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R.I.P.末期ギャン ―死んで借金が消えた俺は、異世界でも賭け続ける―  作者: 黒瀬雷牙
第二章 王都バルミナム 編

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第五十五話 何も守れなかった俺に、鍛冶屋のオヤジが残したのは、戦う理由と鋼鉄のヨーヨーだった

 俺の名前はユウキ。

 ……いや、この世界ではユッキーか。


 正直、どっちでもいい。

 呼ばれ慣れてるのは、もうこっちだ。


 ギャン達が戦ってる。

 でも俺にはそれどころじゃなかった


 ――カン、カン、と。

 金属を打つ音が、耳に残っている。


 いつも通りの音。

 いつも通りの場所。


「……オヤジ」


 鍛冶場の前で、俺は立ち尽くしていた。

 戸が、半開きになっている。


 嫌な予感しかしない。


 それでも、足は勝手に動いた。


 中に入る。


 鉄の匂い。

 油の匂い。

 そして、血の匂い。


「……っ」


 視界に入った瞬間、頭が真っ白になった。


 オヤジが、倒れている。


 血が広がっている。


 その前に、騎士。


 立っている。

 いや、立ってるだけ。


 目が死んでる。

 呼吸もない。


 なのに、動いている。


「やめろ……それ以上、近づくなよ……!」


 騎士は、反応しない。


 ただ、一歩。

 ギチ、と。


 関節が鳴る。


「……っ!!」


 体が先に動いた。


 手作りヨーヨーを振る。


 全力で。


「やめろぉぉぉ!!」


 ――ガンッ!!


 直撃。確実に当たった。

 なのに、止まらない。


 微動だにしない。


 もう一度、叩きつける。


 ――ガンッ!!


 それでも、変わらない。

 効かない。意味がない。


 騎士が、ゆっくりとこっちを見る。


 その目は、空っぽ。

 俺なんか、見てない。


「……っ」


 足が、すくむ。

 でも、逃げられない。

 オヤジが、後ろにいる。


 その時。騎士は、ふいに興味を失ったみたいに視線を外した。


 くるりと背を向ける。

 ギチ、ギチ、と音を立てながら。

 そのまま、どこかへ歩いていく。


「待てよ……」


 声が、出ない。追えない。

 ただ、見てるだけ。


「……オヤジ!!」


 我に返って、駆け寄る。


 血が、多すぎる。


「しっかりしろよ……!」


「……ユッキー、か」


 オヤジが、目を細める。


「無事……だったか」


「何言ってんだよ……!」


 手が震える。


「今、手当て……!」


「いい」


 遮られる。


「……もう、分かる」


 その声は、妙に落ち着いてた。

 だからこそ、嫌だった。


「……っ」


 言葉が出ない。

 その時、ふと頭の中に浮かんだ。


ーーーー


 最初の日。


 この世界に来たばかりの頃。

 居場所なんてなくて、ただフラフラしてた。


「……なんだ、ガキ」


 声をかけてきたのが、オヤジだった。


「そんな顔してっと、鉄より鈍くなるぞ」


「……は?」


 意味わかんなかった。


「飯、食ったか」


 そう言って、奥に引っ込んで。

 パンを投げてきた。


「食え」


「……なんで」


「腹減ってる顔してる」


 それだけ。理由なんてなかった。

 でも、それで十分だった。


「……ありがと」


 小さく言ったら、


「聞こえねぇ」


 って返された。でも、ちょっとだけ笑ってた。


 あの時。


 初めて、ここにいていいって思った。


ーーーー


「……ユッキー」


 オヤジの声。


「……見せてみろ」


「……え?」


「お前の……ヨーヨー」


 俺は手作りヨーヨーを渡した。


「……へたくそだな」


 オヤジが、笑う。


「うるせぇよ……」


 声が、震える。


「でもな」


 ゆっくり、手を伸ばす。


「悪くねぇ」


 その一言で、胸が詰まる。


「……だからよ」


 オヤジが、懐を探る。

 取り出したのは――


「……これ」


 思わず、息を呑んだ。


 ヨーヨー。


 でも、全然違う。


 鋼鉄製。


 重厚で、無骨で。ただの遊び道具じゃない。


「いつか……やろうと思ってた」


 オヤジが言う。


「お前用だ」


「……なんで……」


「決まってんだろ」


 息が荒い。


「見てたからだ」


 短く。


「毎日……振ってただろ」


「……っ」


 言葉が出ない。


「これな」


 オヤジが、ヨーヨーを軽く揺らす。


「伸び切った時に……刃が出る」


「……は?」


「戦闘用だ」


 当たり前みたいに言う。


「回して、当てろ」


 その声が、少しだけ弱くなる。


「お前なら……できる」


 ヨーヨーを、俺の手に押し付ける。


 ずしり、と重い。


「……オヤジ」


「……あとは……」


 声が、途切れる。


「任せた……」


 そのまま、動かなくなった。


「……」


 何も言えない。

 ただ。手の中のヨーヨーだけが、やけに重かった。


 走る。息が乱れる。視界が揺れる。

 でも、止まれない。


 手の中の重み。

 鋼鉄のヨーヨー。


「……オヤジ」


 握り直す。


 あの人が、最後に渡してきたもの。

 意味なんて、もう分かってる。


 ――戦え、ってことだ。


「……っ!」


 顔を上げる。

 見えた、ギャンたちのいる場所。


 だが――


「チッ……!」


 ギャンが、押されている。


 死体の騎士が、三体。連携もクソもないのに、数と不気味さで押し込んでいる。


「くっ……!」


 雷をまとった剣を振るうが、捌ききれていない。

 一体が、死角から迫る。


「やべぇ――」


 その瞬間、身体が勝手に動いた。


「ギャン!!」


 叫びながら、腕を振る。

 ヨーヨーを投げる。


 フォワード・パス。

 一直線に、加速。


 ただ投げるだけじゃない。

 戻ってくる軌道を計算した一撃。


 騎士の頭部へ。


 ガンッ!!


 鈍い音。


 首が、不自然に折れる。

 そのまま糸が引き戻される。

 戻る勢いを殺さず――


「っ……!」


 手首を返す。ヨーヨーが、軌道を変える。


「ブレイクアウェイ!!」


 円を描くように回転。

 次の騎士の腕へ。


 そして――


 カチッ。


 伸び切るその瞬間、刃が飛び出した。


「……ッ!!」


 ザンッ!!


 腕が、切断される。

 黒ずんだ血が、飛ぶ。


「ユッキー!?」


 ギャンが目を見開く。


「遅ぇよ……!」


「今来た!!」


 叫び返す。

 止まらない。


 ヨーヨーを、さらに回す。

 回転を維持。

 勢いを乗せる。


「スリーパー」


 その場で回り続ける、持続型。

 だがこれは、ただの遊びじゃない。


「……行け!」


 糸を引く。跳ねるように、前へ。

 刃を回転させたまま突っ込む。


 騎士の胴へ。


 ギャリィッ!!


 削る音。肉と骨を、無理やり削り取る。

 そのまま蹴る。


「どけぇ!!」


 ギャンが、横から蹴り飛ばす。

 騎士が転がる。


「ナイス!」


「借り、返したぞ!」


 短いやり取り。

 でも、呼吸は合ってる。


「……それ」


 ギャンが一瞬、俺の手元を見る。


「新装備か?」


「……ああ」


 短く答える。


「オヤジが、くれた」


「……そうか」


 それ以上は、聞かない。

 ギャンは前を見る。


「なら、使い倒せ」


「言われなくても」


 俺は、ヨーヨーを構える。


 回す。音が変わる。

 軽い音じゃない。

 重い、殺すための音。


「……来いよ」


 死体の騎士たちが、再びこちらを向く。

 ギチ、ギチ、と音を立てながら。


 でも、さっきとは違う。

 逃げない、目を逸らさない。


「やってやる」


 ヨーヨーが、唸る。

 鋼鉄の刃が、光を反射した。


 戦いは、ここからだ。

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