第五十七話 弱者の加入、初めての責任。強くなると言ったその眼を信じて
翌朝。
目を開けた瞬間、違和感があった。
「……軽いな」
昨日の戦闘。
死体騎士、ユラ、あの糸。
普通なら、もう少し残るはずだ。
だが、妙に身体が動く。
俺はゆっくりと起き上がり、懐からカードを取り出した。
マイステータスカード。
視線を落とす。
「……レベル11、か」
小さく息を吐く。
上がってる。
まぁ、あれだけやれば当然か。
「……まだ足りねぇな」
脳裏に浮かぶのは、ユラの笑み。
その奥にいる四天王・ケンジ。
あいつは、あの程度じゃ届かない。
「……王都だな」
バルミナム。
情報も、人も、強さも集まる場所。
そして、そこにいるであろう、ケンジを潰すために。
階段を降りると、すでに三人いた。
「おはようございます、ギャンさん」
イベルタが、いつも通り落ち着いた声で言う。
「おっそーい」
コルディがだるそうに手を振る。
「……よ」
ユッキーは壁にもたれて、軽く顎を上げた。
「おう」
俺は短く返す。
「準備は?」
「問題ありません」
「いつでもー」
三者三様。全員動ける顔だ。
「じゃあ行くか。王都バルミナム――」
「俺も行く」
「……あ?」
遮られた。ユッキーだ。
真っ直ぐ、こっちを見ている。
「ついてく」
「急だな」
「そうでもない」
あっさり返す。
「昨日ので、決めた」
「何をだよ」
「強くなる」
短い。だが、軽くはない。
「村でのんびりしてたけどさ……アンタらといた方が、先に進めそうだ」
ユッキーの眼に、覚悟の火が灯る。
「あとは……鍛冶屋のオヤジの仇」
空気が、少しだけ締まる。
「あのユラって奴、気に入らねぇ」
「……だろうな」
俺は頷く。ユッキーが一歩踏み出す。
「ダメか?」
「……マイステータスカード見せろ」
「ん」
差し出されたカードを受け取る。
「……レベル2?」
「昨日の戦闘で上がった」
あっさり言う。
「それまでは、ほぼ村暮らし」
「マジかよ……」
思わず呟く。今まで組んできた連中は、最低でも場数踏んでるやつばかりだった。
これは、完全に初心者だ。
「え、ユッキーよっわ」
コルディが遠慮なく言う。
「私先輩ね?」
「同い年だろ」
「そうだっけ?」
「昨日言ってた」
「適当すぎんだろ」
「いいじゃん別に」
ケラケラ笑うコルディ。
「イベ姉はどう思う?」
「そうですねぇ」
イベルタが静かにユッキーを見る。
「潜在的な感知能力は、非常に有用です」
「だよねー」
「ですが」
少しだけ声が締まる。
「現状の戦闘力では、足手まといになる可能性が高いでしょう」
「ストレートだなイベ姉」
「事実なので」
「……だな」
俺はカードを返す。
弱い。間違いなく。
「……死ぬぞ」
俺はユッキーを見た。
「俺の隣は、甘くねぇ」
「分かってる」
即答。
「それでも行く。村でのんびりしてるよりはマシだ」
「……はっ」
思わず笑う。
いい顔してやがる。
「……好きにしろ」
「いいの?」
コルディが目を丸くする。
「ただし」
俺はユッキーを指差す。
「守ってもらえると思うな」
「思ってねぇよ」
「足引っ張ったら、置いてく」
「上等」
「あと」
一瞬だけ間を置く。
「死にかけたら、俺が引きずってでも戻す」
「……は?」
「パーティってのは、そういうもんだ」
淡々と言う。
「勝手に死なれるのが、一番面倒なんだよ」
「……」
ユッキーが、少しだけ黙って――
「……了解」
短く答えた。
「よーし決まり!」
コルディが立ち上がる。
「新入り加入ー」
「新入りってか同い年だろ」
「でも私先輩だし?」
「だから何の先輩だよ」
「雰囲気?」
「適当すぎるだろ……」
「いいじゃん別にー」
くるくる回るコルディ。
「イベ姉もそう思うよね?」
「私は思いません」
「え、ひど」
「ですが」
イベルタが少しだけ口元を緩める。
「賑やかになるのは、悪くありませんね」
「ねー」
「……行くぞ」
俺は扉に手をかける。
「王都バルミナム」
開く。朝の光が、差し込む。
「次は、遊びじゃねぇ」
振り返らずに言う。
「全部、取りに行く」
金も、情報も。
そして――
「ケンジもな」
あの名前を、噛み潰す。
背後で、足音が揃う。
四人分。
気づけば、俺は。
初めて、自分より弱い奴を連れていた。
「……めんどくせぇな」
小さく呟く。
守るなんて柄じゃねぇ。
だが、死なせるつもりもない。
俺たちは、王都へ向かって歩き出した。




