誰が為に
「ネネさん! すみません、そっち行きました!」
「大丈夫です! アオバちゃん、お願いします!」
「クーッ!」
トーシローの攻撃を掻い潜り、ネネに襲い掛かる黄金虎。
しかし、アオバが小規模な雷を生み出し、その動きを止める。
その隙にトーシローが距離を詰め、ノックバックの効果を持つハンマーのスキルで、黄金虎を突き飛ばし、ネネから引き離した。
「ナイスです、ネネさん、アオバさん!」
「トーシローさんこそ! 前衛の仕事ぶり、バッチリです!」
トーシローがメインで黄金虎と打ち合い、その間にネネが支援魔法の詠唱を済ませてサポート。
そして、アオバは、いざという時の護衛役。
黄金虎の機動力に掛かると、これでも危なっかしい場面が時々ある。
とはいえ基本的に、この布陣は上手く機能していた。
このまま上手くいけば、戦闘開始前にネネが感じた不安は杞憂で終わりそうだ。
「この調子で、最後まで集中を切らさずに行きましょう!」
「はい!」
「クーッ!」
既に戦闘が始まって10分ほど経過している。
1匹のモンスターが相手にしては、それなりに時間が掛かっている方だ。
というのも、主なダメージソースはトーシローの打撃なのだが、攻撃よりもネネに近寄らせない立ち回りに集中しているため、なかなか決定打が出せないのである。
それでも、着実に攻撃を重ねているので、そろそろ終わりが近い筈だった。
「今のうちに……」
トーシローが離れた位置で、黄金虎を相手しているうちに、ネネはパーティーの共有ストレージからMP回復薬を取り出し、服用する。
今回のクエストで、パーティーを組むに当たり、トーシローが提供してくれたものだ。
共有ストレージに入れたアイテムは、パーティーメンバーなら誰でも使用できる。
トーシローに教えられた機能だが、かなり便利だった。
とはいえ、数は多くなかったため、ほとんど消費してしまい、既に残りは1つだけ。
つまり、無駄遣いは出来ない。
「ぐあっ!?」
「トーシローさん!」
そう考えた矢先、トーシローが勢い良く、こちらに吹き飛ばされた。
HPゲージも、今までに無い勢いで、ごっそりと削られている。
慌てて駆け寄り、回復魔法を掛けつつ、口を開く。
「トーシローさん、何があったんてすか!?」
「あははっ……。ネネさん、申し訳ないです。あいつが突然オーラみたいなのを放って、それから急に強くなったもので。ピンチになって覚醒したんですかね?」
「そんな……」
こうして話している間にも、黄金虎が迫ってきたが、アオバが上手く引き付けてくれている。
それにしても、黄金虎に、そんな能力があったとは。
こんなことなら、気まずい事など脇において、みのりんに連絡を取り、黄金虎の情報を聞くべきだった。
そんな後悔がネネの心を締め付けるが、今となっては後の祭りだ。
それよりも、対策を考えなければならない。
「一か八か、アオバちゃんを護衛から外して、二人がかりで立ち向かえば、なんとかなりますか? どっちにしろ、もうすぐ私はMPが尽きますし、そうなれば足手まといですから……」
「……それでも、厳しいと思います。それに、万が一ネネさんが倒れたら、クエストは失敗になる。その後で、僕があいつを倒しても意味が無いんですよ」
「そう、ですか……」
既に状況は八方塞がり……という訳ではない。
一つだけ逆転の切り札はある。
アオバこと青龍には、1日に1度だけ、MPを消費しないで使える大技があるのだ。
今日はまだ1度も使っていないし、今の弱った黄金虎なら一撃で倒せる威力もある筈。
ただし、それは当然、きちんと当てられれば、の話。
ただでさえ高い黄金虎の機動力が、今は更に底上げされている。
この状態で上手く当てられるとは思えない。
かといって、トーシローに1人で引き付けてもらうのも無理がある。
状況を打開する手立てがあるのに、それを活かすことが出来ない。
その事実に、ネネは悔しくて歯噛みする。
おまけに、涙が溢れそうになるが、それだけは何とか堪えていた。
「トーシローさん、すみません。ここまで付き合って貰ったのに……」
「……大丈夫ですよっ。仲間のために頑張るという、ネネさんの熱意は見せて貰いましたから。今なら調薬も、きっと上手く行くはずです!」
「仲間の……ため」
「クーッ! クゥンッ!」
「っ!? アオバちゃん!」
二人が話している間も、アオバは必死に黄金虎を引き付けていた。
その姿は、ネネのために決して諦めないと、ネネにも諦めてほしくないと、そんな強い意思を感じさせる。
そうだ。
仲間がピンチの、こんな状況で役に立ちたくて、ネネは調薬を学ぶと決めたのだ。
『なのに……仲間が、まだ戦ってるのに……私が真っ先に諦めて、どうするんですかっ!?』
ネネは弱気になった自分が恥ずかしくて、情けなくて、心に込み上げる怒りを押さえきれない。
しかし、無意識に握り締めていた拳を、トーシローが両手で、そっと包み込んだ。
「ネネさん。僕はネネさんが、どんな道を選んでも協力します。ネネさんは、どうしたいですか?」
「私……諦めたくない……。諦めたくないです!」
ネネの言葉に、トーシローは、ふわりと微笑む。
「分かりました。任せて下さい。なーに、【終焉の魔帝:ドラグニル】に比べたら、黄金虎なんてスライムみたいなもんですよ! なんなら、足止めと言わず、僕一人で倒しても構わないんですよ?」
ネネの不安を紛らわすように、おどけて見せるトーシロー。
そんな彼に、なぜか、みのりんが重なって見えて、ネネは思わず吹き出した。
「ふふっ、あははははっ。トーシローさん、それは死亡フラグですよ。まるで、みのりんみたいです」
「死亡フラグが何かは知りませんが、元気になって良かったです! それで、具体的に、どう動きましょう?」
「そうですね……。一つ、思い付いたことが」
ひとしきり笑って、リラックス出来たお陰か、ネネの頭には、とあるプランが浮かんでいた。
それをトーシローに伝え、意見を伺う。
「はい、多少の無茶は生じますけど、やれると思います。僕の役目は責任重大ですね?」
「すみません。トーシローさんしか、頼める人がいなくて」
「構いませんよ。僕にとっても、良い修行になります。では、そろそろ行きましょうか。いつまでもアオバさんに負担を押し付けていられません!」
「はい! ……あの、トーシローさんっ」
「ん、なんですか?」
「勝ちましょうねっ」
そう言って、ネネは握った拳をそっと突き付ける。
トーシローも、すぐに、その意図を汲んだらしく、笑顔で拳を合わせた。
「もちろんです!」
こうして、黄金虎との戦闘は、ついに最終局面を迎える。




