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R.I.P.末期ギャン ―異世界転生―  作者: 黒瀬雷牙
第二章 王都バルミナム 編

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第九十一話 一生遊んで暮らせそうな額を断ってやった

 白い。


 上も、下も、右も左も。

 どこまでも白い空間だった。


 不思議と怖くはない。

 目の前に、一人の男が立っていた。


「……ケンジ?」


 男は答えなかった。

 ただ、少しだけ笑った。


 あの皮肉げな笑みでもない。

 狂気に染まった笑みでもない。


 どこか穏やかな笑みだった。


 そして、俺に手を差し出す。

 俺は黙ってその手を握った。


 温かかった。


 短い沈黙のあと、ケンジが口を開く。


「後は……託した」


 それだけだった。


 だが、不思議と十分だった。

 言葉を返そうとした瞬間、景色が崩れた。


ーーーー


 ……目が覚めた。


 ゆっくりと瞼を開く。

 見慣れた天井だった。


 王国騎士団の宿舎。あの激闘のあと、どうやら俺は気を失っていたらしい。


 体を起こす。

 生きているのが不思議なくらいだ。


「……」


 俺は懐からマイステータスカードを取り出した。


 確認する。


 Level 13


 思わず息を吐く。


 サトコとの死闘。

 ケンジとの決戦。


 王都を揺るがしたあの一夜が、俺を成長させていた。


「おっ、起きたか!」


 聞き慣れた声。

 振り向くとユッキーがいた。

 やたら嬉しそうな顔をしている。


「見てくれよギャン!」


 そう言って勢いよくマイステータスカードを突き出してきた。


 Level 5


 俺は思わず吹き出した。


「よかったな」


「だろ!?」


 ユッキーは満面の笑みだった。

 こいつもあの地獄みたいな夜を生き延びた。

 それだけで十分すごいことだ。


 その時だった。


 バンッ!!


 部屋のドアが勢いよく開いた。


「おはよーございます!!」


 聞き覚えのある元気な声。

 マリベルだった。

 相変わらず朝から騒がしい。


「みなさん! 王様がお呼びです!」


 マリベルはびしっと敬礼する。


「早く行きましょう!!」


 俺とユッキーは顔を見合わせた。

 どうやら休んでいる暇はないらしい。


 俺達は王の間へと足を踏み入れた。

 そこには既にイベルタとコルディがいた。


「遅いですよ」


 イベルタが腕を組みながら言う。


「寝坊したのはギャンさんでしょう」


「うるせぇ」


 軽口を叩き合う。

 それだけで、なんだか少し安心した。

 視線を前へ向ける。


 王座にはオーウェン=バルミナム王。

 そして、その両脇には二人の騎士が立っていた。


 クラウド。

 そしてアリシア。


 俺は少しだけ目を細める。


 以前なら、そこにはシュレイドとレオナルドがいた。


 もういない。改めて、あの戦いで失われたものの大きさを実感した。


「よく来てくれた」


 王がゆっくりと立ち上がった。

 王の間が静まり返る。


「まずは礼を言わせてほしい」


 王は深く頭を下げた。

 誰も言葉を発せなかった。


 一国の王が、俺達のために頭を下げている。


「諸君らがいなければ、王都は滅びていた。ユラ、ケンジ、そして数多の魔物達。諸君らはそれらを打ち破り、この国を救った」


 王の声には重みがあった。


 失われた命への悲しみ。

 それでも未来へ進まねばならない王の覚悟。

 その全てが込められているようだった。


「ありがとう」


 ただその一言が、妙に胸に響いた。

 王は顔を上げる。


「さて、感謝だけで終わらせるつもりはない」


 クラウドが前へ出た。

 大きな箱を開く。


 中には大量の金貨。

 いや、大量などという言葉では足りない。


 山だった。


「ユラとケンジが消滅した際に残したゴールドだ」


 クラウドが説明する。


「討伐報酬として、全て君達に譲渡する」


 王も頷いた。


「受け取ってくれ」


 俺は金貨の山を見る。

 正直、一生遊んで暮らせそうな額だった。


 だが――


「いらねぇ」


 王の間が静まり返った。


「ギャン?」


 ユッキーが目を丸くする。

 俺は肩をすくめた。


「見ただろ、王都ボロボロじゃねぇか」


 崩れた家。

 失われた生活。

 泣いていた人々。


 そんな光景が頭をよぎる。


 それに、倒したのは俺じゃない。ユラを倒したのはケンジで、四天王ケンジを倒したのもまた、ケンジの中にあった最後の人間味だ。


「俺達より、王都の復興に使え。その方が有意義だろ」


 しばらく沈黙が流れた。

 やがて王が小さく笑った。


「ならば責任を持って復興資金に充てよう」


 王は深く頷いた。


「感謝する」


 その時だった。


 アリシアが一歩前へ出た。


 そして、頭を下げた。

 王国最強格の騎士が、俺達に。


「……申し訳なかった。私はイベルタ姉さんをローキンス家の恥晒しだと決めつけた。命を狙ったこともある」


 アリシアは真っ直ぐイベルタを見つめる。


「謝罪させてほしい」


 イベルタは目を丸くしていた。まさかあのアリシアが謝るとは思っていなかったのだろう。


「……別にいいよ」


 ぶっきらぼうに答える。


「お互い様じゃん」


 アリシアは少しだけ笑った。

 そして王へ視線を向ける。


「そこで提案があります。騎士団武器庫を開放しましょう、好きな武器を一つ贈呈するのです」


 王は即座に頷いた。


「よかろう」


 しばらくして俺達は王国騎士団の武器庫へ案内された。


 そこには名剣、名槍、魔導具。

 ありとあらゆる武器が並んでいた。


「すげぇ……」


 ユッキーが感動している。

 俺も少し興奮した。


 その中で、イベルタが足を止めた。


 一張りの弓。

 漆黒と紅を混ぜたような美しい弓だった。


「これは?」


 近くの騎士が答える。


「龍燐の弓です。古龍の鱗を素材にして作られた王国特製の一品。高熱にも耐えられるため、火属性との相性が非常に良い」


 イベルタの目が細くなる。


 そっと弓を握った。

 瞬間、掌に炎が灯る。

 だが弓は傷一つ付かない。


「なるほど」


 イベルタが小さく笑った。


 弦を引く。すると炎が矢の形を取り始めた。


 赤く燃える一本の矢。

 誰もが息を呑んだ。


「気に入った」


 イベルタは迷わず言った。


「これを貰うわ」


 その時の俺は知らなかった。


 その弓が後に、王国最強の弓使いを象徴する伝説の武器になることを。

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