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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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テオルの苦悩

 アラン兄様を見送ってまだ何時間も経っていないのだが胸騒ぎがして不安でたまらない。昨夜、兄様に力を使った時に兄様に危機が迫る映像を見たからだ。


______


 兄様はひとりでこの地にやって来た。それだけでも驚くべき事なのに、騎士達と一緒に変異種の魔物を倒したとんでもない人だ。そして奇妙な仮面をつけていた。呪いを受けているためらしい。


 初めて会った時にその姿に驚かなかったのは父様から聞いていたからだ。隣に立つ姉様を見ると唖然としていた。姉様はこういう場面でいつも何か失礼なことを言ってしまうので心配したのたが今回は何も言えないようだった。


 兄様が邸に滞在していたのは十日間だったけれど、僕も姉様もとても楽しい時間を過ごした。


 僕は一緒に読書をしたり、勉強を見てもらったり、たくさんお話もした。領の外の事や兄様の旅の話は面白くて勉強になって、いつか僕も自分の目で見てみたいと思った。それを言ったら自分の身を守るための剣の稽古もつけてもらえた。


 姉様も兄様から聞く旅の話に目を輝かせていたけれど、遊びと称してダンスの練習に付き合ってもらっていた。


 兄様はダンスがとても上手で、姉様はいつも楽しそうでへとへとになるまで踊っていた。姉様がダンスの後のティータイムも楽しみにしていたのを僕は知っている。


 時々兄様をぽーっと見つめていたことも僕は知っている。


 僕は知っている。兄様の仮面の下の素顔がとても綺麗でかっこいい事を。仮面をとったら女の子達はきっとほおっておかないだろう。


 別れの前の夜、僕は確認したいことがあって兄様とお話をした。そして兄様に呪いをかけた存在と呪いのせいで兄様が厄介事を呼び寄せてしまう事を知った。今の未熟な僕では力になれない事がとても悔しい。


 兄様の旅はそれらが関係しているようだ。その解決の糸口が立ち入り禁止のあの森にあるらしい。小型や中型のドラゴンも生息するあの森へ足を踏み入れるなんて命を捨てに行くようなものだ。


 本当なら絶対に止めないといけないことだけど、兄様は行くべきだとわかる。でも、呪いのせいで厄介事を呼び寄せてしまう兄様が無事に辿り着けるのか心配でしかたない。


 僕の継承した力にはこの地を守る守護騎士様に関係するものもある。

 守護騎士様はいつから居てどのような存在なのか詳しくはわからない。僕達と同じ役割を持った人間なのか、女神様の使いの天使様なのか。


 この役割を継承した者は力を使って守護騎士様に願うことで力を借りられる。


 僕は守護騎士様を拝見したことはないけど、守護騎士様こそ黒い鎧の騎士で、初代魔王様なんじゃないかと思っている。


 初代魔王様と関わりの深い立ち入り禁止の森に行くのなら守護騎士様の力をお借りしたいけど、僕の都合で個人的な事をお願いなんてできない。

 特に今は領内でも異変が起きていてそちらに協力を求めないといけなくなるかもしれないのだ。


 僕の先見の力はそう遠くない先の出来事しか見れない。兄様の身に恐ろしい事が起こるのはこの領内だ。


 なんとか回避が出来るルートはないか探ってみたけれど、どのルートを選んでも兄様がそれに遭遇することは防げないのだとわかった。


 その後何度もシュミレーションして調べると唯一逃れることが出来る可能性のあるルートが見つかった。けれど絶対ではない。とにかく立ち止まらずに全力で危険な個所から遠ざかることが必須だ。


 だから兄様に約束をしてもらった。


 ―― 特にこの道ではけして立ち止まらずに目的の森の入り口まで全速力で駆け抜けて行くように!必ずだよ ――


 って。


 僕は父様と騎士達の身と兄様の身に同時に危機が迫った時、選択をしなければならない。


 父様と騎士達が命を落としてしまったらこの領を守る事が難しくなる。そしてこの辺境の地を守ることが出来なくなる。そうならないために役割を継承したんだ。


 でも、僕は、僕の力の及ぶ範囲で兄様にもしものことが起こったなら全力で力になりたい。ほんの数日一緒に過ごしただけだけど、兄様の事が大好きになったから。


 もしものことがあっても兄様の役割はきっと兄様のきょうだいが継ぐことになる。


 僕が選ぶ方は決まっている。けれど、頭の中でわかっていても心が受けつけられない。どちらかしか選べないなんて僕は……。


 僕はずるい。兄様にお願いした約束は僕の心を軽くするためのもの。僕が兄様を選ばなかった時にいいわけをするためのものなんだ。


______


 今日はとても嫌な予感がするので午前中の予定を変更して仕事をすることにした。


 僕の仕事部屋には祭壇があり、その祭壇に箱を置いて力を使う。

 その一つに箱に手をかざし力を開放するとその場を動かずに遠く離れた場所まで見ることができるものがある。


 力を開放して領内を見回し異常がある場所を探す。街道の近くで昼食をとっている兄様をみつけた。無事を確認して少しほっとした。見た感じではイジムの村以外には特に異常はない。


 となると何かが起こるのはイジムか……。


 イジムの村に居るのは父様と騎士達だけで、村民はこの街の教会に避難させている。

 村の隅々まで見回すとやはり何か様子がおかしい気がする。

 箱の中にある鱗に手をかざし呪文を唱えるとこれから起こることの映像が見えた。


 村を大きな揺れが襲い、村長の家が崩れ落ち中から赤い鱗に覆われたドラゴンが現れた。


 ドラゴンは最初に父様に襲いかかり騎士達が応戦するが尾で弾き飛ばされる。

 そこに新たに騎士が一人現れドラゴンと対峙するが、ドラゴンは口から炎を吐き村を焼き尽くし飛び立って行った。


 衝撃で一瞬思考が停止したがはっと我に返ると急ぎ魔道具で父様に映像で見たことを伝え、守護騎士様に呼びかける。


『守護騎士様、私はヴァルツ伯爵の長男のテオルと申します。先見の力を継承した者です。どうか私の呼びかけにお応え下さい』


『応えよう。要件はなんだ』


『領地の中心にあるカドムの街の東にあるイジムという村に赤い鱗のドラゴンが現われます。私の力が未熟なため詳しい時刻は絞れませんが日が高いうちのようなのであまり時間は無いと思われます』


『すぐに向かおう。今村には人はいるのか?』


『領主と騎士20名がいます。村人は避難済みです』


『そのドラゴンは私の力では屠る事は出来ぬ。その者達を避難させておくように』


『わかりました。私の呼びかけにお応えありがとうございます』



 守護騎士様に応えてもらえたことに興奮しながらも急いで父様に避難をしてもらうように伝えた。


 再び呪文を唱えて飛び立ったドラゴンの後を追う。谷に降り立ったところへ魔狼の群れが現れる。


 まさか、と思い映像を崖の上へ移動するとアラン兄様がこちらへ向かって走ってきている。


 やはりあの時見た映像はこのことだったんだ!


 兄様、お願いだからここで立ち止まらないで!そのまま全力でここから離れて!お願い……。


 精神が乱れたことで映像は途切れてしまった。僕はそれ以上見ることができず、祈ることしかできなかった。





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