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R.I.P.末期ギャン ―死んで借金が消えた俺は、異世界でも賭け続ける―  作者: 黒瀬雷牙
第二章 王都バルミナム 編

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第七十二話 この女は監視役というより、もはや災害と言ってもいい

 日が傾いた頃、俺たちはとある場所にいた。


 王都バルミナム南区画。


 薄暗い路地。

 酒臭い空気。

 汚れた石畳。


 そして、その奥。

 ギラギラした看板。


「……カジノ?」


 アリシアが露骨に眉をひそめた。

 俺はニヤリと笑う。


「あぁ」


「何故ですか」


「ケンジ探し」


「意味が分かりません」


 だろうな。目の前の建物は、王都中央カジノみたいな豪華施設じゃない。


 もっと雑多で、もっと汚くて、もっと人間臭い場所だった。


 入口近くでは酔っ払いが寝ている。

 奥では怒鳴り声。

 煙草みたいな臭いまで漂っていた。


「最悪ですね」


 アリシアが本気で嫌そうな顔をする。


「王都中央カジノならまだ理解できます。ですが何故こんな小汚い場所に」


「こういう場所の方が情報集まるんだよ」


 その時だった。近くにいたチンピラ風の男がこちらを見る。


 ボサボサ頭、酒臭い息。

 そして腰にはナイフ。


「さっきから聞いてりゃ、生意気なガキだなぁオイ」


 空気が少し変わる。


 ユッキーが「うわ」と小さく呟いた。


 アリシアが振り向く。


「……」


 無言。ただ、一度だけ男を見た。


 それだけだった。


「ひッ」


 男の顔色が変わる。


 次の瞬間、男はガクン、と膝が崩れ落ちた。


「ぁ……ぁ……」


 腰が抜けている。

 何かを見たような顔をしていた。


 死。


 多分、そんなもの。


 カジノ内の空気が一瞬で凍り付く。

 ざわついていた客達まで静まり返った。


「……相変わらず怖ぇ」


 俺は呟く。


「行きますよ」


 アリシアは興味なさそうに歩き出す。

 人混みが自然に道を開けていく。


 モーゼかこいつ。


 俺とユッキーは顔を見合わせた。


「これ監視役じゃなくて災害じゃね?」


「否定できん」


 中へ入る。


 薄暗い店内。

 歓声と怒号が入り混じる空間。


 ……落ち着く。


 俺は思わず息を吐いた。


「帰ってきた感じするわ」


 俺は周囲を見回した。


 いる。


 こういう場所には情報屋も、裏社会の連中も、訳ありの奴らも集まる。


 そして、異世界に来ても、どうしようもない人種ってのは大体変わらない。


「なぁアリシア、タネ銭くれ」


 沈黙。周囲の空気がまた冷える。


「……今、何と?」


「だからギャンブル資金」


 アリシアの目が据わる。


「遊びに来たわけではありませんよね?」


 さっき以上の圧。

 怖い、だが俺は怯まない。


「違ぇよ」


「では何故賭ける必要が?」


「何もしねぇでここ突っ立ってたら迷惑だろうが」


「は?」


 俺は真顔で続けた。


「カジノってのはな、賭けねぇ奴が一番浮くんだよ」


「…………」


「つまり潜入のためには自然に溶け込む必要がある」


「ただ賭けたいだけでは?」


「失礼な」


 ユッキーが横で呟く。


「半分くらいは本音だと思う」


 アリシアは数秒黙り込み、


「……くだらない」


 冷たく吐き捨てた。


「外で待っています」


「あ、おい」


 そのまま踵を返し、カジノを出ていく。

 道が割れるように客達が避けていった。


 やっぱ災害だろあれ。


 静まり返った店内。


 そして。


「……はぁ」


 ユッキーが深くため息を吐く。


「やれやれだな」


 俺は肩を竦めた。


「さて」


 そして、目の前の台を見る。


 ギャンブル。

 酒。

 欲望。


 しかし結局その日、ケンジは見つからなかった。


「……ハズレか」


 俺は椅子にもたれながら呟いた。


 カジノ内で情報を集め、裏路地を歩き、怪しい連中にも声を掛けた。


 だが収穫はゼロ。

 噂すら出てこない。


「無駄足だったな」


 ユッキーも疲れた顔で言う。


「…………」


 そして何より問題なのがアリシアである。


 怖い。めちゃくちゃ不機嫌だ。


 理由は分かる。


 半日付き合わされた結果、成果ゼロ。


 しかも行き先が、 小汚い裏路地の、治安悪いカジノと来た。騎士の中の騎士みたいな女からすれば、最悪の巡回コースだろう。


 現在。


 王国騎士団宿舎。


 その一室。俺とユッキーは、ようやく解放されていた。


「本日はここで待機してください」


 それだけ言い残し、アリシアは部屋を出ていった。


 バタン。


 扉が閉まる。


 数秒の沈黙、そして。


「っはぁぁぁぁぁ……」


 俺とユッキーは同時に崩れ落ちた。


「疲れた……」


「精神が削られる……」


 ベッドへ倒れ込む。


 部屋自体はかなり豪華だった。

 上位の騎士用らしく、無駄に広い。


 机。

 ソファ。

 ベッド。


 牢屋より遥かに快適だ。


 だが。


「なんか全然休まった気しねぇ」


「分かる」


 ユッキーが天井を見る。


「あの人、ずっと圧あるんだよ」


「無意識なんだろうな」


「怖ぇよ」


 俺は苦笑した。


 アリシア=ローキンス。


 多分、悪人じゃない。

 むしろ真面目で責任感も強い。


 ただ。


「生き方が騎士すぎる」


「あー……」


 ユッキーが納得した顔をする。


「人間っていうより、騎士って感じ」


「それだ」


 息苦しい理由が分かった。

 あいつ、24時間ずっと騎士なんだ。

 だから気が抜けない。


「コルディと真逆だな」


「コルディは野生動物だから」


「イベルタは?」


「保護者」


「分かる」


 少し笑う。


 こうしてると、いつもの旅みたいだった。


 だが、ふと静かになる。


 窓の外。


 王都バルミナムの夜景が見えた。


 灯りは多い。

 人もいる。


 だがどこか、街全体が張り詰めている。


 ユラ。

 そしてケンジ。


 怪物はまだ動いていない。

 あるいは動けないのか……


「……なぁ」


 ユッキーが小さく呟く。


「本当にいると思うか?」


「いる」


 俺は即答した。


「あいつ、絶対どっかで笑ってる」


 根拠はない。

 だが分かる。

 同類だからだ。


 ギャンブル狂いってのは、面白くなりそうな場所に必ず現れる。


 俺はベッドへ倒れ込み、目を閉じた。


「……面倒なことになりそうだな」


 嫌な予感だけが、どんどん大きくなっていた。

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