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最終話。常雪、後(のち)、木漏れ日。

「実に貴重な経験をさせてもらったよ」

「一日にドラゴンとゴーレムに運ばれるなんて、そうそうできないからな」

「また来ようかな。今度は騎士じゃなくて、ただのミナファ・バーナウトとして」

 冬の足跡を出て、三人を見送るってところ。町騎士三人の感想が今の言葉だ。

 騎士の人、たぶん魔法使いの人、ミナファさんの順番ね。

 

 ママンドラと違って階段まででゴーレムの運搬は終わってて、雪壁の頂上から飛び降りたんだけど、

 軽装の人はともかく騎士姿の二人も平気な顔で飛び降りて、ドスってそれほど大きくない音で着地してたのはすごいなって感じた。

 

 フランは上る時と同じで、炎を纏って雪壁を足場にしながら、ひょいひょいと器用すぎるほどの動きで降りた。

 

 で、あたしは飛んだ直後に体を丸める形で飛び降りたんだけど、勢いを殺しきれずに前にコテンっと転んじゃったんだよね。

 

 みんなに笑われて恥ずかしかった。

 

 

「お仕事、お疲れ様でした。もう殆ど夜だから、路に気を付けて」

 

「ありがとう」

 そう言うと騎士の人は背を向けて歩き始めた。

 次にたぶん魔法使いの人が「それじゃあな」、ミナファさんが「またね」ってそれぞれ言って、騎士の人を追いかけて歩いて行った。

 

 あたしたちは、見えなくなるまで彼等を見送った。

 

 

「あれ、ママンドラ?」

 まるで量ったようにママンドラが降りて来た。星明かりが目立ち始めた夜空、その光を弾いてママンドラがちょっとまぶしい。

 

「いつも思うけど、すげーよなこいつ。人間よりよっぽど話がわかるぞ」

 状況を考えると、ママンドラはあたしが雪の壁を上れないだろうって考えてここまで来てくれたのだ。

 

「そうだね」

 突然、今しがた消した炎を右手に出したフラン。

「どうしたの?」

 

「ん、ああ。帰ろうと思ってな。俺がいない方がブランドラたちが緊張しなくていいだろ?」

 どうやら、松明たいまつ代わりに自らの手を利用したみたいだ。

 

「人間以外には優しいわね、フラン」

 昼間フランに言われたことを言い返してやる。

「俺は人間にも優しいぞ」

 

「ふぅん?」

「なんだ、その顔?」

「別に、ただほんとかなーって思っただけ」

「お前なぁ」

 疲れたように一つ溜息を吐いて、フランは一つ頷く。

 

「じゃ、またあしたなシュネー」

「え、あ、うん。また……明日……?」

 予想してなかった挨拶に、あたしは面喰ってしまった。そんなあたしを気にせず、フランは歩いて行ってしまった。

 

 

「またあした……そっか。もう、雪を気にする必要ないんだもんね」

 なんだろう。なんか、小さくなって行く赤髪に、自然と目が向いてる。

 

 ……そうだよね。そういえば、家族以外でここに来てたの、あいつだけだったっけ。

 ずっと気にしてたのかな、あたしのこと。朝も魔力の動きが気になって、心配して来た、とか言ってたっけな。

 

 ーーなんだろ。なんか、こう。胸の辺りがもやもやって言うか、くすぐったいような感じがする。

 なんだろなぁ、これ?

 

「さて。行くとしますか」

 

 よくわかんない胸のむずもやを吐き出すように声を張って、

「お願い、ママンドラ」

 そうしてあたしは、ママンドラの背中に飛び乗った。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「ん。んー」

 おでこをペチペチと、小さな手で何度も叩かれてあたしは目を覚ました。

 

 緊張しっぱなしだった昨日、家に帰ってから疲労感がドッと押し寄せてきて、なにもする気が起こらずベッドに転がり込んで、そのままクーっと寝てしまった。

 

 体にある重みは、この両腕にあるふわふわもふもふな感じからしてドラちゃん、子供ブランドラだろう。どうやらベッドにもぐり込んで来てたみたいで、あたしはそれをやんわりと抱きしめてたみたい。

 と、なるとこのペチペチはいったい誰が?

 

「ああ、ミミちゃんだったんだ。おはよう」

 目を開けたら、ミミナガリスが顔の右側にいて、両手でおでこをペチペチして来ていた。

 そのかわいらしさに、あたしは朝一で表情が緩んだ。

 

「ん、うー。まぶしい……」

 左からさしてきた日の光に、あたしは思わず目を閉じた。

 

「……そっか。まぶしいんだ」

 ふんわりとした春の朝日を顔に受けるあたしは、小さく笑みを浮かべていた。

 

 雪を降らせていた黒いような灰色は、もう あたしの上の空には、いないんだ。

 

「さて、と」

 ゆっくりと体を起こす。ミミナガリスことミミちゃんはおでこから手をどけて、ドラちゃんがベッドの中でゴソゴソとあたしの上からどいた。

 

「あ……」

 上半身を起こしたところで、待ってましたと言わんばかりにお腹が鳴った。

 

「よし。もう、この領域から動いても大丈夫なんだし。お母さまの朝ごはん、食べにいこう」

 決めたあたしはベッドから飛び降りて、その勢いで玄関のドアを開け放った。

 

「おはようママンドラ」

 

 ドアから出てすぐ横に立ってる、まるで門番みたいなママンドラに声をかけた。

 ゆっくりと首をこっちに向けるその姿は、門番って言うより置物って感じだけどね。

 

 ドラちゃんもそうだけど、このドラゴンいったいいつ寝てるんだろう?

 

 ーーそれはともかく。

 

「雪壁の先に行きたいんだ。おねがいできる?」

 気怠そうにゆっくりとあたしの前に歩く。乗せてくれるみたい。

「寝起きなのにありがとう」

 

 歩き方がそう見えたから、寝起きって判断したんだけど、ほんとに寝起きだったみたいで。答える代わりに、フォアーみたいな聞くからに眠たそうな声が返って来た。

 それを聞いたらあたし、微小してました。

 

「よっ」

 完全に背中を向けたのを確認すると、あたしはいつものように飛び乗る。自分でもよくこんなに動けるなって感心する。

 あたしもママンドラと同じで寝起きなんだけどなー。

 

「昨日のもやむず、気になるし。フランの顏、ついでに覗きに行こ。きっと寝起きでひどい顔してるんだろうなぁ」

 寝起きのフランの顏思い浮かべたら、吹き出しちゃった。

 

「よし。お願い」

 気を取り直したあたしの声に答えて、ママンドラは地を蹴った。

 

「今日からあたしの新春だー!」

 自分でもなに叫んでるんだかよくわかんない。でも、雪の空から解放されたことを、とにかく宣言したかったんだ。

 

 雪を伴わない風を浴びながら、あたしはまぶしいのなんて構わずに、太陽に全力で笑顔を向けていた。

 

 

 お久しぶりの気持ちを込めて。

 

 

 

 

 

            Fin

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― 新着の感想 ―
[良い点]  とても面白かったです!  ホンワカな気持ちになれました。  ヒロインは立派な魔法使いになると思いました。 [一言]  読ませて頂きありがとうございます。
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