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おひとりさま歴33年、異世界で捨て子になって王子に拾われました  作者: 花金男爵


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第四十五話 みんなで遊ぶために


「今日は、工房へ行くんだよね」


 朝食の席で、アリスが尋ねた。


 ディアルがベルガン様と広場へ来てから、数日が過ぎていた。


「うん。やっと試せるところまでできたって」


「公務がないのは、お前だけだな」


 ディアルが言う。


「遊ぶのも大事な予定だよ」


「仕事とは言っていない」


「言われる前に答えただけ」


 ディアルは今日もベルガン様のところへ行く。アリスにも医療施設での仕事があった。


 俺は午前中を工房で過ごし、午後には卵を持ってハリエット様へ相談に行く。


 遊ぶ予定も、帰る時刻も決まっていた。


「では、遅れないでくださいね」


「どっちに?」


「どちらにもです」


 アリスに見送られ、俺はフードを深くかぶって王宮を出た。


 ◇◇◇


 工房へ入ると、三人とも、もう作業を始めていた。


 アダムスは卓の前で人形を持ち上げ、腕や脚の関節を一つずつ動かしている。


 その隣では、魔道具の修理や組み付けを得意とするパーロが、卓上のフィールドを組み直していた。外した部品を次々に置くので作業台は散らかって見えるが、戻す場所に迷う様子はない。


 若い弟子のセオは必要な道具を並べながら、何度もこちらを見た。


 フィールドと呼んでいる台を挟み、二人で人形を戦わせる。そんな遊びを、この三人と前から作っていた。


 自分の人形で相手を出し抜き、攻撃を避け、やり返す。


 考えるだけで、台の向こう側に誰かを座らせたくなる。


「遅いぞ、フィル」


「約束の時間には間に合ってるよ」


「俺たちは先に始めてた」


「それはセオが早かったんじゃない?」


「準備する側は早く来るものなんだよ」


 先輩らしいことを言いながら、使わない道具まで一つ並べている。


 パーロが笑い、セオは何も言わずにそれだけ端へ戻した。


「今日は昼まで試せるよ。午後は約束があるけど」


「なら、話してる間に始めようぜ」


 セオに急かされ、俺は人形を作ってくれているアダムスへ向き直った。


「人形は?」


「問題ない」


 短い返事だった。


 アダムスが人形を卓へ置き、背中を軽く押す。体は傾き、足首と膝が動いて倒れずに止まった。


 子供が何度も遊べるよう、関節は簡単には外れない。壊れた時に直せる作りも、前から確かめてきた。


「こっちも、外れたところはないぞ」


 パーロがフィールドを指で叩く。


「昨日、セオが触ったところも含めてな」


「ちゃんと戻しただろ」


「だから動くか試すんだよ」


 言い返しかけたセオは、俺の前へ場所を空けた。


「まず、人形だけ動かしてみろ」


「うん」


 俺は人形へ直接、操作魔法を使った。


 右腕を上げる。下ろす。一歩前へ進ませ、体を横へ向ける。


 人形は指示したとおりに動いた。


 アダムスが足元へ手を添え、関節の動きを見る。引っかかりはない。


「人形は大丈夫だな」


 パーロが言った。


「次だ、次」


 セオが人形をフィールドの上へ戻す。


 アダムスが両足の位置を直している間に、パーロが側面へ最後の部品を組み込む。セオが道具を下げると、俺の前が空いた。


 やりたいのは、操作魔法を直接使うことではない。


 フィールドへ魔力を流し、そこから人形へ指示を送る。操作魔法の適性がない人でも、同じ台を使って遊べるようにするためだった。


 俺はフィールドへ手を置き、いつも使うくらいの魔力を流した。


 人形の腕を上げるつもりで、指示を送る。


 動かない。


「もう一回」


 今度は、前へ進むようにする。


 人形は、フィールドの上で立ったままだった。


「寝てるんじゃないか?」


 パーロが言う。


「さっき起きてたよ」


 俺が答えると、アダムスが人形の頭を指で叩いた。


「起きている」


「アダムスまで言うの?」


 セオが人形を持ち上げ、俺はまた直接動かす。


 腕も脚も、問題なく動いた。


 パーロはフィールドの部品を確かめ、セオが道具を渡す。アダムスは人形の足を外から動かし、また戻した。


 俺も魔力を流す場所や、動かそうとする順番を変えた。


 それでも、フィールドへ戻した人形は動かない。


 パーロが手を伸ばすと、セオは言われる前に次の道具を渡した。俺には似たように見える細い道具も、ちゃんと使い分けている。


 やがてパーロは体を起こし、外していた部品を戻した。


「接続は合ってる。割れた部品もない」


「壊れてないのに、動かないね」


「一番困るやつだな」


 パーロの返事は明るかった。


 動かないのは悔しい。


 でも、台を片づけようと言う人は一人もいない。俺もまだ帰りたくなかった。


「もっと魔力を流したら?」


 俺が言うと、パーロがフィールドへ目を落とした。


「今よりか?」


「うん。少しずつ増やしてみる」


「壊すなよ」


 セオが言う。


「壊れたら直す」


 アダムスはそう言って、人形の横へ手を添えた。


 頼もしいけれど、壊してよいという意味ではないはずだ。


 俺はもう一度、フィールドへ魔力を流した。


 さっきより多く。


 まだ動かない。


 さらに増やす。


 フィールドの上で、人形の右腕が上がった。


「動いた!」


 セオの声と、俺の声が重なった。


 集中を切らさず、次の指示を送る。


 人形が一歩進む。少し間を置いて、もう一歩。体を横へ向け、上げていた腕を下ろした。


 俺は人形へ直接、操作魔法をかけていない。魔力を流しているのは、手元のフィールドだけだ。


 それでも人形は、俺が送った指示に合わせて動いている。


「できた」


 今度は小さく言った。


 大声を出すと、集中までどこかへ飛んでいきそうだった。


 アダムスは人形の足元から手を離し、初めて少しだけ口元を緩めた。


 パーロは笑いながらも、すぐフィールドの横へ回り込む。セオだけは、人形と俺を交互に見てから、もう一度「動いた」と言った。


「もう一度、歩かせろ」


 アダムスが人形の足を見る。


 俺は一歩だけ進ませて、止めた。


 パーロがフィールドの横から接続を確かめる。


「たまたま揺れたんじゃないな」


「うん。動かした」


 セオが俺の隣へ入り込んだ。


「次、俺」


 場所を譲ると、セオはすぐにフィールドへ手を置いた。


 パーロとアダムスも、順に同じように試した。


 三人が魔力を流している間、人形は立ったままだった。


 俺の流し方を確かめて、同じようにやってみても変わらない。


「フィル、どれだけ流したんだ?」


 パーロが尋ねる。


「いっぱい」


「それで伝わると思うか?」


「さっきより、かなりいっぱい」


「もっと分からなくなった」


 パーロが俺の顔を覗き込んだ。


「それだけ流して、まだ続けられるのか?」


「うん。もう一度やろうか?」


 いつもならすぐに次をせがむセオが、黙って俺を見た。アダムスも、フィールドに置いた自分の手から俺へ視線を移す。


「……よく残ってるな」


 パーロが呟いた。


 セオは自分の手を握ったり開いたりしてから、動かない人形を睨んだ。


「俺にも動かさせろよ。これじゃ、フィルと勝負できないだろ」


「俺も、それは困る」


 動かせたことは嬉しい。


 けれど、今のままでは俺しか遊べない。


 魔力をたくさん持っている方しか動かせないなら、勝負を始める前に結果が決まってしまう。


 作りたいのは、そういう遊びではなかった。


 負けたらもう一回と言えて、次は別のやり方を試せるものがいい。


 広場のオセロなら、子供が石を置くたび、大人まで盤を覗き込んで考えていた。年上だから、力が強いからというだけで勝ちは決まらない。


 人形の勝負も、そうしたかった。


「子供だって、上手くやれば大人に勝てる方が面白いでしょ」


「お前、俺に勝つ気で言ってるだろ」


「そりゃ、勝ちたいよ。だから、セオも動かせるようにしないとね」


「俺が勝つけどな」


「まだ動かせてもないのに?」


「動いたら勝つ」


「じゃあ、早く動かせるようにしよう」


 パーロが笑いながら、またフィールドを引き寄せる。


「動く方法があることは分かった。今日は、朝より進んだな」


 原因も、少ない魔力で動かす方法も、まだ分からない。


 それでも、フィールドから人形を操縦できることは確かめられた。


 アダムスが人形を卓へ戻す。


 セオはもう次に試す道具を選び始め、パーロも外した部品を並べ直している。


「午後の予定、遅れるなよ」


 セオが道具を探しながら言った。


「分かってる。だから、それまでにもう一つ試そう」


「一つで終わるか?」


「二つくらい?」


 パーロに笑われ、アダムスが無言で新しい部品を卓へ置いた。


 皆で遊べるところまでは、まだ遠い。


 でも、次に試したいことなら、もう四人分あった。

フィルの趣味にも興味持ってあげてください

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