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R.I.P.末期ギャン ―死んで借金が消えた俺は、異世界でも賭け続ける―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 アダマンティア大陸 編

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第九十七話 一騎当千の助っ人は、見えない手で心臓を握り潰す怪物

 イベルタが一歩前へ出た。


「失礼ですが、一つよろしいでしょうか」


 王は頷く。


「クラウド兄さん、あるいはアリシアさんの騎士団は同行しないのですか?」


 当然の疑問だった。俺もそう思っていた。四天王が絡むなら、王国最強クラスを連れて行くべきだ。


 だが王は首を横に振った。


「できぬ」


 短い返答だった。しかし、その声には迷いがない。


「現在、王都周辺の治安は決して良くない」


「盗賊団か」


 王は頷いた。


「そうだ」


 俺は眉をひそめた。


「盗賊団ってそんなにいるのか?」


 思い返してみれば、確かに心当たりはある。

 エーテルディアでもそうだった。


 そして半年前。王都からの帰路でも、ギルティスとかいう盗賊に襲われている。


 あまりにも当たり前に出てくるせいで気にしていなかったが、冷静に考えると多すぎる。


「そもそも盗賊団って何なんだ?」


 俺の問いに王は静かに答えた。


「このガルディア大陸全土に蔓延る犯罪組織だ」


 王は地図へ視線を落とした。


「以前は魔物の脅威が大きかった。だが、ユラの消滅により状況が変わった」


 アリシアが言葉を引き継ぐ。


「各地の魔物が大幅に減少しました」


「その結果、今まで隠れていた連中が表へ出てきたのだ」


 王が続ける。


「特に近年は急増している」


「なぜだ?」


 俺が尋ねる。王は少しだけ呆れた顔をした。


「お前なら分かるだろう」


「?」


「カジノだ」


 王が深いため息を吐く。


「借金、破産、一家離散。職を失った者、全財産を失った者、人生に絶望した者……そういった人間が流れ着く先が盗賊団だ」


「……」


 反論できなかった。めちゃくちゃ心当たりがある。

 むしろ一歩間違えれば俺もそっち側だった。


「もちろん全員ではない」


 王は指を一本立てる。


「問題は幹部だ」


 空気が少し重くなる。


「彼らは違う」


「違う?」


「ただの犯罪者ではない」


 クラウドが低い声で言った。


「奴らは組織的に動いている。武器の流通、資金調達、人員の確保。さらには情報操作、国家への潜入」


 アリシアが続ける。


「既に幾つかの領地では反乱未遂も発生しています」


 俺は顔をしかめた。

 思ったより面倒な話だった。


 王は玉座にもたれながら言う。


「だからだ。クラウドも、アリシアも、この地を離れられぬ」


 王都を守る柱。それが二人の役目なのだろう。


 ……シュレイドやレオナルドが生きていれば、この二人のどちらかは来てくれたのかもしれない。


 イベルタも納得したようだった。


「なるほど」


 だが俺には別の疑問があった。


「じゃあ俺達だけで行くのか?」


 王が微笑む。嫌な笑みだった。


「まさか」


 その言葉にアリシアも小さく笑った。


「同行者はいます」


「誰だ?マリベルか?」


 俺が尋ねる。


「いや」


 王はゆっくりと言った。


「文字通り、一騎当千の人物だ」


 その瞬間、玉座の間の扉が開いた。

 聞き覚えのある足音。

 軽い。そして遠慮がない。


「呼ばれたので来ました」


 聞き覚えのある声だった。


 俺は振り返る。


 そこにいたのは、一人の女。

 かつて敵として戦った人物。


 見えない手で心臓を握り潰す怪物。

 間違いなく、二度と戦いたくない相手だった。


 だが今は違う。


 王国に保護され、アリシアの監視下に置かれた。


「久しぶりですね」


 サトコだった。

 アリシアが静かに言う。


「彼女なら信用できます」


 その言葉に、俺は思わずアリシアを見る。

 半年前なら絶対に聞けなかった台詞だった。


 サトコは少し困ったように笑った。


「そんなに見ないでください。私も、ちゃんと頑張ったんですから」


 サトコの登場に、俺とイベルタは顔を見合わせた。

 そしてほぼ同時に頷く。


「まぁ、お前なら文句はねぇな」


「そうですね。実力は疑いようがありません」


 サトコは少し照れ臭そうに笑った。


「褒められると困ります」


「褒めてねぇ」


 本当は褒めている。

 だが認めるのも癪だった。

 王は満足そうに頷いた。


「では話を進めよう」


 案内されたのは王城の地下だった。

 石造りの通路を進み、重厚な扉を抜ける。

 その先には巨大な魔法陣が描かれていた。

 淡い青色の光が床一面に広がっている。


「転送魔法陣だ」


 クラウドが説明を始めようとする。だが俺は手を振った。


「あー、それなら知ってる」


「知っている?」


「カジノに置いてたやつを使ったことがある」


 今となっては懐かしい話だった。

 エタルドやアルベルト達に追われていた時。


「それはおそらく、()()のものだろう」


 クラウドは首を横に振る。


「ん?」


「こちらは王国最高峰の転送魔法陣だ」


 少しだけ自慢げだった。


「最大の違いは、一方通行ではない」


「なに?」


 俺は思わず声を上げた。


 転送魔法陣というのは基本的に一方通行だ。

 飛んだら終わり、帰りは別の手段を使う。


 それが常識だった。


「往復可能だ」


 クラウドが言う。


「設置にも維持にも莫大な金がかかる」


「さすが王様」


「褒め言葉として受け取っておこう」


 王が笑った。どうやら本当に高級品らしい。


「アダマンティア大陸側にも同型機がある」


 アリシアが説明を引き継ぐ。


「何かあれば帰還も可能です」


 なるほど、それなら安心感はある。

 もちろん行った先が安全とは限らないが。


 出発は翌朝となった。


 必要な物資は全て王国が用意するらしい。


 着替え、保存食、薬品、予備装備。

 その他諸々。


 俺達は久しぶりに金の心配をしなくてよかった。


 そして宿泊先。


 そこが問題だった。


「なんだここ……」


 俺は呆然と呟く。


 豪華だった。

 とにかく豪華だった。


 床は磨き上げられた大理石。

 天井には巨大なシャンデリア。

 ベッドは沈み込むほど柔らかい。


「王国最高級ホテルです」


 案内人が誇らしげに言う。


 やめろ、俺みたいな庶民を入れる場所じゃない。

 夕食も酷かった。もちろん良い意味でだ。


 見たこともない料理が次々と運ばれてくる。

 名前も分からない。

 食べ方も分からない。

 味だけはめちゃくちゃ美味かった。


 さらにマッサージまで付いていた。

 俺は途中から怖くなった。


「これ本当に無料か?」


 何か裏があるんじゃないか?

 そう疑うレベルだった。


 結局、俺はほとんど眠れなかった。


 ベッドが柔らかすぎる。

 部屋が広すぎる。

 静かすぎる、落ち着かない。


 いつもの安宿の方がよほど寝られる。


 翌朝。


 目の下に薄い隈を作った俺とは対照的に、イベルタとサトコは妙に仲良くなっていた。


「え?」


 思わず声が出た。二人は普通に談笑していた。


「サトコさん、意外と趣味が合いますね」


「私もそう思いました」


「昨日は楽しかったです」


「ですね」


 何だその空気。半年前に殺し合っていた連中とは思えない。


「女って分かんねぇ……」


 俺は心底そう思った。


 そして、再び王城地下。

 巨大な転送魔法陣の前に俺達三人は立っていた。


 俺とイベルタ。

 そしてサトコ。


 王とクラウド、アリシアが見送る中、魔法陣が光を増していく。


「準備はいいか」


 クラウドが尋ねた。


「多分な」


「ですね」


「問題ありません」


 三人の返事が重なる。


 足元の光が一気に強まった。


 アダマンティア大陸。

 四天王トオル。


 まだ見ぬ敵。

 まだ見ぬ国。

 そして新たな戦い。


 俺達の新たなる旅が、今始まろうとしていた。

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