第十一話 見ているだけではわからない
翌朝、稽古場へ向かうと、ヴィルツが立っていた。
昨日のうちに散らばった木片は片づけたが、抉れた地面までは直っていない。新しく運び込まれた支柱が端に積まれ、残った柵の向こうから、朝の風が遠慮なく吹き込んでいた。
ヴィルツはその光景をしばらく眺めてから、こちらを振り返った。
「……お前がやったのか」
「うーん。できれば、違うって言いたいんだけど」
「違うのか」
「俺です」
すみません。
いや、ヴィルツに謝る必要はないのだが、正面から聞かれると、つい姿勢を正してしまう。
「いったい、何をしたらこうなる」
「ちょっと、刀と意見が合わなくて」
腰の刀へ手を添えると、ヴィルツの眉が寄った。
「武器の扱いを誤ったということか」
「……まあ、そうなるかな」
「なら、最初からそう言えばいい」
ごもっとも。
ただ、もう少しくらい、遠回りさせてくれてもいいと思う。こちらにも、言いにくいことを軽く話したい時があるのだ。
この人と話していると、妙に背筋が伸びる。
少し苦手かもしれない。
そこへ、ディアルとハーバードがやって来た。少し後ろには、アリソンたちの姿もある。
ヴィルツはすぐに向き直り、頭を下げた。
「ハーバード様。お願いがあります」
「なんだ」
「本日の稽古に、私も参加させてください」
ハーバードは立ち止まり、ヴィルツを見た。
「まだ早い」
返事は短かった。
ヴィルツの肩が、わずかに強張る。
「ですが、私は――」
「普段の稽古を怠っとるとは言っておらん。お前が何をしているかも、知っとる」
ハーバードはその先を急がず、俺とディアルへ一度目を向けた。
「今日は見ておれ」
「見学、ですか」
「そうだ。二人と自分の違いを探せ。強い弱いだけで片づけるなよ」
ヴィルツは唇を結んだ。
やがて、深く頭を下げる。
「……分かりました」
そのまま稽古場の端へ移動すると、残っている柵の前に立った。こちらへ向けられた視線が、さっきよりも真剣になっている。
うーん。
あんなに熱心に見られると、失敗しにくいんだけど。
「フィル。今日は地面を増やす仕事はなしだぞ」
ハーバードに声をかけられ、俺は慌てて向き直った。
「減らしたんですけど」
「そうだったな」
訂正するところではなかった。
◇◇◇
最初は、昨日と同じく素振りだった。
俺は刀、ディアルは普段使っている剣を抜く。ハーバードは二人の間を行き来しながら、足の位置や握り方を確かめていた。
「フィル。振り終わったところで止まれ」
刀を下ろした姿勢のまま、動きを止める。
「何が違う」
自分の足元を見る。
昨日何度も直された右足は、戻っていない。肩にも、余計な力は入れていないつもりだ。
それなら、腕だろうか。
刀を握る手へ視線を落としかけて、目の前に立つハーバードの姿が目に入った。
俺と同じように剣を振り下ろした、その姿勢。
違っていたのは、腰の位置だった。
「あ。前に出すぎてる?」
「なぜそうなった」
「刀を、遠くまで届かせようとしたから……かな」
言いながら、少しだけ体を起こす。
さっきまで左足に乗っていた重さが変わった。無理に引き戻さなくても、そのまま次の動きへ移れそうな感じがする。
「やってみろ」
もう一度、構え直した。
遠くへ伸ばそうとせず、足から体を動かす。刀が通ったあとも、腰が置いていかれないように。
「今のはよい」
よし。
褒められたからといって、次もできるとは限らない。昨日、十分に思い知ったので、忘れないうちにもう一度振っておく。
隣ではディアルが、ハーバードの手元を見ていた。
「握り直しているんですか」
「どこでだ」
「刃が通る直前です」
「そう見えたか。では、手だけ真似してみろ」
ディアルが剣を振る。
ハーバードと同じように指を動かしたように見えたが、本人はすぐに首を傾げた。
「……違います」
「なら、ほかも見ろ」
ハーバードがもう一度、ゆっくりと剣を振った。
俺も横から見てみる。
手だけではなかった。肘も、肩も、それより先に足が動いている。握り方の変化だけを抜き出しても、同じ振り方にはならないらしい。
ディアルが足を引き、構えを直す。
次の一振りは、さっきよりも静かだった。
「そうだ」
ハーバードが頷く。
俺は自分の柄の握り方を見た。
気をつけることが、一つ分かると二つ増える。
刀を格好よく振るという目標は、思ったより遠いところにあるらしい。
休憩に入るまで、ヴィルツは一度も口を開かなかった。
初めはハーバードの剣を追っていた目が、いつの間にか、俺たちの足元や手元にも向けられていた。
◇◇◇
「では、魔力付加だ。フィルは、先に刀の具合を確かめろ」
「はい」
俺は刃の向こうに誰もいないことを確かめ、柄から少しだけ魔力を流した。
刀はすぐに受け入れた。
昨日と同じ、滑るような感触。
ただし、その先が違った。
こちらが流した分だけが、静かに刀へ入っていく。勝手に腕の奥を引っ張られる感じはない。
少し減らせば、流れも細くなる。止めると、ぴたりと止まった。
内部に残った魔力も、こちらから引けば素直に戻ってくる。
「……今日は、ちゃんと聞いてくれるね」
柄へ目を落として呟く。
返事はない。けれど、もう一度流してみても、刀が勝手に量を増やすことはなかった。
「問題なさそうです」
「なら、やってみろ」
俺は頷き、刀全体へ意識を向けた。
刃先へ魔力を送り届けようとするのではない。柄元も、刃の腹も、先端も、全部まとめて一つの形として捉える。
その形に沿って、薄く魔力を行き渡らせた。
木目のような模様に光が走り、刀身が淡く輝く。
根元から先まで、むらはない。
そのままゆっくりと刀を持ち上げ、左右へ傾ける。光は薄くなりもせず、刃に沿って留まっていた。
「うん。できた」
隣を見ると、ディアルもすでに剣へ魔力を纏わせていた。
俺が刀と相談している間に、済ませていたらしい。
まあ、そうだよね。
ハーバードは二人の武器を確かめると、満足そうに頷いた。
「二人とも、昨日より迷いがないな」
「昨日は、刀が話を聞いてくれなかったので」
「それだけか?」
聞き返され、俺は刀へ目を戻した。
「……寝る前に、考えてました。何が違ったのかなって」
「話してみろ」
もうできたのだから、次へ進むのかと思った。
けれど、ハーバードは木剣を下げたまま待っている。その視線が一度だけ、柵の前にいるヴィルツへ向いた。
「昨日は、柄から刃先へ流すことばかり考えてたんです。でも、ハーバード様の剣は、先まで届いたあとも手元の光が変わらなかったから」
俺は刀の根元を指した。
「ここを、ただ通り過ぎる場所にしちゃ駄目なんだなって。先へ送るんじゃなくて、全体に置いておく感じかなと思いました」
「なるほど。ディアルは」
「動かしても、魔力の範囲が変わっていませんでした。剣をどこへ向けるかより、剣のどこに魔力を留めるかが大事なのだと思います」
ハーバードが、ゆっくりと頷く。
「昨日のうちに気づいていたか」
「見ていた時は、まだ。夜に思い返して、分かりました」
ディアルも、同じようなことをしていたらしい。
昨日は何度も手本を見せてもらった。稽古場を片づけてからも、頭の中には、光を纏った木剣が残っていたのだ。
自分の刀と何が違うのか。
寝る前に目を閉じて比べていたら、魔力を増やすこととは別のところで、ずいぶん余計なことをしていた気がした。
試すのは今日まで我慢した。
さすがに、寝室まで壊すわけにはいかない。
「よく見ておったな」
ハーバードはそれだけ言って、稽古場の中央を示した。
「では、二人で打ち合ってみろ。属性はなし。魔力の量も今のままだ」
◇◇◇
ディアルと向かい合うのは、別に珍しいことではない。
王都でも、ほとんど毎日のように稽古をしている。
ただ、刀で向かい合うのは、まだ慣れなかった。そのうえ今日は、互いの武器に魔力まで纏っている。
「ゆっくりお願いね」
「ああ」
返事はしてくれる。
いつも。
ディアルが踏み込み、斜めから剣を振った。
俺は半歩引いて刀を合わせる。金属の打ち合う音が響き、柄を通して力が伝わってきた。
いつもより、押される。
慌てて踏ん張りそうになり、足を動かした。正面から全部受けず、刀を傾けて剣を横へ流す。
そのまま空いたところへ踏み込むと、ディアルはすでに体の向きを変えていた。
俺の刀が剣に触れ、脇へ逸らされる。
近い。
引き戻すより先に後ろへ下がり、次の一撃を避けた。
「ゆっくりって言ったよね?」
「ゆっくりだ」
知ってた。
再び間合いを詰める。
刀を動かしても、打ち合っても、魔力の形は崩れなかった。刃へ意識を張りつけていなくても、淡い光が留まっている。
それなら、相手を見る余裕がある。
ディアルの剣先ではなく、肩と足を見る。踏み込む方向を確かめ、今度は剣が動ききる前に、少しだけ横へ出た。
刀を振る。
刃は届かなかった。
けれど、ディアルの剣を追いかけて動いた時より、次の構えへ戻りやすい。
「そこで止まるな」
ハーバードの声が飛ぶ。
褒めてもらえるかと思ったが、そう甘くはなかった。
ディアルの剣が戻ってくる。
受けて、流して、また足を動かす。魔力を纏った刃が触れるたび、澄んだ音が稽古場へ響いた。
何度か打ち合ったところで、ハーバードが手を上げた。
「そこまで」
俺たちは剣を下げる。
息を吐いて刀を見ると、根元から先まで、同じ明るさの光が残っていた。
「維持はできている。フィル、最後は腕で追ったな」
「はい」
「ディアルは、相手を動かすことばかり考えるな。自分の足も使え」
「はい」
魔法が一つ使えるようになっても、剣術の宿題は減らないらしい。
俺は額の汗を袖で拭いかけ、差し出された布を受け取った。いつの間にか近くへ来ていたウルスナが、水も用意してくれている。
「ありがとう」
「どうぞ、少しお休みください」
水を飲みながら、刀を眺める。
今日は、本当に余計なことをしない。
やる気を出しすぎないでもらえると、こんなにも助かるのか。
その点については、ぜひ今後もお願いしたい。
◇◇◇
休憩のあと、ハーバードは木剣へ薄い炎を纏わせた。
「次は属性付与だ。魔力へ属性を持たせ、武器とともに扱う」
炎は木剣に沿って揺れていた。
木が燃えているわけではない。焦げる匂いも、煙もなかった。
ハーバードが剣を傾ける。
炎は上へ伸びず、剣の形に留まったまま動いた。
「まず、やり方を考えろ」
俺は手元の刀を見て、それからもう一度、ハーバードの木剣を見た。
「火をつけてるわけじゃないんだね」
「魔力の形が変わってない」
隣でディアルが言う。
「さっき纏わせていたものが、そのまま炎になってる」
「うん。でも普通に火を出したら、上へ燃え上がろうとするよね。あれは、剣を動かしても離れない」
俺は指先で、木剣の輪郭をなぞるように示した。
「火を作ってから剣に乗せるんじゃなくて、先に留めた魔力を火にする……かな」
「なら、付加を崩さなければいい」
「そうだね。形を保つのはそっちの仕事で、属性はあとから変えるだけか」
ディアルが頷く。
ハーバードを見ると、こちらへ木剣を向けた。
「試せ」
俺は刀へ魔力を行き渡らせ、その形を保ったまま、火の属性を与えた。
淡い光が、細い炎へ変わる。
刃先から柄元まで、炎が刀に沿って揺れていた。
ゆっくりと傾ける。
離れない。
少し持ち上げても、火は上へ逃げず、そのまま刃に留まっている。
「……おお」
声が漏れた。
隣のディアルも、炎を纏った剣を傾けていた。火を消し、元の魔力だけの状態へ戻してから、もう一度炎に変える。
俺も同じように試した。
一度消して、今度は風。
刃の周囲を細く巡る空気が、刀を動かした時に小さく鳴った。
できる。
火でも風でも、魔力付加の形さえ保てば、属性を持たせられた。
「よし。二人とも、よく考えたな」
ハーバードが頷く。
俺は再び火へ戻し、刀身を眺めた。
格好いい。
うん。これは、かなりいい。
ずっとやってみたかったことが、今、手の中で起きている。
「眺めるのはあとだ。試してみろ」
ハーバードが示したのは、打ち込み用の木材だった。
俺とディアルはそれぞれ標的の前へ立ち、見守られながら一度ずつ剣を振る。
切り口の縁が、うっすらと黒くなった。
それだけだった。
「……あれ?」
刀を離し、木を覗き込む。
斬れてはいる。
ただ、それは普通に振っても、このくらい斬れる気がした。
ディアルも、自分の剣と切り口を見比べている。
「思ったほど、変わりません」
「纏わせることと、威力を出すことは別だからな」
ハーバードは、当然のように答えた。
「魔力を増やせば強くなる。だが、二人が次に覚えるのは、ただ増やすやり方ではない」
俺は隣の地面を見た。
昨日の跡が、しっかり残っている。
はい。その方法が駄目なのは、よく分かりました。
ハーバードが、木剣へ魔力を通した。
「同じ量でも、広く散らせば薄くなる。なら、狭い範囲へ集めればどうなる」
「濃くなる?」
「そうだ」
剣の表面に浮かんでいた光が、ゆっくりと内側へ沈んだ。
消えたのではない。
広がっていたものが集まり、木剣の形に沿って、細く、濃く残っていた。
「武器の内側へ範囲を定め、そこへ魔力を収める。これが魔力圧縮だ」
ハーバードは小さな炎を纏わせると、手近な木材へ木剣を通した。
上半分が斜めにずれ、地面へ落ちる。
切り口から、細い煙が上がった。
俺は木剣と木材を交互に見た。
炎は、大きくなっていなかった。
振り方も、軽く見えた。
それなのに、木の剣で、木を斬った。
「威力を上げるには、これを覚える必要がある。だが、押し込めるだけでは駄目だ。乱せば、行き場を失った魔力が自分へ戻る」
柄を示され、俺は自分の手へ目を落とした。
「今日は説明までだ。まず、今できたことを忘れるな」
「はい」
ディアルと返事が重なった。
次は、魔力圧縮。
できることが増えるたびに、その先が出てくる。
俺は魔力を抜いた刀を鞘へ納めた。ふと顔を上げると、柵の前のヴィルツが、斬られた木材ではなく、俺とディアルを見ていた。
目が合うと、彼は少しだけ眉を寄せる。
……何だろう。
あとで細かく聞かれる気がする。
答えられるように、今のうちに整理しておいた方がいいかもしれない。
◇◇◇
「お兄様。フィル」
水を飲もうとしたところで、聞き覚えのある声がした。
ここにいるはずのない相手の声だった。
振り返ると、稽古場の入口にアリスが立っていた。
旅用の服に、薄く土のついた靴。すぐ後ろでは、荷物を持ったカリーナが笑顔で手を振っている。
さらに、その後ろに二人。
第三騎士団の副団長、レオとトレンだった。
力強い剣を正面から叩き込んでくるレオに、攻めても守っても隙の少ないトレン。
どちらも王都で、俺の稽古に付き合ってくれる人たちである。
……揃った。
俺を鍛えてくれる人たちが、こんな森の奥にまで揃ってしまった。
「ずいぶん楽しそうですね」
アリスはそう言ってから、半分なくなった柵へ目を向けた。
次に、抉れた地面を見る。
そして、なぜか俺を見た。
待ってほしい。
まだ何も話していない。
「どうしてここに?」
先に聞いた方が勝ちな気がして、俺は尋ねた。
「来てはいけないとは言われていません」
「連れていけないとは言われてたよね?」
「ですから、自分で来ました」
後ろでカリーナが、にこにこと頷いている。
自分で、という言葉の範囲が、ずいぶん広い。
ディアルはアリスを見てから、後ろの二人へ視線を移した。
「父上は」
「陛下のお許しはいただいております。道中も、問題はございませんでした」
答えたのはトレンだった。
いつもと変わらない、穏やかな声である。ディアルはそれを聞くと、短く頷いた。
アリスとカリーナがハーバードへ挨拶をしている間に、レオとトレンも荷物を下ろし、こちらへ歩いてきた。
「お元気そうで何よりです、フィル様」
レオが白い歯を見せる。
「そっちも。二人まで来るとは思わなかったよ」
「護衛が必要とのことでしたので。お二人の修行も拝見できるなら、ありがたい話です」
「見学なら、いくらでも」
「機会があれば、ぜひ手合わせもお願いいたします」
見るだけでは、足りないらしい。
レオは笑いながら稽古場を見渡し、途中で動きを止めた。視線の先には、抉れた地面がある。
「……ずいぶん激しい稽古をされたのですね」
「これは、稽古というか」
「フィルがやった」
ディアルが言った。
早い。
もう少し、説明の順番というものを考えてほしかった。
レオは地面を見て、それから俺を見る。
「それはまた、見事に」
「感心しないで。昨日、ちゃんと叱られたから」
「はは。そうでしたか」
笑い声が大きい。
こういうところは、イーサックと少し似ている。ただ、レオは俺たち相手には、稽古の最中でも言葉遣いを崩さない。
その丁寧な口調で、とても重い剣を打ち込んでくるのである。
「お怪我はありませんでしたか」
隣からトレンが尋ねた。
「うん。みんな無事」
「それなら、よかったです」
彼はほっとしたように笑い、俺の腰へ目を向けた。
「そちらが、新しい武器ですね」
「そう。刀っていうんだ」
「よくお似合いです。扱いには慣れましたか」
「うーん。少しは。でも、覚えることが多くて」
「最初はそうですね。慣れた武器の癖もありますから」
トレンは、分かりますというように頷いた。
この人は、こちらのぼやきを最後まで聞いてくれる。
今朝の会話を思い出して、少しだけ気が楽になった。
「今日、魔力付加と属性付与ができるようになったんだよ」
「もうですか」
トレンが目を丸くした。その横で、レオが嬉しそうに身を乗り出す。
「それは楽しみです。では、明日にでも――」
「レオ。まずはご挨拶と、荷物を運ぶ方が先ですよ」
「おっと。そうでした」
トレンに言われ、レオは入口へ置いた荷物を振り返った。
助かった。
と思ったところで、少し離れた場所からイーサックが声をかける。
「来たばかりで悪いが、荷物を置いたら手を貸してくれ。支柱を立て直す人手が欲しかったんだ」
「承知しました」
レオが即座に答える。
トレンも柵の状態を確かめ、近くへ積んである木材へ目を向けた。
「分かりました。宿へ荷物を運んだら、戻ります」
「……ごめんね。着いたばっかりなのに」
俺が言うと、トレンは首を横に振った。
「お気になさらず。人数がいれば、その分早く済みますから」
「ええ。明日の稽古までには、使いやすくしておきましょう」
レオも明るく頷く。
ありがたい。
二人とも、本当に頼りになる。
ただ、できれば、その明日の稽古というところだけは、もう少し控えめでもよかった。
「フィル」
横からアリスに呼ばれ、振り向く。
彼女はもう一度、地面と俺を見比べた。
「それで。何をしたのですか」
ああ、そうだった。
まだ、この説明が残っていた。
刀と意見が合わなくて。
そう言いかけて、朝のヴィルツとの会話を思い出す。
「……武器の扱いを、ちょっと間違えました」
今日は最初から、正直に話すことにした。




