手合わせ -2-
今日もカイとユールが迎えに来ていつもの訓練場へと向かう。
しかし、なんと本日の師匠はユールである。
今までカイとの訓練を見ていたユールからの提案で今度はユールが相手になって教えてくれるのだそうだ。
今日も新しい事を学べると思うと期待に胸が膨らむ。
ユールは魔法が得意らしく、魔法を使う相手との戦い方を教えてもらえるのはありがたい。
王都にいた頃は年齢のこともあり、魔法を使う相手との戦い方は実戦で習ったことはない。王宮での座学で少し習った程度だ。
ナイアドの森では盗賊が使った魔道具での攻撃は経験の無さからマントを使って耐えることしかできず苦戦し、ドラゴンの攻撃にはグラード団長の補助があっても命を落とす危機に陥った。
ユールの魔法の属性はわからないけれど、あのドラゴンから助け出してくれるほどなのだからもしかするとグラード団長と同等なのではないだろうか。石碑に名前が記されていたりといろいろと謎も多いしありえなくはない気がする。
軽く準備運動をして向かい合う。
まずは俺の今の実力を見るために道具込みで全力で挑むことになった。ユールは自身に防御魔法を掛けているので俺の攻撃で体に傷を負う心配はないとのこと。
今の俺の持っているものは魔力を注ぐことでわずかに魔法を発動させることのできる剣とアンクレット、数種類の薬草にクリスタル爆弾。今は戦力の大半をこれ等に頼っている。
「全力でこいよ」
俺は剣をかまえるが、ユールは身一つで立っているだけだ。
何というかやりづらい。防御魔法を掛けてあるから大丈夫だと言われても防具も着けていない無防備な相手に足が動かない。目に見えないものを信じきれないのだと思う。
以前人に向けて剣を振るうことが出来るだろうかと考えたことがあった。
その時は出来ないだろうと思ったがナイアドの森での盗賊相手には何の躊躇もなかった。そうしなければこちらが命を奪われるという状況だったとはいえ後から恐ろしく感じて目を逸らしてきた。
「おい、どうした?」
「もしかしてユールに怪我をさせそうで怖い?」
動けない俺に二人が声をかけてくる。
「カイ、俺にそこの石投げて」
カイが言われたまま投げた石はユールの腕に当たった。こぶしくらいある石だったけれど、当たったところには傷もなければ色も変わっていない。
「な、大丈夫だからおもいっきりこい。簡単な魔法で阻害もしてやるから」
「驚かせてしまっただろうけれどあのとおりユールは大丈夫だから、ね」
そこまでしてもらってはと覚悟を決め、改めてユールと向き合う。
深呼吸をして魔石に魔力を注ぎ正面から接近して剣を振り、今出せる最大限の霧をユールの顔に向けて放った。
ユールの顔の周りに数秒漂う程度の濃いめの霧がかかる。剣には煎じた薬草が少量塗ってあり、ほんのちょっと目に染みる成分込みなので一瞬でも視覚を遮れればよい。あわよくばむせてくれたら尚よい。
次に素早くユールの後ろに回り、姿勢を低くして足元を狙ったのだが、ユールの反応は予想以上に早かった。
「フリーズ」
低い姿勢から蹴り上げようと踏み込んだところで、足元が凍りつきバランスを崩して転倒してしまった。
反応が早い、一旦距離を――
「アイビー」
起き上り飛び退こうとするも逃げ道を塞ぐように現れた植物の蔦に絡め捕られる。手足と胴体の複数個所を拘束された状態では今の俺に対抗できる手段はない。
しかも、飛び退いた時に投げたクリスタル爆弾までもしっかりと絡め獲られているうえに何故か爆発もしない。
ここ数カ月で進化させたクリスタル爆弾には自信があったのに不発とは改良が必要だ。
その後も角度を変え、スピードを変え、体力の続く限り何度も挑んだがユールには一撃も入れることはできなかった。
その間ユールは一歩も動いていないし首も指も足先さえも動いていない、表情までは確認できなかったがたぶん動いたのは口だけだ。対して俺は地面に突っ伏しているありさまで。
実力の差が恐ろしい!
とりあえず今日はここまでで終わりにして明日は攻撃魔法を受ける側になるとのこと。今日と同じくまずは今の自分のできることで対応するようにって言っていたけれどどんな訓練なんだろう。
ユールに担がれて戻るとイグニスに程々にしなさいとお叱りを受けてしまった。風呂で汚れを落とし、レオンの美味しいご飯を食べると直ぐにベットに倒れ込む。ひたすら全力で挑んだためクタクタだ。
寝る前に魔法の対策を考えようとしたが睡魔に負けて気がつけば朝になっていた。
「カイ、ユール、おはよう」
「アル、おはよう。よく眠れたって顔だね。今日も頑張って」
今日もむかえに来た二人と共に訓練場へむかう。
「ん、今日は魔法を使う相手との対応の基礎の訓練な。二種類の魔法を放つからよく見て対応する事。威力のあまり強くない魔法は剣で受けて対処、そこそこに威力のある魔法はあえてギリギリまで避けず直撃の寸前で回避する。まずは威力の弱い魔法からな」
魔法を剣で受ける? 指示は二つだけだが、集中力と反射神経が必要になる。
魔法は対象の物や場所に直接発動させたり、離れた場所から思い浮かべた方向に飛ばすことなどもできるが、今回は飛ばしてくる方とのこと。
「ファイア」
直系20cmくらいの炎の玉が真っ直ぐに飛んで来る。一瞬見蕩れるくらいに美しく見入っていたために反応に遅れたが避ける事は出来た、のだけど。
「あっつ!」
直撃しなくてもかすっただけでもそこそこに熱い。防御魔法でやけどはしないけれど、熱さは感じる程度にしているらしい。今ので威力の弱い方なんだ。ほうほう、なるほど。
「ほらほら、しっかり受けるんだ」
“威力の弱い方は剣で受けて対処する”だった。
だが、威力は弱くても速度はある。バッティングセンターの球くらいに速い。高速で飛んで来る大きな炎を剣で受けるって怖いよ。
2発目は目をつぶってしゃがんでしまい、3発目は剣で受けることができたが反らすことが出来ず、そのまま胸に直撃して消えた。すごく熱かった。
ただ、速度の割に衝撃は少ない。硬い芯があるわけではなくふわっとしている感じ。速度があるのにふわっとしているというのには疑問を感じるけれど魔法とはそういうものなのだとのみ込む。
ただし防御魔法がなければ火傷などのダメージは受けるのはお忘れなく。
「次、強力な方な」
避ける方ってことだよね。
「ファイア」
あれ? 呪文一緒なの?
速度は変わらないけれど色の濃い炎が飛んできた。強力な方と聞いたため身構えて早いタイミングで避けてしまったが違いは分かった。
見た目は色が濃いだけの違いしかなかったけれど、炎が当たった岩の表面が焦げている。対して威力の弱い方が当たった箇所は軽く煤ける程度だった。
炎は間を空けずに次々と飛んで来るが、色の違いで威力はわかるので避ける方は慣れればタイミングを掴めた。
だが、剣で受ける方はうまくできない。うっかり足がもつれてコロンと転がっていても炎は容赦なく飛んでくる。
「ファイア」
バッティングのように剣を振り打ち飛ばそうとしてみるも炎に芯がないためか打ち飛ばせないし、縦に叩き斬っても消せもしない。炎はひとまとまりに戻り胸にあたるだけ。
マンガとかで手で横に弾き飛ばしたり、剣で叩き斬ったりしてた人達は鍛錬を積んだ熟練者や特殊能力者だったのに違いない。
剣だけでだめならば、目には目を魔法には魔法をだ。
「ファイア」
魔石に魔力を注いで炎に向かって剣を振る。ファサッと濃いめのミストが噴き出したが炎はわずかに軌道が逸れただけで胸に直撃した。そのうえ炎で高温になったミストがふわりとまとわりつき二度熱い。悪手だった。
どうしよう、もう手がない。他に何かできることはないだろうか。魔石に注ぐ魔力を上げてみる。この量ではまた同じことになる、もっと、もっと、もっと――
魔石に収まりきらなかった魔力が溢れ出し始めると魔力のコントロールの練習中にクリスタルに注ぐスピードを上げたら手元から溢れ出た魔力が一時的にクリスタルに糸のよう巻きついたことがあったと思い出した。あの時はかろうじてクリスタルに収まってくれたので爆発は逃れたのだった……。
うん、これだ。もしかしたら剣にも同じことが出来るのかもしれない。魔力を魔石に注ぎ込むのを止め、剣身に纏わせるようにイメージし指を当てて魔力を放出してみるとなんと出来てしまった。剣身は魔力を吸収しないので纏ったままだ。
「ファイア」
剣身に纏わせた魔力に流れを作り、カイとの訓練を思いだす。タイミングを計り受け流すように剣をふると今度こそ炎の軌道を完全に反らすことに成功した。
「やったー! 成功だよね」
「魔力の幕か、流れを作って炎を反らすとはなかなか考えたな」
今日はなんとか課題をクリアできたが、魔法を受けて対処するというのは思っていた以上に難しかった。そしてユールの魔法の炎はとても美しいものだった。魔法、俺も早く習ってみたい!
アルバートを送った帰り道、カイが興奮した様子で今日の訓練を振りかえる。
「アルの魔法の反らし方おもしろかったね。剣に魔力を纏わせてたんだって? 器用だよね」
「センスが無いんだよ」
「“今できることを最大限に活かせ”ってことだったから考えたんでしょ」
「いや、見ただろう? あれしかできなかったんだって」
「はいはい、そういうことにしておくよ」
ユールの表情からは何を考えているのか読み取れないけれどアルバートがどこまでついていけるのか少し楽しみに思えたのだった。




