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後編


―卒業式の晩餐会

卒業生たちがそれぞれ最後の思い出にダンスをしている。


自分も昨年はこうしてダンスを踊って、令嬢たちが列をなしていたな・・・と愉悦に浸る第1皇子ティオリア。


数年前から、皇子同士の派閥争いが激化し、自分への評価も厳しくなった。

側近も、依然と比べ厳しいものに変えられた。


それでも、自分が次期皇帝である、と疑わなかった。

なにせ、父王に愛されているのは自分。

母の身分が低かろうが、帝国で一番権力を持っている父に愛されているのは自分だから、自分は皇帝になれる、と疑うわけがなかった。


ティオリアと第2皇子であるジャクソンには婚約者がいない。にも拘らず、末っ子の第3皇子には婚約者候補がいる。

しかも、貴族界では有名な令嬢ばかり。


ティオリアはそのことが理解できず、自分にも素晴らしい婚約者が必要だと思い、大公家の公女であるエリザベスに婚約の打診をしたのだった。


それも、皇帝に相談せずに。母であるエリスが拍手で喜んだがために。


エリザベスを探してきょろきょろしていると、ロレッソの婚約者候補の一人モーフィスト伯爵令嬢が一人で立っていた。


他の令嬢に比べ身分も劣るのに、婚約者候補としてしがみつく、浅ましい女。

しかも、他の令嬢は自分よりも劣るとして他の婚約者候補たちに暴力を振るったり、暴言を吐いたりするのだそうだ。


ティオリアは一度ヴィクトリア自身に注意をしにいったことがあった。


しかしヴィクトリアはきょとんとして、悪びれもなく肯定までしたのだ。


そこでティオリアは思いついた。

断罪をしよう。


最近ロレッソは手柄を立て続け、臣下たちの覚えもめでたい。

ティオリアはチャンスがなかなか巡ってこず、手柄を立てることもできず、負けっぱなしであった。



ここで、ロレッソの婚約者候補を断罪すれば、ロレッソの信用は落ち、自分の株が上がる。


ティオリアは近くにいた侍従に命じて、最近集めていたヴィクトリアの素行調査の資料を持ってこさせた。








遠い意識の中で、誰かが呼ぶ声が聞こえた。

何を言っているかわからないけれど、泣いているの?



「ルアン!!」

エリザベスが泣きじゃくりながらルアンの目の前に顔を近づけていた。


「・・・ベス様・・・」


少しずつ意識が回復する。


「・・・どうして・・・」


「気分はどうだい?」

アレクサンダーがエリザベスの後ろから声をかけてきた。


「アローシェン様!申し訳ありません・・・私・・・」


「いや、大丈夫だよ。通用口のほうから運んだから誰にもみられていないし。」


「一体何が起きたのですか!?なぜルアンが気を失うようなことに!!」


「ベス。落ち着きなさい。」

オリバーが妹を諫めた。


オリバーに止められても、エリザベスは心配そうにベッドの足元に座って起き上がるルアンに手を貸そうとしている。



「倒れる前のことを覚えているかい?」

アレクサンダーの言葉にルアンは考える。


グレイスからドレスを借りて。・・・借りた?

それで、晩餐会に。・・・何の?

何故かアレクサンダーと話していた。・・・何を話していたっけ?



「少し混乱しているようだね。」


アレクサンダーが呟きながら思いついたように全員に声をかけた。


「僕は思うところがあるから、皆は晩餐会に戻って。そろそろダンスも終わって卒業生の言葉だろう。」

アレクサンダーが言うとエリザベスが返した。


「でしたら、わたくしが残りますわ。アレクお兄様は卒業生なのですから。」


アレクサンダーは苦笑しながらエリザベスの頭を撫でた。

「僕は留学していて、1年上だし、何か特別な思い入れとか、社交が必要ってわけでもないし。大公家は残ったほうが良い。なんか嫌な予感がするしね。リズはオリーから離れないようにね。」


アレクサンダーとオリバーとエリザベスと、アレクサンダーの妹のエリスは、従兄弟でもあるため、兄弟のように育ったことから、気を抜くと互いを愛称で呼びあう。



アレクサンダーの言葉に、オリバーは頷きエリザベスを連れて部屋を出た。


「一番最後の記憶で鮮(・)明(・)に覚えているのは?」


「鮮明・・・・夏の期末テストでしょうか。」





夏の期末テスト・・・―


基本的にテストは3度行われる。

年度初めと年度終わり、そして中間試験。


年度初めのテストは筆記試験のみ。

中間試験と何度終わりが筆記と実技なのだが。


中間試験に関しては、全学年合同での実技試験になる。


試合形式で行われるため、三日に分けて行われる。

初日は団体戦、残り2日はトーナメントになる。


団体もトーナメントもくじで決められるのだが、ルアンはロレッソと1個上だがお目付け役として留年することになってしまったマシュー、ブレイス公爵家のメリアンナ、アンディオン王国のジョスリーン=ライディオン、伯爵令息のジョナス=ヨルドー、子爵令息のケイン=ルボルドが同じチームであった。


ルアンは特待生であったことから成績上位をキープしなくてはならなかったため、常に5位以内であった。

それは筆記だけでなく、実技もだ。


もちろんそのことで貴族令嬢から、いろいろ言われたが特待生なのだから仕方ないのだ。


ルアンは平民のわりに、堂々としていたし、いけしゃあしゃあとしていたため、令嬢たちのいじめにも全く動じることがなかった。


そして、礼のクライシス家の私生児という噂が流れてから令息たちからも、不躾な視線だったり乱暴に扱われそうになったが、元々タティファ家に世話になっていたルアンにしてみれば、自然な様子でかわすのは簡単だった。


つまり、何が言いたいかというと、平民にも拘わらず貴族たちからの総攻撃を物ともしないルアンは、教員たちから試験で偶然を装って何かしかけられる可能性もあるから、特に注意するように言われていた。


チームメンバーに関しては、ロレッソがいるし、他のメンバーも基本的には温和な人ばかり。


そこまで心配していなかったルアンは、後々油断した自分を後悔する。




団体試験内容は学院の敷地にある森で、“防衛に特化した討伐訓練”であった。


元々、ロレッソは攻撃魔法が得意であったし、婚約者候補のブレイス公爵令嬢は魔力量が少なく後方支援型であった。マシューは元々、ロレッソの側近候補ということもあって、参謀型の攻撃タイプ。

他の3人も後方支援型か攻撃型であった。


ルアンは攻防どちらにも特化していた。元々一番得意なのは磁波重力魔法だが、これに関しては使えるのがばれてしまうと、父の二の舞になる可能性があるため、隠すように言われている。


他で言うと、風魔法と水魔法が得意だった。

よく使うのは風魔法であるため、クラスメイトには風魔法が得意だと思われている。


風魔法は基本的に“防衛”に特化している。

そしてルアンは平民でありながら学院に入学できるレベルであることから、魔力とマナも相当なものだった。


ルアンの使う風魔法はかなり強力なのだ。


そのため、本来チーム分けは“攻撃”“防衛”“後方支援”が平等に割り振られるはずが、ルアンの魔力を考え、“防衛”をルアンのみにしたのだ。


しかし、ここで問題なのがルアンは風魔法が得意だが、“攻撃”に特化した風魔法であった。


試験が“防衛”のため、防衛に特化した試合内容にしなくてはならない。


ルアンが使える“防衛”の魔法は磁波重力魔法のみ。

しかし、人前で使えない。

これにはルアンもほとほと困ってしまった。



本来、魔法には種類があるが、その中でもタイプに分かれている。

8つの魔法それぞれに、攻撃タイプと防衛タイプというのがある。


そして、8つの魔法にも特異なタイプというのが存在していた。

例えば、火魔法、水魔法は防衛の魔法もあるが、基本的に攻撃が得意。

逆に光魔法、土魔法、風魔法は防衛が得意とされている。


読み取り魔法と幻覚魔法、磁波重力魔法は、後方支援型のように、防衛や攻撃の助けとなる、という見解である。



ルアンは本来、防衛に特化したはずの風魔法を、難しい方の攻撃タイプで得意としてしまっていた。


それはそれで規格外。


というわけで、課題を発表するのは試験開始直前のため、全員知る由もなかったのだが。

一様、その場にいる全員にその話をすると・・・とても静かになった。


最近のロレッソは成績も良く、徐々に上昇傾向にあるため、実技だけはおとしたくない。

それがその場にいる相違であった。



婚約者候補のブレイス公爵令嬢がため息をついて、ほんの一瞬ルアンを睨む。


彼女、才色兼備とか言われてるけど、性格にかなり難がある気がする・・・。


その場の微妙な空気を消したのはロレッソだった。

「仕方ない。“風魔法が使えるから防衛に特化している”という考えに、偏った教員たちにも問題があった。問題は、“どう防衛するか”だ。基本実践を想定した課題なのだから、何とかなる。」


く・・・お母さんは嬉しいよ。


お母さんじゃないけど。

ロレッソの性格を矯正したという自負を持つルアンからすれば、ロレッソの人を庇う発言に感動したのだ。



「考えたのだが、以前宮廷の教師に言われたのだ。攻撃は最大の防御、と。」

ロレッソの言葉にマシューは得心の言った顔をした。


「なるほど。こちらから攻撃をせずに、向こうが仕掛けてきたときに攻撃で防衛するということですね。」

ブレイス公爵令嬢が自身気に言った。


「いや」

そこでロレッソはにやりとする。


「先制攻撃を仕掛ける。相手も傷つけないような。」


全員がロレッソの言葉に固まる。


静かになった状態のまま、ロレッソはこっそりルアンに視線を向ける。アイコンタクトをしたルアンが続きの言葉を紡ぐ。

「相手の防衛を討つ。つまり、相手が戦闘不能になるような基を絶つ、ということでしょうか?」


ロレッソがニッコニコの笑顔で頷く。それも何度も。


首折れますよ。


「さすがル・・・ロシェ嬢だ!!うんうん!!」

嬉しそうに頷く。


ロレッソなりに、ルアンがチームに馴染めるよう気を使ってくれたのだろう。




そうして、ロレッソ筆頭のチームは各チームの弱点となる基を絶つことにした。


順当に他チームを戦闘不能にしていく。


止めが入らないため、“反則”とは判断されなかったのだろう。


サクサクとことは進み、まさかの決勝だった。

しかも、相手は憎きシリウスのチーム。


シリウスとソーマ侯爵家の姉妹、その他男子が3名。


ロレッソの作戦としては、シリウスが知略に長け、ソーマ家の長女も賢く聡明のため、その二人に注意し重点を置くとのこと。


まあ、間違いではないが。

婚約者候補でもあるソーマ家の次女を全く眼中にいれていない。それはそれでどうなのだろう。


そして、ロレッソの予想。

シリウスは冷静な人間だが、ルアンに対してだけはすぐ我を忘れる傾向にあり、ソーマ侯爵家の次女はプライドが高いうえ、物事の視野が狭いことから、他の婚約者候補に対してかなり攻撃的なのだとか。


間違えていないけど。


と、いうわけで、ルアンがシリウスのみの陽動、ブレイス公爵令嬢がソーマ侯爵家二女のみの陽動ということになった。




作戦通りというか、本当にそれでいいのか相手チーム、と思うくらいの勢いで、シリウスとソーマ侯爵家の次女がこちらの思惑に乗った。


その隙に、ロレッソとマシューでソーマ家長女を足止めし、他のメンバーが防衛のメインをしていたと思われる生徒に向かう。


相手チームは風魔法の防衛を展開しており、相手の魔法を自身の魔力で打ち消し、“防衛”の基を絶った。

お相手チームの人は再度魔法を展開しようとするが、相手の魔法で打ち消されたことでうまくいかず、そのままルアンのチームが勝った。



因みに、自分の魔力で相手の魔法を打ち消すと、相手は自分の体内に相手のマナが微量入り込んでしまい、中々魔法を展開できなくなるのだ。

そして、打ち消した側も自身の魔法を展開できるようになるまである程度時間が必要になる。


ルアンたちはそれを順番に行い、相手を潰していった。

試合が終われば、ポーションで一時的なマナ調整を行い、使えるようにしていた。


後でどっと疲れてしまうが仕方がない。




問題はそのあとだった。

まあ、シリウスたちが文句ばかり言うのだ。


本来魔力の打ち消しは攻撃に部類される。

なにせ、攻撃することで打ち消すから。


それにずっと文句を言い続けていた。


まったく。


ロレッソが教員に説明を求められた。

堂々とした姿で一歩前に出る。


本当に皇子になったな。。。


感慨深い思いでロレッソの背中を見ていた。


「攻撃は最大の防御、という言葉があります。防衛とは基本的に守護のためにあるもの。つまり、相手に傷を負わせず自分たちを守ることができれば、それは“防衛”となります」


ロレッソの言葉に周囲は「なるほどー」とか「さすが殿下だ・・・」とか言っているのが聞こえた。


ロレッソの言葉に教員たちも納得し、そのまま優勝が決定した。



勝敗が決まり、ルアンは次の日の準備に一度教室へ戻ろうとした。


昇降口の近くでシリウスが待ち構えていた。

「一体どういうつもりだ?」


久しぶりに面と向かって話す。


「何がですか?」


「しらばっくれるのか。皇族に対する幻覚の能力は禁忌だ。ロレッソ殿下に何をした!!」


「何もしていませんけど?」


「貴様はあの女の娘だ!どうせ父上に対してしたのと同じように、お前もしたんだろ!」


「ですから、いったい何の話ですか?」


「カエルの子はカエル。娼婦の子は娼婦だ。図に乗るな。娼婦の分際で貴族のつもりか?」


ええ、もちろん、一発殴りました。グーで。

いくら貴族でも、いくら平民でも、言っていいこととダメなことがありますとも。


平民が貴族に守ってもらえるように、貴族は平民のおかげで暮らせていますから。

それを忘れてはいけません。

それを教えてやりました。


問題になりました。

ええ、大問題に。

校則変更をお願いしたはずの私が起こしましたから。


クライシス公爵が呼び出されました。夫人とともに。


ご夫妻でいらっしゃって、息子の話を聞き、私の話も聞いてくれました。



夫人であるエルダが二人はなしを聞いて顔面蒼白になった。

「・・・旦那様。わたくし、教育を間違えたのでしょうか・・・」

ショックに彩られた表情でつぶやく。


「母上!母上は何も悪くありません!貴族でしかも公爵ですから愛人を持つこともあるかもしれませんが、そこはきちんと線引きをすべきです。愛人も図に乗って分をわきまえないなど・・・」


シリウスの言葉がそこで止まった。

母であるエルダが、シリウスの頬を引っ叩いた。


ショックだったのかシリウスは固まっている。


エルダは怒りで顔を赤くしている。

夫であるセストは妻の肩に手を乗せ、落ち着くように言った。


「・・・サメイラ様に秘密にするように言われましたが、わたくしたちの息子がサメイラ様とルアンちゃんこんなことを言うなんて・・・」


ルアンも驚き絶句していた。エルダの独り言も耳に入ってこなかった。


ルアンの中でエルダはきつい顔立ちをしていても、とても優しくおおらかな女性だった。

子供たちにも愛情深く優しい人であった。


そんな夫人がシリウスの頬を叩いたのはルアンにとっても驚きであった。



結局、シリウスは公爵夫妻が再教育ということで3か月領地に連れて帰り、ルアンは1か月の謹慎となった。







―そうして現在

「・・・あの時期くらいから記憶があいまいな部分が多いです。」


「君が謹慎になったときか・・・たぶんその前後で、幻覚魔法の“魅了”か“操縦”をかけられたんだろう。」


アレクサンダーの言葉にルアンは驚く。


「そんな高度な魔法ということは、誰かが学院に入り込んだ・・・?」

「もしくは、教員か。」


ルアンは家が遠いのと平民であることから卒業まで寮暮らしとなる。

学院内にしかいないルアンと接するには1か月に1度の外出時だけだ。1日しか外出できないため実家に戻ることもできず、ルアンは基本学院から出ない。



「ちなみに君の記憶があいまいな時に、執着していたことは?」

ルアンの思考にアレクサンダーの言葉が響いた。


「・・・執着?」


「うーんと・・・曖昧な記憶の中で“これをしなきゃ”って思っていたこと。」


「・・・帝国の歴史を調べる・・・ことでしょうか。」


「帝国の歴史?・・・理由は心当たりあるかい?」



帝国の歴史を調べようとしたのは・・・


本当に帝国の歴史だった?

いや、歴史はただついでというか・・・

本当に調べたかったのは・・・


マナ。

そして、魔法の起源。


その2つに固執していた。


元々図書室にはよく行っていた。

しかし、ほぼ1日中いるようになったのは、中間試験の前後だ。


なぜ。いつの間に。



「どうやら、君にかけられた幻覚の魔法は誰かを介してかけられたようだね。父上ならわかるかもしれない。」

アレクサンダーが扉に向かい、外にいる誰かに何かを言っていた。


ルアンは不思議そうに見つめつつ、ふとメイラを思い出す。


そういえば、メイラはどうして卒業式でるように言ったのか。

それに舞踏会にメイラがいた。

いや、雰囲気が全く違ったからメイラではないかもしれないが、メイラにそっくりだった。


目的は何も果たせていない気がする。


ルアンはゆっくりベッドから足を下ろした。

すると、アレクサンダーが戻ってきた。


「起きて大丈夫かい?」


「大丈夫です。会場に戻りましょう。」


「いやいや。無理しないで。僕は大丈夫だから。」


「いえ、戻りましょう。なんだかすごく・・・嫌な予感がするのです。」

アレクサンダーは渋い顔をしつつ、ため息をついた。


「わかったよ。ただ、君に魔法をかけた人を見つけるために、僕の父上に会ってもらう。いいね?」


仕方がない。


「・・・わかりました。」



ルアンはアレクサンダーとともに会場へと戻った。





侍従に扉を開けてもらい、会場に入るとまさに修羅場で会った。


中心には、ロレッソとティオリア、それにヴィクトリアと他の婚約者候補たち、そして見たことのない少女が立っていた。


最初にルアンたちの耳に声が届いたのは、ロレッソだった。


「兄上・・・落ち着いてください。ジャクソン兄上の卒業式の場でこのような・・・」

ロレッソの言葉に周囲にいた貴族令息令嬢たち、少し離れたところにいる大人たちも頷く。


「フンっ・・・こういう場だから。誰も逃れられないだからこそだ。」


人の卒業式をなんだと思っているんだ。


どこからか声が聞こえた。


「皆も聞け!ここにいる伯爵令嬢のモーフィストは、ロレッソの婚約者候補の中で一番身分が低い。婚約者に選ばれることなどない!にも拘らず、自分は妃になれるなどと勘違いし、すでに自分よりも優れている他の候補者たちに危害を加えだした。

自分が疑われないように、自分が襲われたように見せかけ始めた。それには父親の力もあっただろう!身分も低く、無知なモーフィストはいやしくも皇族の一員に入りたいがために、分もわきまえない。」


ティオリアが饒舌に叫んだ。

そして、ロレッソに視線を移す。


「・・・皇子であるにもかかわらずこのような女を婚約者候補にしているなど・・・先が知れたな。」

馬鹿にしたような笑みを浮かべるティオリア。

ロレッソはイラッとしているのがわかるレベルまで目を細め、眉間にしわを寄せていた。


ヴィクトリアは・・・無表情であった。

ロレッソが守るように、自分の後ろに立たせていた。


「ここで、皆にも報告しよう!エリザベス=ルシリア!」


ティオリアに呼ばれたエリザベスは顔面蒼白で兄のオリバーに引っ付いていた。


オリバーはため息をつく。


「今回のモーフィストの罪は皇家にとって恥であり、スキャンダルにも値する。そこで、由緒正しき大公家のエリザベス=ルシリアと私、ティオリア=シース・バールが婚約することとなった。」


エリザベスは倒れ、オリバーは舌打ちし、他の皆も絶句する。


子供世代ですら、皇帝のスキャンダル事件を良く知っている。それを教訓に浮気をする前に婚約解消をすべきという考えを持っていたし、婚約中なら浮気をすべきではない。

そして、貴族同士の婚姻は政略的な意味もあり、帝国を守るためにも必要であるから、安易に破棄するものではない。


子供たち世代は大人たちからこのことに関して特と言いつけられていた。



ちらほら拍手が聞こえるが、たぶん第1皇子派だろう。



最近第3皇子の株が上がり始めて焦った第1皇子派の作戦だった。



「騎士よ!ヴィクトリア=モーフィストを捕らえよ!!」


「兄上!!」


醜悪な顔で叫ぶ兄を、ロレッソが止めた。


「・・・ヴィクトリアがやったという証拠があるのですか?」


「当り前だ!」

そう言って、輪の中にいた見慣れない少女を前に出す。


「彼女は3学年の平民だが優秀で学院に入学した娘だ。モーフィストが他の候補者たちの持ち物を壊したり、隠したりしているのを目撃している。他の令嬢も何人か見ている。」


ロレッソが自分の周囲をみて他の候補者たちに視線を向ける。


「君たちは本当にヴィクトリアに何かされたのか?」


誰も何も発さない中、エヌオール国のジュリアナ=ケイヒルが最初に声を発した。

「わたくしは、自国の兄より持たされた国のお守りの宝石のついた箱を盗まれました。」


「ほらあ!!」

もうすでに自我を失っているであろうティオリアが指をさして喜ぶ。


「ですが、モーフィスト様がやったかどうかはわたくしは知りません。何せ犯人はわかっておりませんから。」


「!・・・っしかし、目撃者がいるのだ!!」


そこで、ロレッソがため息をついた。

「兄上・・・お言葉ですが、私の母は皇后です」


ロレッソの言葉にティオリアは顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。

「はっ!皇后の子だからどうした!!私は陛下に愛されている!皇后など、皇帝の前で何の権力もない!!」


「いえ・・・まあその話は良いとして、私が言いたいのはそう言うことではなく。“あの皇后”です。婚約者候補たちを月に2度お茶に誘い、彼女たちの立ち居振る舞いを見て、私の婚約者としてふるいにかけているのですよ。そんな母上が、彼女たちに監視をつけないと思いますか?」


ロレッソがあきれ顔で言う。


「なんだと?どういう意味だ。」


「母が先導している彼女たちへの妃教育はかなり厳しく、少しのミスも許されません。それは宮廷内に限ってではなく、学院でも自分の屋敷でもです。必ず彼女たちの周囲には母上の命令で彼女たちを監視している者たちがいるのです。」


ティオリアの顔色は変わった。


「ルアン=ロシェ、フィレオ=ジョスエル、ケイン=ルボルド!」


あ、呼ばれた。


ルアンはアレクサンダーに礼をして、騒ぎの輪に入っていく。


ロレッソが全員そろったのを確認し、ティオリアに視線を戻す。

「ここのいるものたちは母上からの命で、学院内での候補者たちの動向を見て、週に一度レポートにまとめて母上と皇妃様に提出しています。他には教員にもいますし、皇族の影も必ず最低3人はついています。それは全て、父上、母上、皇妃様に報告が行っています。」


「そ、そそそんなこと聞いていないぞ!母上も何も聞いていない!!」


ティオリアの言い分にロレッソはため息をつく。


「皇后と皇妃は地位として国政に携われます。ですが、側室は国政には携えません。エリス様がそのことを知ることはありません。兄上が知らないことのほうが問題ですよ。」


「な、なんだと・・・!」

ティオリアの目が血走っている。


「兄上が公務をこなしていれば、皇帝の影のことも、彼らが皇族全てについていることくらいはわかるはず。大公家との婚約だって、兄上とエリス様が勝手に言っているだけで、大公は了承していないし、陛下も皇后も了承していませんよ。」


「いい加減にしろ!エリザベスは喜んでいるし!父上にかなう人間などいない!そして、父上は私の願いを叶えてくれるだろう!!大公ごときねじ伏せてくれる!!貴様!!それ以上母上を侮辱するのなら許さぬぞ!!」


「侮辱などしていませんし、兄上は今父上すらも貶めたとなぜ気づかないのです。」


“父上は私の願いを叶えてくれる”


ティオリアの傀儡と言っているようなものだ。


ティオリアは近くにいた騎士の剣を奪いロレッソに向かった。


咄嗟にヴィクトリアがロレッソの前に出て、その前にルアンも走り出た。


何しろ、ロレッソは魔法はまあまあできるが、剣武術が苦手なのだ。

逆にティオリアは剣武術がとても得意であった。


ティオリアが振りかぶりルアンに向かって剣を振り落とす。

キイイイン・・・・


剣と剣がぶつかり合う音が響く。

ルアンが顔を上げると、オリバーがティオリアの剣を受けていた。


この場でロレッソとジャクソン以外にティオリアに向かっていける人物。


ティオリアたちの従兄弟であり、大公家の嫡男。

彼が後を継ぐときは公爵となるが、それでも彼自身優秀であり、人望もある。



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