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R.I.P.末期ギャン ―異世界転生―  作者: 黒瀬雷牙
第二章 王都バルミナム 編

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第九十話 王国を救った英雄、四天王を討ち取った男。その顔は勝者のものではなかった

 私の名前はイベルタ。


 目の前で、ユラが崩れ落ちた。


「なっ……」


 理解が追いつかない。つい先ほどまで圧倒的な力で私達を追い詰めていた怪物が、まるで糸の切れた人形のように空から落ちていく。


 いや、あの力の奔流は見たことがある。


 間違いない。


 ケンジの()()()()だ。


 暴発?それとも……


 意図的に?


 分からない。

 でも結果だけは明白だった。

 あの血月の夜ユラが、消滅した。


 風に溶けるように、その姿は消えていく。


 そして後には、(おびただ)しい量のゴールドだけが残された。


「なんだこれは……」


 見たこともないほど膨大なゴールド。

 まるで小山のように積み上がっている。


 さらに、その中央には、白く輝く石のようなものが残されていた。


 私はゆっくりとそれを拾い上げる。


 温かい。

 不思議な感覚だった。


 ただの石ではない。そんな気がした。


「イベルタ姉ちゃん。ギャンの方に行こう」


 コルディの声で我に返る。


「あ、ああ……そうね」


 私達は踵を返した。王都の瓦礫を越えながら、ギャンさん達の元へ向かう。


 そこで見た。

 地面に倒れるケンジを。


 その体は薄く透け始めていた。

 消滅が始まっている。


 私は足を止めた。

 あれほどの怪物だった男。

 王国を滅ぼしかけた四天王。


 それが今は、どこか穏やかな顔をしていた。

 その傍らへ、一人の女性が体を引きずるように近付いていく。


 全身傷だらけで、今にも倒れそうだった。

 それでも、彼女はケンジの元へ向かった。


「ケンジさん……」


 震える声。

 泣きそうな顔。


 ケンジはゆっくりと目を開いた。

 そして、かすれた声で言った。


「サトコ……俺の分まで……」


 ケンジの姿がさらに薄くなる。


「俺が見たかった明日を……見てきて……」


 その言葉を最後に、ケンジの体は光になった。


 静かに。

 本当に静かに。

 風の中へ消えていく。


「――っ」


 サトコが声にならない声を漏らした。

 そして、その場に崩れ落ちた。


 泣いていた。

 声を殺して。

 ただ泣いていた。


 私達は何も言えなかった。

 誰も、何も言えなかった。


 やがて私は視線を移す。少し離れた場所。

 そこには、ボロボロになったギャンさんが座り込んでいた。


 全身傷だらけ、血まみれ。

 立っていることすら難しい状態だ。


 それでも生きていた。


 私達は駆け寄る。


「おいギャン!」


 真っ先に声を上げたのはユッキーだった。


「大金星じゃねーかよ!」


 興奮した様子で肩を叩こうとして、止まった。


「……え?」


 ギャンさんは泣いていた。

 大粒の涙が頬を伝っていた。


 拳を握り締め、歯を食いしばり。

 それでも涙だけは止まらない。


 王国を救った英雄。

 四天王を討ち取った男。


 その顔は勝者のものではなかった。


 まるで、大切な友人を失った男の顔だった。


 私は何も言えなかった。


 ただ静かに、ギャンさんの涙を見つめることしかできなかった。

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