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R.I.P.末期ギャン ―異世界転生―  作者: 黒瀬雷牙
第二章 王都バルミナム 編

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第七十七話 君と生きたい、それだけでいい

 俺の名前はケンジ。


 王都バルミナムは燃えていた。


 悲鳴、咆哮、崩れる建物。

 空を覆う魔物の群れ。


「派手にやったな……」


 俺は空を見上げた。


 アマス神の護石は破壊されている。

 ユラの奴がどうやったのかは知らない。


 だが結果だけは分かる、王都は終わりだ。


「ケンジさん」


 隣でサトコが不安そうに俺を見る。

 俺は少しだけ笑った。


「大丈夫だ」


 そう言いながら、その手を握る。


 細い手だった。

 温かい。生きている手だ。


 俺はその感触を確かめるように握り直した。


「行こう」


「うん」


 サトコが頷く。

 俺達は歩き出した。


 燃え盛る王都を。

 魔物が暴れ回る街を。


 戦場を、背にして。


 ――もういい。


 そう思っていた。


 王国も。

 魔王軍も。

 ユラも。


 全部、もうどうでもいい。


 前世では失った。

 異世界では破壊した。


 壊した。

 殺した。


 そして気付いた。

 戦うたびに、俺は不幸になる。


 だから、今度くらいは……


 サトコと生きたい。


 それだけだった。


 どこでもいい。

 誰も知らない場所で。

 平和な村でも。

 森の中でも。

 畑でも耕して。

 馬鹿みたいな話をして。

 笑って。

 飯を食って。


 ただ生きたい。


 それだけでいい。


 だから――。


「王都を出るぞ」


 サトコが小さく笑う。


「うん」


 その返事だけで良かった。

 それだけで十分だった。


 やがて、王都の正門が見えてくる。


「止まれ!!」


 騎士達の怒号が飛んだ。

 門前には防衛部隊が展開している。


 外から押し寄せる魔物を必死に食い止めていた。


「この先は危険だ!!」


「避難民は後方へ!!」


 騎士達が叫ぶ。当然だ、門の外は地獄だった。


「……?」


 俺は足を止めた。

 サトコも同じだった。


 一人の少女。


 戦場の中心。そこだけ空気が違った。


 魔物が襲いかかる。

 少女が剣を振るう。


 一閃。オーガの首が飛ぶ。

 返す刃で、ワイバーンが地面へ落ちる。


 無駄が無い。速い、そして美しい。


 束ねられた金色の髪。

 凛とした横顔。

 戦場の真ん中にいるのに涼しさすら感じる。


 まるで嵐の中心だ。


「強い……」


 サトコが呟く。

 俺も同意だった。


 明らかに格が違う。


 そして、左利き。左手で握られた剣が流れるように魔物を斬り裂いている。


 その時、少女がこちらを見た。


 目が合う。


 一瞬。本当に一瞬だった。


 だが、少女の目が見開かれた。


 何かに気付いたように。


「――全員聞け!!」


 凛とした声が響く。

 騎士達が反応する。


「そこの男と女を捕らえろ!!」


 空気が変わった。


「な……?」


 騎士達が振り返る。

 少女は剣を向けていた。


 俺達へ。


「そいつらは恐らく人ではない!!」


 周囲がざわめく。

 騎士達が武器を構える。


 サトコの手が震えた。


 まずい。


 俺は瞬時に理解した。

 こいつ、勘が異常だ。


「ケンジさん……」


 サトコの声。

 怯えている。


 それだけで十分だった。


 俺は決める。


 何を犠牲にしてもいい。


 サトコだけは守る。


 俺は前へ出た。

 そして、少女へ向けて手をかざす。


「悪いな、俺達は急いでる」


 空気が震えた。

 地面が軋む。


 黒い波動。

 死の振動。


 俺の権能。


「――黒の鳴動」


 次の瞬間、世界が砕けた。


 ドォォォォォォォォォンッ!!


 直線上にいた騎士達。魔物達。城壁の一部。


 全てが消滅する。

 肉も骨も残らない。


 跡形すら無く。


 ただ一直線の破壊だけが残った。


 絶叫すら無かった。

 消えたからだ、存在そのものが。


「なっ……」


「う、嘘だろ……」


 騎士達の顔が凍り付く。

 だが、俺は眉をひそめた。


 当たっていない。


 少女が立っていた。


 数メートル横。


 髪を揺らしながら。


 超反応。

 発射と同時に回避した。


 人間業じゃない。


 少女はゆっくり剣を構える。

 その瞳は氷のように冷たい。


「なるほど」


 静かな声、だが確信に満ちている。


「これが地震の能力か」


 少女が一歩踏み出す。


 剣先が真っ直ぐこちらを向いた。

 その瞬間、俺は本能で理解した。


 強い。今まで会った誰よりも。


 そして少女は言った。


「やはり貴様」


 金色の髪が風に揺れる。

 冷たい蒼眼が俺を射抜く。


「ケンジだな?」


 戦場が静まり返った。


 騎士達も。

 魔物達も。

 サトコですら息を呑む。


 そして俺は、初めて、目の前の少女に対して。


 嫌な汗を流していた。

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