第六十九話 武器を取り返したら、監視役の女騎士まで付いてきた
王城の空気は、たった二日で別物になっていた。
俺は、ついさっきまで地下牢にぶち込まれていた。
投獄期間は僅か二日、それでも十分だった。
王都バルミナムは、たった二日で平和な王都から戦時国家みたいな空気に変わっていた。
廊下を歩く騎士の数が明らかに増えている。
誰もが張り詰めた顔をしていた。
ユラ。
たった一人の魔女が、王都をここまで変えた。
「入れ」
クラウドに促され、巨大な扉が開く。
王座の間。
赤い絨毯、高い天井。
左右に並ぶ重鎮たち。
そして正面。
王オーウェン=バルミナム。
その傍らには、殲鬼シュレイド。
さらに、金獅子レオナルドの姿もあった。
「異界の賭博師ギャン」
王が静かに口を開く。
「そしてユッキー」
ユッキーが軽く頭を下げる。
俺は適当に手を振った。
「よぉ、王様」
周囲の空気が凍る。
「貴様ァ──」
騎士が怒鳴りかけたが、王が手で制した。
「よい」
王は俺を見る。
「先日の非礼は詫びよう」
「お、話分かるようになったじゃねぇか」
「……まだ完全に信用したわけではない」
その言葉に、シュレイドが静かに目を細める。
「だが、血月の夜ユラの出現により、お前たちの情報が現実味を帯びた」
王座の間の空気が重い。
「特に、新たな四天王……ケンジ」
その名前だけで、レオナルドの表情が険しくなる。
「お前はその男を見ているのだな?」
「あぁ」
俺は頷く。
「黒髪。歳は三十前後。常に気だるそうな顔してる」
思い出す。
地面を割り、
街を潰し、
笑いながら殺していた男。
「あいつはヤバい」
自然と声が低くなる。
「ユラより危険か?」
王が問う。
少し考える。
「方向性が違う」
俺は答えた。
「ユラは災害だ。ケンジは破滅」
空気が静まり返る。
「……なるほど」
王は深く頷いた。
「そこで頼みがある」
「お?」
「お前たちには、王国へ協力してもらいたい」
やっぱりそう来たか。
「ケンジ発見時の識別、及び戦力協力」
「なるほどな」
悪くない話だ。
だが、こっちにも条件がある。
「ならイベルタとコルディを解放しろ」
その瞬間。
空気が変わった。
ズン──
重圧。まるで巨大な刃を首筋に突きつけられたみたいな感覚。
殲鬼シュレイド。
奴が、こちらを見ていた。
「立場を理解しろ、異界人。貴様らは未だ容疑者だ」
ユッキーが眉を寄せる。
「脅しか?」
「事実だ。王国は貴様らを処刑することも可能だ」
ピリつく空気。
周囲の騎士達も完全に戦闘態勢だ。
「……チッ」
俺は舌打ちした。
今ここで突っ張っても意味がない。
シュレイドは本気だ。
しかも強い。
馬鹿みたいに強い。
「分かったよ」
俺は肩を竦めた。
「なら別条件だ」
「申してみよ」
「俺の武器返せ」
王が僅かに眉を動かす。
「サンダーグラディウスと銀鎧」
俺は続ける。
「ケンジ相手に丸腰で戦えってんなら、そっちの頭がお花畑だ」
レオナルドが小さく笑った。
「確かにな」
シュレイドは黙っている。
王は少し考え、口を開く。
「条件付きで許可する」
「お?」
「王国監視下での限定返還だ」
まぁ十分だ。
「ユッキー、お前は?」
俺が聞くと、ユッキーが前に出た。
「俺もヨーヨー返してほしい」
「理由は?」
シュレイドが問う。
ユッキーは静かに答えた。
「ユラが死体操る時、見えたんだよ」
「……何?」
「魔力の糸」
その言葉で、アリシアが反応する。
「糸……?」
「あぁ。死体からじゃない」
ユッキーは自分の目を指差した。
「ユラ本人から伸びてた」
ざわつく王座の間。
「もし次に遭遇したら、糸を辿れるかもしれねぇ」
レオナルドの目が鋭くなる。
「興味深いな」
王は頷いた。
「鋼鉄ヨーヨーも返還しよう」
「助かる」
ユッキーが珍しく素直に言った。
「ただし」
王の声が響く。
「お前たちを完全に自由にはしない」
「……だろうな」
「監視役を付ける」
その瞬間、横から足音。
「私ですね」
現れたのは、金髪の女騎士。
アリシア=ローキンス。
凛とした空気を纏ったまま、俺たちを見る。
「本日より、あなた達二名の監視及び補佐を担当します」
ユッキーが露骨に嫌そうな顔をした。
「うわ、面倒そうなの来た」
「聞こえてます」
「聞こえるように言った」
アリシアのこめかみに青筋が浮かぶ。
俺は笑った。
「よろしくな、騎士様」
「……出来ればよろしくしたくありません」
「辛辣」
だが、そのやり取りを見ながら俺は理解する。
王国はまだ俺たちを信用していない。
だが同時に、もう無視もできない。
ユラが現れた。
ベヒーモスが出た。
そして、まだ本命の怪物は現れていない。
黒の鳴動。
四天王ケンジ。
王都バルミナムは今、
確実に嵐の前に立っていた。




