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おひとりさま歴33年、異世界で捨て子になって王子に拾われました  作者: 花金男爵


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第十一話 見ているだけではわからない

 翌朝、稽古場へ向かうと、ヴィルツが立っていた。


 昨日のうちに散らばった木片は片づけたが、抉れた地面までは直っていない。新しく運び込まれた支柱が端に積まれ、残った柵の向こうから、朝の風が遠慮なく吹き込んでいた。


 ヴィルツはその光景をしばらく眺めてから、こちらを振り返った。


「……お前がやったのか」


「うーん。できれば、違うって言いたいんだけど」


「違うのか」


「俺です」


 すみません。


 いや、ヴィルツに謝る必要はないのだが、正面から聞かれると、つい姿勢を正してしまう。


「いったい、何をしたらこうなる」


「ちょっと、刀と意見が合わなくて」


 腰の刀へ手を添えると、ヴィルツの眉が寄った。


「武器の扱いを誤ったということか」


「……まあ、そうなるかな」


「なら、最初からそう言えばいい」


 ごもっとも。


 ただ、もう少しくらい、遠回りさせてくれてもいいと思う。こちらにも、言いにくいことを軽く話したい時があるのだ。


 この人と話していると、妙に背筋が伸びる。


 少し苦手かもしれない。


 そこへ、ディアルとハーバードがやって来た。少し後ろには、アリソンたちの姿もある。


 ヴィルツはすぐに向き直り、頭を下げた。


「ハーバード様。お願いがあります」


「なんだ」


「本日の稽古に、私も参加させてください」


 ハーバードは立ち止まり、ヴィルツを見た。


「まだ早い」


 返事は短かった。


 ヴィルツの肩が、わずかに強張る。


「ですが、私は――」


「普段の稽古を怠っとるとは言っておらん。お前が何をしているかも、知っとる」


 ハーバードはその先を急がず、俺とディアルへ一度目を向けた。


「今日は見ておれ」


「見学、ですか」


「そうだ。二人と自分の違いを探せ。強い弱いだけで片づけるなよ」


 ヴィルツは唇を結んだ。


 やがて、深く頭を下げる。


「……分かりました」


 そのまま稽古場の端へ移動すると、残っている柵の前に立った。こちらへ向けられた視線が、さっきよりも真剣になっている。


 うーん。


 あんなに熱心に見られると、失敗しにくいんだけど。


「フィル。今日は地面を増やす仕事はなしだぞ」


 ハーバードに声をかけられ、俺は慌てて向き直った。


「減らしたんですけど」


「そうだったな」


 訂正するところではなかった。


 ◇◇◇


 最初は、昨日と同じく素振りだった。


 俺は刀、ディアルは普段使っている剣を抜く。ハーバードは二人の間を行き来しながら、足の位置や握り方を確かめていた。


「フィル。振り終わったところで止まれ」


 刀を下ろした姿勢のまま、動きを止める。


「何が違う」


 自分の足元を見る。


 昨日何度も直された右足は、戻っていない。肩にも、余計な力は入れていないつもりだ。


 それなら、腕だろうか。


 刀を握る手へ視線を落としかけて、目の前に立つハーバードの姿が目に入った。


 俺と同じように剣を振り下ろした、その姿勢。


 違っていたのは、腰の位置だった。


「あ。前に出すぎてる?」


「なぜそうなった」


「刀を、遠くまで届かせようとしたから……かな」


 言いながら、少しだけ体を起こす。


 さっきまで左足に乗っていた重さが変わった。無理に引き戻さなくても、そのまま次の動きへ移れそうな感じがする。


「やってみろ」


 もう一度、構え直した。


 遠くへ伸ばそうとせず、足から体を動かす。刀が通ったあとも、腰が置いていかれないように。


「今のはよい」


 よし。


 褒められたからといって、次もできるとは限らない。昨日、十分に思い知ったので、忘れないうちにもう一度振っておく。


 隣ではディアルが、ハーバードの手元を見ていた。


「握り直しているんですか」


「どこでだ」


「刃が通る直前です」


「そう見えたか。では、手だけ真似してみろ」


 ディアルが剣を振る。


 ハーバードと同じように指を動かしたように見えたが、本人はすぐに首を傾げた。


「……違います」


「なら、ほかも見ろ」


 ハーバードがもう一度、ゆっくりと剣を振った。


 俺も横から見てみる。


 手だけではなかった。肘も、肩も、それより先に足が動いている。握り方の変化だけを抜き出しても、同じ振り方にはならないらしい。


 ディアルが足を引き、構えを直す。


 次の一振りは、さっきよりも静かだった。


「そうだ」


 ハーバードが頷く。


 俺は自分の柄の握り方を見た。


 気をつけることが、一つ分かると二つ増える。


 刀を格好よく振るという目標は、思ったより遠いところにあるらしい。


 休憩に入るまで、ヴィルツは一度も口を開かなかった。


 初めはハーバードの剣を追っていた目が、いつの間にか、俺たちの足元や手元にも向けられていた。


 ◇◇◇


「では、魔力付加だ。フィルは、先に刀の具合を確かめろ」


「はい」


 俺は刃の向こうに誰もいないことを確かめ、柄から少しだけ魔力を流した。


 刀はすぐに受け入れた。


 昨日と同じ、滑るような感触。


 ただし、その先が違った。


 こちらが流した分だけが、静かに刀へ入っていく。勝手に腕の奥を引っ張られる感じはない。


 少し減らせば、流れも細くなる。止めると、ぴたりと止まった。


 内部に残った魔力も、こちらから引けば素直に戻ってくる。


「……今日は、ちゃんと聞いてくれるね」


 柄へ目を落として呟く。


 返事はない。けれど、もう一度流してみても、刀が勝手に量を増やすことはなかった。


「問題なさそうです」


「なら、やってみろ」


 俺は頷き、刀全体へ意識を向けた。


 刃先へ魔力を送り届けようとするのではない。柄元も、刃の腹も、先端も、全部まとめて一つの形として捉える。


 その形に沿って、薄く魔力を行き渡らせた。


 木目のような模様に光が走り、刀身が淡く輝く。


 根元から先まで、むらはない。


 そのままゆっくりと刀を持ち上げ、左右へ傾ける。光は薄くなりもせず、刃に沿って留まっていた。


「うん。できた」


 隣を見ると、ディアルもすでに剣へ魔力を纏わせていた。


 俺が刀と相談している間に、済ませていたらしい。


 まあ、そうだよね。


 ハーバードは二人の武器を確かめると、満足そうに頷いた。


「二人とも、昨日より迷いがないな」


「昨日は、刀が話を聞いてくれなかったので」


「それだけか?」


 聞き返され、俺は刀へ目を戻した。


「……寝る前に、考えてました。何が違ったのかなって」


「話してみろ」


 もうできたのだから、次へ進むのかと思った。


 けれど、ハーバードは木剣を下げたまま待っている。その視線が一度だけ、柵の前にいるヴィルツへ向いた。


「昨日は、柄から刃先へ流すことばかり考えてたんです。でも、ハーバード様の剣は、先まで届いたあとも手元の光が変わらなかったから」


 俺は刀の根元を指した。


「ここを、ただ通り過ぎる場所にしちゃ駄目なんだなって。先へ送るんじゃなくて、全体に置いておく感じかなと思いました」


「なるほど。ディアルは」


「動かしても、魔力の範囲が変わっていませんでした。剣をどこへ向けるかより、剣のどこに魔力を留めるかが大事なのだと思います」


 ハーバードが、ゆっくりと頷く。


「昨日のうちに気づいていたか」


「見ていた時は、まだ。夜に思い返して、分かりました」


 ディアルも、同じようなことをしていたらしい。


 昨日は何度も手本を見せてもらった。稽古場を片づけてからも、頭の中には、光を纏った木剣が残っていたのだ。


 自分の刀と何が違うのか。


 寝る前に目を閉じて比べていたら、魔力を増やすこととは別のところで、ずいぶん余計なことをしていた気がした。


 試すのは今日まで我慢した。


 さすがに、寝室まで壊すわけにはいかない。


「よく見ておったな」


 ハーバードはそれだけ言って、稽古場の中央を示した。


「では、二人で打ち合ってみろ。属性はなし。魔力の量も今のままだ」


 ◇◇◇


 ディアルと向かい合うのは、別に珍しいことではない。


 王都でも、ほとんど毎日のように稽古をしている。


 ただ、刀で向かい合うのは、まだ慣れなかった。そのうえ今日は、互いの武器に魔力まで纏っている。


「ゆっくりお願いね」


「ああ」


 返事はしてくれる。


 いつも。


 ディアルが踏み込み、斜めから剣を振った。


 俺は半歩引いて刀を合わせる。金属の打ち合う音が響き、柄を通して力が伝わってきた。


 いつもより、押される。


 慌てて踏ん張りそうになり、足を動かした。正面から全部受けず、刀を傾けて剣を横へ流す。


 そのまま空いたところへ踏み込むと、ディアルはすでに体の向きを変えていた。


 俺の刀が剣に触れ、脇へ逸らされる。


 近い。


 引き戻すより先に後ろへ下がり、次の一撃を避けた。


「ゆっくりって言ったよね?」


「ゆっくりだ」


 知ってた。


 再び間合いを詰める。


 刀を動かしても、打ち合っても、魔力の形は崩れなかった。刃へ意識を張りつけていなくても、淡い光が留まっている。


 それなら、相手を見る余裕がある。


 ディアルの剣先ではなく、肩と足を見る。踏み込む方向を確かめ、今度は剣が動ききる前に、少しだけ横へ出た。


 刀を振る。


 刃は届かなかった。


 けれど、ディアルの剣を追いかけて動いた時より、次の構えへ戻りやすい。


「そこで止まるな」


 ハーバードの声が飛ぶ。


 褒めてもらえるかと思ったが、そう甘くはなかった。


 ディアルの剣が戻ってくる。


 受けて、流して、また足を動かす。魔力を纏った刃が触れるたび、澄んだ音が稽古場へ響いた。


 何度か打ち合ったところで、ハーバードが手を上げた。


「そこまで」


 俺たちは剣を下げる。


 息を吐いて刀を見ると、根元から先まで、同じ明るさの光が残っていた。


「維持はできている。フィル、最後は腕で追ったな」


「はい」


「ディアルは、相手を動かすことばかり考えるな。自分の足も使え」


「はい」


 魔法が一つ使えるようになっても、剣術の宿題は減らないらしい。


 俺は額の汗を袖で拭いかけ、差し出された布を受け取った。いつの間にか近くへ来ていたウルスナが、水も用意してくれている。


「ありがとう」


「どうぞ、少しお休みください」


 水を飲みながら、刀を眺める。


 今日は、本当に余計なことをしない。


 やる気を出しすぎないでもらえると、こんなにも助かるのか。


 その点については、ぜひ今後もお願いしたい。


 ◇◇◇


 休憩のあと、ハーバードは木剣へ薄い炎を纏わせた。


「次は属性付与だ。魔力へ属性を持たせ、武器とともに扱う」


 炎は木剣に沿って揺れていた。


 木が燃えているわけではない。焦げる匂いも、煙もなかった。


 ハーバードが剣を傾ける。


 炎は上へ伸びず、剣の形に留まったまま動いた。


「まず、やり方を考えろ」


 俺は手元の刀を見て、それからもう一度、ハーバードの木剣を見た。


「火をつけてるわけじゃないんだね」


「魔力の形が変わってない」


 隣でディアルが言う。


「さっき纏わせていたものが、そのまま炎になってる」


「うん。でも普通に火を出したら、上へ燃え上がろうとするよね。あれは、剣を動かしても離れない」


 俺は指先で、木剣の輪郭をなぞるように示した。


「火を作ってから剣に乗せるんじゃなくて、先に留めた魔力を火にする……かな」


「なら、付加を崩さなければいい」


「そうだね。形を保つのはそっちの仕事で、属性はあとから変えるだけか」


 ディアルが頷く。


 ハーバードを見ると、こちらへ木剣を向けた。


「試せ」


 俺は刀へ魔力を行き渡らせ、その形を保ったまま、火の属性を与えた。


 淡い光が、細い炎へ変わる。


 刃先から柄元まで、炎が刀に沿って揺れていた。


 ゆっくりと傾ける。


 離れない。


 少し持ち上げても、火は上へ逃げず、そのまま刃に留まっている。


「……おお」


 声が漏れた。


 隣のディアルも、炎を纏った剣を傾けていた。火を消し、元の魔力だけの状態へ戻してから、もう一度炎に変える。


 俺も同じように試した。


 一度消して、今度は風。


 刃の周囲を細く巡る空気が、刀を動かした時に小さく鳴った。


 できる。


 火でも風でも、魔力付加の形さえ保てば、属性を持たせられた。


「よし。二人とも、よく考えたな」


 ハーバードが頷く。


 俺は再び火へ戻し、刀身を眺めた。


 格好いい。


 うん。これは、かなりいい。


 ずっとやってみたかったことが、今、手の中で起きている。


「眺めるのはあとだ。試してみろ」


 ハーバードが示したのは、打ち込み用の木材だった。


 俺とディアルはそれぞれ標的の前へ立ち、見守られながら一度ずつ剣を振る。


 切り口の縁が、うっすらと黒くなった。


 それだけだった。


「……あれ?」


 刀を離し、木を覗き込む。


 斬れてはいる。


 ただ、それは普通に振っても、このくらい斬れる気がした。


 ディアルも、自分の剣と切り口を見比べている。


「思ったほど、変わりません」


「纏わせることと、威力を出すことは別だからな」


 ハーバードは、当然のように答えた。


「魔力を増やせば強くなる。だが、二人が次に覚えるのは、ただ増やすやり方ではない」


 俺は隣の地面を見た。


 昨日の跡が、しっかり残っている。


 はい。その方法が駄目なのは、よく分かりました。


 ハーバードが、木剣へ魔力を通した。


「同じ量でも、広く散らせば薄くなる。なら、狭い範囲へ集めればどうなる」


「濃くなる?」


「そうだ」


 剣の表面に浮かんでいた光が、ゆっくりと内側へ沈んだ。


 消えたのではない。


 広がっていたものが集まり、木剣の形に沿って、細く、濃く残っていた。


「武器の内側へ範囲を定め、そこへ魔力を収める。これが魔力圧縮だ」


 ハーバードは小さな炎を纏わせると、手近な木材へ木剣を通した。


 上半分が斜めにずれ、地面へ落ちる。


 切り口から、細い煙が上がった。


 俺は木剣と木材を交互に見た。


 炎は、大きくなっていなかった。


 振り方も、軽く見えた。


 それなのに、木の剣で、木を斬った。


「威力を上げるには、これを覚える必要がある。だが、押し込めるだけでは駄目だ。乱せば、行き場を失った魔力が自分へ戻る」


 柄を示され、俺は自分の手へ目を落とした。


「今日は説明までだ。まず、今できたことを忘れるな」


「はい」


 ディアルと返事が重なった。


 次は、魔力圧縮。


 できることが増えるたびに、その先が出てくる。


 俺は魔力を抜いた刀を鞘へ納めた。ふと顔を上げると、柵の前のヴィルツが、斬られた木材ではなく、俺とディアルを見ていた。


 目が合うと、彼は少しだけ眉を寄せる。


 ……何だろう。


 あとで細かく聞かれる気がする。


 答えられるように、今のうちに整理しておいた方がいいかもしれない。


 ◇◇◇


「お兄様。フィル」


 水を飲もうとしたところで、聞き覚えのある声がした。


 ここにいるはずのない相手の声だった。


 振り返ると、稽古場の入口にアリスが立っていた。


 旅用の服に、薄く土のついた靴。すぐ後ろでは、荷物を持ったカリーナが笑顔で手を振っている。


 さらに、その後ろに二人。


 第三騎士団の副団長、レオとトレンだった。


 力強い剣を正面から叩き込んでくるレオに、攻めても守っても隙の少ないトレン。


 どちらも王都で、俺の稽古に付き合ってくれる人たちである。


 ……揃った。


 俺を鍛えてくれる人たちが、こんな森の奥にまで揃ってしまった。


「ずいぶん楽しそうですね」


 アリスはそう言ってから、半分なくなった柵へ目を向けた。


 次に、抉れた地面を見る。


 そして、なぜか俺を見た。


 待ってほしい。


 まだ何も話していない。


「どうしてここに?」


 先に聞いた方が勝ちな気がして、俺は尋ねた。


「来てはいけないとは言われていません」


「連れていけないとは言われてたよね?」


「ですから、自分で来ました」


 後ろでカリーナが、にこにこと頷いている。


 自分で、という言葉の範囲が、ずいぶん広い。


 ディアルはアリスを見てから、後ろの二人へ視線を移した。


「父上は」


「陛下のお許しはいただいております。道中も、問題はございませんでした」


 答えたのはトレンだった。


 いつもと変わらない、穏やかな声である。ディアルはそれを聞くと、短く頷いた。


 アリスとカリーナがハーバードへ挨拶をしている間に、レオとトレンも荷物を下ろし、こちらへ歩いてきた。


「お元気そうで何よりです、フィル様」


 レオが白い歯を見せる。


「そっちも。二人まで来るとは思わなかったよ」


「護衛が必要とのことでしたので。お二人の修行も拝見できるなら、ありがたい話です」


「見学なら、いくらでも」


「機会があれば、ぜひ手合わせもお願いいたします」


 見るだけでは、足りないらしい。


 レオは笑いながら稽古場を見渡し、途中で動きを止めた。視線の先には、抉れた地面がある。


「……ずいぶん激しい稽古をされたのですね」


「これは、稽古というか」


「フィルがやった」


 ディアルが言った。


 早い。


 もう少し、説明の順番というものを考えてほしかった。


 レオは地面を見て、それから俺を見る。


「それはまた、見事に」


「感心しないで。昨日、ちゃんと叱られたから」


「はは。そうでしたか」


 笑い声が大きい。


 こういうところは、イーサックと少し似ている。ただ、レオは俺たち相手には、稽古の最中でも言葉遣いを崩さない。


 その丁寧な口調で、とても重い剣を打ち込んでくるのである。


「お怪我はありませんでしたか」


 隣からトレンが尋ねた。


「うん。みんな無事」


「それなら、よかったです」


 彼はほっとしたように笑い、俺の腰へ目を向けた。


「そちらが、新しい武器ですね」


「そう。刀っていうんだ」


「よくお似合いです。扱いには慣れましたか」


「うーん。少しは。でも、覚えることが多くて」


「最初はそうですね。慣れた武器の癖もありますから」


 トレンは、分かりますというように頷いた。


 この人は、こちらのぼやきを最後まで聞いてくれる。


 今朝の会話を思い出して、少しだけ気が楽になった。


「今日、魔力付加と属性付与ができるようになったんだよ」


「もうですか」


 トレンが目を丸くした。その横で、レオが嬉しそうに身を乗り出す。


「それは楽しみです。では、明日にでも――」


「レオ。まずはご挨拶と、荷物を運ぶ方が先ですよ」


「おっと。そうでした」


 トレンに言われ、レオは入口へ置いた荷物を振り返った。


 助かった。


 と思ったところで、少し離れた場所からイーサックが声をかける。


「来たばかりで悪いが、荷物を置いたら手を貸してくれ。支柱を立て直す人手が欲しかったんだ」


「承知しました」


 レオが即座に答える。


 トレンも柵の状態を確かめ、近くへ積んである木材へ目を向けた。


「分かりました。宿へ荷物を運んだら、戻ります」


「……ごめんね。着いたばっかりなのに」


 俺が言うと、トレンは首を横に振った。


「お気になさらず。人数がいれば、その分早く済みますから」


「ええ。明日の稽古までには、使いやすくしておきましょう」


 レオも明るく頷く。


 ありがたい。


 二人とも、本当に頼りになる。


 ただ、できれば、その明日の稽古というところだけは、もう少し控えめでもよかった。


「フィル」


 横からアリスに呼ばれ、振り向く。


 彼女はもう一度、地面と俺を見比べた。


「それで。何をしたのですか」


 ああ、そうだった。


 まだ、この説明が残っていた。


 刀と意見が合わなくて。


 そう言いかけて、朝のヴィルツとの会話を思い出す。


「……武器の扱いを、ちょっと間違えました」


 今日は最初から、正直に話すことにした。

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