お月見
ある月の輝く夜、アルバートは月を眺めながら前世の風物詩を思い出していた。子供の頃毎年秋になると母と兄と三人でお団子を作っていたものだったな、と。
お団子作りは母に指示を出してもらい、子供たちは粉をこねて丸めるまでが担当だった。
まずは手を洗い、大きな器に入った粉と水を混ぜ合わせ、ふたりで交代しながらギュッギュッとこねる。途中で耳たぶを触って硬さを確認するため耳たぶにも粉が付いてしまい、母はそれが可愛いと写真を撮っていた。
『うん、いい感じね。次は小さく分けて丸めましょう』
母に硬さを確認してもらい良しと言われるとこねるのはお終い。
次の生地を丸める工程は毎度競い合うため、形はややいびつで大きさも不揃いだった。
母が生地をお湯に入れ、浮いてきてから2~3分経ったら冷水で冷やす。その後水気を切って器に盛ったら完成だ。
『はい、月見団子の出来上がりよ! 今年もとっても上手にできたわね』
母に頭を撫でられ抱きしめられるのがとてもうれしかったのを覚えている。夜になると仕事から帰って来た父に兄と自分とどっちが多く作ったのかを言い合いながらお月見を楽しんだ。
母は兄と俺が大人になって月見団子を一緒に作ることがなくなってからは、お月見の季節になると毎年撮っていたお団子作りの写真を幸せそうに見つめていたと父から聞いたことがあった。
そんな前世の風物詩を思い出してから数日後の夜、アルバートはユールとカイを呼び出していた。
「お月見?」
「うん、月が綺麗な夜にお団子を用意して月を眺めるんだ」
前世ではお月見と言えば中秋の名月、十五夜のイメージだったが、十三夜と呼ばれる豆名月や栗名月などもあるらしかった。ちなみに片月見はよくないと十五夜と十三夜は両方見るのがおススメだとか。
なぜお月見をしようかと思ったかといえば、今夜の月がとても綺麗だったからだ。感嘆するほどに――
知る限りこの国にはお月見という風物詩は無いのだが、先日お月見を思い出していたこともありせっかくならお世話になっているみんなと一緒に行うのもいいんじゃないかなと思った。
そこで、急遽レオンにお願いして一緒にお団子を作ってもらった。きっちりと大きさお形も揃ったお団子ができたよ。それにしてもこちらの世界にもお団子があってよかった。
「団子と横にあるこの草は何するんだ?」
「これギース草だよね」
お月見といえばお団子とお酒とすすきでしょう。すすきを用意するのは魔除けと神の憑代とか、宿り場って意味らしい。ということで雰囲気を出すためにすすきに似ているギース草を飾ってみた。
このギース草はとても燃えやすいので別名フェニックスの尾とも呼ばれていて騎士団や冒険者の野営で火を起こす際に重宝されている。ギース草の魔除け効果の有無はわからないが、すすきの穂も着火しやすいという点でも似ているといえよう。
「お供え物だよ。お月見は月を見ながら農作物の収穫を感謝する行事でもあるんだ。ちなみにこの四角い木の容器は升といって、この升に入ったお酒に月を映して愛でるって意味で用意したんだけど、お酒はイグニスが飲んでね」
イグニスに合わせたサイズの升は俺の知る升とはだいぶ違うけれどこれもまたレオンが用意してくれた。レオン有能すぎなのではないだろうか。
「月を映して愛でるとは何とも変わっているがおもしろい」
「風情があるでしょ」
イグニスの好きなお酒を用意してもらったのでこういう呑み方も楽しんでくれるとうれしい。レオンと未成年のカイとユールと俺は果実水。果物とハーブをシロップに漬けたものを水で割った飲み物だ。レオンはお酒より果実水が好きらしい。
「僕の知っている収穫祭のみんなで集まって飲んで食べて踊るものもいいけれど、こういうふうにお供え物をして月を眺めるのは趣があっていいね。アルに呼んでもらわなかったらきっとこういう体験をすることなかったよ」
「月を美しいなんて思ったことなかったしな」
「僕は収穫祭は参加したことがないけれど楽しそうだね。ユールはまあ……お団子食べてみる?」
カイのいう収穫祭はどこに行ったら参加出来るのだろうか。楽しみが一つ増えた。
ユールは残念な子を見るような目で俺を見ているが月を美しいと思ったことがないのも残念だと思うよ。どう感じるかは人それぞれなんだけどさ。
でもね、繰り返しになるけれど、それほどまでに今夜の月は美しいんだ。
ユールはどちらかというと花より団子のタイプなのだろう。やはり月にはあまり感じるものがないようですすめた団子をほおばっている。
「食べた事ない味だ」
「このトロッとしたタレ美味しいね」
「みたらし団子って言うんだよ」
月を見ながら飲んで食べて楽しんでいるといつの間にか小さな光の精霊たちが集まって来ていた。精霊たちも興味があるようなのでお団子と果実水を差し出すと点滅しながら飛び回っているので喜んでいるようだ。
そうしてたくさん作っておいたお団子もなくなり、お開きの時間となった。
お団子はみんながお気に召してくれたようだし、お月見も楽しんでもらえたようでうれしい。
お月見をしていたのは前世でも子供の頃くらいだった。毎年楽しみにしていたものだがまさかドラゴンと精霊と一緒に月を眺める日が来るなんて想像したこともなかった。
ベッドに入る前にもう一度美しい月を見上げて願う。
「どうかこれからも穏やかな日々が続き、今夜のようにみんなでお月見を楽しめますように」
この月の光なら悪意を持つ者たちの心を浄化することが出来るのではないかとさえ思えてしまう。
机の上に置いてあった空のポーションの瓶を空にかかげキャップをすると瓶の中にキラキラとした光が満たされたような気がした。
今夜はこの瓶は窓辺において寝るとしよう。
今度こそベッドに入るとふとアデルの顔が浮かんだ。アデルや今まで出会ったみんなも今夜の月をひとめでも眺めているかな?
いつか一緒にお月見をできたらいいな。




