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第98話 取り込み済み

レイゼルとコア部屋に戻ると、ぽんこが腕を組んで待っていた。

お団子が、ゆっくり回っている。

怒りの回転だ。


「報告を要求します」

「ただいまくらい言わせろ」

「ただいまなさい。報告を要求します」

「おかえりだろ、そこは」


俺は床に座り、レイゼルとの話を最初から説明した。

レベル7の条件。

俺の読み違い。

従属コアが占有に数えられること。

東端の未知の敵。

南の切り崩し。


そして、レイゼルの裏切りと起用。


「マスター。どいてくださいそいつ殴ります」

「おう」


戦闘用ではないぽんこだが、殴るくらいはできる。

ぽこぽこと擬音を出しそうな勢いで、レイゼルのことを殴りつける。

威力は皆無だが、全て急所を狙っているあたり、割と本気らしい。


「今日のところはこれくらいで勘弁してやります」

「ふむ。ありがとう」


その後、冷静さを取り戻したぽんことともに、レイゼル起用の条件を詰めていった。


レイゼルからの要求は三つ。

外部連絡の自由。

通信機能の制限解除。


そして……


「DPによる自己強化」


そう言って、レイゼルは一拍置いた。


「ここまで生き残ったダンジョンマスターの前に、交渉役として立つ。丸腰の使者は舐められるし、最悪その場で殺される。殺されない程度の強さが要る」

「……そしてそれは、俺への攻撃手段にもなる訳だ」

「警戒して当然だ。だから条件をつける。自分の強化に使ったのと同額を、君に献上する」

「同額?」

「私が一万使うなら、君にも一万渡す。それで君も強化しろ。私だけが強くなる構図は作らない」


悪くない。

だったら……


「半額でいい。一万使ったら五千よこせ」

「だから君は甘いと言うんだ」

「だからマスターは甘いと言うんです!」


二人から同時に突っ込みが入った。

まあ、こういう性格なのだからしょうがない。




十日後。


あの後、レイゼルに段取りをつけさせると、本当にすぐに降ると連絡が来た。

三人ともコアを持参して、挨拶に来ることになった。

コアの従属化は俺が直接触れないとできない、それにコアはこちらで預かることになるからな。


そうして、一人目がやってきた。


近付いてきた時点でチュウタが検知し、ゴブリンの監視付きで通路を通されてくる。


応接用に急ごしらえした部屋で待っていると、扉の前で足音が止まった。


止まったまま、動かない。


たっぷり一分待って、俺は自分から扉を開けた。

小柄な男が、跳び上がった。


「ひっ」

「……入れ」

「は、はいっ、失礼、失礼しますっ」


歳は若い。十代に見える。

猫背で、目が合うと逸らす。

胸に、布でぐるぐる巻きにした包みを抱えていた。

大きさからして、コアだ。

風呂敷包みみたいに抱えられた、本人の命。


「トトです。ノーチェ荒地の、穴倉ダンジョンの……マスターを、してます」

「穴倉ダンジョン」

「じ、自分で付けた名前じゃないです。探索者の人たちが、勝手に。……浅くて、狭くて、穴倉みたいだって」

「まあ、うちは蟻の巣ダンジョンだからな」

「は、はは……」


トトは包みを抱え直した。


「あ、あの。これ、コアです。持ってきました。指示の、通りに」

「ああ、もらおう」


俺はトトからコアを受け取る。

コアを差し出すトトの手は、ひどく震えていた。


「ではこれからこのコアはうちの傘下に入る。コアは責任を持って守ろう。そっち側の条件はレイゼルに任せてある。レイゼルに従え」

「は、はい!あ、あの……」


トトは頷いてから、恐る恐る手を挙げた。


「質問、いいですか」

「どうぞ」

「コアがこっちに来て……俺のダンジョンは、どうなるんでしょうか。取り壊しとか、明け渡しとか。俺は、処分されるまでの管理人という理解で」

「待て。話が暗い方に進んでる」

「ち、違うんですか」

「お前のダンジョンは、お前のものだ。今まで通り運営しろ。配下も設備もいじる気はない。税を納めて、レイゼルの指示に従う。それ以外は好きにしろ」


トトは、ぽかんと口を開けた。


「……ダンジョン、掘っていいんですか?」

「掘れよ。ダンジョンマスターだろ」

「ぼ、防衛階層の十層目、ずっと拡張したかったんです。西側が大規模な罠になっていて、でも調停者、グランツ様への借金で、DPが全然残らなくて」


「借金?」

「はい、他のダンジョンマスターに攻めてこられた時にDPを融通してもらってて、気付いたら利子で大変なことに」

「……返す必要あるのか、それ」

「返さないと潰されます」


なるほど、そういう奴か。

南の調停者グランツ、奴のやり口がわかってきた。


「いい子でしたね!」

「気弱すぎるのが心配だがな」


二人目は、午後に来た。

扉が、時間ぴったりに三回叩かれた。


「入ってくれ」


入ってきたのは、背の高い女だった。

歳は三十半ばに見える。

髪をきっちり結い上げ、旅装なのに埃ひとつ見当たらない。

片手にコアが入っていると思しき革張りの箱、もう片手に分厚い紙の束。


「ゲルダと申します。旧サルム街道沿い、街道ダンジョンのマスターを務めております。本日はコアの引き渡しと、契約細目の確認に参りました」

「確認って、条件はレイゼルと詰めたはずじゃ」

「詰めました。その議事録がこちらです」


紙の束が、机に置かれた。

厚い。


「レイゼル殿との合意事項、全四十七項。本日は、貴方様ご本人の認識と議事録の内容に相違がないか、読み合わせをさせていただきたく」

「読み合わせ……」


「第一項。税率は総DP収入の八割とし、算定はUI機能を使用、控除は認めない。相違ありませんか」

「……ない」

「第二項。前項の対価として、戦時における防衛費用、モンスターは宗主側負担とする。相違ありませんか」

「レイゼルがそう言ったなら、ない」

「ご本人の認識を伺っています」

「……レイゼルを呼べ、確認する」


「第三項」


四十七項あった。

一つずつレイゼルに確認しながら回答したので、丸投げしたはずが、詳しくなってしまった。


そうして読み合わせが終わったのは、三時間後だった。


「以上、全項について相違なしと確認しました。では、コアをお納めします」

ゲルダは革箱を開け、白い手袋をはめてからコアを取り出し、傅くように差し出した。


「これで手続きは完了です。……ふう」


そこで初めて、ゲルダは息を吐いた。

結い上げた髪の、ほつれた一筋を指で直す。


「率直に申し上げて、この従属は当ダンジョンにとって三番目に良い選択でした」

「三番目」

「一番は、誰にも従属せず中立を保つこと。二番目は、東の勢力の正体が判明し、それが優良だった場合にそちらへ付くこと。ですが一番は貴方様の南進で消え、二番は不確実性が高すぎる。よって三番が繰り上がりました」

「……正直だな」

「嘘では帳簿が合いません。ですがご安心を。三番目とはいえ、期待値では他を上回っています。私は期待値の低い側には付きません」

「うちの期待値は、どこで稼いでるんだ」


ゲルダは、机の上の議事録を指で叩いた。


「これです」

「議事録?」

「四十七項、三時間の読み合わせに、貴方様は付き合った。グランツは、こういう確認を求めると笑って流しました。『そんな野暮な話はよそう』と。……契約を笑って流す相手ほど、信用ならないものはありません」

「……なるほどな」


ゲルダは一礼して、扉へ向かった。

途中で一度だけ振り返る。


「月次報告は毎月一日、書式は私が作ってレイゼル殿に提出します。書式に不備があればご指摘を。……ないと思いますが」


出ていってから、ぽんこが言った。


「すごい人でしたね」

「うちの帳簿、あいつに見られたら怒られそうだな」

「多分呆れて反旗を翻してきますよ」

「やめろ」


そして三人目は、次の日に来た。

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― 新着の感想 ―
レイゼル、めっちゃ有能! 副官コースまっしぐら! あやうし、ぽんこ!! というのが、今回の感想でした。
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