第八十一話 俺は仲間を信じている
俺の名前はギャン。
王都正門前。崩壊しかけた街の中で、俺は状況を見渡していた。
最悪だ、本当に最悪だ。
空には血月の夜ユラ。
地上には操られたシュレイド。
どっちも化け物、まともに相手したくない。
だが。
「イベルタ!」
「はい!」
「コルディ!」
「うん!」
「ユッキー!」
「あぁ!」
三人は即座に反応した。それで十分だった。
ユラ。そしてシュレイド。
あっちは任せる、任せられる。
コルディも何度も死線を越えてきた。
ユッキーも同じだ。
そして、相棒のイベルタ。コイツが負ける姿なんて、想像できねぇ。
こいつらは絶対に負けない。
俺は仲間を信じている。
だから、俺が見るべき敵は別だ。
視線を向ける。
片腕を失いながらも立ち続ける男、ケンジ。
そして、その隣でケンジを支える女、サトコ。
あの二人だ。
アリシアは負傷している。
マリベルも限界が近い。
このまま放置すれば間違いなく死ぬ。
王国最強だろうが何だろうが関係ない。
今は動けない、今なら殺される。
「……ふざけんな」
知らないうちに拳を握っていた。
あいつらは敵だ。
エーテルディアに続き、王都を滅茶苦茶にした。
ドナルドの仇。
マスターの仇。
許せない。
ここで止める。
ここで終わらせる。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
地面を蹴る。
砕けた石畳が吹き飛ぶ。
俺は一直線に駆けた。
ケンジへ。
サトコへ。
二人の魔人へ向かって。
斬りかかる。
そのはずだった。
だが、嫌な予感がした。
背筋を這い上がる悪寒。
根拠なんてない、理屈もない。
ただ、賭博師として何度も修羅場を潜ってきた俺の直感が叫んでいた。
――踏み込むな。
俺は反射的に攻撃を止めた。そして横へ飛ぶ。
次の瞬間だった、俺がいた空間が歪む。
何かが通った。
見えない、だが分かる。
あれはサトコの能力だ。
もし一歩でも踏み込んでいたら。
腕か、足か、あるいは内臓か。
何かを奪われていた。
「……チッ」
着地しながら舌打ちする。
危なかった、本当に危なかった。
するとサトコがゆっくりとこちらを振り向いた。
その顔から笑みは消えている。
代わりにあったのは覚悟だった。
「……もう少しだったのに」
静かな声、だがその声には確かな殺意が宿っていた。
サトコは一歩前へ出る。
ケンジを庇うように、まるで盾になるように。
「サトコ……」
ケンジが呼ぶ、だがサトコは振り返らない。
その視線はずっと俺を捉えていた。
「ケンジさんには、触れさせない」
言い切った。迷いなく、当然のように。
その瞬間、理解した。
この女はユラと同じだ。
方向性は違う。
だが根っこの部分は同じ。
自分の命より優先する存在がいる。
だから強い、だから厄介だ。
「そうかよ」
俺は剣を構えた。
「だったら無理やり通るだけだ」
ケンジは片腕を失っている。
サトコも消耗している。
だが、それでも。この二人はまだ折れていない。
サトコが右手を掲げる。
見えない脅威がそこにあった。
近付けば奪われる。だが俺に、遠距離攻撃の手段はない。
最悪の相手だ。
だが、だからこそ燃える。
俺は口元を吊り上げた。
「上等だ」
賭けようじゃないか。
王都の命運を。
仲間の未来を。
そして、俺達の意地を。
次の瞬間、俺とサトコは同時に地面を蹴った。
※今回の前半終了パターン
「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
地面を蹴る。
砕けた石畳が吹き飛ぶ。
俺は一直線に駆けた。
ケンジへ。
サトコへ。
二人の魔人へ向かって。
斬りかかる。
そのとき、サトコがこちらを見た。
その表情は驚くほど静かだった。
「届きました」
何も見えない。
何も感じない。
だが、次の瞬間。
胸の奥に違和感が生まれた。
「……あ?」
痛みはない。
苦しさもない。
ただ、何かが胸の中にある。
そんな感覚。
サトコが小さく呟く。
「さようなら」
握る、その仕草だけだった。
ぐしゃり。そんな音が聞こえた気がした。
心臓だった。俺の心臓が、見えない何かに握り潰されていた。
「がっ――」
呼吸が止まり、剣が手から零れ落ちた。
足に力が入らない。膝が折れる。
視界が急速に暗くなっていく。
そんな……馬鹿な。
届かなかった、あと少しだったのに。
仲間達の顔が浮かぶ。
イベルタ。
コルディ。
ユッキー。
声を出そうとした。だが何も出ない。
血だけが口から零れた。サトコは静かに俺を見下ろしていた。敵を見る目ではない、ただ障害物を処理しただけの目だった。
身体が地面へ倒れ込む。
最後に見えたのは、片腕を失いながら立つケンジの姿だった。
そして意識は闇へ沈んだ。
R.I.P




