相談
ん、ここは……。目を覚ましぼんやりした頭で周りを見渡すとほんの数メートルの距離に大きなドラゴンがいて目が合う。
ひぅっ! と声が出そうになり、口を手で抑え声を飲みこむ。
ここに来て数日が経つがなかなかこの状況に慣れられない。
ドラゴン族のイグニスは体が大きくて見た目は迫力があるがとても穏やかだ。
イグニスは俺の体調を確認しながら一日に一回少量の魔力を分けてくれる。小量なのは一度に大量の魔力を注がれると体調が悪化することがあるからだ。
俺の魔力は底をつくすんでのところまで減っていて、大きな怪我をしていたこともありとても危険な状態だったと聞いている。そのため、時間をかけて療養することになった。
怪我はカイが治癒してくれたが一度に大量の魔力を失ったことでまだ体が思うように動かせない。
初めて水晶玉に魔力を移動させた時もそうだった。あの時も魔力を放出しすぎたせいで気を失ってグラード団長に介抱してもらったんだよな。
しかし、あの魔法にそんなに大量の魔力を持っていかれるとは思ってもみなかった。もっと魔法について学ばないとまた同じような事が起きるかもしれない。きちんと学ぶまで魔法は使わないことにしよう。
体が動かせないのでこうして考える時間だけはたくさんある。そのためこの状況について少々気になることも出てくる。
ドラゴン族は人族にとって神聖な存在で、かつてはその恩恵に与っていた。
だが今は盟約があるため、その姿を拝むことも出来ない。許可なくドラゴンの生息域に立ち入れば命の保証はないといわれていた。
それなのに、そのドラゴンの生息域を自由に行き来しているカイとユール。彼らはいったい何者なのだろうか。
気にはなるがいつか話してくれる気がするので聞きはしない。それに今は自分の体を回復させる方が最優先だ。
こうして療養させてもらっているのはカイとユールのおかげなのだし、ふたりは毎日俺の様子を見に来てくれている。
今体を休めているベットも彼らが作ってくれたものだ。
かつぎこまれた初日は厚手の布を重ねた物の上に寝かせてもらっていたのだが、ここは灼熱の地なので地表も熱く正直寝苦しかったので大変ありがたい。
感謝の意を伝えた時にユールに敬称はいらないと言われたので今は“様”は付けずに呼ばせてもらっている。
さすがに最初は恩人を呼び捨てにすることは出来ないと断ったのだがユールの圧がすごくて折れざるを得なかったのだ。
俺が起きたのを確認したレオンが食事を運んできたてくれた。レオンはイグニスに使役された精霊だ。精霊は人族の地にはいないのでここに来て初めて出会った。
精霊にはいろいろな姿があるがレオンは人族と同じような姿をしている。
他には小さな丸い光のような姿だったり、小さな人型の姿をしたものもいる。共通しているのは羽が生えていることくらいだ。
レオンの作ってくれたお粥は、胃に優い薄めな味付けだがとても美味しかった。
食事を終え、一息ついたところでイグニスがいつものように体調を聞いてきたので、どこにも異常はないと答える。
「体調も順調に回復してきているようだし、少し質問をしてもいいかな?」
今日はまだ起きていても大丈夫そうなので返事をして頷く。
「人族は幼いうちは魔法について学ぶことを禁じられているとカイが言っていたが、そなたもまだ学んでいないのではないか?」
「僕はまだ魔法を学べる年齢ではありませんが体質のことがあり、少し早めに魔法についての知識を学んでいました。ですが実際に使ったことはありません」
「ユールはそなたが魔法を使おうとしていたと言っていたが、知識だけで使えると思ったのか?」
そう、知識だけで魔法を使うのは初級魔法でも難しい。俺が使おうとした魔法は初級魔法ではないということだけはわかる。
「あの場では身を守る手段はそれしかないと思ったのです。以前、間接的に魔法に触れてイメージはできていましたし、あとは神頼みのような感じでユールに願ったんです」
「ユールに神頼みか、ユールに言ったら面白い反応をしそうだな。しかし、ユールの名は人族の地には知られていないと思ったのだが?」
「もう少し僕のことを話してもいいでしょうか?」
イグニスはうむ、と頷いた。
「僕は生まれて間もないころからずっと同じ夢を見続けてきました。その夢の関係で旅に出たのです――」
そして旅の目的が始祖の森の中にある村で修行すること、箱と魔石に記されている謎の術式について知識のある人を探していること、呪いが掛けられていることなどを話した。
イグニスは俺の話を静かに聞いていたが、少し考てから答えてくれた。
「始祖の森の中の村はそなたがユールに担ぎ込まれた洞窟の近くにある。行きたいのであればカイとユールに伝えればよいだろう。して、その術式を見せてもらうことはできるかな」
俺は今の会話でカイとユールのいる洞窟が夢に出てきた洞窟だと確信した。だからユールに助けを求めることができたのだ。
術式についても心当たりがあるようなので魔石と箱をイグニスに見てもらった。イグニスにとってはとても小さな石と箱だが彼はそれを見て言った。
「これは我らの扱う術式を文字に表わしたものだ。人族の扱う術式とは異なるものだ。人族にこの術式を読み解ける者はいないであろう」
ふむふむ、納得した。だが、そうなると疑問がうかぶ。
「僕たち人族の地にこれと同様の箱を持つ家が他にもあると聞いています。中身については詳しくは聞いていませんがそれぞれの家は特別な役割を持っていて、その箱の中に入っている物を使うそうです」
テオルは中身が鱗だとは言っていなかったので、それぞれの家の役割や箱の中身については知らない。
「僕がここに来るまでに出会った何者かの使いの魔物に、この箱の術式が解除できないうちには開けない方がいいと言われました。そして中に入っている物が僕にも危害を及ぼすという様な事も言っていました」
イグニスは何やら考えているようだ。
「同様の箱という事は箱を持つ家の人達は術式を解除することができるという事ではないでしょうか」
「ふむ、今の話を聞いた限りではその可能性が高いな。そなたの家の者からはそれについて何か聞いていないのか?」
正直に箱の事を誰にも相談もしないで家出同然に持ち出してきたことを白状した。そしてテオルの話を思い出し、予想ではあるが継承する時に解除する方法を教えられるのではないかと伝えた。
イグニスもその考えに同意のようだ。
術式について話し終えるとイグニスは近づいて来て、俺の額をイグニスの額に当てるようにと言うのでのでそれに従う。何か温かい物に包まれフワフワしているような不思議な感じがした。
「その夢とやらを少し覗かせてもらったよ。その悪夢を見せることと災いを呼び寄せる事がそなたに掛けられた呪いだ。繰り返し悪夢を見せることで心身を弱らせ、災いをもたらし命を狙っているのだろう」
あの夢が呪い?赤ん坊の時からずっと見て来たあの夢が呪い。そう言われると納得できる。だって前世でも知ることの無かった描写もあったから。
そっか、呪いだったのか。本物のアルバートが未来を変えて欲しくて見せてる夢なんじゃないかって思ったりもしていたんだけど違ったのか。
以前司祭様に呪いを解いてもらった時にもう一種の呪いが掛けられていると聞いていたが、そもそもが巧みに隠された呪いらしく、ひとつ気付いただけでも司祭様の力が高いという事らしい。
さらに呪いを掛けた存在まで見抜いたテオルはスキルの精度がそうとう高いとの事だ。さすがあの年齢で役割を受け継ぐだけある。
「その呪いを解く方法はありますか?」
「呪いを解く方法はあるが今のそなたではまだ解けない。森の中の村で修行を積みなさい。そしてその間、目はすべての魔力の色を映すようにのみ使い続けるように」
そして呪いを解けるレベルまで修行を積んだら術式について教えてもらい、その後呪いを解いてもらえることになった。
体力が回復し次第“魔眼”と名付けた魔力の色を見る目のみを使うことにした。
魔眼は数日ならば使い続けたことはあるが長く使い続けると結構疲れてくる。何年も、となるとかなり辛い修行になりそうだ。




