力の差
魔道具のセンサーの反応で残りの盗賊の位置を確認しながら距離を取り安全なところまで逃げ切れた。
「君達のケガの具合を見せてもらってもいいかな?」
「はい。あ、俺はライルです。俺は大したことはないのでこいつをお願いします。この犬は俺の犬ではないんですけどあいつらの魔狼にいたぶられていたから心配なんです」
魔狼なんていただろうか? 森の魔物と一緒に消えたのか?
ライルのケガは腹部や背中に集中していたが本人が言うように軽傷だった。念のためにライルに回復薬を飲ませ、腹部と背中に軟膏を塗っておく。
犬の方もところどころに出血はあるがこちらも命にかかわるようなケガはないようだ。回復薬を動物に飲ませていいのかわからなかったので傷口には傷薬を、痛がるところには軟膏を塗って舐めないよう包帯を巻いておいた。
薬を塗り終わった後から小さくキュンキュン泣きながら犬がじっと俺を見つめている。少しそわそわしていてその様子にどこか既視感がある。何だったかな?
おっと、今はそんなこと考えている場合じゃなくてこれからの作戦を伝えなくてはならないんだった。
とりあえず今は静かにしようね、と言うと犬は鳴くのをやめた。賢い子だ。
コホン、
「俺は一度罠にかかった盗賊たちを確認しに行って来る。ライル達はここで待っていて欲しい。もし俺が危険と判断したら合図を送るから、森の出口まで移動して身を隠して騎士団の到着を待っていて。騎士達が見つけて助けてくれるからね」
「いや、俺も連れて行ってくれ。邪魔はしないし身を守る事は出来るから」
ライルが盗賊と一緒にいた理由を話してくれた。
盗賊の一人が首にかけていたペンダントがライルの父親の物で、取り戻そうと付いて来た。
そして先ほどの盗賊たちの会話で父親を殺されたことを知り、今は敵を討ちたいと思っている……と。
「……そうなんだ。それでその盗賊のかけているペンダントがライルの父上の物なんだね? たぶん罠にかかった盗賊は二人だ。その二人のどちらかだといいんだけれど」
「そうあって欲しいけど、あいつはそう簡単に捕まらないと思う。卑怯だし残忍で、感がよくてすごく強いんだ」
ライルは唇を噛みながら苦々しそうに言う。村長の家から逃げる時の騎士との戦い方を見ただけでもかなりの手練れで、そう簡単に捕まるようなことはないと思ったらしい。
「……まだ罠は残っているから俺の後ろに付いて来て。それと、最初の煙幕の効果はあと30分くらいだから切れたら身を隠してね」
「わかった」
森に潜んでいる盗賊の気配を探りながら逃げてきた道を引き返す。
盗賊との距離はまだあるが、厄介な事に向こうも引き返しているっぽい。
極力物音を立てないように戻り、盗賊がかかった罠にたどり着いた。だが、この盗賊の首にはペンダントは見当たらない。
「ここから出せ! ふざけやがって!」
「はいはい、騎士団が来て出してくれるからもう少し待っててよ」
わめいてうるさい盗賊に親切にちゃんと出してあげると教えてあげたらもっとうるさくなった。間抜けに罠にはまったくせに元気いっぱいだ。
次の罠へ向かおうとすると殺気立った気配が近づいて来るのがわかった。これだけ騒がれれば気付かれるよね。
そこで他の罠を使かって迎え撃とうとしたのだが、罠が壊されている。次の罠へ向うもこちらも壊されている。
盗賊は逃げたのではなく、罠を探して壊していたのだ。その間にも相手との距離は縮んでいく。もう罠はあてに出来ない。自力で戦うしかないのだ。
「ライル、俺はここで盗賊を迎え撃つ。君達は離れて身を隠していて」
「わかった」
「グルルル」
犬は俺の足元に寄ってきて盗賊が来る方向を睨んで唸っている。いや、お前も向こうに行っていてほしいんだが。
ライルも首を振っている。仕方がないので無茶をするなよと声を掛けると元気にワン! と答えられた。ハァ、本当にわかっているのか?
こちらの罠は壊されたが、もしかしたら向こうも何か仕掛けているかもしれない。魔力の色が見えるように視界を切り替える。
俺が仕掛けた罠以外に何かが仕掛けてあるのを確認できたが手を出していいのかわからない。よく見ると周辺にはかなりの量が仕掛けられている。
誘き出されたのは俺たちの方だった。
いつでも剣を抜けるように柄に手をかけて気配を探る事に集中する。
来る!
そう思った次の瞬間には斬りかかられていた。即座に剣を抜いてぎりぎり攻撃を受け流す。それでも威力は抑えきれずに俺は弾き飛ばされて木に背中を叩きつけられた。
「ガハッ!」
背中が痛い。
顔をあげると盗賊が地面を蹴って飛び掛かってきていて、そのまま体をひねり鉈を下から上へと振り上げる。とっさに何とか避けたが俺のもたれかかっていた木の幹が抉れている。なんて威力だ。腕力では到底かなわない。
考える間もないまま次々と斬り付けてくる。
何か使える物がないかと周りに目を向けた隙に間合いを詰められ目の前に盗賊の顔があった。恐怖に血の気が引いていく。
「お遊びは終わりだ」
「ぐあぁっ……」
腕をひねりあげられ激痛に剣を落としてしまった。盗賊は身動きの取れない俺の顎を持ち上げてフンと笑う。
「おまえ顔はきれいだな。高く売れそうだ」
こういう時マンガだとぺっと唾を吐きかけるんだろうけどできないのでせめてもと睨みつける。弱気になったら負けてしまう。
「いいねぇその顔。喜ぶやつ等が大勢いるんだぜ。ま、俺はその顔が絶望に染まるまでいたぶるのが好きだがな」
そう言って突き飛ばされたときに盗賊の首にペンダントがかかっているのが目に入った。予想よりかなり大きいもので、大きな二枚貝のような形をしている。そして、不思議な魔力を含んでいた。
あれがライルの父親の形見で間違いなさそうだ。
受け身を取って態勢を整えるが、右腕はひねりあげられた時に痛めたために力が入れられず剣を拾い上げるのがやっとだった。
盗賊が呪文を唱えて手をあげると指先から何かが飛び出して俺の頭上を飛んでいく。飛んで行った先でカチリと音がしてそこから魔法が発動し、無数の炎が飛んでくる。
盗賊が仕掛けていた魔道具だ。魔物からもらったマントで次々と飛んでくる炎を防ぐ。魔法耐性のあるマントのようで助かった。
だが、盗賊からの攻撃は収まらない。次々と魔道具を発動させて炎や氷などを飛ばしてくるのだ。魔法自体は防げても、その衝撃までは抑えられず痛い。このままいたぶられていたら動けなくなり再び捕まってしまうだろう。
騎士団の訓練では最悪の状況に陥ったら、大人しく捕まって助けを待つように、と言われていた。だがそれは仲間がいた場合であり、今回のように単独の場合は自力でなんとかするしかない。
グラード団長から最悪の場合の秘策は教えてもらっている。今選択できるのはグラード団長からの秘策だ。ただし、時間がかかるので今はそれも自力で稼がないといけない。
魔法攻撃を防ぎながら剣を収め、腰に着けていた小袋からクリスタルを取り出し落とさないように握り魔力を流し込む。
あとはクリスタルに魔力が溜まるまでの時間この魔法攻撃が続くことを祈るのみだ。




