ネネの願い
「もっと、皆の役に立ちたいから……ですか?」
「はい! 私は治癒師としても半人前で、まだまだ出来ることが少ないので、何か一つでも多く、皆の役に立つ技術を身に付けたいんです」
黄金虎を求めて森を探索する道すがら、【何のために調薬するか】をトーシローに問われ、ネネはそう答えた。
調薬に対するモチベーションの話をトーシローに聞かされてから、何度も考えた結果、やはり、それしか浮かばなかったのだ。
ちなみに、アオバはネネの二の腕辺りに巻き付き、お休み中である。
「ネネさんは、いつも本当に友達のために一生懸命ですね。何か特別な理由でもあるんですか?」
「……そうですね。実は私、昔は体が弱くて、あまり、お友達が居なかったんです。なにせ、せっかく仲良くなっても遊べる時間が少ないですから。なかなか親密な関係に成れませんでした」
昔というか、現実の体に関しては、今も似たようなものだ。
しかし、いくら高性能なNPCと言えど、現実と仮想現実の区別は理解できないだろうし、ここでは説明を省略する。
ネネの話を聞いたトーシローは、少しの同情と、納得を秘めた表情を見せた。
「それで、今は友人にも恵まれていて、その大切さを分かっているから恩返しがしたい……と?」
「そんな感じです」
本当は、もう少し複雑な事情があるのだが、あまりペラペラと人に話したい内容ではない。
それに、お世話になっている仲間たちに恩を返したいのも本当だ。
とはいえ、正直なところ、ネネは今の段階でも返しきれない恩があると考えている。
その上で更に皆から優しくされるので、一向に返せている気がしなかった。
だからこそ、ネネは自分が役に立てるステージを常に求め、模索しているのである。
「やっぱり、ネネは優しい人ですね」
「そう、なんでしょうか?」
やりたい事をやっているだけなので、自分では良くわからなかった。
「そう思います。僕なんかは常に自分の事ばかり考えてるので。どうやったら、お婆ちゃんを越える薬師になれるか、とか。どうやったら、もっと強いモンスターの素材を集められるか、とか。そんなことばかり考えてます。それで、素材集めと調薬漬けの毎日なので、実は僕も友達はいないんですよねー」
頬を掻きつつ、『あはは……』と渇いた笑みを浮かべるトーシロー。
そんなトーシローを見て、ふとネネは疑問を抱く。
「じゃあ、なんで、今こうして私の修行には付き合ってくれるんですか?」
NPCであり、設定されたクエストだから。
冷静に考えればそうなるが、つい、どんな答えが返ってくるか気になって質問してしまう。
「あー、それは単純な話です。自分の調薬研究が行き詰まってるので、他の人の調薬に関わって、なにかヒントを得られないかと。ついでに、初めて出来た妹弟子に先輩風を吹かせたいなーなんて」
どことなく、冗談めかした態度を見せるトーシローに、ネネは自然と笑みを浮かべる。
「うふふっ。確かに、自分の事ばかりですね。でも、トーシローさんみたいに、真っ直ぐ前だけを見つめて、自分の道を行く人も私は好きです」
他には例えば、みのりんとか、みのりんとか……みのりんとか。
『って、私、みのりんの事ばっかり考えてるじゃないですかっ! そ、それに良く考えたら、あの二人も、そんな感じですよね!』
少し別行動を取っているだけなのに、もう寂しくなってしまったのか。
そんな恥ずかしい疑問が頭をよぎり、それを振り払うように他二人の友人を頭に浮かべる。
『そうです! カナちゃんは、まさに我が道を行くって感じですし、シオンちゃんは自分の事が大好きですし。べ、別に、みのりんが特別という訳では……』
「あ、あのう。ネネさん? さっきから真っ赤な顔で百面相してますけど、どうかしました?」
「な、なんでもないです!」
まさか、友達の女の子の事で頭が一杯になっていた、なんて、恥ずかしくて言えるわけもない。
不審な態度を取ってしまったことを、どう誤魔化すか。
そこに悩む必要性は、突然の乱入者によって破棄された。
「グルァァァ!」
「クーッ!」
過去にも聞いたことがある黄金虎の雄叫び。
それに反応して、アオバがネネの腕から離れ、警戒を示す。
目覚めたばかりの筈だが、寝惚けた様子もなく、一瞬で戦闘モードだ。
「トーシローさん! それでは、打ち合わせ通りに!」
「はい! 任せて下さい!」
みのりんという強力な切り札がいない、初めてのボス戦。
ネネは緊張で体が固くなるのを自覚しつつも、余計な力を抜けきれずにいた。




