表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
40/46

調査隊 -2-

 伯爵家に着いたグラード達を執事のマルコフが出迎えてくれた。


「テオル様、調査隊の皆様、おかえりなさいませ。イジム村に行った調査隊はまだ戻っていません。イジム村の調査隊がお戻りになるまでこちらのお部屋でおくつろぎ下さい。」


 魔道具で連絡を取るとイジムの隊ももう少しで調査を終えるとのことで、少し時間に余裕があるため調査で付いた汚れを落としてはどうかと伯爵家の騎士に風呂をすすめられた。


 持ち帰った土塊は伯爵家の庭に場所を借り簡単な処置をして念のために結界も張ってある。こういう類の物を察知する能力が高いダグラスは戻ったら調査報告よりも先に庭に向かうだろう。


 詰所にある風呂は広く20人くらいが一度に入ることができるほどだった。さっと湯を浴び汚れを落とし、各々が調査内容をまとめているとイジムへ調査に行っていた隊が戻って来た。


 彼らも煤や泥の汚れが酷い。浄化したとはいえ強い瘴気を浴びたために疲弊の色が見える。イジムの調査隊も湯を浴び着替えをしてから会議室に集合することになった。


「イジムの調査お疲れ様。ダグラスは一緒に帰って来ている?」


 あらかたの隊員が風呂に向かったがここまでダグラスの姿を見ていない。イジムから帰って来た魔法師団員の一人に聞けば、ダグラスは伯爵邸に着くなり馬車から飛び出して一目散に庭の方へ走って行ったと言う。やはりな、


「疲れているところ悪かったね。湯を浴びに行っていいよ」


 庭へ行くとダグラスは目を輝かせて土塊の周りをうろついていた。放っておくといつまでもここから離れないだろうことは目に見える。


「おかえり、ダグラス。それは明日自由に研究していいから今は身支度を整えて会議室に来てくれないか」


「団長もおかえりなさい。とても興味深い物を拾って来てきましたね」


「持ち帰られたのは君からもらった糸のおかげだよ」


「お役にたてて何よりです」


 ダグラスはグラードにむかって片目をつむってみせると軽快な足取りで詰所へと入って行った。本当に勘のいい男だ、と感心する。


 会議は本日の調査結果と持ち帰った物についての報告、明日の部隊を新たに分けて編成を組み、各隊の予定を決めて解散になった。


 人がまばらになった会議室でグラードは自分たちの周りに音声遮断の結界を張り、カーティスに今日の調査でアルバートの消息について情報を得られなかった事を伝えた。


 カーティスは本日調査に行ったイジムの村へは結界の維持のために何度も足を運んでいたので、今回破られた結界がどれほどのものかと以前の村の様子を知っている。そして封印されていたドラゴンの邪悪さと世界に及ぼすとされる災厄についてもよく知っている。


 だが、イジムの惨状を目にし、森での調査でアルバートの消息に繋がるものを見つけられなかったと聞いてもカーティスの表情に暗いものは見えなかった。


 二日前、カーティスはグラードから息子の状況を聞いた時に一度は“覚悟を決めなければいけない”と思った。イジムの封印が解けた直後であり、かつ特徴の一致するドラゴンとの遭遇。自身の持つ知識とヴァルツ伯爵領から届く情報は最悪の事態を想像させるものばかりだった。――けれど。


 このような場面でグラードは私的な考えは口にしない。感情も読ませない。それでもグラードがアルバートの無事を諦めていないように思えた。今はそれだけでいい。


 カーティスの表情が暗くないのは希望を捨てていないからだ。


 話が終り結界を解くと会議室に残っていた伯爵に夕飯に誘われた。おすすめはカヤ豚の香草焼らしい。


 辺境伯家の食事はとても美味しく、すすめられたカヤ豚の香草焼きは絶品だった。グラードは食べ終えると二人に挨拶をして席を立ち、伯爵から許可を得て伯爵家の書庫へむかった。


 アルバートの前に現れたあの騎士について調べたいと思っていたのだ。辺境伯家の書庫ならば何か情報が得られるかもしれない。


 書庫に入ると、テオルが本を読んでいた。彼の前の長机の上には本が積まれ何冊か開いた状態になっている。まだ幼いのにこんな時間まで勉強だろうか。こちらに気が付いたテオルが顔を上げたので声を掛ける。


「こんばんはテオル様。伯爵から許可を得て来ました。少々おじゃまいたします」


「はい、どうぞ。何かお探しの本があればご案内いたしますので遠慮なく仰ってください」


「ありがとうございます。ではイジム村に関する本をお借りしたいのですが」


「イジム村に関する本ですね、ご案内いたします」


 街の入り口で出迎えてくれた時にも感じていたが、幼くして伯爵から役目を受け継いだだけありしっかりしている。どことなくアルバートと似ている気がした。


 テオルの案内でたどり着いた棚にはイジムに関する本が沢山並んでいる。村の始まりの本から、ドラゴンの襲来と村に張られている結界についての本、年代ごとの観察日誌まであった。どの本も事細かに記され、挿絵も混じえているため分かりやすい。


 イジムについての本と伯爵領に伝わる魔法の本を数冊選んでテオルと同じように机に積み本を開いた。


 興味深い内容に集中して読みふけっていたため、全てを読み終えた頃にはだいぶ遅い時間になっていた。テオルは随分前に退室している。


 伯爵の用意してくれた客間に戻るとダグラスが起きて待っていた。ソファに座りダグラスの入れてくれたお茶を飲むとほんのりとさわやかな香りがして、疲れが取れ気分も目もすっきりする。


「おかえりなさい、遅くまで調べものですか?」


「うん、伯爵家の書庫はすばらしかったよ」


「それはよかった、お茶をもう一杯入れましょうか」


「いやいいよ。けれど仕事熱心なダグラスに寝る前に悪いけどもう一仕事頼むよ」


 ダグラスもわかっていてお茶のおかわりをすすめてきたようだ。仕事と聞いても笑顔を浮かべている。だが、グラードから渡された物を見て笑顔は真剣な表情に変わった。


 ダグラスはアルバートのことをとても気に入っていた。普段は研究室にこもりがちなのにアルバートが魔法師団に来るたびに魔法師団長室に顔を出していたほどだ。何も言わないが今回の件を心配していることだろう。


「これって、アルに預けた指輪ですよね」


 ダグラスの言葉に頷くとグラードは部屋の中に結界を張り、指輪に貼っていた結界を解いた。


「そう、何かわかる?」


「アルと誰かの魔力がわずかに残っているみたいだけど、この魔力の持ち主は知りませんね」


「うん、私もなんだよ。これ程の特殊な魔力は記憶に残るはずだからね」


 特殊というよりは異質といった方が良いのかもしれない。ダグラスも現場に行けば使われた魔法についても調べずにはいられないだろう。


「この魔力の持ち主は黒い鎧の騎士なんだけれど、伯爵家の騎士ではないし誰も見たことは無いらしいんだ」


「誰も見たことがないのは本当でしょう。けれど、この領の人々はきっと知っていますよ。私は今日、伯爵から守護騎士様と呼ばれる騎士の話を聞きました」


 ダグラスが伯爵から聞いた話をするとグラードは予想通り強く興味を持ったようだ。だがもうひとつ伝えるべきことがある。


「会議でも報告したようにイジムはとても濃い瘴気が満ちていて保護魔法を掛けていても調査は短時間でないと危険だと判断しました。村の中の物に触れた者はいなかったらしいのですが、念のために決して触れないようにと全員に伝達を出しました」


 先に調査に出ていた伯爵家の騎士は村に入ると気分が悪くなったため封印が解けて開いた穴を覗いた程度で他の物には特に触れずに外の出て待機していたらしい。


「会議ではたしか村の中の物の採取はしないようにと言ってたね」


「ええ、調査なのに村の中の物の採取を禁止されたんですよ。ならばと魔法の痕跡を調べてみたのですが残念ながら痕跡は見つけられませんでした。私は団長程得意ではないのでそちらはお願いします。あとはできることはなさそうだったので村の周辺を隈なく調査してきました。村の外で採取された物は明日分析にまわします」


 切り替えの早いところもダグラスの良いところだ。お互いに情報を出し終えたようなので部屋の結界を解く。


「さあ、今日はここまでにして明日の為にそろそろ寝るとしよう。眠れないようなら私がお茶をいれるよ」


「いえ、大丈夫です」


「そう? 遠慮しなくていいのに」


 グラードはダグラスがこういう調査の時はあまり眠れないことを長い付き合いで知っている。安眠効果のある香り袋をダグラスの枕元にそっと置くとふわりと優しい香りが広がった。


 灯りを消しグラードも自身のベッドに入ると昨日と今日の疲れがどっと押し寄せてきたが、眠る前に今日得た情報を整理する。


 魔法の本に載っていたブレイズの威力は自分が知るとおりのもので、あの日見たようなものではないことが分かった。


 黒い鎧の騎士についてはダグラスから聞いた守護騎士様だという確証はまだないが、身につけていた鎧は文献にあったイジムに伝わる騎士の鎧と似ていた。


 文献の中では彼は悲劇の英雄であり、一方では恐れられていたと記されていたがその詳細は記されていない。意図的なのかそうでないのか。


 守護騎士様とはその騎士本人なのか、もしくはその鎧を受け継いでいる者なのか。それは文献にも記されていない。実に興味深い。


 明日のイジムの調査とヴァルツ伯爵に詳しい話を聞くことで黒い鎧の騎士の手がかりがつかめればアルバートの行方もわかるかもしれない。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ