ラックの覚悟
「とりゃぁぁぁ! 突撃だぁ! ……と見せかけて、ターン! そのまま直進! ……からのジャンプ! そして、着地……と思わせて空中ジャンプ! 更にバックステップ!」
「……うっぷ。み、みのりんさん……。出来れば少しだけ手加減して頂けると……」
「そんな余裕はない! 全力で走り回ってないとレーザーに飲み込まれちゃうもん!」
背中のラックが真っ青な顔で苦情を述べるも、みのりんは、あっさりと却下する。
一瞬たりとも気が抜けない熾烈な戦闘の最中なので、当然と言えば当然だ。
「そ、それは、そうなんですけど……。前後左右、加えて上下に激しく動かれると猛烈な吐き気が……」
とはいえ、ラックは、この作戦の要。
その体調の悪化は勝敗の行方に大きな影響を及ぼしてしまう。
ここは無理をしてでも、何か手を打つべきか……。
そんな事を考えた、まさに、その瞬間。
人型兵器の攻撃がピタリと止まった。
「……何か嫌な予感がするなぁ」
ひとまず足を止め、人型兵器の挙動を注意深く観察しながら、みのりんが呟く。
カナとベイドのコンビが何かを仕掛けた様子もない。
にも拘らず人型兵器は動きを止めたのだ。
不吉な何かを感じるのも無理はないだろう。
そして、その予感は見事に的中した。
「ちょ、みのりんさん! 明らかにヤバそうな雰囲気ですよ!?」
小休止を挟んだことで、少し元気を取り戻したラックが高らかに叫ぶ。
その指が指し示す先では、全身を真紅に染めた人型兵器がエネルギーを収束していた。
これまでとは比較にならない程、強力なレーザーを放つ気だろう。
それ故に長い【溜め】が必要で、今、そのカウントダウンが始まったという訳だ。
「……仕方ない。ラックさん、よく聞いてね。私が今から、あのレーザーを迎え撃つ。その隙にラックさんは、あのロボットに接近して。それでレーザーが収まった瞬間、心臓部にトドメを刺して欲しいの」
みのりんが口にした内容は、もはや作戦とも呼べないような、強引な筋書きだ。
それを聞いたラックは、予想通り狼狽を見せ、首をブンブンと横に振る。
「む、無茶ですよ! あんなに膨大なエネルギーを相殺できる訳ありません! 二人まとめて消し飛ばされるのがオチですってば! そ、それよりも今のうちに避難しましょう! さっきみたいに部屋の隅で縮こまっていれば、なんとか凌げます!」
必死になって安全策を主張するラックだが、恐らく自分でも気付いているのだろう。
それが儚い希望であり、決して実現しないことを。
自信なさげに揺れている、その瞳が、何よりの証拠だ。
「それこそ無茶だよ。あれだけ溜め込んだエネルギーを解き放つんだから、この部屋に安全な場所なんてない。勝つためには、真っ向から立ち向かうしかないの」
「そ、そんな……」
肩を落とすラックだが、やはり、その可能性は想定していたようで、それほど大きな落胆は見られない。
「大丈夫、私を信じて。私もラックさんを信じてるから。それに、カナちゃんや、ベイドさんのことも」
「みのりん、さん……」
「さぁ、迷ってる時間はないよ! 来る!」
みのりんの声と共に、人型兵器が、一際激しい閃光に包まれる。
そして、ラックの覚悟が固まらぬまま、最後の攻防が幕を開けた。




