↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
38/46

痕跡

 崖の上の森の沿った道には王宮魔法師と王宮騎士、近隣の街から来た王国騎士、そして辺境伯家の騎士が集まっていた。


 アルバートを襲ったドラゴンの調査のだめだ。辺りにはドラゴンの暴れた跡がのこっている。

 この場から森の中に向かってドラゴンが木々をなぎ倒してできた道と足跡もあり、その様を見た者たちは皆恐怖を覚えた。


 なぎ倒された木々を辿って行くと激しく戦った跡がある場所に出た。その中でも特にズタボロになった木には大量の血痕が残っている。


 その木を魔法師団の団長はじっと見つめていた。魔道具を通して見た光景が今も彼の目の奥に焼き付いている。



 あの日――


 王宮魔法師団団長のグラードはカーティス公爵からの依頼を受け、副団長のダグラスと打ち合わせをしていた。


 依頼内容はヴァルツ辺境伯領にあるイジム村の調査協力と、魔法師団員数名の同行許可。


 イジム村は王国内の最重要警戒地である。村の下には強力な結界が張ってあり、凶悪なドラゴンが封印されているからだ。


 その結界に最近異変が感じられたために、国内の結界管理責任者のカーティス公爵が直々に調査に出向くことになった。


 場所と調査の危険度合いから騎士団と魔法師団に同行の依頼を出したという。


 辺境伯領へ最短で向かう場合王都との中間地点にある街まで魔法陣で移動し、そこからは馬で辺境伯領に近い街のグステへ移動。グステで王国騎士団の詰所に寄り数名の騎士と馬車を借り、翌日にグステを発ち辺境伯領へ向かう。グステから辺境伯の邸までは半日ほどだろうか。


 選出した同行メンバーを集め調査内容を説明しているところへ辺境伯領からの知らせが入った。イジム村で何事かがあったらしい。


 嫌な予感がした。詳しい情報を得るためにもまずは現地へ向かわなければならない。支度が出来次第魔法陣のある間へ集合するように同行メンバーに指示を出す。


 連絡が来て一時間程で全メンバーがそろい、魔法陣で騎士団を先に送ったところで連絡用の魔道具が反応し手紙が届く。


 手紙はアルバートからで、大きな字で"緊急"と書いてあるために読めば確かに緊急事態だ。


 今、辺境伯領では何が起こっているのだというのだろうか。


 グラードは急ぎ連絡用の魔道具に魔力を注ぐ。アルバートに持たせた指輪は連絡を取ることも出来るものだ。魔力を使い指輪と意識をリンクさせればアルバートの状況を見たり、遠隔で会話や魔法を使うことも出来る。


 状況は極めて悪かった。


「アルバート君今すぐそこから離れるんだ!そのドラゴンは君がそこ居ることに気づいている。魔物の捕食が終ったのなら次は君を狙ってくる可能性が高い。遠隔で君の気配を隠す魔法を掛けたがとにかく早く身を隠して逃げなさい!」


 魔道具を通してアルバートに指示を出すと、まだこちら側にいたカーティス公爵に手紙を見せた。公爵の顔色が曇る。


 崖の下からドラゴンのものと思われる大きな魔力を感じ、こちらに意識が向いているのがわかっていた。なのでドラゴンがアルバートの前に現れる前に気配を隠す魔法を掛けたのだがまったく効果はなかった。


 ドラゴンはアルバートに逃がす間を与えずに現れた。


「くっ、遅かったか! アルバート君魔力を込めたクリスタルはまだありますか?」


『……あります』


「クリスタルを取り出しておいて、私が合図したら目を閉じて指示した方向へ退避しなさい」


『わかりました』


(大丈夫、アルバート君はまだ動ける)


 希望はある。


 ドラゴンは近づいてきたが少し距離をとってこちらの様子を見ている。へたには動けない。出方をうかがっていると突然咆哮をあげ突進してきた。


 アルバートに目を閉じるように指示し、精神を集中させる。ここからが勝負だ。一瞬でもタイミングが遅れればアルバートの生存率はゼロに近づく。


「目を閉じたまま前方にクリスタルを投げて君は左斜め前方へ走って!」


 アルバートが崖から近いところにいたためドラゴンは道をふさぐように回り込んで降り立った。ならば。リスクは有るが、真横へではなくドラゴンの横に近い位置から森の中へ逃げこむように走らせる。


 合図を出して閃光の魔法を放ち、アルバートがクリスタル爆弾を投げたタイミングでドラゴンの周りに結界を張り、続いて攪乱の魔法を放った。


 閃光でドラゴンの視界がくらんだところに、結界の中でクリスタル爆弾の音を反響させ複数個所から攻撃しているように攪乱させるのが狙いだ。


 逃げた方向の特定を一瞬でも遅らせられればいい。森の中に入れば体の大きいドラゴンから逃る時間をわずかにでも稼げる。


 視界を奪われたドラゴンは正面のアルバートが居た場所から逃げ込んだであろう森の方向へと炎のブレスを放った。ブレスが放たれたところは地面は黒くなり、木は炭のようになりながらもまだチリチリと燃えている。


 狙い通りだ。結界は破られたが、実際にアルバートが逃げ込んだ方へは攻撃は届かなかった。ドラゴンは手応えを感じられなかったのか咆哮から苛立ちが感じとれた。


 早くも視力が回復してきたのか、匂いを嗅ぎ取っているのか。正確にアルバートの位置を特定したようだ。そして風魔法を使い木々をなぎ倒しながらまっすぐに迫って来る。


 グラードはアルバートへ走る速度を保てるように感覚強化の魔法を掛けた。これで木の枝や根、ごつごつとした石ころ程度は障害にはならない。


 補助魔法の効果でアルバートの走る速度があがった。しかし、迫り来るドラゴンからの恐怖心も上がり足がもつれ始めている。


 そこを狙いドラゴンはこれまでより強烈な風魔法を放った。アルバートの報告にあったウインドスラッシュだろう。


 アルバートは直撃は避けたようだが吹き飛ばされ、木に体を打ち付けられて動けなくなってしまった。


 魔道具を通して伝わってきていた恐怖心が消え、同時に戦意も失われたのがわかる。


(諦めてはだめだ!)


 アルバートに物理障壁の魔法と魔法障壁の防御魔法を重ねて掛け続ける。回復魔法も掛けているがかなり激しい怪我を負ったようで回復が追い付かない。


 ドラゴンはもう追いついて至近距離にいる。すでに動けないと見て分かるアルバートに威嚇の咆哮をあげた。


 しかし、それ以上の攻撃はしてこない。技を掛けるための溜めに入っている。自分の力を見せつける気だ。


(こいつは弄んで楽しんでいる)


 このドラゴンにダメージを与えられる魔法を使うにはこちらも時間が必要だ。魔力の消費も多い。その間、他の魔法も使えない。だが、その魔法でも仕留めることはできない。


 そして、今アルバートに掛かっている防御魔法でもドラゴンの攻撃の威力を抑え切ることは出来ないだろう。


 防御魔法も充分に掛けられず回復魔法も追いつかない状況で攻撃魔法に時間を割く選択は無い。


 それにこれ以上魔法を増やせば媒体になっている指輪がもたない。


 ドラゴンが口を大きく開けた。ブレスを放つのだろう。


 アルバートが何かつぶやき、大きく息を吸った。


 そして叫びかけたその時、黒い鎧を纏った騎士がアルバートを背に守るように現れ魔法を放った。魔法が直撃したドラゴンは技を繰り出せない。


 グラードはすかさずアルバートに最上級の回復魔法を掛けた。


 ドラゴンは騎士が放った魔法の炎に包まれ、雄たけびをあげ悶えている。


 だが、そこで通信が切れた。魔道具が壊れてしまったのだろう。

 あの騎士が何者かはわからない。あの後ドラゴンがどうなったのかもわからない。


 しかしグラードは不思議とアルバートがドラゴンによる危機から脱したと確信に近いのもを感じる。


 カーティス公爵には自分が見た事のみを伝えた。必死で息子の無事を祈っていた彼はこの短時間でかなりやつれたように見える。


 ナイアドの森でぱたりと消息を絶ち、ようやく来た連絡がこれでは……。


 グラードから先ほどまでの経緯を聞いた公爵はうつむいていた顔をすっとあげ、ひとつうなずき、


「息子の為にご尽力いただきありがとうございました。……息子はきっと目的を果たして成長して帰ってきます。そしたら、倒れるまで使ってやってください」


 憔悴した顔に無理やり笑みを浮かべてそう言うと魔法陣へ入り転移して行った。


(息子の無事がわからず不安でたまらないだろうに……)


 ダグラスには騎士団に伝言を頼み魔法師団員を連れて先に行かせてある。あまり待たせるわけにはいかないと、グラードもまた気持ちを切り替え公爵につづいた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。