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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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手合わせ -1-

 アルバートがドラゴン族の地に来て半年近くが経った。

 体もだいぶ回復し、鈍った体を元の状態に戻すべく体力づくりに励む日々をおくっていた。


 そうしてイグニスの見守る中、毎日ひとりで剣を振っていたのだが、最近ではカイとユールが訪れる日はカイが相手をしてくれている。


 今日もイグニスを訪ねて来たカイが相手をしてくれていたのだが、押し合っていた剣がアルバートの手から落ちたところで終了となった―。


「よし、今日はここまで」


「だいぶ僕の動きについてこれるようになったね」


「はぁ……、なんとかってところだよ」


 今日は結構押し合えていたけど息が上がっているのは俺だけか。


 今はこうして手合わせをしてもらえるまでには回復したが本当にここまでが長かった。


 イグニスの所に来て始めのひと月はほぼベットの上で過ごしていたため起き上がれるようになってもしばらくは自力で歩けず、レオンの肩を借りて歩く練習をして過ごしていた。


 落ちた体力はなかなか戻らず、部屋の中を一周するだけで息が上がり体も思うように動かない。


 力を付けたくて旅に出たのに……。


 だんだんと焦りが生じ、イグニスに「無理をせずに一つづつ出来るようにしていきなさい」と諭されても素直に聞き入れられなかった。


 なぜ歩くことがこんなに難しいのか。なぜ剣を持つことができないのか。


 そんな焦りと苛立ちの限界を迎えた頃。今だからこそやるべき事を教えられた。


 あれは何もかもうまくいかずベットでふて寝をしていた日だった。カイとユールがやって来ても俺は布団の中で閉じこもっていた。


「あれ? アルはまだ寝てるの? お寝ぼうさんだね」


「いや、今日も早くから起きて練習をしていたよ。木剣の素振りをしていた時に転んでしまったので今はベットで安静にさせている」


 イグニスが安静にさせていると言ってくれたのにユールは布団をめくり俺の額を見て呆れたように笑いカイは眉を下げた。


 前方にすっ転んだせいで地面に額をぶつけ赤くなって腫れているのだ。


「まだ掴まらずに立つのもやっとなのに無理しちゃだめだよ」


「お前の体は表面上は怪我が治って見えてるだけだ。魔力が回復するまでまだ時間もかかるし筋力だってかなり落ちている」


「そう、ユールの言うとおりだよ。君もわかっているでしょ? 立ち上がる時や歩行練習中に思うように体が動かなかったり立ちくらみがするんじゃない?」


 たしかにユールの言うとおりなのだろうし、カイの言うとおりだ。ふたりの方が俺の体のことをよくわかっている。


「おおよその怪我はカイが治したが失った血が多過ぎて回復しきれなかったところに魔力は枯渇寸前。体が同時にどちらも回復させようとすることでうまく回復できていなかったからイグニスに魔力を注いでもらってるんだ。わずかずつとはいえ人族とドラゴン族のそれが馴染むのには時間がかかる」


「今また怪我をすれば完治までの時間もさらに遅れるし、魔力を馴染ませられないまま治療を続けるとこの先うまく使えなくなる可能性もあるんだよ」


「……それは困る」


 ふたりの説明でようやく回復の遅い状況について理解できた。


「そうでしょ。無理して弱った体に負担をかけてのちに苦労するのと、時間をかけてしっかり治して万全の状態で能力を伸ばすのだったらどちらがいいかわかるよね」


「うん」


「お前は焦り過ぎだ。感情的になるな、抑えろ。感情は魔法にも影響する」


 感情が魔法に影響する、か。先生も精神を鍛えるよう言ってたっけ。それでナイアドの森に行ったんだった。


 グラード団長は同じ詠唱の魔法でも人それぞれ差異があると言っていた。目に見てそれがわかるのはグラード団長くらいだとカインさんが言っていたけど。


「感情の影響は初級、中級、上級とランクが上がるほどに大きく出る。動けるようになるまでに感情と体内の魔力の流れをコントロールできるようにしておけ」


 流れが乱れると質が落ちる、質が落ちれば威力も弱まる。まずは流れを一定に保つ事が目標か。


 それが今できることで、今やるべきこと。気持ちが切り替わったおかげでうまく歩けない事や剣を持てない事への焦りは消えていった。


 ならばとまずは気持ちを落ち着かせ自分の中の魔力を感じ取ることに集中してみると、そこには確かに二つの魔力があり、それらが少しづつ混ざり合っているのをなんとなくだが感じ取れた。


 魔力の流れをコントロールするのはかなりの集中力が必要であり、混ざり合う状態の魔力のコントロールとなればことさら難しいらしい。


 それからの日々は精神を鍛えることと魔力の流れを細部まで感じ取れるようにすることにのみ集中して過ごした。


 魔力のコントロールの練習までできるようになると二つの魔力が馴染むのをわずかに早めることができるようになり、体に負担はかかるが魔力の流れの速度についても調整できるようにまでなった。


 魔力量が回復したらクリスタルに注ぐときに移動する魔力量のコントロールを練習するのもよさそうだ。


 トレーニングは体の回復具合を診たイグニスとレオンの許可が出てから再開した。


 時間をかけて少しづつ無理をし過ぎないように調整してこれたのは、諭してくれたイグニス、カイ、ユール、それから身の回りの世話をしてくれたレオンのここに居るみんなのおかげだ。


 体力も戻り、筋肉もほどほどについてからは剣術の訓練を始め、カイとユールに動きを見てもらい癖の指摘と構えなどを細かく指導してもらってきた。


 怪我をする前の状態にほぼ戻った今は、剣術の得意なカイに相手になってもらい訓練に励む日々だ。


 斬撃の足の踏込、体の動きを利用した剣の流れ、着地。相手の攻撃の受け流しと防御。

 これらの基礎を教わりひたすら繰り返すことで体に覚えさせる。


 王宮騎士団で学んできたのが騎士としての戦い方ならカイから学ぶのは冒険者の戦い方って感じかな。


 冒険者は必ずしもバランスのいいパーティを組めるわけでもないし、ひとりで行動することもある。俺の場合は今暫くはひとりでの方が多いだろう。学べるものはすべて学び、身につけておきたい。


 今日の手合わせ後、カイに「だいぶ形になってきたね」と言われたが、自分でも手ごたえを感じていた。


 考えに体が追い付いてきてカイの動きに合わせることが出来た程度なのだが、今まではそれすらも出来ていなかったので素直にうれしかった。




 

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