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R.I.P.末期ギャン ―死んで借金が消えた俺は、異世界でも賭け続ける―  作者: 末期ギャン
第二章 王都バルミナム 編

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第五十八話 再戦、ゴーゴン

 俺達は山道にいた。

 バルミナムへ続く道は、静かだった。


「……静かすぎるな」


 俺は足を止める。


 風がない。

 鳥もいない。

 虫の音すら、途切れている。


「なんか、嫌な感じ」


 コルディがぼやく。


「こういうの、絶対なんか出るやつじゃん」


「同感です、ギャンさん」


 イベルタが弓を軽く引き絞る。


「……来るぞ」


 言った瞬間だった。


 ずるりと、音。

 地面を這う、湿った何かの音。


 そして、視界の端で()()が動いた。


「……っ」


 息が止まる。

 四足歩行。


 だが、形が定まらない。

 身体を構成しているのは――


「蛇……?」


 ユッキーが低く呟く。無数の蛇が、絡み合い、蠢き、塊になっている。


 その中心に、目がある。


「……ゴーゴン」


 自然と、名前が出た。

 忘れるはずがない。

 あの時、逃げるしかなかった相手。


「知ってるのか?ギャン」


「ああ」


 短く答える。


「目を合わせるな。石になる」


「は?」


 空気が、一瞬で張り詰める。


 ――ギャアアアアアアアア!!


 咆哮。身体中の蛇が、一斉に暴れた。


「うるっせぇな!」


 だが、俺は後退しない。

 あの時とは、状況が違う。


「イベルタ、目は任せた」


「当然です」


 迷いのない声。


「コルディ、足止めできるか」


「余裕でしょ」


 黒鞭が、ゆらりと揺れる。


「ユッキー」


「ん」


「動き、読めるか?」


 ユッキーは、少しだけ目を細めて――


「……読める」


 短く答えた。


「じゃあ」


 俺は、剣を構える。

 雷が、走る。


「殺るぞ」


 ゴーゴンが突っ込んでくる。


「思ったより遅ぇな」


 踏み込む。雷を纏った斬撃。

 蛇の束を、一閃で薙ぐ。


 ――ズバンッ!!


 肉と鱗が裂ける音。


「再生……!」


 コルディが叫ぶ。斬ったはずの部位が、蠢き、繋がる。


「チッ、やっぱそう来るか」


「中心部が本体です!」


 イベルタの声。


「ですが、目を狙うのは危険です!」


「分かってる、削るぞ」


「了解!」


 コルディが前に出る。

 黒鞭が、唸る。


「縛れ」


 地面を叩く。

 蛇の脚を、まとめて絡め取る。


「動き止めたよー!」


「ナイス」


 その瞬間。


「来るぞ、右!」


 ユッキーの声。ほぼ同時に、蛇の束が弾けるように伸びる。


 だが、俺はもう動いている。


「見えてんじゃねぇか」


 紙一重で躱す。そして――


「頼むぜ、サンダーグラディウス」


 雷を圧縮、剣に集束。


「叩き込む!」


 踏み込み、振り抜く。


 ――ドンッ!!


 中心部に、直撃。

 ゴーゴンが、悲鳴を上げる。


「ギャアアアアアア!!」


「今です!」


 イベルタの声。

 矢が放たれる。だが――


「チッ、避けた!」


 蛇が、矢を弾く。


「なら!」


 ユッキーのヨーヨーが唸る。


「スリーパー!」


 円を描く高速回転する鋼鉄のヨーヨーが、刃を広げ蛇の束に突っ込む。


 ギギギギギ――!!


 鱗が、肉が、削ぎ落ちる。


「そこだ!」


 俺は踏み込む。

 だがその瞬間、ゴーゴンがこちらを向いた。


 やばい。


 反射的に、視線を逸らす。


「ギャンさん!」 


 イベルタの矢が目の前に突き刺さり、視線を遮る。


「……助かった」


「当然です」


 その隙。


「今なら行ける!」


 ユッキーの声。中心が、露出している。


「コルディ!」


「はいよ!」


 黒鞭が、締め上げる。


「動くなって!」


「終わりだ」


 俺は、剣を振り上げる。

 雷が、収束する。 


 ――あの時。

 逃げるしかなかった相手。 


「今は違う」


 振り下ろす。


「斬れる」


 


 ――ズバァン!!


 


 中心部が、真っ二つに裂けた。

 そして蛇の塊が、崩れ落ちる。

 蠢きが、止まる。 


「……倒した、か」


 しばらくして。完全に動きが止まり、消滅して400Gを落とした。 


 ユッキーが、考え込んでいる。


「どうした」


 少しだけ笑う。


「思ったより、いけたな」


「だろ」


 俺も口元を歪める。 

 あの時とは違う、逃げるしかなかった俺じゃない。


「……進むぞ」


 剣を肩に担ぐ。


「こんなの、前座だ」 


 俺たちは、再び歩き出した。

 ゴーゴンを倒してから、道中は妙に静かだった。


 山道を抜け、視界が少しずつ開けていく。

 木々の密度が薄れ、風が抜ける。


 遠くに平原、そしてその先。


「……あれか」


 ユッキーが足を止めた。

 俺も、自然と視線を上げる。


 そこにあった。


 地平線の向こうにそびえる、巨大な城壁。


 白い外壁。

 幾重にも連なる塔。

 陽光を反射して、鈍く光っている。


 その中心には、一際高い城。


「王都バルミナム……」


 イベルタが静かに呟いた。

 どこか、感慨深そうだった。


「でっか」


 コルディが素直な感想を漏らす。

 俺たちは、本当にここまで来たんだ。


「今日中に着くか?」


 ユッキーが聞く。

 俺は空を見る。

 日が傾き始めている。


「いや、無理だな」


「ですね」


 イベルタも頷く。


「この距離ですと、夜になります」


「えー、今日入りたかったー」


 コルディがぶーたれる。


「街で寝たい」


「気持ちは分かる」


 だが、無理に夜道を進むのはリスクだ。


「明日からちゃんとした宿なんだろ?」


「たぶんな」


 アマス神の護石が転がる、少し開けた場所を見つけ、火を起こす。ぱちぱちと薪が爆ぜた。


 オレンジ色の火が、四人の顔を照らす。

 イベルタが肉っぽい何かを焼きながら言う。


「増えましたね、ギャンさん」


「何がだよ」


「仲間です」


「……ああ」


 言われてみれば、そうだ。


 最初は俺一人。

 次にイベルタ。

 

 いまは別行動だが、アケミやロキ。


 それからコルディ。

 そしてユッキー。


 騎士のライネルだって、多分仲間だ。


「まさかこんな増えると思ってなかった」


 コルディが笑う。


「私は思っていましたよ」


 イベルタがさらっと言う。


「ギャンさんは、人を巻き込むタイプですので」


「不本意だな」


「めっちゃ分かる」


 コルディが頷く。


「なんか放っとけないもん」


「同感」


 ユッキーまで乗ってきた。


「なんでだよ」


「自覚ないのか?……ないわな」


 全員が納得した顔をする。なんなんだ、こいつら。


 少しだけ、沈黙。

 火の音だけが響く。


「……でも」


 ユッキーがふと呟く。


「明日から、もっとヤバいんだろうな」


 その言葉に、空気が少し締まる。


 王都バルミナム。


 ケンジ。


 ユラ。


 イベルタを狙う、王国騎士団。


 全部が、あそこに集まっている。


「だろうな」


 俺は火を見つめながら答える。


「ここまでより、ずっと面倒になる」


「面倒で済む?」


「済ませる」


 短く言い切る。


「……強気だねぇ」


 コルディが笑う。


「当たり前だろ、ここまで来てビビってどうすんだ」


 視線を上げる。


 夜空の向こう。遠くに見える王都の灯り。

 まだ小さい。だが、確かにそこにある。


「明日だ」


 誰に言うでもなく呟く。


 王都バルミナム。

 ケンジ。


 全部、ここから始まる。


「寝ろ」


 立ち上がる。


「明日から忙しくなる」


「はーい」


「了解」


「おやすみなさい、ギャンさん」


「おう」


 三人がそれぞれ横になる。

 しばらくして、寝息が混じり始める。


 俺だけが、少しだけ起きていた。

 火の残りを見つめる。 


 明日から、新しいステージだ。

 ここまでの延長じゃない。


 もっと上。

 もっと危険で、もっと面白い場所。


 火が、ぱちりと弾けた。こうして俺たちの最後の野宿は、静かに更けていった。

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