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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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調査隊 -1-

 アルバートがドラゴンに追い詰められ、もたれかかっていた木の下には砕けた指輪と指輪を首にかけるために使われていた紐がちぎれて落ちていた。

 グラードはそっと拾い上げ指輪に残る記憶を読み取ろうとしたが砕けた後の記憶は残っていなかった。


 振り返り周りを確認すると、わずかに離れた位置に爪で抉られた地面と焼け跡がのこっている。爪痕は炎に包まれ苦しみにもだえた時のものだろう。


 焼け跡はおおよそのドラゴンの体長くらいの範囲と思われる。使われた魔法の練度と威力が凄まじい。

 地面は焼け焦げ、今もまだ熱をもち白い煙が上がっている。あれからまる二日経っているが近づくと肌が焼けるように熱い。


 残っている魔法の痕跡から使われたのは炎属性のブレイズだとわかった。だが、グラードの知るブレイズとは何か違う。そして威力が強すぎる。


 魔法を放ったのはあの騎士で間違いないが、なぜかアルバートの魔力も含まれていた。しかも使われた魔力はどちらかというとアルバートの魔力量の方が多いようだ。


 そして使われている魔力は通常のブレイズに使われる量より少ない。なのにこの威力、と謎が多い。


 このブレイズは威力や質が以前アルバートがイメージして見せた魔法に近いような気もするが、二人ともここに居ないためそれらを聞き出すことはできない。


 そして、今悩ませられているのはその焼け跡から出てきた物だ。それは魔力を含んでいて、この場所へ近付いた時から全身の血液が冷えていくようなゾクリとするものを皆が感じていた。


 ナイアドの森で騎士が倒したファイアドラゴンからもこれに似た魔力の残渣を感じたのを覚えている。


 何とか掘り出したものの周りについている土が高温で触ることができず、下手に土をはらおうとすると中身も壊してしまいそうなのだ。


 どのような物体なのかわからないものを持ち帰るのはためらわれて、こういう時にダグラスがいてくれればと思う。

 ダグラスは魔力を含む物に対する好奇心が人一番強い。その好奇心が転じたのかこういう場面に強いスキルを生み出した男である。


 しかし彼はカーティス公爵と共にイジム村へ調査に行っている。調査隊を二手に分けたからだ。


 ここの調査も一通り終わり、しかたなく土塊はこのまま持ち帰ることになったのだが、さてどうやって運ぼうかというところでダグラスに『これ持っていって』と渡された物を思い出した。


 灼熱の地に生息するレッドスパイダーの糸。耐熱性の高いこの糸を巻いて吊るせば持ち帰れる。どこまでも感のいい男だ。


 グラードの「ダグラスが見たら喜ぶだろうな」というつぶやきに魔法師団員たちは皆がうなずいた。


 辺境伯邸のあるカドムまでの道中で魔狼の群れに何度か遭遇したが、今回引き連れている部隊であれば恐れるほどではない。遭遇頻度の多さは辺境の地ゆえなのだろう。


 領地内では異変が起きているので念のために街に入る際に街の周りに設置された魔物除けの魔道具の点検も済ませてから、街の入り口で出迎えてくれた少年と伯爵邸へ帰った。




______


 一方のダグラスはグラードと別行動でイジムの調査に来ていた。


「……これは酷い」


 到着した村の様子にしばし皆が言葉を失う中ダグラスが呟く。


 イジムの調査隊はヴァルツ伯爵、カーティス公爵、カーティス公爵の補佐官、ダグラスとアスター隊長が率いる魔法師団員と騎士団員。伯爵家の騎士は先行して来ておりイジムの警備にあたっている。


 出立前にヴァルツ伯爵から聞いた話によると、イジムの調査中に数時間以内にドラゴンが出現する恐れがあるため急ぎ避難するようにと連絡があり、彼らは村人を連れて避難した直後に大きな揺れに襲われた。


 村の中からはドラゴンのものと思われる咆哮が聞こえて一瞬にして村は炎に包まれ、その後ドラゴンは飛び去って行ったとのことだった。


 伯爵と騎士達はそれをただ唖然と見つめることしかできなかったと言っていたが、当然だろう。村を一瞬にして燃やし尽くすランクのドラゴンは騎士20人で敵う相手ではない。


 彼らが無事だったのはこの地に伝わる守護騎士の力添えがあってのことらしいが、そういう彼らも実際にはその騎士を自身の目で確認できていないと言う。なんとも不思議な話だった。


 イジムはもともと小さな村だったが、家は全て焼け落ち崩れ、黒く焦げた瓦礫の山になっている。何より酷いのは村全体に強い瘴気が満ちていたことだ。


 瘴気の発生源を辿って行くと村の一角に瘴気を放つ大きな穴が開いていた。

 ヴァルツ伯爵の説明と結界の跡や瘴気の濃さからここがドラゴンの封印されていた場所で、その封印が解けたのが確定される。


 とんでもない事が起きてしまった。


 カーティス公爵は結界が張られていた場所を調べ、穴の周りに新たに結界を張っている。瘴気は人体にとっては猛毒と等しく、あふれ出続ける瘴気を放っておくわけにはいかないからだ。


 調査隊には魔法師団員が瘴気を吸わないように魔法をかけてあるが、先に到着していた伯爵家の騎士達は吸ってしまっているので治療が行われている。


 瘴気は村の外まで溢れてしまっている。それはずいぶん前からのようだ。


 少し前からイジムに発生していた霧というのが瘴気であった可能性が高い。村民が体調を崩していたのもそのためだろう。


 今までは瘴気の濃度が薄かったから無事だったのだと思われるが、彼らの治療も急いだ方が良さそうだ。


 ダグラスは瘴気の広がり方を調べ、自身のスキルで作った容器に瘴気と草木などを採取してまわっていた。活き活きと。


 それぞれが一通り調査し終わるころには日が暮れかかっていたため、本日の調査は終了となった。


 帰りの馬車の中でダグラスはもうひとつの気になる存在についてヴァルツ伯爵に聞いてみた。


「ヴァルツ伯爵、私の調査は大体終えました。それで、この地に伝わる騎士についてお聞きしたいのですがよろしいでしょうか」


「我々は彼のお方を守護騎士様とお呼びしています。守護騎士様は数代前の勇者様と一緒に魔王討伐に同行された方で、もともとはこの村を守る騎士の一人でした。勇者様ご一行が村を訪れた時に能力を評価され討伐の旅に随行されたのです」


 前回の魔王の復活が三百年前、その前が五百四十年前、魔王の復活は大体三百年~五百年周期。数代前となると勇者に同行した騎士が今も生きているとは思えないのだが。


「魔王との戦いは勇者様方の勝利と思えました。しかし魔王は力尽きる直前に一匹のドラゴンを生み出したのです。勇者様は魔王に止めを刺し討伐は成功しましたがドラゴンは魔王城を飛び立ってしまいました。そしてそのドラゴンを封印したのが勇者様に同行した騎士様でした」


「騎士が?」


「はい。勇者様方は魔王討伐の際に大怪我を負い、村へ駆けつけたのは騎士様ひとりだけだったそうです」


 魔王が生み出したドラゴンをひとりで封印したとはにわかには信じられない。


「その騎士は賢者クラスの魔法を使えたのですか?」


「そのような記述は残っていません。平民出身の騎士とのみしか」


 ますますわからない。


「勇者の回復を待つことは出来なかったのでしょうか」


「魔王から受けた傷は回復薬の効きが悪く、さらに勇者様方は崩れた魔王城の下に埋もれていて、救助されるのに時間が掛かったようです。騎士様は先に瓦礫から抜け出せたので救援を呼び、ひとりドラゴンを追いました」


 ダグラスの上司であり、この国で一番の魔法使いであるグラードでさえひとりでドラゴンに挑むなんて無謀なことはしないだろう。だが、グラードの興味を引きそうな話だ。


「ドラゴンは騎士様の全てをもって封印されました。そして村人たちは騎士様をここに祀ったのです。ですが、魔王の復活の影響で封印が解けかけたり村を恐ろしい魔物が襲う事がありました。その度に人々が騎士様に願うと姿を現し守ってくださるようになったのです」


 伯爵は「ですが今では誰もの声を届けるということは出来なくなりました」と寂しそうに続けた。


 それが本当ならそんな人物が歴史に名を残していないのは何故だろうか。

 その真実は伯爵の表情に関係していそうだとダグラスは思った。


「ヴァーチェス殿は我が伯爵家が管理者であることはご存じでしょうか」


「はい。管理者の一族ということは存じております」


「私の家系の継承者には役割と共に守護騎士様との交信が許されております。今は息子が継いでいまして、今回は息子が協力を仰ぎ守護騎士様に力添えしてもらったようです」


 そこまで聞いたところで伯爵邸に到着し、馬車は止まった。




魔王復活の周期を変更しました

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