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R.I.P.末期ギャン ―異世界転生―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 アダマンティア大陸 編

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第九十九話 なんか知らんけど、俺はドワーフ騎士の一人に気に入られたようだ

 翌朝。


 俺は人生でも上位に入る最悪の目覚めを迎えた。


「うっ……」


 頭が痛い、吐き気もする。

 口の中は砂漠みたいに乾いていた。


「なんだこれ……」


 ゆっくり目を開く。


 見慣れない天井。

 見慣れない部屋。

 床には空になった酒瓶が転がり、椅子は倒れ、テーブルには食べかけの肉が放置されている。


 ひどい有様だった。


「ここどこだ……」


 昨夜の記憶が曖昧だ。


 確か酒を飲んで。


 飲んで。


 飲んで。


 そこで記憶が途切れている。


 隣を見る。


「すぅ……すぅ……」


 イベルタが寝ていた。しかも床で。


「おい」


 反応なし。


「おい、起きろ」


「んん……」


 肩を揺する。

 ようやく目を開けた。


「おはようございます……」


 顔色が最悪だった。

 たぶん俺も同じだろう。


 俺たちはふらふらしながら部屋を出る。


 廊下へ出た瞬間。


「おはようございます」


 聞き慣れた声がした。


 サトコだった。


 いつも通り無表情。

 いつも通り平然としている。

 顔色一つ変わっていない。


「……」


「……」


 俺とイベルタは無言で見つめる。


「どうしました?」


 サトコが首を傾げた。


「あら、顔色が悪そうですよ?」


「お前……ほんとに魔人だな」


「褒め言葉?」


「たぶん違う」


 イベルタが即答した。


 それからしばらく休憩した後、俺達は騎士に案内されて城の訓練所へ向かった。


 広大な石造りの施設だった。そこでは数十人のドワーフ騎士達が汗を流している。


 大剣、戦斧、巨大なハンマー。


 どれも人間なら持ち上げるだけで精一杯だろう。


「うわ……」


 俺は思わず呟いた。


「イメージ通りだな」


 筋肉、髭、酒。

 そして脳筋。


 完璧なドワーフだった。


 騎士達もこちらに気付く。


 視線が集まった。


「お?」


「客人か」


「昨日の連中だな」


 その中から一人のドワーフが近付いてきた。


 多分若い。だがかなり鍛えられている。

 肩幅だけで俺の二倍はありそうだった。


「お前が異界の賭博師ってやつか?」


 ドワーフは俺を見下ろした。


「弱そうだな」


 安い挑発だった。

 俺は肩をすくめる。


「まぁな」


 事実だった。


 イベルタより弱い。

 サトコより弱い。


 今さら否定する気もない。


「あら、この方は強いですよ?」


 サトコが言った。

 俺は固まった。


「……おい」


 嫌な予感しかしない。

 ドワーフの目が光った。


「ほう?」


 やめろ。


「じゃあ手合わせしようぜ」


 やっぱりそうなった。


「あー……」


 俺は空を見上げた。

 逃げたい。非常に逃げたい。

 しかし周囲は完全に盛り上がっていた。


「いいぞ!」


「やれやれ!」


「ガルド!潰してやれ!」


「手加減してやれよ!」


 笑い声が飛び交う。どうやらこの粋のいいドワーフはガルドというらしい。


 ガルドは豪快に笑う。


「安心しろ」


 そう言って、戦斧を壁に立て掛ける。

 鎧も、腰の短剣も、全ての武装を解除した。


 完全に丸腰だった。


「男の喧嘩は素手だろ」


 周囲がさらに盛り上がる。


「おおおおお!!」


「言った!」


「ガルドらしい!」


 俺は頭を抱えた。

 酒より頭が痛くなってきた。


 どうしてこうなるんだ。


「こないのか?」


 ガルドが拳を構える。周囲のドワーフ達もニヤニヤしながら見守っていた。


「なら俺から行くぜ!」


 次の瞬間、ガルドの拳が迫った。


 速い。


(こんなもん食らったら終わりだ)


 まともに受けたら骨が折れる。下手をすれば死ぬ。

 だが、俺の身体は自然に動いた。


 スウェイ。


 拳が鼻先を通り過ぎる。

 風圧が頬を撫でた。


(アケミのパンチと比べたら……)


 俺は口元を歪める。


(止まって見えるぜ)


 右ストレートを外したガルドの左側が大きく開いていた。


 アケミは言っていた。心得のある奴はガードを崩さない。素人ほど攻撃の後に隙を晒す。


(つまり――)


 俺は踏み込む。


(こいつは素人か)


 右フック。


 狙いは左のこめかみ。体重も乗った、タイミングも完璧だった。


 手応えもあった。


 だが、ガルドは首を傾げた。


「ん?」


 それだけだった。


「なんだその弱い拳は」


 終わった。


「は?」


 俺の拳はあっさり掴まれる。


 まずい。


 そう思った時には遅かった。


「おらっ!」


 景色が回転した。次の瞬間、俺の身体は宙を舞っていた。


「うおおおおっ!?」


 そして地面。

 衝撃。肺の空気が押し出される。


「ぐっ……!」


 だが、なんとか致命傷は避けた。


 アケミ仕込みの受け身。あれがなければ今ので終わっていただろう。


 それでも全身が痛い。


「いってぇ……クソが」


 ふらつきながら立ち上がる。

 周囲から歓声が上がった。


「おお!」


「立ったぞ!」


「今の投げでか!」


 ガルドも目を丸くしていた。


「ははは!」


 豪快に笑う。


「動きはいいな、お前!」


 そのまま突っ込んできた。


 今度は拳じゃない。


 タックル。


 いや、もはや岩石だった。暴走した荷車が突っ込んでくるようなものだ。


「ふざけんな!」


 俺は咄嗟に横へ飛ぶ。


 サイドステップ。


 ギリギリで回避。ガルドが勢いのまま通り過ぎる。


(今しかねぇ!)


 振り向く瞬間、最も無防備になる一瞬。


 俺は身体を捻った。

 回転、腰、体重移動。

 持てる全てを乗せる。


「らぁっ!!」


 アケミ仕込みの、渾身の回し蹴り。


 ガルドの顎へ叩き込む。


 振り向く勢い。

 俺の回転。

 二つの力が重なった。


 たぶん、俺が出せる最高の一撃だった。

 だが、ガルドは少し首を揺らしただけだった。


「ふむ」


 顎を撫でる。


「今のは良かったぞ」


 それだけだった。

 俺は悟る。


(ダメだ)


 全然効いてねぇ。

 戦いになってない。


 俺が全力で殴って蹴って。

 ようやく少し感心される程度だ。


 改めて思う。


 こいつらおかしい。

 ドワーフおかしい。


 その時だった。ガルドが突然笑った。


「はっはっはっは!」


 訓練場に響く大声。

 そして、俺に向かって手を差し出した。


「人間にしちゃやるじゃねぇか!」


 豪快な笑顔だった。


「気に入ったぜ、お前!」


 俺は一瞬固まる。


「……は?」


「普通の人間なら最初の一発で終わりだ!」


「褒めてんのかそれ」


「もちろんだ!」


 周囲のドワーフ達も笑っていた。


「確かにな!」


「いい動きだったぞ!」


「逃げ足だけは一流だ!」


「最後の蹴りも悪くねぇ!」


 なんだこれ?

 よく分からん。

 よく分からんが……

 どうやら歓迎されているらしい。


 俺はため息をつく。


「はぁ……」


 差し出された手を握った。

 ガルドの手は岩みたいに硬かった。


「よろしくな!」


「おう」


 なんか知らんけど、俺はドワーフ騎士の一人に気に入られたようだった。

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