーし! それじゃあ、今日も配信始めるよ! ひだまりの盾、出発進行ー!」


 夏美が、少し塗装の剥げた旧式の手乗りドローンカメラを起動した。

 俺のARウィンドウに、彼女たちの配信画面がリンクされる。同接、わずか八人。コメントも身内の常連客のものがポツポツと流れるだけだ。

 あの狂騒の夜とは無縁の、平和で静かな世界。俺はカメラの死角となる最後方へ位置取り、彼らの背中を追い始めた。



 ――それから数時間。

 第3階層の浅いエリアで、俺は彼らの「泥臭すぎる戦闘」を、黙って見守り続けていた。


「ええいっ! 当たれええっ!」

「コウタくん、剣が大振りすぎ! リコちゃん、援護お願い!」

「は、はいっ! 『炎の矢ファイア・アロー』!」


 現れたのは、最弱クラスの魔物である角ウサギや、低級のスライムだ。

 しかし彼らは、その最弱の魔物一匹を倒すのに、毎回十分近い時間をかけていた。

 夏美が目をギュッと瞑りながら重い盾で敵の突進を受け止め、その隙にコウタが剣を振り回す。リコの魔法は威力が低く、半分は明後日の方向へと飛んでいく。

 見ていてハラハラするほど不格好で、お世辞にもプロの戦いとは呼べない。


 俺は暗がりから、指一本動かせば一瞬で更地にできる衝動を抑え、ただ黙々と彼らが倒した魔物の小さな魔石をリュックに回収し続けた。


(……だが、悪くない)


 俺は汗だくになって戦う彼らの背中を見て、内心でそう評価していた。

 能力は底辺だが、彼らは絶対に「前衛と後衛の距離」を崩さない。夏美はどれだけ怖くても絶対に盾を下ろさず、コウタは夏美の死角を必死でカバーし、リコは残りの魔力を計算しながら慎重に魔法を撃っている。

 圧倒的な力で胡座をかき、仲間を囮にして逃げた『紅蓮の剣』とは対極にある、不器用だが美しいチームワークだった。


「ふぅ……。今日は角ウサギ三匹に、スライム二匹! 大収穫だね!」

「ぜぇ……ぜぇ……。もう、腕が上がんないっす……」

「私も……魔力が、すっからかんです……」


 安全地帯の岩場に座り込み、三人は泥だらけになって肩で息をしている。

 時計を見ると、すでにダンジョンに潜ってから四時間が経過していた。


「よしっ! みんなお疲れ様! ポーションも残り少ないし、今日はここで帰還しよう!」


 夏美の明るい声に、コウタとリコも安堵の表情を浮かべる。

 俺も「安全第一で良い判断だ」と頷き、回収した魔石の入ったリュックを背負い直した。


 しかし、ダンジョンは常に、探索者の「油断」と「疲労」を嗅ぎつけて牙を剥く。


『……マスター。前方および上方より、複数の熱源反応が急速に接近中』


 アイリスの冷たい警告が脳内に響いた直後。

 帰路につこうと立ち上がった三人の頭上、洞窟の暗がりから、耳障りな鳴き声と共に「それ」は降ってきた。


「ギギャァァァッ!!」

「えっ……!?」


 天井の岩肌に張り付いていたのは、四匹のゴブリンだった。

 普段ならどうにかなる相手だ。しかし、今の彼女たちは極度の疲労状態にあり、コウタの腕は上がりきらず、リコの魔力は完全に底を突いている。

 なにより、不意打ち(アンブッシュ)という状況が最悪だった。


「ひっ……!」


 着地と同時に、一匹のゴブリンが、一番無防備だった後衛のリコへ向かって短剣を振り上げる。


「リコちゃんっ! 危ないっ!」


 夏美がとっさに重い盾を構え、リコを庇うように前に出た。

 ガキンッ! という鋭い金属音が鳴り、短剣の直撃は防ぐ。

 だが、今の夏美にゴブリン四匹の突撃を同時に受け止めるだけの膂力は残っていない。盾を支える彼女の体勢が大きく崩れ、死角が完全に露呈した。


「ギギャッ!」


 横に回り込んだ別のゴブリンが、ニタニタと醜い笑みを浮かべながら、夏美の無防備な脇腹へ向かって刃を突き出す。


「夏美ちゃん! くそっ、間に合わねえ……!」

「いやあっ!」


 コウタの絶望の叫びと、リコの悲鳴が交差する。

 同接八人の配信カメラが、底辺パーティの全滅という悲劇を映し出そうとした、その瞬間。


『マスター。美雲夏美の生存限界まで残り二秒。これ以上の静観は、パーティの全滅を招きます』


 後方の死角、完全に闇に溶け込んでいた俺は、音もなく右手を前方へと構えていた。

 分厚い丸眼鏡の奥の瞳は、すでに無能なポーターのそれではない。獲物を確実に仕留める、冷酷なプロフェッショナルの目だ。


(アイリス。カメラの死角と環境音の偽装、完璧に合わせろよ)

『私を誰だと思っているのですか。……射線クリア。いつでもどうぞ』


 虚空に緑色の電子紋様が走り、俺の手に、大型のサプレッサー(消音器)が銃身と一体化した、旧ロシア製の特殊狙撃銃が握り込まれる。


 ――【VSS・特殊用途狙撃銃ヴィントレス】。


 極めて高い静音性を誇る、暗殺と隠密のための特化兵装。

 俺はスコープを覗き込むこともなく、ただ自身の感覚とアイリスの照準補正アシストだけを頼りに、夏美の脇腹を狙うゴブリンの「眉間」へと銃口を向けた。


 引き金に、指を掛ける。

 さぁ、見せてやろう。誰にも気づかれない、透明な守護者ゴーストの完璧な仕事を。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【★★★★★】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 一気読みさせて頂きましたが、鮮烈なざまぁからの潜伏…スピード感があって良かったです。夏美ちゃんたち三人とも良い子みたいだし、ちょっとずつでいいから強くなって欲しいですなぁ…。
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