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R.I.P.末期ギャン ―死んで借金が消えた俺は、異世界でも賭け続ける―  作者: 黒瀬雷牙
第二章 王都バルミナム 編

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第九十二話 さらば、王都バルミナム

 俺の名前はギャン。


 武器庫を後にした俺達は、そのまま王城の廊下を歩いていた。


 王都はまだ復興の真っ最中だ。窓の外では騎士や住民達が瓦礫を運び、壊れた建物の修復を進めている。


 戦いは終わった。


 だが、傷跡はまだ消えていない。

 ふと、俺は隣を歩くアリシアへ視線を向けた。


「なぁ」


「なんですか?」


「サトコはどうなった?」


 アリシアは少しだけ目を細めた。


 あの夜、ケンジの隣に最後までいた女。

 四天王の片腕であり、多くの罪を重ねた転生者。だが同時に、ケンジの心を取り戻した存在でもあった。


 アリシアは静かに答える。


「囚人です」


 やはりか、当然と言えば当然だった。


「現在は私の監視下に置かれています」


「牢屋か?」


「いいえ」


 アリシアは首を横に振る。


「アマスの護石が破壊されたでしょう」


 俺は頷いた。


 ユラの襲撃で砕かれた護石。あれが完全に修復されるまで、王都周辺には魔物が侵入し続ける。


「現在は騎士団と共に外縁部の防衛任務に就いています」


「囚人なのにか?」


「囚人だからです」


 アリシアは淡々と言った。


「罪は償わなければなりません」


 その声は厳しかった。だが同時に、不思議と冷たくはなかった。


「逃げないのか?」


「逃げませんよ」


 アリシアは小さく笑った。


「少なくとも今の彼女は」


 それ以上は語らなかった。だが、なんとなく分かった気がした。


 サトコはもう逃げない。


 あいつなりに、前へ進もうとしているのだろう。


 城門へ向かう途中、今度はクラウドが俺達の前へ現れた。


「もう出発するのか」


「ああ」


「エーテルディアが心配ですしね」


 イベルタが答える。

 クラウドは頷いた。


「一つ伝えておく」


 その表情が少し真剣になる。


「ユラとケンジが消滅して以降、魔物の数は大幅に減少した」


 それは良い知らせだった。王都を脅かしていた最大の原因が消えたのだ。


 当然と言えば当然だろう。


「その代わり」


 クラウドが続ける。


「盗賊共が活発化している」


「盗賊?」


 ユッキーが首を傾げる。


「魔物が減ったことで街道の安全性が上がった。その結果、商人達が動き始めた」


 なるほど。


「金の匂いに群がる連中も増えたというわけだ」


 コルディがため息を吐く。

 クラウドは頷いた。


「帰り道は気をつけてくれ」


「了解」


 俺は軽く手を振った。


 クラウドと別れ、俺達は王都の大門へ向かった。

 門の前では騎士達が忙しそうに行き交っている。


 その時だった。


「あ、あなたは」


 聞き覚えのある声がした。


 視線を向けると、そこには一人の女性が立っていた。


 サトコだった。


 足元には倒れた魔物の死体。

 手には血に濡れた短剣。


 だが以前のような狂気はない。

 どこか穏やかな顔をしていた。


「サトコだ」


 ユッキーが声を上げる。

 サトコは俺達を見つめた。


 そして、ふっと微笑んだ。

 初めて見るような、優しい笑みだった。


「ケンジさんは、あなたに託したのですね」


 俺は答えられなかった。


 夢の中で見た光景が脳裏をよぎる。


 白い空間、差し出された手。


 穏やかな笑み。


 そして――


 後は託した。


 その言葉。


 サトコは何も聞いていないはずだ。なのに、なぜか全てを知っているような顔をしていた。


 俺は少しだけ笑う。


「さぁな」


 それだけ答えた。サトコもそれ以上は聞かなかった。

 ただ静かに頷く。


「そうですか」


 風が吹いた。王都の空は青かった。あれほど多くの命が失われた場所とは思えないほどに。


「それじゃあな」


 俺が言う。


「はい」


 サトコが答える。


「お元気で」


 それが最後だった。

 俺達は振り返らない。


 門を抜ける。

 王都バルミナムを後にする。


 長かった戦いは終わった。

 失ったものも多かった。


 けれど、前へ進まなければならない。


 ケンジが託したもの。

 シュレイドが守ろうとしたもの。

 レオナルドが命を懸けたもの。


 そして、今を生きる俺達自身の未来のために。


 俺達は歩き出した。

 エーテルディアへ向かって。

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