表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R.I.P.末期ギャン ―異世界転生―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 アダマンティア大陸 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
101/105

第九十八話 四天王トオルと濁り雨。重苦しい話は酒で吹き飛ばせ!!

 眩い光が視界を埋め尽くした。

 次の瞬間、足元の感触が変わる。


「うおっ」


 思わず声が漏れた。

 転送は、経験しても慣れない。

 頭が少しだけふらつく。


「到着したようですね」


 イベルタが周囲を見回す。

 俺も視線を上げた。


 そこは巨大な石造りの部屋だった。

 壁も柱も床も、全てが分厚い岩で出来ている。

 まるで山そのものをくり抜いたような空間だった。


「ここが……」


「アダマンティア大陸ですか」


 サトコも珍しく辺りを見回している。


 そして俺は気付いた。

 部屋の周囲に立つ人々。


 背が低い、だが異様に横幅がある。

 腕は丸太のように太く、髭も濃い。

 鎧の隙間から覗く筋肉は岩のようだった。


「……子供か?」


 俺が呟く。


「失礼ですね」


 イベルタが即座に否定した。


「ドワーフです」


「ドワーフ?」


「はい」


 俺は改めて見る。

 確かに人間とは違う。

 だが魔物でもない。

 不思議な種族だった。


「ほう」


 一人のドワーフが前へ出る。


 立派な白髭。


 年齢は分からない。

 だが偉そうだった。


「よくぞ来てくれた」


 低く太い声が響く。


「異界の賭博師よ」


 どうやら話は通っているらしい。


 俺は軽く手を挙げた。


「どうも」


「王がお待ちだ」


 ドワーフは短く言った。


 俺達は城の奥へ案内された。


 王都ドゥルガン。


 アダマンティア大陸最大の都市。


 城内を歩くだけでも分かる。

 この国は豊かだ。


 壁には黄金、柱には銀。

 見たこともない鉱石まで埋め込まれている。


 だが、どこか空気が重かった。

 兵士達の表情も暗い。活気がない。

 何かに怯えている。

 そんな印象だった。


 やがて王の間へ到着した。


 玉座に座るのは巨大なドワーフ。


 髭は胸元まで伸びている。

 その威圧感はオーウェン王にも負けていない。


「歓迎しよう」


 王が口を開く。


「我が名はヴィルグラム」


 低い声が広間に響いた。


「アダマンティア大陸を統べる王だ」


 俺達は軽く挨拶を済ませる。

 本題はすぐに始まった。


「状況は深刻だ」


 王の声は重かった。


「四天王トオル」


 その名前が出た瞬間。

 部屋の空気がさらに重くなる。


「奴は正面から攻めてこない」


 王は苦々しく言った。


「こちらの動きを知っているかのように先回りする」


 隣の大臣らしきドワーフが続ける。


「鉱山を守れば輸送路が襲われる。輸送路を守れば市場が混乱する。市場を安定させれば今度は商会が襲われる」


 俺は眉をひそめた。


「偶然じゃないのか?」


「違う」


 王が断言した。


「まるで未来を知っているように動く」


 嫌な話だった。

 さらに王は続ける。


「情報操作も行われている」


 巨大な地図が広げられる。


「偽の情報による買い占め、価格操作、流通妨害、商会同士の対立工作」


 俺には半分も理解できなかった。

 だが一つだけ分かる。

 面倒臭い相手だ。


「現在、王都ドゥルガンの経済は大きく傾いている」


 王は拳を握った。


「奴一人によってな」


 だが、問題はそれだけではなかった。


「そしてもう一つ」


 王の表情が険しくなる。


「こちらが本題だ」


 部屋が静まり返る。

 王はゆっくりと言った。


「濁り雨」


 その言葉に何人ものドワーフが顔を曇らせた。


「通称だ」


 王が説明する。


「正体は不明、だが奴が現れる場所では必ず雨が降る」


 俺は嫌な予感を覚えた。


「ただの雨じゃない」


 王の声が低くなる。


「触れれば皮膚は腐る、高熱に侵される。重症化した者の約三割は死亡する」


 玉座の間に緊張が走った。


「三割……」


 サトコが小さく呟く。

 俺も絶句した。


 高すぎる。病気としては異常な致死率だ。


「我らドワーフは頑丈だ」


 王は苦々しく言う。


「それでも三割死ぬ」


 つまり人間ならもっと高い。


「鉱山も閉鎖された。油田もだ。採掘場も動かせぬ」


 王は拳で肘掛けを叩いた。


「この大陸の誇りである鉱石も石油も掘れぬのだ」


 その瞬間、俺は理解した。


 この大陸は今、トオルによって経済を壊され。

 濁り雨によって産業を壊されている。


 じわじわと、確実に。

 滅びへ向かっているのだと。


 そして俺の嫌な予感は、到着してわずか数分で確信へ変わった。


 今回も面倒なことになりそうだった。


 重苦しい会談は一旦終わった。


 王ヴィルグラムが大きく立ち上がる。


「よし!」


 その声が広間に響いた。


「暗い話ばかりでは気が滅入る!」


 ドワーフ達が顔を上げる。


「客人を迎えたのだ! 宴を開け!」


「おおおおおお!!」


 広間が一気に沸いた。


 さっきまでの空気が嘘のようだった。


「切り替え早いな」


 俺は思わず呟く。


「ドワーフは酒を愛する種族ですから」


 イベルタが苦笑した。


「嫌なことがあれば飲む。嬉しいことがあれば飲む。何もなくても飲む」


「ただの酒好きじゃねぇか」


「その通りですね」


 否定はなかった。


 その夜。


 城内の巨大な宴会場には長机が並び、山のような料理が運ばれていた。


 骨付き肉。

 巨大魚の丸焼き。

 見たこともない茸料理。


 そして大量の酒樽。


「飲めぇぇぇぇ!!」


「食えぇぇぇぇ!!」


 ドワーフ達の声が飛び交う。

 まるで戦場だった。


「いやいやいや」


 俺は目の前の樽を見る。


「これ酒だよな?」


「酒ですね」


 イベルタも若干引いていた。

 木製ジョッキが配られる。

 ドワーフの基準らしい。

 バケツみたいなサイズだった。


「乾杯!」


「おおおおお!!」


 宴が始まった。

 俺は一口飲んだ。


「――――」


 喉が焼けた。


「ごほっ!!」


 むせた。酒が胃まで一直線に突き刺さる。


「なんだこれ!?」


「強っ!?」


 イベルタも咳き込んでいる。

 周囲のドワーフ達が爆笑した。


「はっはっはっは!」


「人間には早かったか!」


「まだ水みたいなもんだぞ!」


「嘘つけ!」


 俺は即座に突っ込んだ。

 こんなもの水代わりに飲んでいたら死ぬ。

 だがドワーフ達は豪快に飲み干している。


 理解不能だった。


 そして十分後。


「うぇへへへ……」


 俺は完全に出来上がっていた。


「ギャンさん……大丈夫ですか……」


 イベルタも顔が真っ赤だった。


「だいじょぶらぁ……」


「全然大丈夫じゃありませんねぇ……」


 お互い呂律が回っていない。

 ドワーフ達はさらに爆笑した。


「弱い!」


「弱すぎる!」


「赤子か!」


「失礼らろ!」


 反論したつもりだった。

 だが舌が回らない。

 そのまま机に突っ伏した。


 限界だった。


 一方。


「もう一杯」


 サトコだけが平然としていた。


「おお!」


 ジョッキを受け取る。

 飲む、空になる。


「もう一杯」


「おおおおお!!」


 歓声が上がった。


 ドワーフ達の目の色が変わる。


「嬢ちゃん強ぇぞ!」


「まだ飲めるのか!?」


「余裕」


 サトコは無表情のまま答えた。


 そしてまた飲む、空になる。

 また飲む、空になる。

 飲む、空になる。

 飲む、空になる。


 周囲が静まり返った。


「……」


「……」


 ドワーフ達が顔を見合わせる。

 誰も笑っていない。

 今度は驚いていた。


「化け物か?」


 誰かが呟いた。


「褒め言葉?」


 サトコが首を傾げる。


「褒め言葉だ!」


 爆笑が起こった。

 そこからは早かった。


「こっち来い嬢ちゃん!」


「飲み比べだ!」


「負けたら樽一つ空けろ!」


「いいよ」


 サトコは即答した。


 数時間後。


 結果は惨敗だった。

 もちろんドワーフ側の。


「ぐぅ……」


「まさか……」


「王国代表が……」


 屈強なドワーフ達が床に転がっている。

 サトコだけが平然としていた。


「まだ飲める」


 静かな一言。宴会場が大歓声に包まれた。


「英雄だ!」


「酒豪王だ!」


「我らの仲間になれ!」


「最高だ!」


 肩を組まれ、頭を撫でられ、酒樽を贈られ、気付けばサトコは完全に人気者になっていた。


 俺は机に突っ伏したまま薄目を開ける。


「……なんであいつ平気なんだ」


「分かりません……」


 隣で潰れているイベルタが答えた。


「でも……」


「ん?」


「皆さん嬉しそうですね」


 俺は周囲を見る。さっきまで暗い顔をしていたドワーフ達が笑っている。


 大声で騒ぎ、肩を叩き合い、酒を飲んでいる。

 久しぶりに見せる笑顔なのかもしれない。


 その中心にはサトコがいた。

 本人は無表情だったが。

 なぜか誰よりも宴会場を盛り上げていた。


「……まぁいいか」


 俺はそう呟いた。

 その直後、意識が途切れた。


 ドワーフ王国最強の酒。


 異界の賭博師ギャン、完全敗北の瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ