囮と弱音
「うわぁぁぁっ!?」
もう何度目になるか分からない絶叫を上げつつ、柱の陰に向かって頭から飛び込むラック。
そして、そんな彼を射抜かんとするレーザーが、一瞬遅れて柱に殺到する。
その衝撃が轟音と暴風を生み、辺りを蹂躙するが、柱自体の損傷は至って軽微なものだった。
ちなみに、間一髪の所で回避に成功したラックは、床に伏したまま額に汗を浮かべて、浅い息を繰り返している。
「オラオラ! レーザーを凌いだら、さっさと次のポイントに移動だ! 休んでる暇は無ぇぞ!」
「ぜぇ……ぜぇ……。む、無茶を言わないで下さい……。」
人型兵器との戦端が開かれてから、既に数十分が経過している。
その間、飛び交うレーザーを避けるために、ほとんど走りっぱなしだったのだから、ラックの疲労も無理はない。
むしろ、ラックの数倍に当たる量の運動をこなしながら涼しい顔をしているカナが異常なのだ。
この世界にスタミナ切れという概念は無いが、精神的な疲労は際限なく蓄積していく。
カナが、これほどまでにタフなのは、普段から激しい戦闘を繰り返してきた成果だろう。
「コイツの突撃を封じるには、コレしか無いんだから仕方ねぇだろ! 」
そう、これは別にラックに対して理不尽なシゴキをしているという訳ではなく、れっきとした作戦なのだ。
人型兵器は視界に映った敵をレーザーで殲滅するが、視界から敵が居なくなると、攻撃方法を突撃に変更する。
そして、その突撃は、挑戦者に与えられた“柱の陰”という安全地帯を削ってしまう。
そこで、カナが隠れている間はラックが囮に、ラックが隠れている間はカナが囮に、
という感じで交互に姿を晒して敵を撹乱しているのだった。
これにより、敵の突撃を防ぐだけでなく、レーザーの照準を合わせ辛くさせている。
そうして敵の得意技を潰し、コツコツとダメージを累積させているのだが、さすがに二人だけでは人手不足が否めない。
現に、こうしてラックが精神的な限界を迎え始めているのだから。
「こんな時に、みのりんさんが居てくれたら……」
「バッカ野郎! 確かに、みのりんは頼りになるダチだけどな! 今は競争相手だろうが! それに、お前自身の力をベイドに認めさせなきゃ意味ないだろ!」
それまで、うつ伏せに寝そべっていたラックが、ベイドの名を出した瞬間にピクリと反応する。
そのまま、しばらく沈黙した後、フラフラになりながらも、ゆっくりと立ち上がった。
「……そうでしたね。僕は、また間違える所でした。この人型兵器を倒して宝を手に入れる事も、もちろん大切ですが、ここに来た切っ掛けは、ベイドさんに対する挑戦だった。自分から喧嘩を吹っ掛けておいて、このザマでは、情けないったらありゃしません!」
「おうよ! 短い期間だったけど、お前は俺様の特訓で鍛えられてんだ! こんな人形の一つや二つ、バラバラにぶっ壊してやろうぜ!」
「はい!」
疲労は抜けなくとも、全身に活力を漲らせ、ラックが戦線に復帰する。
かくして、人型兵器との戦いは、次なるステージへ移行していく。




