第九十六話 あれから半年
王都バルミナムの戦いから半年。
季節はすっかり冬へと移り変わっていた。
俺とイベルタは平和な日々を送っていた。
冒険者ギルドで依頼を受け、報酬を受け取る。
そしてカジノへ向かう。
勝てば豪遊、負ければまた依頼を受ける。
そんな生活だ。
もちろん遊んでいただけではない。
アケミの元で地獄のような特訓もしていた。
いや、あれは特訓じゃない。拷問だ。
「まだ立てるな?」
「無理です」
「立て」
「はい」
そんな日々だった。気付けば俺のマイステータスカードに表記されるLevelは、17になっていた。
その成果か、俺は黒の鳴動をある程度使えるようになった。だが、体への負担は大きい。連発など到底できない。それでも、一日に数度なら扱えるようになった。
一方のイベルタもさらに強くなった。火属性魔法の扱いはさらに上達し、嵐龍の牙に炎を纏わせられるようになった。龍鱗の弓も完全に手に馴染んだらしく、矢の速度も精度も以前とは比べ物にならなくなっていた。
そしてイベルタの胸元では、一つのペンダントが静かに揺れていた。
純白の宝石。
かつてユラがドロップした白い石を加工したものだ。
「似合ってるな、それ」
俺が言う。
「ありがとうございます」
イベルタは少しだけ微笑んだ。
コルディはというと、騎士団へ戻った。
現在はライネルの下で活動している。どうやら大規模な盗賊団との戦いが続いているらしく、忙しく飛び回っているため、最近はほとんど顔を見ていない。
少し寂しい気もするが、本人は元気だろう。
そんなある日のことだった。
冒険者ギルドで昼飯を食っていると、一人の騎士が現れた。
見覚えのある鎧。王都バルミナムの騎士だった。
「ギャン殿。イベルタ殿」
騎士は深く頭を下げる。
「王陛下がお呼びです」
「断れないのか?」
「断れません」
「だよなぁ……嫌な予感しかしねぇな」
「私も同感ですね」
こうして俺達は王都へ向かうことになった。
数日後、王都から派遣された豪華な馬車に乗り込み、俺達はエーテルディアを後にした。
冬の風が吹く街道を進む。
道中、俺達は見覚えのある村の近くを通った。
「あれは……」
俺は窓の外を見る。
イベルタも気付いたらしい。
「ユッキーさんの村ですね」
以前よりも少し賑やかに見えた。
煙突からは白い煙が立ち昇り、畑では村人達が働いている。子供達が走り回り、犬が吠え、どこにでもある平和な村の風景がそこにはあった。
ユッキーの姿は見えない。
だが、きっとどこかにいるのだろう。
畑を耕しているのかもしれない。
家で昼寝をしているのかもしれない。
あるいは村人達と飯でも食ってるかもしれない。
「元気にしてるといいですね」
イベルタが小さく呟く。
「あいつなら大丈夫だろ」
俺は笑った。
根拠なんてない。だが、何となくそう思った。
俺達が戦っている間も。
コルディが騎士として頑張っている間も。
ユッキーはユッキーなりに生きている。
それでいい。それが少しだけ嬉しかった。
馬車は止まらない。ゆっくりと村を通り過ぎていく。
やがてその姿も見えなくなった。
またいつか会うこともあるだろう。
その時は、あいつに奢ってやろう。
俺はそう決めた。
やがて、バルミナムに到着した俺達は、王城の玉座の間へ案内された。
豪華な赤い絨毯、高い天井。
そして玉座に座る男。
オーウェン=バルミナム王。
「久しいな、異界の賭博師よ」
「どうも」
俺は適当に返事をした。王様相手にどうかと思うが、今さらだ。
王は苦笑した。
「相変わらずだな」
その左右には見知った顔もいる。
クラウド、そしてアリシア。
「久しぶりですね」
アリシアが軽く頭を下げた。
元気そうで何よりだ。
王はゆっくり立ち上がった。
「単刀直入に言おう」
空気が変わる。
「助けてほしい国がある」
「国?」
「いや……正確には大陸だ」
王は地図を広げた。そこには見知らぬ巨大な大陸が描かれていた。
「アダマンティア大陸」
その名を聞いた瞬間、クラウドの表情が僅かに険しくなった。
「ドワーフ達が暮らす鉱山の大陸だ」
王は続ける。
「現在、その大陸で異変が起きている」
俺とイベルタは顔を見合わせた。
嫌な予感がさらに強くなる。
王は静かに告げた。
「魔王軍四天王の一人が動いている」
玉座の間が静まり返る。
「名は、トオル」
その瞬間、背筋を冷たいものが走った。
日本人の名前だった。
また転生者だ。
ケンジ。
ユラ。
王都を地獄に変えた連中。
その同類。いや、もしかしたらそれ以上。
王は真っ直ぐ俺を見た。
「異界の賭博師ギャン」
「……なんだよ」
「アダマンティア大陸を救ってくれ」
嫌な予感しかしなかった。
そして残念ながら、俺の嫌な予感は大抵当たる。




