保護
『はあ、まさかあの子と話もしていなかったなんて…。最初に言っておいてよ』
『聞かなかっただろ?』
『そうだね…ん?』
『おい、さっそくみつかってるじゃねえか』
『うん、鎧着せておいて正解だったね』
ユールとカイが洞窟に戻ると、森の中の村から来たグレイソンとラディウスがアルバートを発見していたところだった。
『どうする、あいつ。このまま放っておいてあの者達に渡すか?それとも回収してイグニスの所へ連れて行くか?』
『……。いや、放っておくのはまずいでしょ。こんなところに森の外から来た少年が居るのは問題になるよ』
『うーん、でもさ、イグニスのところへ連れて行くのは今じゃなくてもいい気はするんだよな。このまま村人に預けてもいいんじゃないか?』
『それを決めるのは彼の話を聞いてからだよ』
『それじゃあカイ、ちょっとあの者達の注意を引いて来てよ。その間にあいつを回収してくるから』
ユールがにやりと笑ってそう言うとカイはやれやれといった感じで洞窟の外へ向かった。
カイとユールの姿は普通の人族や魔族には見えないのだが、ユールの鎧は誰にでも見える状態にしてあり、それを身に着けたアルバートはグレイソンとラディウスにすでに発見されている。
ユールの力で鎧を起き上らせて彼らに話しかけることも出来るし、無言で立ち去ることも出来るのだが気が乗らなかったのでカイに彼らの注意を引いてもらっているうちに回収しようと思ったのだ。
「あの、大丈夫ですか?」
ラディウスが恐る恐るアルバートに近づき心配そうに声を掛けるが反応は無い。ドラゴンから受けた怪我はカイによって治療されているが魔力切れの状態なので意識はしばらく戻らなそうだ。
「失礼します、“ディアグノーシス”」
グレイソンが魔法を使いアルバートの状態を見てみると魔力切れだとわかった。
「なんということだ」
もし目の前で力なく倒れている人物がユールであるのならば彼が魔力切れという事は何かよからぬことが起きている事と想像される。
伝承ではユールとカイの力は共に人智を超えるものであったと伝えられている。
魔法が得意なユールの魔力量は莫大なもので、ユール以外には誰も使えない魔法があり、その特殊性から人族や魔族に畏怖される存在になった。
ユールの親友であるカイもまた特殊な能力を持っていた。そして唯一ユールの魔法を打ち消すことのできた人物だった。
ユールはとても危険な自分の力を他者に向けることは無かったが、ユールを騙し悪事に利用しようとする者が次々と現れ、断り続けると軍を率いてユールの一族に危害を加えようとまでした。
その事に怒ったユールとカイは世界を二つに分けたと言われている。
そのユールが魔力切れになるほど魔法を使うなどただならぬ異変が起きているとしか思えない。
人智を超える力を持つユールやカイでも対応できない唯一の相手が復活を繰り返し世界を脅かす存在である魔王だ。
魔王とそれに近しい者や魔王に関係する事象には使える力の威力が弱まってしまうため、対応した時に大量に力を消費することがあるらしい。
グレイソンから状態を聞いたラディウスも、ここに来る原因となった出来事と目の前の人物を結びつけると同じ考えにいたる。
実際は倒れているのはアルバートだが、偶然に状況が一致したことでふたりは奇跡的に事態を理解したのだった。
「イジムの村の封印が解けたのかもしれないな。誰か確認に向かわせよう」
「わかりました。それなら私が調べに行ってきます」
ラディウスなら森を抜け調査に行って来るだけの実力がある。彼が適任だろう。
「うむ、そうだな。では頼んだぞ、気を付けて行って来てくれ」
「はい。グレイソンさんユール様の事をよろしくお願いします」
ユールの魔力が切れた原因には足りない気がするがひとまずは今起こっている事を調べる必要がある。ラディウスはユールの事をグレイソンに託すと洞窟を後にした。
残ったグレイソンはとりあえずアルバートの体を負担の無い姿勢に寝かせ直した。そして鎧に触れた時の違和感について考えていた時だった。
外から人の声と複数の魔物の鳴き声が聞こえ緊張が走る。声の人物は先ほど出て行ったラディウスではないようだ。
この洞窟は魔物が入れないように結界が張られているが外で起こっている事が気になる。今は一旦外の様子を確認をした方がよいと判断し、 グレイソンは警戒をしながら出口へ向かった。
『やれやれ、こいつを俺と間違えるなんてな――』
鈴の音が遠ざかるとユールは残されたアルバートを回収し、鎧ごと見えない状態にして運び出す。途中グレイソンの横を通り過ぎたが気付かれることは無かった。
洞窟の外に出ると一方向に点々と魔物が転がっているのを確認し反対の方向へ進みカイを待つ。
『待った?』
『いや』
『じゃあ行こうか』
ユールとカイは落ち合うと魔法を使い転移した。
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「イグニス、連れて来たよ」
転移先はドラゴンの生息域で、イグニスと呼ばれるドラゴンが待っていた。
イグニスは三種族のうちの一種族である知性と理性を持ったドラゴンだ。そしてカイとユールとは深い縁を持っている。
「どれどれ、その子を見せておくれ」
イグニスはアルバートの状態を確認し、自らの魔力をわずかに与える。イグニスの魔力が体に馴染むと指先がピクリと動き、アルバートは目を覚ました。
「ん、ここは……どこ?」
アルバートは意識は戻ったが状況が理解できず混乱している。そして徐々に記憶が戻ってくるとがばりと起き上り周りを見渡した。
目の前には二人の少年と大型のドラゴンが居て自分の様子をうかがっている。再び混乱に陥りそうだったが、冷静になれと自分に言い聞かせ改めて自分の状況を確認していく。
手足や頭が動かせる。強打した左半身の痛みも治まっているし、声も出せるようだ。
「あの、僕はアルバート・カーティスと申します。すみません、今の状況がまだ理解できていないのですが、」
「僕はカイ。で、彼がユールで僕たちの後ろにいるのがイグニスだよ。君はユールに助けを求めたのは覚えている? ユールが君のもとへ行き安全な所へ連れて来たんだ。君のケガは僕が治癒して、魔力はイグニスが少しだけ回復させておいたんだけれど、具合はどうかな?」
カイはアルバートにユールとイグニスを紹介し、簡単に状況を説明してくれた。
一か八かの呼びかけにユールが応えてくれた事は奇跡に近かったし、カイとイグニスにここまで回復させてもらえたこともとても運が良かった事だと理解できた。
「カイ様、ユール様、イグニス様、助けていただきありがとうございました。体調については体が少し重たいような感じはしますが、痛みや動かせない箇所はありません」
「そう、良かった。もし、違和感や不調があったらすぐに言ってね」
「はい、そうします」
アルバートは彼らに感謝の気持ちを伝えカイに体調についていくつか答えると、再び目を閉じて眠ってしまった。
「体も心も限界だったんだろう。今はしっかり休ませることが大事だ。しばらくの間は私が預かるとしよう」
その後アルバートはイグニスの元に残すことが決まり、カイとユールは森の中の洞窟に戻って行った。




