第九十五話 ただいま、エーテルディア
長い旅の果てに。
俺達はようやくエーテルディアへ帰ってきた。
街の入口から見える景色は、出発した時とは大きく変わっていた。崩れていた建物は修復され、人々の顔には活気が戻っている。
そして何より、街の中央で輝く巨大な護石。
ケンジによって破壊されたエーテルディアの護石は、完全に復旧していた。
「帰ってきたな」
俺が呟く。
「ええ」
イベルタが微笑む。
「長かったわね」
コルディも肩を竦めた。
その時だった。
「ん?」
聞き覚えのある声。
「……ギャン!?イベルタ!!コルディ!!」
大声を上げながら駆け寄ってきたのは一人の女性だった。
派手な服装、堂々とした立ち振る舞い。
エーテルディア裏社会の頂点。
そして俺と同じ転生者。
アケミだった。
「おいおい!生きてたか!」
「勝手に殺すな」
アケミが騒いでいると、今度は別の声が飛んできた。
「戻ったのか」
振り返ると、そこにはライネルがいた。
エーテルディア騎士団長。そして英雄レオナルドの息子。
その隣にはミネルヴァ。
さらに少し離れた場所にはロキまでいる。
「なんだ、全員集合じゃん」
コルディが笑う。
少し前なら考えられなかった光景だった。
裏社会。
騎士団。
情報屋。
本来なら対立するはずの連中が同じ場所にいる。
だが今は違う。エーテルディアを復興させる。
その目的のために手を取り合っていた。
「それで?」
アケミが真顔になる。
「王都で何があった?」
周囲も静まり返った。
俺は全員を見渡す。
そして口を開く。
「ケンジを倒した」
沈黙。誰も言葉を発しなかった。
「そうか……」
最初に呟いたのはライネルだった。
俺は続ける。
「王都は守れた……だが、犠牲も出た」
ライネルの表情が強張った。
嫌な予感を察したのだろう。
「レオナルドは死んだ」
沈黙。誰も動かなかった。
ライネルだけが目を閉じる。
拳を握り締める。
だが泣かなかった。騎士団長だからではない。
きっと息子だからだ。覚悟していたのだろう。
「最後まで英雄だった」
俺は言った。
「王都を守るために戦った」
ライネルは静かに頷いた。
「そうか」
短い言葉だった。
だがその一言に全てが込められていた。
そして、俺はイベルタを見る。
イベルタが一歩前へ出た。
「父さんも死にました」
ミネルヴァが息を呑む。
「シュレイド=ローキンスは王都を守り抜いて戦死しました」
姉妹の間に沈黙が落ちる。
やがてミネルヴァは目を伏せた。
「……そう」
震える声だった。
「父さんらしい最期ね」
イベルタも小さく笑う。
「はい」
それ以上の言葉はなかった。
必要なかった。
シュレイドは最後まで騎士だった。
それだけで十分だった。
街の中央で護石が静かに輝いている。
ケンジは死んだ。ユラもいない。
レオナルドも、シュレイドも。
多くの命が失われた。
それでも、彼らが守ろうとした世界は残った。
人々は笑い、街は復興し、明日へ進んでいる。
俺は空を見上げた。
青空だった。
どこまでも高く、どこまでも澄んだ空だった。
こうして、王都バルミナムを巡る戦いは幕を閉じた。
ーーー 第二章 王都バルミナム編 完 ーーー




