↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/12

第四章 勇者アルディス

二度目の勇者選定は、最初の儀式よりはるかに盛大に行われた。


教会は失敗を覆い隠すだけでは足りず、民衆に疑いを抱かせないほど大きな成功を演出する必要があった。


大聖堂前の広場には何千人もの市民が集められ、白い旗が風に揺れ、聖歌隊の歌声と鐘の音が朝から絶えることなく続いていた。


祭壇へ立つのはアルディスだった。


選定石は新しいものへ替えられ、その周囲には高位神官が立っている。


光の術式。


音響魔法。


すべては前夜までに確認されていた。


アルディスが石へ手を置くと、白い光が広場を包んだ。


大神官セラフォンが、神は第二王子アルディス・レグナートを勇者としてお選びになったと宣言した。


広場から歓声が上がる。


人々はアルディスの名を呼び、王国の勝利を願い、魔王討伐を叫んだ。


アルディスは笑顔を作り、教会と王家が名工に命じて作らせた剣を掲げた。


国宝級の武器ではある。


高位魔術師と神官が何重にも加護を施している。


だが、神の声は聞こえなかった。


聖剣は飛んでこなかった。


人が作った光の中で、人が作った勇者として立っている。


それでも民衆は疑わなかった。


アルディスは王宮へ戻り、自室の扉が閉じるまで笑顔を崩さなかった。


扉に背を預けた後、そのまま床へ座り込む。


胸元には勇者章があった。


指先で触れた瞬間、吐き気が込み上げた。


洗面器へ身を屈めたが、胃にはほとんど何も残っておらず、それでもしばらく身体を起こせなかった。


夜。


アルディスは護衛一人だけを連れ、大聖堂の地下へ降りた。


牢番が慌てて頭を下げる。


アルディスはノアの牢を開けるよう命じた。


中ではノアが壁際に横になっていた。


声をかけると身体を起こし、王子を見て少し不思議そうな顔をした。


アルディスが牢の中へ入ると、ノアはその足元へ視線を落とし、本当にそこまで近づいてよいのかと聞いた。


不可触民だからである。


アルディスは、自分はその穢れを信じていないと答えた。


するとノアは、ならなぜ自分は牢へ入れられているのかと尋ねた。


アルディスは返す言葉を失った。


「すまない」


ようやくそう言うと、ノアは何について謝っているのか分からないようだった。


アルディスは、今日、自分が勇者になったことを話した。


ノアは聞いていると答えた。


「違う。私は君から勇者という名を奪った」


ノアはしばらく彼を見つめた後、本気で考えるように首を傾げた。


「欲しいならやるよ」


アルディスは意味を理解するのに少し時間がかかった。


ノアは勇者という称号も、聖剣も、持っていけるものなら持っていけばいいと続けた。


アルディスは思わず声を強くした。


ふざけないでくれと。


神に選ばれたのは君だと。


なぜ怒らないのかと。


しかしノアは、何に怒ればいいのか分からないという顔をした。


「王家にも教会にも、期待したことないから」


その言葉が、アルディスの胸に重く残った。


ノアは、自分が勇者と公表された場合、何が変わるのかと尋ねた。


黒街の外を自由に歩けるのか。


街の井戸を使えるのか。


教会の正面から入れるのか。


アルディスは、どれもできるようになると答えた。


そこでノアはミナの名を出した。


十二歳の少女。


それからバルト。


死体を運ぶ仲間たち。


彼らはどうなるのかと問われ、アルディスは答えられなかった。


「俺だけ人間になるのか」


ノアは静かに言った。


アルディスは、そんな言い方をするなと言いたかった。


だが違うとは言えない。


「なら、いらない」


ノアは壁へ背を預けた。


アルディスは勇者には人々を救う責務があると口にしたが、言った瞬間に、その言葉の空虚さを自分でも感じた。


ノアはゆっくりこちらを見た。


「人々って、俺も入ってた?」


アルディスは当然だと答えた。


「昨日までは?」


返事は出なかった。


ノアは十三歳の時、中央広場で鞭打たれたことを話した。


鐘の紐が切れていることに気づかず、不可触民であることを知らせないまま広場へ入った。


衛兵に二十回。


周りにいた者は誰も止めなかった。


教会の正面からは入れない。


裁判では証言できない。


貴族に触れれば腕を切られることもある。


ノアは怒鳴らず、一つずつ事実として並べた。


「それで魔王が来たら、急に同じ人間だから助けろって?」


アルディスは何も言えない。


黒街も滅びるのだと告げると、ノアはそこへ魔王が来たなら戦うと答えた。


では王都はどうするのか。


知らない。


子供もいるのだとアルディスが言った時だけ、ノアの顔がごく僅かに動いた。


それでも、彼は静かに首を振った。


「俺は、そんな立派な人間じゃない」


長い沈黙の後、アルディスは立ち上がった。


明日から勇者として訓練を受けることを話し、ノアを救うこともできないかもしれないと告げた。


ノアは別に構わないような顔をした。


それでも、アルディスは牢を出る前に振り返った。


「君が勇者だったことだけは、忘れない」


ノアは最後まで答えなかった。


翌日から、アルディスは勇者として訓練を受けた。


聖剣術。


魔族への対処。


歴代勇者の戦闘記録。


魔王の能力。


教官は誰も、彼が本物ではないことを口にしない。


むしろ、さすが勇者だ、神に愛された方だと繰り返した。


そのたびにアルディスは、地下牢のノアを思い出した。


数日後。


彼は父王へ、ノアを牢から出すよう進言した。


王は、神託の件を公言される恐れがあると言った。


アルディスは、ノアはそんなことをしないだろうと答えた。


信用できるのかと問われ、少し考えてから言った。


「我々よりは」


国王はしばらく息子を睨んでいたが、最後には許可した。


ただし、その前に。


ノアは王と話すことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。