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おひとりさま歴33年、異世界で捨て子になって王子に拾われました  作者: 花金男爵


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第十九話 魔物の季節と王の招待

投稿が遅くなりすみません…

次章の設定に苦労しました、、

 今日は、やけに声がよく通る。


 木剣を受け止めたまま、俺は訓練場の端へ目を向けた。いつもなら誰かしら走っている外周にも、打ち合いの順番を待つ場所にも、ぽっかりと空きがある。

 代わりに、門のそばには荷物を積んだ馬が並んでいた。


「よそ見」


 短い声とともに、手元の木剣が跳ね上がった。

 慌てて引き戻すより早く、ディアルの切っ先が胸へ触れる。


「今の、もう一回やらない?」

「次も同じことをするのか」

「いや、今度はちゃんと見るから」


 ディアルは木剣を下ろし、少しだけ顎を引いた。

 やり直しに応じてくれるらしい。ありがたい。こういうところは、もう少し甘くてもいいんだけど。


 結局、次は正面から崩されて負けた。

 見ていれば何とかなる、というものでもなかったようだ。


「よし、そこまで。少し休んでこい」


 イーサックの声に、俺はさっさと木剣を片づけた。水を飲みながら門の方を見ると、レオが騎士たちへ何かを伝えている。その横では、トレンが一人ずつ荷物を確認していた。


「今日、人が少ないね」

「巡回を増やしてるからな。朝方にも一組出た」

「何かあったの?」

「何かある前に出てるんだよ」


 イーサックが俺の隣へ腰を下ろす。手にした水筒は、俺のものよりずっと大きい。


「そろそろ魔物の動きが活発になる。街道に出てきたり、餌を探して集落の近くまで来たりするんだ」

「毎年?」

「ああ。場所も数も毎年同じなら、こっちも楽なんだがな」


 門の前で、騎士の一人が荷物を下ろした。トレンが中身を指差して何か言うと、その騎士は慌てて建物の方へ走っていく。


「忘れ物かな」

「予備の縄だろうな。剣は忘れなくても、ああいうものは抜ける」

「魔物を縛るの?」

「それにも使う。荷物をまとめる、壊れた柵を直す。何に使うかは、行ってから分かることもある」


 なるほど。剣を持って出かけて、魔物を倒して帰れば終わり、という仕事でもないらしい。


 戻ってきた騎士から縄を受け取ったトレンが、荷物の上へ結びつける。レオはその間にも、別の騎士から報告を聞いていた。


「北の街道は異常なしです。ただ、村の猟師が森の浅いところで足跡を見たと」

「場所は?」

「この辺りだそうです」


 広げられた紙を、何人かがのぞき込む。

 すぐ近くでは剣を打ち合う音が続いているのに、そこだけ稽古とは違う空気があった。


「イーサックも行くの?」

「必要ならな。今のところ、あいつらに任せてる」

「じゃあ、今日はずっと稽古?」

「そうなるな」

「そっか。必要になるといいね」

「俺に出てほしい理由が別にあるだろ」


 人聞きが悪い。王国の平和を願っているだけである。

 稽古が少し短くなる可能性も、一応は考えたけど。


「フィル様、ディアル様」


 その可能性は、思わぬところからやってきた。


 訓練場の入口に、アリソンが立っていた。いつもどおり服には乱れがなく、土埃の上を歩いてきたとは思えない。


「お二人にお話がございます。お着替えを済ませてから、お部屋へお越しください」

「勉強?」

「いいえ。本日の予定にはなかったお話です」

「うーん。それ、あんまり嬉しくない言い方だね」


 アリソンは微笑んだだけだった。

 さっきまで休憩の終わりが来なければいいと思っていたのに、今は続きをやっていた方がよかった気がする。

 我ながら、勝手なものである。


 ◇◇◇


 部屋へ入ると、アリスが机の上をのぞき込んでいた。

 隣にはカリーナ、窓際にはウルスナがいる。俺たちの後からイーサックも入り、扉を閉めた。


「フィル、遅いです」

「呼ばれてから、ちゃんと着替えて来たんだけど」

「私はもう待っていました」

「先に呼ばれた人の方が早いのは、仕方なくない?」


 アリスは返事をせず、隣の椅子を引いた。

 座れということらしい。その手元には、見慣れない紋様の入った封筒がある。


「それ、誰から?」

「レアリード王国からです」


 答えたのはアリソンだった。


「レアリード?」

「南方にある、エルフ族の国です。フェリックス国王陛下より、正式なご連絡をいただきました」


 どこかで聞いた名前だ。

 思い出すより先に、腰の刀が椅子の縁へ当たった。軽い音がして、俺は鞘の位置を直す。


 ああ、そうだった。


「……もしかして、ぼく?」

「はい。フィル様にお会いしたいとのことです」


 アリソンが、丁寧に封筒を持ち上げた。

 中の紙を見せてもらうと、確かに俺の名前がある。見間違いを期待してもう一度読んでみたが、別人になる様子はなかった。


 始まりの里で、ハーバードが言っていた。

 神樹の武器を変化させたことが知られれば、エルフの王に目をつけられるかもしれない、と。


 目をつけられた結果が、ずいぶん立派な紙になって届いている。


「あの手紙、本当に王様まで届いちゃったんだね」


 カリーナを見ると、彼女は嬉しそうに頷いた。


「はい。実家でも、とても驚いていたそうです」

「うん。驚くよね」

「王様からお招きいただけるなんて、よかったですね」

「そうだねえ」


 なかなか難しい返事をしてしまった。

 カリーナは自分のことのように喜んでいる。その顔を見ていると、もう少し知られずに済ませたかったとは言いにくい。


「用件は、神樹の武器か」


 ディアルが尋ねると、アリソンが頷いた。


「そのようです。変化した武器と、その使い手を直接確かめたいとのことでした」

「見せるだけでいいのかな」

「お話も伺われるでしょう」

「どうやって変えたのか、とか?」

「おそらくは」


 刀がいいなと思ったら、刀になった。

 以上です。


 うーん。もう少し説明を増やした方がいい気がする。ただ、増やせるほど立派なことを考えていたわけでもない。


「変えようと思ったら変わりました、じゃ駄目?」

「事実をお伝えすればよろしいかと」

「その事実が、ちょっと頼りないんだけどね」


 ウルスナへ視線を向ける。


「やっぱり、そんなに珍しいことなんだ」

「はい。私たちにとって、見過ごせる出来事ではありません」

「怒られる話ではないよね?」

「少なくとも、お招きの文面にそのような意図はありません」


 否定の仕方が慎重で、かえって気になる。

 まあ、ウルスナが勝手に王様の気持ちを決めるわけにもいかないか。


 紙へ目を戻してから、俺はもう一つ思いついた。


「白髪のことも、知ってるの?」


 カリーナが、今度は少し考えてから口を開いた。


「そちらは、以前のお手紙に書いております」

「以前って?」

「ディアル様がフィル様をお連れになった頃です」


 ずいぶん前だった。


「その頃から?」

「はい。小さな赤ちゃんをお連れになって、皆でお世話をすることになったと。髪がとてもきれいな白色だったことも、覚えております」


 本人の知らないところで、俺の成長記録が国外へ送られていたらしい。

 いや、実家へ近況を知らせるのは普通のことだ。名前を伏せて秘密の赤ちゃんとして書かれても、それはそれで嫌だけど。


 俺は前髪をつまんだ。


「じゃあ、見てびっくりされるわけじゃないんだね」

「お相手は、フィル様が白髪であることも承知しておられます」


 アリソンの答えに、指を離す。


 それなら、少なくとも会った瞬間に話が違うとはならない。

 白髪だからこそ確かめたい、という可能性もありそうだけど、今ここで考えても分からない話だった。


「陛下には、すでにご確認いただいております。こちらから訪問についてのお返事を差し上げる予定です」

「ぼくの名前、そんなに偉い人たちの間を行ったり来たりしてたの?」

「正式なご招待ですので」

「なるほど。簡単には断れなさそうだね」


 隣で、アリスが少しだけ身を乗り出した。


「私たちも一緒に行きます」

「アリスも?」

「はい。お兄様もです」


 ディアルを見ると、当然のように頷いた。

 二人とも、俺ほど身構えてはいないらしい。


「一人じゃないなら、まあ……」

「私も同行いたしますので、ご安心ください」


 アリソンが笑う。

 心強いのは間違いない。ただ、話がうまく進みすぎていて、今さら椅子から逃げても何も変わらなさそうだった。


 ◇◇◇


 同行するのは、俺とディアル、アリス。それにアリソン、イーサック、ウルスナ、カリーナの七人になった。


 馬車で二週間ほどかかるという。

 始まりの里へ行った時より長い。途中で泊まる場所や、連絡を取る相手について、大人たちの話は早くも具体的になっていた。


「レオとトレンは、お留守番?」

「こっちの仕事があるからな。騎士団を空にはできん」


 イーサックが、机の上の書類をまとめる。


「ヴィルツも?」

「あいつは、まだ王都で覚えることがある」


 それはそうか。

 来たばかりなのに次の国へ連れていかれたら、本人も落ち着かないだろう。


 話が終わって部屋を出る頃には、廊下の先からレオとトレンがやってきた。イーサックと打ち合わせをするらしい。


「お出かけになるそうですね」


 トレンが声をかける。

 俺は腰の刀へ触れた。


「これを見せてほしいんだって」

「それは、なかなか大事なご用ですね」

「本人としては、見せたらすぐ帰してもらいたいんだけど」

「どうでしょう。お話が弾むかもしれませんよ」


 それは困る。相手が王様では、そろそろお昼なので、と席を立つわけにもいかない。


 レオの後ろには、書類を抱えたヴィルツがいた。

 目が合うと、きちんと姿勢を正す。


「旅の間、お気をつけて」

「ありがとう。ヴィルツも、稽古頑張ってね」

「もちろんです」


 迷いのない返事である。

 この人に限って、そこは心配いらなかった。


「でも、イーサックがいないなら、少しは楽になるんじゃない?」


 俺が言うと、レオが不思議そうにこちらを見た。


「いえ。普段どおり行います。団長からも、次の課題を預かっておりますので」

「次の課題」

「はい。今の内容には慣れてきたようですから」


 ヴィルツは一度だけレオを見た。それから、書類を抱える腕に力を入れる。


「承知しました」


 偉い。俺なら内容を聞いてから返事をする。

 できれば、聞く前に交渉もしておきたい。


「休みまで稽古に使うなよ」


 イーサックの言葉には、ヴィルツの返事が少し遅れた。


「……分かっています」

「そこだけ自信がないのか」


 レオが笑い、トレンも口元を緩める。

 俺がいない間も、ここの毎日は大して変わらなさそうだ。


 ◇◇◇


 出発までの数日は、思ったより忙しかった。


 着替えを用意され、旅の予定を聞き、その合間にいつもの勉強と稽古が入る。旅に出るからといって、その前が休みになるわけではないらしい。

 アリスも、セシリアへ渡すものがあると言って、紙の束を抱えて行ったり来たりしていた。


 俺の部屋では、ウルスナが荷物を確かめている。

 椅子の背には、街へ出る時に使うフード付きの上着が掛かっていた。


「向こうでも、これを着るんだよね」

「街中では、その方がよろしいでしょう」


 招待されたからといって、国中の人に顔を知られているわけではない。俺は上着の裾を直し、隣の机へ広げた地図に目を戻した。


「レアリードって、森ばっかりなの?」

「森の多い国ですが、人の暮らす場所もございます」

「それはそうだね。家も木で作るの?」

「木材を使ったものが多いですね」

「じゃあ、火を使う時は大変そう」

「そのための備えはしております」


 窓や階段はどんな形なのだろう。

 森の中なら、雨の日の道も気になる。高い場所に家が並んでいたりしたら、荷物を運ぶだけでも一仕事だ。


「お店は?」

「ございます」

「食べ物も、ここと違う?」

「同じものも、違うものもあります」


 質問するたび、ウルスナの手が一度止まる。

 邪魔をしている自覚はあるのだが、聞ける人が目の前にいるのだから仕方がない。


「フィル」


 開いた扉のところに、ディアルが立っていた。

 後ろから、アリスも顔を出す。


「まだ支度か」

「ぼくの分は、だいたい終わってるよ」

「では、先ほどから何を話しているのですか」

「向こうのことを、ちょっと聞いてただけ」

「ちょっとではございませんでしたが」


 ウルスナから訂正が入った。

 アリスが机の地図を見て、なぜか得意そうに頷く。


「楽しみなのですね」

「いや、王様に会うのは、まだ気が重いよ?」

「さっき、店のことを聞いていた」


 ディアルまで、余計なところを聞いていたらしい。


 まあ、否定はできない。

 エルフの国なんて、前世では絵や画面の中にしかなかった場所だ。そこへ行って、歩いて、物を買ったり食べたりできる。

 興味がないと言ったら嘘になる。


「王様に会うのと、街を見るのは別だからね」

「では、両方済ませましょう」


 アリスがあっさり言った。

 それができれば苦労はしない。いや、たぶんそうすることになるんだけど。


 俺は地図の上で、王都から南へ指を滑らせた。

 まだ知らない道が、森の描かれた場所まで続いている。


「……街を見る時間も、ちゃんとあるよね?」


 ディアルは答える代わりに、アリソンを呼びに廊下へ出ていった。

 どうやら、相談する気にはなってくれたらしい。


 ありがたい。

 どうせ王様には会わなければならないのだ。せめて、それ以外の予定は増やしておこう。

さてエルフの国編の始まりです。

フェリックス、いい人だといいですね

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