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R.I.P.末期ギャン ―異世界転生―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 アダマンティア大陸 編

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第百二話 ドワーフの腕相撲ギャンブル!俺は単勝、全ツだぜ!!

 翌朝。


 窓から差し込む朝日で目が覚めた。


「ふぁぁ……」


 大きく欠伸をしながら身体を起こす。

 二日酔いもすっかり治っていた。


「昨日はよく歩いたな」


 ドゥルガンの街を観光し、ブレイブリィの歴史を知り、冒険者ギルドまで案内してもらった。


 気付けば丸一日歩き回っていた。


 部屋を見渡す。相変わらず石造りの宿だが、寝心地は悪くない。


「おはようございます」


 隣のベッドからイベルタが起き上がる。


「おはよう」


 俺も軽く手を挙げた。

 そこへ、コンコンと扉が叩かれる。


「起きてます」


 イベルタが返事をすると、扉が開いた。


「おはようございます」


 サトコだった。今日もいつも通り無表情である。


「朝食を食べに行く?」


 俺が尋ねると、サトコは首を横に振った。


「今日はイベルタさんと約束があります」


「約束?」


 イベルタが嬉しそうに微笑む。


「昨日、宿の女将さんに教えていただいたんです。ドワーフの女性達が通う美容店があるそうで」


「美容店?」


「エステです」


 サトコが淡々と補足した。


「肌の手入れや温泉、全身の疲労回復を行う施設らしいです」


 ドワーフにそんな文化があるとは意外だった。

 イベルタは少し照れたように笑う。


「せっかくなので、行ってみようかと。女同士で楽しんできます」


 サトコも静かに頷いた。


「たまには息抜きも必要です」


「まぁ、楽しんでこい」


 俺がそう言うと、二人は軽く頭を下げた。


「では、行ってきます」


 部屋を出ていく二人を見送り、俺は一人になった。


「さて……」


 今日は何をしようか。そんなことを考えていると、宿の一階から聞き慣れた大声が響いてきた。


「ギャーーーン!!」


 この声は一人しかいない。


「起きてんだろ!今日はブレイブリィで腕相撲大会だ!早く来い!」


 ガルドだった。

 朝から元気すぎる。

 俺は苦笑しながら荷物を手に取る。


「また騒がしい一日になりそうだ」


 ガルドに連れられた俺達は、巨大な円形闘技場・ブレイブリィへ足を踏み入れた。


 昨日は遠くから見ただけだったが、中へ入ると、その広さは想像以上だった。かつて命のやり取りが行われていたとは思えないほど、今は明るい歓声に包まれている。


「始まるぞ!」


 ガルドが笑う。

 観客席は既に満員だった。中央には頑丈な石の台。

 その上に腕相撲用の机が置かれている。


「参加者は十六人!」


 司会のドワーフが大声を張り上げた。


「総当たり戦で優勝を決める!」


 巨大な掲示板が掲げられる。


 そこには参加者の一覧が書かれていた。


 名前。

 年齢。

 身長。

 体重。

 そして通算戦績。


「競馬新聞みたいだな……」


 俺は思わず笑う。

 その横には、オッズ表まである。


 単勝・二連単・二連複・三連単・三連複。

 五種類の賭け方、完全にギャンブルだった。


「やっぱ好きなんじゃねぇか、この国」


 俺が呟くと、ガルドは肩をすくめた。


「死人が出なきゃ問題ねぇ。ルミナス様のおかげさ」


 俺は一覧を眺める。


 ガルド。

 二十八歳。

 百四十八センチ。

 九十八キロ。


 戦績、一二三勝十敗。


「……強ぇな」


「まぁな!」


 ガルドは胸を張る。


「今年は優勝候補だ!」


 俺は迷わなかった。


「単勝」


 受付嬢が顔を上げる。


「誰に賭けますか?」


 俺は笑う。


「ガルド」


 手持ちのゴールド全てを置く。


「単勝一点、全ツ」


 受付嬢が頷いた。


「ガルド選手、単勝ですね」


 その瞬間、銅鑼が鳴り響く。


 第一試合、開始。


「はぁっ!」


 ガルドの腕が振り下ろされる。


 ドゴンッ!


 対戦相手の腕は一瞬で机へ叩きつけられた。


「勝者、ガルド!」


「おおおおおお!!」


 観客席が揺れる。


「相変わらず強ぇ!」


「今年も優勝候補だ!」


 ガルドは軽く腕を回すだけだった。


「次!」


 第二試合。

 第三試合。

 第四試合。


 圧勝、勝負にならない。


 百キロ近い体格から繰り出される腕力は圧倒的だった。対戦相手が歯を食いしばろうと、二秒ともたない。


 俺は腕を組む。


「強ぇな……」


 受付嬢も感心したように頷く。


「現在、十一連勝です。」


 会場の熱気は最高潮だった。


「ガルド!」


「優勝だ!」


「金返せよ!」


「いや勝て勝て!」


 賭け札が飛び交う。

 俺は苦笑する。


「これだけ人気ならオッズ低そうだな。」


 それでも単勝に賭けたことは後悔していなかった。


 そして。


「いよいよ決勝戦!」


 司会が声を張り上げる。


「無敗の優勝候補、ガルド!」


 歓声が響く。


「対するは――」


 その瞬間だった。


 ドゴォォォォン!!


 轟音、ブレイブリィ全体が大きく揺れた。


「なっ!?」


 観客達が悲鳴を上げる。


 入口の巨大な門が吹き飛んだ。砂煙の向こうから、武器を構えた集団がゆっくり姿を現す。


 緑色の鱗、鋭い牙、縦に裂けた瞳。

 まるで巨大な蜥蜴だった。


「リザードマン……!」


 ガルドの表情が変わる。

 二十人以上、全員が槍や剣を構えている。

 先頭に立つ一体が叫んだ。


「ドワーフども!」


 怒りに満ちた声がブレイブリィへ響く。


「お前らがヴォルカヌス火山から採掘を続けるから!」


 槍を突きつける。


「濁り雨が降り始めたんだ!!」


 会場がざわつく。ヴィルグラム王の側近らしきドワーフが前へ出た。


「何を言っている!」


 怒鳴り返す。


「確かに採掘はしている!だが、濁り雨と何の関係がある!?」


 リザードマンは首を横に振る。


「預言者様がおっしゃった!」


 その目は狂信者のようだった。


「あのお方の預言は必ず当たる!つまり、貴様らは悪で間違いない!!」


 一斉に武器が向けられる。

 観客席から悲鳴が上がった。


「きゃあああ!」


「逃げろ!」


「子どもを連れて行け!」


 さっきまで歓声に包まれていたブレイブリィが、一瞬で戦場へと変わる。


 司会が叫ぶ。


「大会中止だ!女子供は避難しろ!」


 ガルドは戦斧を掴み、俺の前へ立った。


「ギャン!いきなりだが、観光は終わりだ!」


 俺は苦笑しながら背中のサンダーグラディウスを握る。


「どうやら、そのみたいだな」


 腕相撲大会は、決勝戦を前に幕を閉じた。


 そして俺達は、突然巻き起こった戦いへと巻き込まれていくのだった。

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